色んな人が挨拶してくれたが、悪そうな人どころか、犯罪を犯すような人は、自分以外にいると思えなかった。水斗くんの話も聞いたが、まだ真実とは捉えられなかった。
「言いにくかったらいいけど、水斗くんは、どういう経緯で...人を殺したの?」
「僕?...えーと、事件が起きたのは...中学3年生の...10月かな、」
「水斗っていうの?お前!ダセー名前だなあ!」
「なんでそんなこというんだ!」
当時の僕はそれはそれはやんちゃで落ち着きのない奴だったから、色んな人から反感を買った。反感を買った覚えは無かったけど、多分嫌な思いをどこかでさせてしまったんだろう。
「おい、なんだその腕につけてるやつ!時計か?」
「おい!やめろよ!!」
「やめろよって言われて、やめるやつなんか居ねえよ!」
彼は僕の時計を引き剥がし、踏んづけた。時計はバラバラになってしまった。その時はまだ我慢した。手を出してはならない、と。
「あ!ごめんごめん、見えなかったわ!踏んじまったみてえだ、申し訳ねえ!これで許してくれよな!」
そう言った彼からパンチが飛んできた。
「オラオラ!」
痛え。それでも僕は我慢した。
「...謝れよ...」
「あン?」
「その時計は、父さんの形見なんだ...父さんとの思い出が詰まった時計なんだ...壊したことを謝れよ!」
「は?何でお前この状況で口答えできるんだよ、ア?父さんの形見ィ?こんなボロボロの腕時計が?針も錆びて動かねえこんなゴミは、あっても何も生まれねえんだよ。形見がこんなにボロいんだ、きっとてめえの親父が何か天国で悪ィことしてっからだろうなァ!おめえの親父ひでえ奴だな、ゲスだな!ヘッヘッ...!」
自分をいびるのは好きにすればいいと思ったが、父さんを馬鹿にされた僕は、我慢出来なかった。
「おい、父さん馬鹿にすんな。」
「だから、口答えすん」
「黙れよ」
ガキィン
空気中の水蒸気を一気に氷に変えた。尖った氷が、彼の首に突き刺さる。氷の先端が血で赤く染まっていた。
「フッ...フゥッ...」
息が荒い。そんなことも気にせず僕は氷を体にどんどん突き刺した。右腕。左腕。足の付け根。目、口、耳。そして、心臓。大量の氷が貫いた彼の凄惨な姿は、クラスの人間全員の心を恐怖で埋め尽くした。そして僕は、暴走してしまった。
「お前も父さんに文句あるのか?」
グサッ
「お前、時計が踏まれた時に、笑ってたよなぁ」
ブスッ
何人も殺した。クラスの人間の半分を殺した。全部、僕のせいなのか。もう、いいや、どうなろうと一緒だ。どうせ僕なんか。もういっそ、自分以外の人類を全員、殺してしまえ。そうとまで思えた。と言いつつも、2日後には、自分の罪をどう償うかと、しっかりと反省していた。死刑になろうと仕方ない。こんなに人を殺したから。究極の刑罰である死刑をも受け入れる気持ちでいた。なのに、こんないい施設に僕はいるんだ。死んでしまった人に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。償いたい。そう思って、皆を守れるエルムを目指すことを、決意した。
「ここに来た経緯はそんなもんかな。」
「僕のと似ているなぁ、僕、物投げ捨てられただけで殺しちゃったけど、水斗くんは偉いね、時計踏み壊されたのに我慢できて。」
「いや、殺しちゃっただけで、もう偉くないよ。あそこで手を出さなかったら...。」
「大丈夫、そういう人たちが集まる場所なんだろ?ここは。」
「うん。僕は、殺してしまった人の償いを果たすために、最高のエルムになって、もっとたくさんの人を救ってあげなくちゃならないんだ!」
彼は、ひたむきで朗らかな性格だ。こんな人しかこの世にいないならば、平和が訪れていたであろうに。彼の目は前を向いていた。その美しい、輝く瞳は、自分を前向きにしてくれた。廊下の奥の窓から、眩しい光が差し込んでいた。
彼にも事情はあるってことはわかった。つまり、ここに来た人たちは、みんな何らかのいじめか暴力を受けて、我慢出来ず殺してしまった人たちなのだろうか。まだ全貌は透けていないが、最恐の絶対悪みたいな、無差別大量殺人犯みたいな、まがいなき悪って感じの人はいなさそうだった。ガチャッと急にドアが開いたのは、そう考察している最中だった。
「あ、日照ごめん、寝てた?」
「あ、鍛藤さん。まだですよ?テレビ見てました。」
「そっか、一応夜に巡回しないといけないからさ。形式上は殺人した人が来る場所だからさ、脱走ってことも考えられなくはないし。」
「あぁ、わかりました。」
「じゃあ、おやすみ〜。」
「おやすみなさい。」
おやすみ。母がメロディに乗せて、歌詞にしてくれていた。子供の頃に聴いた、あの子守唄を思い出す。
「ねんねんころり、ねんころり。お月様とお星様がおやすみなさいと言ってるよ。ねんねんころり、ねんころり。」
「.....ハッ?!あ、朝か...」
子守唄を口ずさんでいたら寝ていた。なんだ、この歌は自分が歌っても効力あるのか?いや単に疲れていただけか。さて、今日は色々やることがあるぞって鍛藤さんが言っていた。何だろうか。
「日照くん、朝だよ〜...って、もう起きてんのか、早いなぁ。」
「鍛藤さん、おはようございます。」
「今日は、コンタクトを作ります!」
ん?何を言っているんだ彼は。視力は両目1.5だから、作る必要なんてないんだけどな。
「僕、目は良いんですけど。」
「いや、視力のためじゃないよ?」
さっぱりわからない。考えてはみたものの、わからない。あれか?GPS的なものか?鍛藤さんに連れていかれたのは、前回エレメントを検査した、鉄の壁で覆われたあの場所。
「今から作るコンタクトは、エルムだけが所持を許されている、『レンズスカウター』と言う電子製品だ。」
「何ですかそれ。」
「試しに俺のレンズ付けてみるか?」
初めてコンタクトを入れたから、目がゴロゴロする。
「スイッチオン!」
「?!」
鍛藤さんが、スイッチオン!と叫んだ瞬間、自分の視界にはさまざまなデータが写し出された。まるで、ゲーム画面のようだ。EPやらHPやら、訳がわからない言葉がたくさん書いてある。
「えーとね、HPはわかる?」
「え、分かりませんけど。」
「え、日照、ゲームとかしないの?」
「え、そのHPですか。」
「そそ、ヒットポイントのこと。簡単に言えば体力のこと。EPってのはエレメントポイントで、残っているエレメントの量がわかるんだ。」
「...なるほど?」
最先端技術を駆使した製品だな、高そうだ。
「え、表示されてるのってHPとEPだけじゃなかったですよ?」
「あ、HPとEP以外は基本自由だよ。自分のエレメントを活かせるようにカスタマイズして!」
「なるほど...?」
「例えば、ほら、日照は体温が強みだから、体温表示したりさ。」
「そんなことできるんですか。」
「おう。最先端技術をなめてもらっちゃ困るぞ。」
これを使えば自分の状態や知りたい情報を、スイッチ一つで表示できるのか。便利な道具を作ったもんだ。そして完成した自分のレンズは、「HP・EP・体温・パワーが何倍になっているか」が表示される仕様にしてもらった。
「もうそろそろ本当の訓練に入るぞ。心の準備はできてるか?」
「はい。」
3日後、訓練に正式に参加することを宣告された。ただ、僕は一つ気掛かりがあった。僕は、エルムになるのか?僕は人を殺してしまってここに来ている。なのに、その力を使って悪人を殺せというのだ。悪いことではないのかもしれないけど、聞こえは良くなかった。自分がエルムを歪んだ風に捉えてしまっているだけかもしれない。悪人を殺すんじゃなくて、善人を悪人から守ることを行う者。それがエルム。
そして3日後。
「さぁ、みんな!日照がようやく訓練に参加だ!お互い切磋琢磨して、基礎体力とエレメントを向上させるんだ!わかったか?」
「「「はい!!」」」
一応、スタミナ強化とエレメントの強化をメインとして訓練するらしいが、詳細は聞いていない。どんな訓練をするのだろうか。
「じゃあ、早速混ざるのもアレだから、午前中は訓練の様子見てようか。」
「あ、わかりました。」
「僕、現場監督しないとだから、もう一人の顧問の人連れてくるね。」
「あ、はい。」
そして何分か後。
「お、君が超体温の坊主かい?」
「え、あっ、はい。」
「ウワサには聞いとったよ?鉄の部屋曲げたのかい?」
「すみませんでした。」
「別にいいんだよ?エルムを育てるためのほんの微かな生け贄だ。こんな部屋よりも、立派なエルムが育つことの方が大切だからな。」
白髪で、前髪の長いお爺さんだ。パジャマか分からないが、グレーでよれよれの上下を着ていた。声もしゃがれている。
「ワシの名前は呼霊 魂一(こだま こんいち)。よろしく頼むよ。」
「あ、お願いします。」
「君の検査をした時。体温はどうやって測ったか、気にならなかったかい?」
「あ、そういえば。」
「これは、あの鉄の部屋に仕掛けがあるんだ。この鉄の部屋に入った全ての人の情報は、ワシがいつもいる情報管理室に届く。もちろん、映像と共にな。そこで君の様子を見ていたら、急激に体温が上がってたまげたよ。これらの映像データから、コンピュータが自動でエレメントを分析するんだ。そうして分析したデータを、無線を通じて鍛藤に伝え、それを彼から日照に伝えてもらったんだ。」
「え、すみませんでした、部屋へこんじゃった...。」
「ハッハッハッ、このくらいちっちゃい犠牲よ、メインプログラムは壊れていないし!この程度の犠牲はこっちでどうにかするから。」
こんな具合で話をしていたら、チャイムが鳴った。訓練開始のチャイムみたいだ。
そうして僕は、あるまじき訓練を目の当たりにした。
不定期投稿になるかもしれないです、すみません。