リバースド・エルム (試作)   作:飽和水溶液

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① 僕は人を殺した

僕は人を殺した。僕は人を殴り殺してしまった。でも、正義のヒーローは、悪の怪人を殺している。なぜ僕は裁かれなければいけない?”正義“なんていう抽象的な理想を押し付けてるだけの奴は慕われ、どうして僕は罵られなければならない?

 

30XX年。この世界には”エレメント“という力が存在していた。そのエレメントは個人個人によって能力が変化するものであり、それを操って、悪人を処分する職業を“エルム”と呼んでいた。世の中ではそのエルムこそがヒーローだと謳われていた。僕の父は有名なエルムだったそうだが、小さい頃に父が失踪し、母はその父を探す途中で病に倒れて亡くなった。父と会ったのはとうに昔のことだったから、どんなエレメントかも知らなかったし、どんな顔か、どんな声かも思い出せなかった。父との思い出は僕が今首にぶら下げている、黒いペンダントのみ。これは父が大切にしていたものだったと、だいぶ前に母から聞いた。僕は肌身離さずそれを着けていた。

ある日、学校の昼休みの時間のことだった。

「なにその焦げたパンみたいな真っ黒なペンダントは、ダッセー!」

こういう集団は無視をするのが一番、と思ったその一瞬だった。

「こんなもんつけて学校来んじゃねえ、ドアホ!」

集団のうちの一人がペンダントを奪い、窓の外に放り投げた。僕の中の何かが壊れる音がした。その数秒後、僕の拳は彼の心臓を貫いていた。集団の他の奴らは尻尾を巻いて逃げる。僕は人を殺してしまった。瞬間的な途轍もない怒りと憎悪によって、感情を制御できなくなってしまった。そして、先ほど逃げた集団の他の奴らが、数人の教師と共に戻ってきた。教師に、状況を説明しようとした。教師は喋る間もくれずに思い切り僕をはたいた。何度も、何度もはたいた。

「お前は人を殺した。悪人だ。」「全てお前が悪い。謝れ。」「この子の親がどんな気持ちかわかるか!」「もう学校に来る資格はない。この学校の風紀を乱すな!出て行け!」「お前は社会不適合者なんだよ。」

......は?

激しい怒りと憎悪が、また腹の底から湧き出た。そして、集団の他の奴ら3名、教師8名。最初に殺した奴も含め、計12人の大量虐殺をおこなってしまった。ペンダントは学校の外の原っぱで寂しそうにうずくまっていた。そして、翌月。裁判によって、僕は罪人となり、とある場所へと連れて行かれた。

 

 

 

僕は灼熱 日照(しゃくねつ ほてり)。12人の人を殺した、大量殺人の罪として、この、エルム更生施設「リバースファクトリー」へ来させられた。だせえ名前だなあ。もうちょっとなんかなかったのか。まぁ名前はいいや、と思っていたら、グンと警察に無理くり腕を引っ張られ、乗っていた車から落っこちた。

「痛えよ!」「うるさい、黙って従え。」

偉そうな口調だが、まぁ言い返せない。そんなことを考えていると、目の前には林があった。林の中をずんずん進んでいく。そんなに大きな林ではなく、すぐにそこを抜け出せた。林を抜けたらそこには、レンガで作られた壁が黒く塗りつぶされた何かがあった。

「ほい、ついたぞ。正門だ。」

「え?」

大きかったので気づかなかったが、アーチのような形で、確かに入口が見えた。

「通れ。」「え、でも」「通れと言ってるんだ。」

しぶしぶ正門を通ると、そこは、巨大な施設があった。大学かのような大きな建物と、海のごとく広い競技場。なんだここは。名前は陳腐だが施設は立派だ。自分のオンボロな家よりよっぽどいいじゃないか。ここで暮らせるのか、悪くない。きっと食事も豪華で......

「...テリくん。灼熱 日照くん、聞こえているかい?」

「わ」

目の前に筋骨隆々とした体つきの男性が立っていた。施設のことしか頭になかったせいで、気がつかなかった。

「ここはなんなんですか。」

「ここはエレメントを持つ人が、更生して立派なエルムを目指す場所!

エレメントが立派な人は、更生すればきっと最高のエルムになれると思って、こちらから直々にスカウトしてるんだよ!」

「スカウトされた覚えはないんですけど。てか何で名前知ってんですか。」

「警察の方から情報を頂いてね。殴り殺したんだって?教師も殺したって聞いたよ。常人のパワーじゃあ、心臓をぶち抜くなんてこと出来っこないよ。きっと強力な力が眠っている。」

「そんなんないけど。」

「まぁいいから、来なさいよ。」

屋内に入ったら、暖房の暖かさと、木材の香りが僕を包んだ。

「すげえ。」

「でしょ?へへへ。」

にしてもすごい設備だ。暖房は各部屋完備。床は全部立派なフローリングで、庭に広い花畑もある。壁と天井からはヒノキの香りがする。

「更生施設って、こう、刑務所みたいな感じだと思ってました。」

「いやいや、無理矢理仕事させて更生するのだと、エルムに必要な力は得られないからさ〜。」

「何するんですか?」

「んー、お楽しみ。あ、自己紹介まだだったね。僕は鍛藤 隆盛(かとう たかもり)。一応、エレメントは“パンプアップ”って言って、一定時間肉体を数百倍に強化するんだ。君はまだエレメントの検査してないよね?」

「検査?してないですけど。」

「よし、おいで!今から君のエレメントがどんなものか検査しよう!」

向かった先は、周りが全て鉄でできた、密閉された場所。人体実験とかをやってそうな部屋だ。

「よし、じゃあ、始めようか。」

鍛藤さんがおもむろに何か取り出した。

「えっ」

父の形見のペンダントだ。黒く光っている。

「首にぶら下げてたのに...いつの間に!」

「日照くん?よーく見てて?」

パキッ

「お....前....何してん....」

「見てわからないのかい?壊したんだよ、君の大切なペンダント。父さんの形見?ハハハ!粉々になってしまったよ!!」

「ふざけんな。」

壁にパンチした。鉄の壁が曲がって、今にも破けそうになった。

「...日照くん」

「うるせえ、お前は絶対に」

「はい!検査終わり!」

「はぁ?」

「壊したペンダントはレプリカ!本物はちゃんと保管してあるよ!」

一体何を言っているのかわからなかった。言っている意味は分かったが、なぜそんなことをしたのかが理解できなかった。

「何でこんなことしたんですか。ちゃんと説明してください。」

「説明は初めっからするつもりだったよ。」

鍛藤さんはホワイトボードを取り出した。鍛藤さんの日焼けした体と対比して、ボードがより白く見える。

「日照くんが友達を殺した時」「あいつらは友達じゃないです。」

「あぁ、はいはい。他人を殺した時、ペンダントを投げ捨てられたことでパワーを発揮していたね。それを利用させてもらったよ。ペンダントのレプリカを壊したことで、激しい憤怒が湧き、爆発的なパワーを生み出していたのさ。おかげですぐに検査は終わった!君のエレメント、分かったよ!」

「何なんですか。」

ホワイトボードに何か書き始める。

「ん?」

ボード書かれた文字を見る。

”体温“

「えっと...?」

「体温だよ。体の熱。」

え、それが何なんだ。どう言うことなんだ。

「さっき、君の体温を見てたよ。」

「はい。」

「180℃。」

「ひゃくはちじゅうど?」

意味不明だ。油注いだら天ぷら揚げれるじゃないか。

「君は、おそらくとんでもなく高い体温を持つ。そして、その熱で周りのものを溶かすことができるようだ。」

「へえ、そんな」

「さらに。」

「?」

「さらに、君の体は、体温が上がれば上がるほどパワーが上昇するようだ。高温を出せば出すほどエネルギーが活発になり、どんどんどんどん強くなる。実際、この壁は鉄100%でできているから、硬度はかなり高いんだけど、それをぐにゃっと曲げてしまう。それくらいのパワーがあるってことだ。」

納得はできないけど、とりあえず理解はした。僕の体温はとんでもなく高温になることがあり、温度が上がるほどパワーも上がるってことか。

でも何だかなぁ。だって、トップのエルムは、雷を使ったり、透明化している間に敵をやっつけたりするって言うから、それに比べて自分のエレメントはなんだか地味だなあと思ってしまった。しかし、鍛藤さんはこう言うのだ。

「このエレメントなら、きっとトップのエルムになれるよ!」

にわかに信じがたい言葉だ。詐欺の広告とかが「このアプリを入れたら、100万円が手に入ります!」って言ってるのとおんなじようなものだ。

「君のお父さんのペンダント、悪い風に言ってすまなかったね。」

「あ、いえ。」

そのバキバキに鍛え上がった肉体とは裏腹に、鍛藤さんの態度はかなり謙虚だった。見た目とのギャップは凄いけど、優しい人だ、と感じた。

 

 

 

 

 




1週間に1回、できたら更新しようと思います。
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