美波「失礼する」
鏑木美波が艦橋に足を踏み入れる。
明乃「どうだった?」
明乃が不安そうな顔を見せながら問う。美波は表情を変えずに、しかし僅かに驚いたような表情で答えた。
美波「外傷はないが脳圧が上がっている。絶対安静が必要だ……。そして血液検査をしていないから分からないが、知名もえかと瓜二つだ」
明乃は息を飲む。そして、行方不明の幼なじみが見つかったかもしれないという喜びとそうであるはずがないという葛藤に、顔を顰める。
美波「まぁ、世の中には似ている人が三人いるというしな……」
美波の言葉を聞きながら、明乃は表情を変える。
明乃「そんなはずないよ……だってもかちゃんだよ?でも、こんなことってあるのかな……?」
幸子「現に私たちが異世界に来てしまっているんです……知名艦長がこちらに来ていても不思議ではないですよね……」
幸子が呟くように言う。
明乃「そうだよね……うん。きっとそう」
自分に言い聞かせるように明乃は言った。しかし、なぜもえかのみがここで見つかったのか。それは誰にも分からなかった。
ましろ「とりあえず、意識を取り戻すまでは医務室にて様子を見るということでよろしいでしょうか?」
ましろの確認に明乃はうなずく。
明乃「美波さん、お願いできる?」
美波「ああ、了解した」
美波はそう呟くと艦橋を出る。
ましろ「ここは私が見ておきます。艦長はどうぞ行ってください」
明乃「ありがとうシロちゃん。でも、今日の当直は私とリンちゃんだから……」
ましろ「艦長……」
ーーー
一方その頃、医務室前では救助者の姿を一目見ようと乗員が集まっていた。
百々「にしても、知名艦長にそっくりだったッス!」
百々はしみじみと言い、媛萌はそれに同意するように頷く。
片桐「異世界で艦長の親友と遭遇。これはスクープに成りますねぇ」
光「記者さん、元の世界に戻れないと記事にもできないけどね(笑)」
光はクスリと笑う。そこに美波がやって来る。
美波「おい、お前たち。非番以外の者は持ち場に戻れ」
美波の言葉に渋々と戻って行く。しかし片桐はニヤけた顔をして壁にもたれる。
片桐「いやぁ、船酔いしてしまってねぇ。チョイとアスピリンでもと……」
美波「潮風にでも当たってくれば治る…」
美波は冷たい口調で言う。
片桐「いいでしょう?寝ているところを一枚……」
片桐の好奇心からなる言葉を遮るように美波は医務室に入った。
ーーー
リン「後5分であの異変が起こった座標です……」
明乃「何が起こるカナ……?」
リンの報告を受け明乃は不安げに言う。
リン「来た時みたいに雷が鳴ったり、雪が降ったりするんじゃないかな……」
明乃は息を呑む。そして脳裏には救助したもえからしき人物のことが浮かんでいた。
明乃「大丈夫……きっと大丈夫だよネ」
自分に言い聞かせるように明乃は言う。そして機関停止を命令しようとした時だった。
万里小路『未確認水中雑音、210°より高速でいらっしゃいました!』
万里小路の声が伝声管を通して艦橋に響く。
明乃「水中雑音……?」
万里小路からの報告に明乃は首を傾げる。そして、万里小路が続ける。
万里小路『接近中の雑音は魚雷です!雷数2、雷速44ノットでいらっしゃいました!距離3200、接触まで2分10秒でございます!』
明乃「ぎょ……らい……?」
明乃はその言葉を聞き、全身の血の気が引くのを感じた。