横須賀に向けて舵を切った晴風。雲の裂け目から月の明かりがまるで霧の中から現れたように海原に現れ、辺り一面を銀色に染め上げていた。
ましろ「誰からの指示もなく、自らの意思で行動する……。艦長、この先は今までのどんな航海よりも過酷な航海になりそうですね……」
ましろは海図を明乃と眺めながら呟いた。
明乃「大丈夫だよ。シロちゃん。どんな荒波も乗り越えてきた私たちなら、今回もきっと……」
明乃の無垢な笑顔に謎の説得力を感じるましろ。ましろは思う。自分は副長としてこの人の力になれているだろうか?そして願わくば今回も彼女と共にその先を見てみたい。そんな思いを抱く。だがその願いが叶わないことをこの時まだ知る由もなかった。
そして、数時間経過した頃……
マチコ「左舷20度、距離1500、漂流物です!人影が見えます!
マチコからの報告に艦橋に緊張が走る。
明乃「両舷微速ーッ!探照灯照らして、スキッパーの用意!」
明乃の言葉に従い、動き出す艦橋メンバー。しかし、ただ一人だけ動かずにいる人物がいた。
幸子「艦長、助けるんですか!?」
幸子だ。
ましろ「どういうこと?」
幸子「我々は異世界に来てしまったのかもしれないんです。この世界の人間を異世界の人間が助けるなんて……。私たちはこの世界に干渉してはいけないのです!」
ましろ「何が言いたい」
幸子「バタフライ効果をご存じですか?北京で蝶が一匹羽ばたけば、その小さな気流が1ヶ月後ニューヨークに嵐を起こすこともありうるんです。ミクロな現象がマクロに大きな現象を与えるんです!」
幸子の主張に明乃は反論する。
確かに自分たちはこの世界にとっては異分子の可能性があり、自分たちの行動一つでどのような影響が出るのかわからない。しかし、だからと言って見捨てることが正しい選択と明乃は思えなかった。
明乃「私たちは蝶でも幽霊でもないよ。一人前の
明乃の真剣なまなざしに幸子は何も言えなくなった。
ましろ「スキッパー降ろせ!」
ましろと百々、媛萌を乗せたスキッパーが晴風から降ろされ、漂流物へ向かっていく。
幸子(死んでいてください……それならこのまま見送れる……)
スキッパーは漂流物に横付けした。
百々「銃弾でハチの巣にされてる……ッス……」
媛萌「これはもう……」
ましろはよく目を凝らした。
ましろ「後ろの白い軍服を着た女性……どこかで見たことがあるような……」
媛萌も気付いたようでハッとした表情をする。媛萌・百々・ましろは顔を見合わせた。
媛萌・百々・ましろ(まさか……ね……)
ましろ「外傷はないようだし、スキッパーに乗せるぞ……」
その時、漂流物が沈み始める。
百々「し、沈むぞ!」
マチコ「漂流物が沈んでいきます!水密区画に浸水が始まったようです!」
幸子(これでいい……。これがこの世界の必然なんです……)
幸子は自分に言い聞かせる。どんな御託を並べようとも、自分も人魚の卵なのだ。海で漂流している人を助けたいという気持ちは変わらない。
幸子(私は間違ってないはず……)
マチコ「副長が海に飛び込みました!」
幸子「えっ!?」
ましろ(命を守るというただ一点において命を奪う
ましろは漂流物の後部座席に座る女性を羽交い絞めにし、浮かび上がる。
ましろ「ぷはっ!………」
女性をスキッパー乗せると無線機の子機を取る。
ましろ「艦橋へ!後部搭乗員及び、黒カバンを回収、肩章より、少佐クラスと思われます!なお……この者は……
知名もえかに酷似しています!」
ましろの言葉に一同が驚く中、明乃だけは冷静だった。
明乃(モカちゃんが……!)
ましろの報告を受けた明乃はすぐに決断を下した。
明乃「艦内での治療を許可する!シロちゃん!収容して!」
ましろ「了解!」
XXXX年X月X日01:30 北緯30.59 東経178.30の海上にて漂流物より知名もえかと思わしき人物を救助