リバースド・エルム (試作)   作:飽和水溶液

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③ マーダラーズ

彼は氷霧 水斗。彼のエレメントは“H2O”と言うらしい。彼の能力は、水の状態変化を操ること。水を氷や水蒸気に変えられる。また、氷を水にしたり、水蒸気から水や氷を生み出すことも可能、すなわち、水という分子そのものを操るというカッコいいやつだ。

「君のエレメントは?」

「ダークネスフ...じゃないや、“灼熱”。」

「しゃくねつ?」

「体温が高くなるんだ。180℃くらい。」

「ひ、ひゃく、はちじゅうど...?すご!」

「体温が上がるほど、パワーが上がるんだ。」

「へえ!すげえ!羨ましいなぁ...」

「僕も君のエレメントが羨ましいよ...」

「「ないものねだりかな。」」

「あっ」「あっ」

「「アハハハハハハ」」

同時に同じ言葉を発したことが、何か面白くて、笑ってしまった。初対面でこんなに仲良くなれるのも、僕にとっては珍しかった。

 

「あっ、水斗!日照連れてきた?」

「はい、鍛藤さん!」

「すみません、道に迷ってしまって...。」

「いいんだよ!ここの造り結構複雑でさ、最初っからちゃんと構造把握するのは、難しいんだよ。」

「そうなんですか。」

もう20分もオーバーしていた。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「急いで!もう出番だよ、日照!そこのメインホールの扉の前で待ってて、合図したら入ってきてね!早く早く!」

鍛藤さんが催促している。これだけ待たせていては、仕方あるまい。

「わかりました...ふぅ...」

緊張してきた。どんな人がいるのかも知らない上、人数もわからない。緊張というか、少しばかり恐怖を覚えた。施設や対応はそれっぽくないが、一応は犯罪を犯した者が連れてこられる場所だ。何かあってもおかしくない。

「それでは、新しく施設に入った高校1年生の灼熱 日照くんだ!拍手でお出迎えしてくれ!」

僕はメインホールの重たい扉を開いた。

パチパチパチパチ

自分は今、お出迎えされている。それは、罪を犯したものへ向ける行為とは到底思えなかった。拍手喝采の音は、自分が犯罪者であるという事実を薄めていく。その音が強まるたび、僕はなぜここにきてしまったのかということを考えてしまう。そんなことより今は自己紹介だ。緊張で少しお腹が痛くなりながらも、僕はしゃべり始めた。

「灼熱 日照です。高校1年生です。エレメントは“灼熱”。体温が異常に上昇し、それに応じてパワーが上がるという能力です。よろしくお願いします。」

パチパチパチパチパチパチ

さっきより一層大きな拍手が上がる。自分が人を殺すなんて微塵も思わなかったあの頃を、思い出す。立派なものを頑張って作って発表した後に、クラスから湧き出る拍手が、たまらなかった。あの感じを思い出す。

「みんな仲良く過ごしてくれ〜。」

「「「「「はい!!」」」」」

結構人数いるんだな、と感じた。ぱっと見、15人ちょいだろうか。全員の名前と顔を一致させられるか不安だ。

「日照くんは、どうしてここへ?」

水斗くんはそう問う。

「僕は、宝物をクラスの奴らに放り投げられて、腹立って、殺してしまった。」

「あぁ、やっぱり、」

「?」

「実は僕もなんだ。」

「それは、どういう...」

「僕も、大切なものを奪われ、壊された。だから、殺してしまったんだ。」

思わぬ共通点があるものだ。水斗くんも同じ境遇にいたのか。でも、こんな温厚で感じの良い青年が、人を殺すのだろうか。僕には想像できなかった。

「君が新入生?よろしく!」

「僕とも仲良くしてね!」

「君、どんなエレメントなの?」

「さっき言ってたでしょ!アンタ話聞きなさいよ!ところで、好きな食べ物とかは...?エヘ」

質問が多すぎる。聖徳太子じゃあるまいし、一個ずつ質問してくれ。でも、一つ。聞き覚えのある声と共に、名前が飛んできた。

「日照!」

「え...?」

明らかに聞いたことのある声だ。顔を見た途端わかった。小学生の頃のあいつだ。僕が殺人したことを咎めもせず、それどころか愚痴を聞いてくれたり、良き話し相手になってくれていたあいつだ。

「お前、猛か?」

「日照!」

「猛!」

「日照!」

なんか、変な会話だ。笑ってしまうような、幼稚な会話だ。でも、幼い言葉しか出てこないほどの懐かしさと、嬉しさが湧き出た。また再会できるなんて。

彼の名は武藤 猛(むとう たける)。昔から、とても良い友達だった。

 

最初に会ったのは、確か......

 

灼熱 日照はこの時5歳。幼稚園児の年中さんだった。胸にかえるのバッジをつけ、赤いクレヨンで、”しゃくねつ ほてり!“と書いてある。

「よぉ!ちび!」

「ボサボサ!」

「やめてよ...やめてよ...!」

ブランコに揺られていた僕は他の幼稚園児にいじめられる子がいたのを見つけた。僕は、その時、父さんみたいなヒーローになれるのではないかと、彼を助けに行った。

「おい!嫌がってるじゃないか!」

「はぁ?誰だお前。」

「僕はヒーローだ!」

「ヒーローだってよ!おい、どう思う?」

「へへ、面白えや!」

「何が面白いんだよ!」

「戦おうじゃねえかよ。俺たちと。」

「勝ったら、何でもいうこときいてやるよ!」

「負けるわけない!」

意気揚々と出て行ってから数秒で僕は戻ってきた。体格の差があまりに大きく、敵わなかった。

「ヒーローっていうのはな、負けないんだよ!お前は俺に負けたから、ヒーローじゃねえんだよ!ハハハ!」

「そうだそうだー!ハハハハー!」

「くそぉ...!」

僕は砂場に寝転んだ。少ししたら、いじめられていた子が、横にちょこんとしゃがんだ。何か喋っている。

「......ん。」

「ん?なに?」

「......ごめん。」

「?」

「ごめんね...。」

「なんで?」

「僕のせいで、君はこんなに殴られたじゃないか。赤く腫れてる。」

「へっちゃらだよ。てか、悪いことしてない人は謝ったらダメだよ?」

「でも....」

「悪いのは叩いたやつ!君はなーんも悪くない!」

どこぞの正義のヒーローが言うようなクサいセリフだったが、それが彼には響いた。

「そっか、ありがとう!」

「へへ!」

「負けたやつはヒーローじゃないって、さっきの奴らは言ってたけどさ、」

「ん?」

「でも、でも僕は、君の方がカッコいい正義のヒーローだと思うよ!」

「そうかなあ、えへへ!」

「そうだ、ちょっと待ってて?」

「うん?」

少ししてから、彼は折り紙を持って戻ってきた。赤い折り紙で作った、紙飛行機だ。不器用なのか、少しクシャクシャっとなっている。

「開いてみてよ!」

「えー?えっと...」

“たすけてくれてありがとう。きっときみはすごいひいろおになれるよ!ぼくはおうえんするから!これからもなかよくしてね。 きみのともだち、むとうたけるより。”

黒いボールペンで、覚束ないひらがなで、手紙を書いていた。

「うわぁ!ありがとう!」

「きみ、名前は?」

「僕は、しゃくねつほてり!」

「かっこいい名前だね!仲良くしてね!」

「うん!」

それから多くの月日が流れた。そして、灼熱日照が小学生の頃。殺人事件を起こした次の日、だった。

「日照、どうした?」

「...いや、」

「なんか、辛そうだぞ?」

「まぁ...猛には関係ないよ?」

「いいよ関係なくても。一回言ってみ?そういう、心の中に秘めてる傷、みたいなやつは、言わない方が後々辛くなるよ?」

優しい言葉と声に包まれるように、僕は事実を話した。

「......人を殺した。」

「えっ」

「10人?いやもう少し。殺したんだ。人を。命を奪った。」

「......そっか。」

「失望しただろ?友達が殺人犯だったなんて。」

「いや?」

「え...?」

「無差別殺人、しかも動機が不純、とかならまぁ、失望するけどさ。日照は、理由なく人を殺すような奴じゃないよ。」

そして、彼はこう続ける。

「いつ、どこにいたって、君は灼熱日照だし、君は自分のヒーローだってこと。」

この優しさがずっと寄り添ってくれればいいと思った。世間はこんなに優しいもんじゃないとは、分かっていた。分かっていたが、おそらく世間から批判を浴びようと、結局誰かにこの優しさを求めてしまう、そんな気がした。

「あ、まぁ、人を殺しちゃったことは、流石に反省しないといけないかもだけどさ。」

「うん...ありがと。」

「じゃあ、またな!」

「おう」

彼の振っていた手は、夕日に照らされ、赤く光った。幼稚園の頃、夕方まで一緒に遊んだ日々を思い出した。どこかあどけないような、でも慈愛に溢れた手のひらだった。

 

「はい、じゃあ臨時集会おしまい!あ、日照来たばっかりだからさ、基本的な一日のスケジュールとか、誰か教えてあげてね?まぁ、日照はもうちょっとやることあるけどさ。早めに教えといて欲しいんだ。すぐにカリキュラムに入ると混乱しちゃうし。」

「俺が教えます!」

「?」

「俺、磁場 鉄太(じば てった)!よろしく!俺、割とお前のエレメント好きだぞ!あ、俺のエレメントは”マグネット“!物質、人体に磁力をつけて、S極N極でくっついたり、S極同士で吹き飛ばしたりできる!よろしくな!うん、よろしく!」

怒涛のコミュニケーションだ、本当に初対面か怪しむレベルだ。むしろコメンテーターとかになったら、将来有望だったかもしれないのに。

「1日のスケジュールは、まず6時起床!7時までに朝食!12時まで特訓!13時までに昼食!17時まで特訓!その後20時までは自由時間、21時までに夕食!22時までに入浴を済ませて就寝だ!ざっくり言うとそんな感じだ!」

ざっくりでこんなに分かりやすいのは、彼の巧みな話術なのだろうか。それにしても更生施設という硬い名前とは裏腹にいい人ばかりだ。本当に皆、人を殺したなんてことはお世辞にも思えなかった。

 

 

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