TS転生先がエロRPG世界っぽいので最高の敗北を味わうために全力処女プレイしてみせる! 作:北京院
サナは天才だと、村のみんなは口を揃えて言う。
困ったことを相談すると解決する方法を一緒に考えて、既存の魔法を組み合わせたり時にはまったく新しい魔法を生み出して解決してしまう。
夏場が暑くて体調を崩してしまうという話をすれば霧の魔法と風の魔法であたりを一時的に涼しくする方法を提案してみたり。
冬場の洗濯で手がかじかむと聞けば、手を使わず汚れを落としてしまう方法を考え誰でも使えるようにと新しい魔法を作ってしまった。
こともなさげに悩みを解消していく姿はとても頼りになる。
解決してお礼を言われると照れくさそうに笑って、僕と変わらない年なんだと改めて実感する。
疲れた顔も見せないであれやこれやと飛び回る姿は大人顔負けの天才魔法使いで僕とは違う生き物なんじゃないかと思ってしまうぐらいだった。
それでも僕はあきらめたくなかった。
もうすぐ僕の誕生日だったから。そのすぐ後にはサナの誕生日が来るから。
15歳になったら『大人』として認められるようになって、天才魔法使いのサナが世界を知りたいといえば強く止めることは難しくなってしまう。
困ったことも魔法であっという間に解決してしまうサナならどんな困難も平気だろうと思っている大人もたくさんいる。
僕も、正直そうじゃないかとは思っている。そうであってほしいと願ってる。
だけど万が一、億に一つ、どうにもならなかったらどうする?
一人で旅に出て、予想外の事態に巻き込まれて、どうにもならなかったら。
ずっと昔、二人で話したときにサナがこぼした「将来は困ってる人たちを助ける旅をしてみたい」という話は忘れていない。
村のみんなを助けているサナだけれど、魔法の練習も欠かしていない。
それはきっと「困っている人たち」が村のみんなだけじゃなくってもっとたくさんの人たちのことをさしているということだと思う。
隣にたてるだけの力が欲しくって、剣は毎日練習している。
村一番ってわけではないけれど、同年代の誰よりも動けるようになれたと自負している。
これだけじゃ守り切って見せるなんていうには足りないだろうけど、いつか思った「身代わりになる」ことぐらいはできると思う。
「……はぁ……あれ?」
後ろ向きの決心に、少し情けなくてため息が出た。
今の僕ではそれが精いっぱいだろうというのは一生懸命剣の練習をして体を鍛えた結果、身の程を知ってしまったからでもある。
しかし顔を上げると、違和感があった。なんだかあたりが暗いのだ。
気分が暗くなっているわけではない……というわけでもないけれど、そうじゃない。
物理的に暗い。
顔をさらに上げると、空がそこにある。本当なら今日は晴れで気持ちのいい太陽がさっきまで差していたはずだ。
でもそこにあるのはサナの瞳みたいな綺麗な青じゃなく、僕の眼みたいな真っ黒だった。
周りの人たちも困惑した様子で空を見上げている。僕の目がおかしくなったわけではないみたいだ。
「──! サナ!」
なんだか胸騒ぎがして僕は駆けだす。
空は黒くて暗いけれど、不思議と視界は悪くなかった。
何が起きたのかと戸惑っている人たちの間を抜けてサナを探す。
いつもなら魔法の練習を終えて家に帰る途中だろうか。少し走っただけなら息が上がらなくなった身体を動かしていくと、空を見上げるサナがいた。
声をかけようとしたけど、不安げにしている周りの中でサナだけが何かを決心したような顔をしていることに気が付いた。
「旅に出るきっかけができたな」
一人納得したように決心を口にするサナ。
その声が周りの人にも聞こえていたのかはわからない。
けれどどうすればいいのかを誰かが判断するより早く異常事態は収束した。
空の黒が明けていき、いつもの青空へと戻っていく。
何事が起きたのかは誰もわからないけれど、何事もなかったように空が戻れば人々も何事も起きなかったように動き始める。
多少の疑問は口にすれど、元通りになってしまった空気に流されてみんなが普段通りに帰っていった。
サナは、旅に出るつもりなんだ。
それもきっとすぐに。誕生日にそのまま言い出すかもしれない。
わかっていたことなのに目の前に来るとなんだか苦しかった。
サナを守りたい。旅に出るなら、一緒に行きたい。それをどう伝えればいいのだろう。
──空が黒くなった日の夜、僕は夢を見た。
真っ白な空間で、ひとりぼっちで立っている夢。
「あぁ、目覚めましたね」
なぜだかこれは夢なんだなとはっきり自覚できて、不思議に思っていたら後ろから声をかけられた。
寝ているのに目覚めたとはどういう意味だろう。疑問に思いながら振り替えるとそこにはとても綺麗な女性が立っていた。
腰まである夜を纏うような黒い髪。夕焼けよりも真っ赤な瞳は透き通って何もかもを見抜かれそうな気がした。
服はただ黒い布を巻き付けるように身にまとっているだけだけど、なんだか神秘的で眼を奪われた。
背中は翼が生えている。真っ白な空間に溶けこむぐらいに純白だ。
ほんのりと光っているのか、白のなかでなお白いものが浮かびあがり目の前の存在が人間ではないということが本能的に実感させられた。
すべてが白い世界を長い黒髪が切り取り、白い翼が照らしている。
何をいえばいいのかがわからない。目覚めたという言葉の意味を聞こうと開いた口をそのままゆっくり閉じた。
目の前の女性はただじっとこちらを見つめていたけれど、僕が口を閉じたのをみてから話を始めた。
「何が起きているかわからない、という顔ですね」
「あ……は、はい」
「その困惑は当然のものです。ですが時間がありません」
「時間がない……?」
当然のものといいながら、混乱するような情報が追加される。
時間がないとはどういうことだろう。ここはどこで、この人は何者なのだろう。
「私の名前はミラ……あなたに力を与えるものです」
「ミラ……さん? 僕に力をくれるって、どういうことですか?」
「あなたは選ばれたのです……今、世界は危機に晒されようとしているのです」
「選ばれた? 世界の危機ってなんですか?」
「今まさに闇が世界を覆わんとしています。素質のある子供に私は呼び掛けています」
ミラさんはこちらの質問に答えようとはしないで淡々と話をしていく。
感情を感じない声色で追加されていく情報に混乱は増すばかりだけれどその中の一つには心当たりがあった。
「闇が世界を……って、まさか昼のことですか? 昼なのに空が急に暗くなりました」
「……はい。まもなく魔王は復活し、その力が世界を包むでしょう」
そんなバカな。魔王が復活だなんてそんなことがありえるのか?
半ばおとぎ話の、神様に力を授けられて人々がやっと対抗できたという魔王。
それが現代に、突然に復活する? いったいどうして?
でも非現実的な話を否定するには、今の状況は非現実的すぎた。
それに──魔王のお話に、この状況と、さっきまでの話。それは、ひょっとして。
恐ろしい話と一緒に浮かんだありえないけれどとても魅力的な話。
「……どうすればいいんですか?」
「あなたに力を与えると、言いました。受けてくださいますね?」
──力を与えるという、人と思えない雰囲気の女性。
魔王に対する警告といい、人間とは思えない美しさといいひょっとしたらミラさんは女神様なのかもしれないと思った。
白い翼がふわりとこちらへ伸びてくる。有無を言わせない言葉と裏腹にゆっくりと確かめるように触れられた。
「この加護があれば魔物と戦うことでその力を奪うことができるでしょう」
影すら生まれない白の中で背中を羽に抱き寄せられる。
腕に抱かれて大きな胸につつまれて、そんな場合ではないのに少し邪な思いも持ってしまった。柔らかい。
「理性なき魔物たちを倒し、魔王の復活をたくらむものたちと戦い、その力をふるってくれますね?」
ぼうっと関係のないことを考えていた頭に確かめるような言葉が投げ掛けられる。
身体の芯に、なにか熱いものが流れ込んできている。
これが『力』なのか。なんだか心地よい。
これならサナのとなりにいられる。彼女を守れる。
魔王が復活しそうだなんて話があったら間違いなく『みんな』のために旅に出るであろうサナを助けられる。
「はい! 魔物と戦える力をくださりありがとうございます、女神様!」
感謝の言葉へ、ミラさん……ミラ様は微笑むと僕を抱いていた腕と羽を放した。
「……ふふ、楽しみにしています。さぁ、行きなさい」
白い空間全体が白さを増していく。目の前のミラ様の姿すら見えなくなっていく。
夢が覚めるのだと理解した。もう一度お礼を口にしたつもりだけれど、音になっていたかはわからない。
ただ、目を覚ましてもさっきまでみていた夢が現実だったという実感が確かにあった。
目を覚ましてすぐに身体を動かして気がついた。
身体が軽い……それも、段違いに。重いものも簡単に持ち上がる。
やっぱり夢じゃなかったんだ。感覚だけではなく現実に影響があるとなれば、流石に荒唐無稽すぎて口にできなかったことを話すことができる。
「母さん、僕、女神様が出てくる夢を見たんだ」
突然何を言い出したんだ、と呆れられるような言葉を聞いて母さんは困惑の表情を浮かべる。
当たり前だと思う。たぶん、夢の中での僕も同じ顔をしていただろう。
「ウソじゃないよ。信じられないかもしれないけれど、加護も貰った」
バカなことをいうな、と頭ごなしの否定が飛んでくるかと思ったけど母さんは真剣な目でこちらを見ている。
「水流よ、穢れを払いし渦となれ。アクアスピン!」
何もなかった場所にちゃぷん、と水が沸き上がる。
ゆっくりと渦をまき始めるとごうごうと勢いを増していき、小さな渦巻きが空中にうまれた。
しばらくたつと渦の勢いが落ちて水が床に落ちた。……あとで拭かないと。
もともとそこにあった水を回転させるわけではなく、水を産み出すところからこの呪文が使えるのは天才のサナだけだ。
それを魔法の素質がまったくなかった僕が使えるなんて、昨日までは誰も考えもしなかっただろう。
だけど、できた。加護のおかげか、身体の中を何か力が流れているのを感じる。
「魔王が復活しつつあるって。だから、この力で戦ってくれないかって言われたんだ……けど」
話しているうちに母さんの顔が悲痛に歪む。
父さんのことを思い出しているのかもしれない。
昔、魔物の怖さを話してくれた時も同じ顔をしていた。
「……魔物が怖いのは、知ってる。母さんが教えてくれたから」
「ユート……」
「でも、そんな魔物の王が復活するなんて話を聞いて、こんな風に力を貰えたのに黙っているなんてできない!」
母さんに教えて貰った、魔物の恐ろしさ。
それが自分に降りかかることを考えたら震えてしまう。
けれど、でも。その矛先がこの村に──母さんに、そしてサナに、向かったら。
想像するだけで、目の前が真っ暗になりそうだ。
「親不孝で、ごめん。僕は旅にでたい。みんなを守りたい」
偽りのない気持ちを母さんにいう。
もし魔王が本当に復活してしまったら逃げ場なんてないだろうから。その前に阻止にいきたい。
「……わかったわ」
ふぅ、と大きくため息をついてから母さんがいう。
諦めのようで、すこし誇らしげで、まっすぐ僕を見つめている。
「本当、あの人の子ねぇ……せめて誕生日ぐらいはむかえていきなさい。旅に出るならあなたは誰からも大人として扱われるようになるのよ」
母さんが背伸びをして僕の頭をぽんぽんと撫でる。僕の方が背が高くなったのはいつだっただろう。
なんだかとっても懐かしくって、嬉しかった。
「だからあとすこしだけ、子供でいなさい……ほら、サナリアちゃんが来るわよ?」
どうしてそこでサナが、とは言わない。言えない。
僕に会いに来るわけではなくって見回りみたいに母さんの手伝いをしてくれているだけだ。
「……うん」
「男の子って、本当に……すぐに大きくなっちゃうのねぇ……今日の夜は何が食べたい?」
しみじみとつぶやく母さんに、少し涙が出そうになった。
……サナを守りたい。みんなを守りたい。母さんも、当然守りたい。
だから無事に帰ってこよう。旅に出るまでは、子供のままでいよう。
それから、2日。
昼の空が突然暗くなってから3日。
僕の誕生日をサナが祝いに来てくれた。
「おめでとう、ユート! 誕生日プレゼントに欲しいものある? あ、何かお手伝いしてあげようか」
いつものようにニコニコと笑いながら祝ってくれるサナの手を握って、意を決して口にする。
「サナ、僕と一緒に来て欲しい」
旅に出ることを、加護をもらったことを。僕が『大人』として決めたことを。
サナに聞いてほしかった。サナが僕に話すだけで元気が出たというように、僕もサナに話せたらきっと決意が固まるから。
その結果として一人で旅に出ることになってもいい。サナと一緒にいけたらきっと嬉しいけれど。
守ってみせるとカッコつけさせてほしい。困っている人たちを助ける手伝いをさせてほしい。
サナが慌てた様子で「えっと、あの」と意味のない言葉を繰り返す。
……切り出し方を間違えたかな……?