ウマ娘 自作短編お話まとめ   作:ゆきたか

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1.「アタシは謎の怪しい薬に手を出してでも、キラキラウマ娘になりたかった……」

「1着は── 2着は── ナイスネイチャはまたも3着!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「はぁ……」

 

 人気(ひとけ)の少ない放課後のフリースペースでアタシは1人、大きなため息を付いた。あっ、周りのみんなが見てる……気をつけなきゃ気をつけなきゃ! 

 

 アタシの名前はナイスネイチャ、キラキラウマ娘を目指して日々努力を……努力を……努力、してるはずなのになぁ……はぁ〜〜〜。

 

 やばっ! またおっきなため息付いちゃった! 

 G1レースでも良い所までいくんだければあと一歩が足りない……そんなこんなでいつの間にか付いた異名が『ブロンズコレクター』とか『善戦ウマ娘』とか……好き好んでブロンズ欲しい訳でも善戦してる訳でもないっつーの!! 

 

 いや、分かってるんだよ。殆どの人は褒め言葉でそう言ってくれている事ぐらい。『あれだけ強敵集まるレースで3着に入れるなんて立派』って。アタシ自身そう思うよ、そうなんだけどさぁ……それでも、やっぱり1着になりたいんだよねえ。1着になって「アタシはキラキラウマ娘だー!」って心の底から思いたいんだよ……

 

 考えれば考えるほど頭の中はグチャグチャになり精神的スランプに陥っているアタシに、声をかけてくるウマ娘が1人。

 

「おやっネイチャ君、どうしたんだい? なんか元気がないようだね」

 

「タキオン……」

 

 声の主はアグネスタキオン。日々身体能力を向上させる研究を行っておりトレーナーのことを「モルモット君」と呼ぶ、個性派揃いのトレセン学園ウマ娘の中でも一際異彩を放つ存在だ。そういえば、2人っきりで話すのって初めて? 

 

「ところで君は、()()()()()()()()()()()()()には出ないのかい?」

 

「あぁ、あれね……いや〜、アタシなんかが出ても歯がたたないかな〜って」

 

 

 トレセン学園では毎年4月に『ファン感謝祭』と呼ばれるファンの方々をトレセン学園に招いて楽しんでもらうイベントを行っているのだが、今回一番の目玉企画がファン感謝祭特別記念レースだ。

短距離・マイル・中距離・長距離・ダートと全5レースに分けて行われ

 

『各レース最大出走者は18人』『出走できるのは1人1レース』『出走条件は重賞1勝以上』

 

と言う条件がある。

つまり『トゥインクル・シリーズ』『ドリーム・シリーズ』と言った垣根を超えた夢のオールスターレースなのだ。

 

 どのレースもG1レースに匹敵する強豪が集まるんだけど、アタシが最も得意としている中距離レースは何というか……()()って言葉が一番しっくり来るかな? 

ぱっと思い浮かぶだけでも、テイオーにスペちゃんにブルボンにオペラオーにブライアン先輩に……そして一番忘れちゃいけないのがシンボリルドルフ会長!! まさかの会長の出走にみんなの目の色が変わったよ。テイオーは特に燃えに燃えちゃってる。

一部のウマ娘は出走予約していたものの「(こんな凄い面子の中で走るなんて)無理ー」となり出走回避。また、一部のウマ娘は元々別のレースに出走予定だったんだけど

 

「スペちゃんと、走りたい……先頭の景色を……」

「タマが長距離に出るから私も長距離に出ようと思っていたのだが、ルドルフが中距離に出るなら……(モグモグ)……対決してみたい、中距離にする……(ムシャムシャ)」

 

 と、強者が更に強者を呼び込むと言う好循環(悪循環?)が発生してとんでもない事に……まだ1枠空いているみたいだけど、さすがにここに混ざるのは……ねぇ。

 

「確かに強豪揃いだけど、ネイチャ君!君にも勝機はあるよ」

 

 不気味な笑みを浮かべながらタキオンがそう口にする。「まさか、アタシなんかじゃ入着はおろか1桁順位だって夢のまた夢……」とアタシが言おうとするのを遮って、タキオンがポケットから何かを取り出してアタシに見せる。これは……カプセル? 

 

「レース前にこいつを飲めば……ね」

 

 レース前にカプセルって……それドーピングってやつじゃん!! 体にどんな悪影響あるか分からないし、そもそもそんな事したらトレセン学園追放でもうレースに出られなくなるし!!それに、そんな手で強くなったって意味なんて何も……

 

「安心してくれたまえ。この薬の成分は全て合法のものだし副作用も一切無い。飲んでから5秒後に、1()0()()()()()()()()()()()()()()()()薬だよ」

 

 キラキラウマ娘……! テイオーみたいに夢に向かって強い輝きを持ちながらレースをしている者だけが持っているもの……それがキラキラウマ娘……

 

「10秒間だけしか効果はないが、その10秒間だけはあのトウカイテイオーや……シンボリルドルフをも超えるキラキラウマ娘になれる事を約束しよう」

 

「…………」

 

 断らなきゃ…………いけないのに…………アタシの中の、キラキラウマ娘になりたいという欲求が収まらない。収まらないどころか、どんどん強く…………

 

 

「……とに」

 

「んっ、なんだい?」

 

「ほんとに大丈夫なの? 副作用も、違法性も……それと、一緒に走るみんなを怪我させちゃったりとかも……」

 

「大丈夫と約束しよう。命に変えても」

 

 

 口元の笑みは変わらずだが目は真剣だ。

 アタシは無言でカプセルを受け取り、そのまま受付に行きファン感謝祭特別記念レース出走の手続きを済ませた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

【ファン感謝祭当日】

 

「本日最大の目玉、ファン感謝祭特別記念レースも残す所中距離レースのみとなりました! ここまで短距離ではサクラバクシンオー! マイルではタイキシャトル! 長距離ではライスシャワー! ダートではスマートファルコンが勝利いたしました! 振り返ってみてどうですか? 解説のゴールドシップさん」

 

「そうですねえ。どのレースも見応え十分でしたが、特に長距離でのお米とスイーツ狂……ライスシャワーとメジロマックイーンの一騎打ちは熾烈でしたね。ハナ差でライスシャワーが勝ちましたが、メジロマックイーンにも盛大な拍手を贈りたいです。いや、出走した全員に拍手を! ゴルシちゃんにも拍手を!!」

 

 相変わらずなテンションのゴルシの解説に、その場にいた観客たちは盛大な拍手を送り歓声を上げた。と言うかこれ…………既に今の時点で日本ダービーや有記念よりも盛り上がってない? 

 

「さあここからはいよいよ本日の一番の目玉! 中距離レースが行われます! 続々とゲートに出走バが集まってきていますが、特にシンボリルドルフに注目が集まっているようです!」

 

 さすが会長、とんでもない拍手の数……テイオーも凄い、他のみんなも。あぁ……レース前だというのに体が、心が重い。

 

「中距離レースには特に実績十分なウマ娘達が集まりました! なんとナイスネイチャ以外全てG1レースを制しております!!」

 

 そうなの!? それは知らなかった…………と言うか実況さんその言い方止めて、そんな風に言うと変にアタシに注目が…………あぁ……「ネイチャ頑張れーー!」「負けるなーー!」って声が聞こえてくるよ。薬なんかに頼っているアタシに、応援してもらう資格なんて無いのに…………

 

 

「続々とゲートに入っていますね…………間もなく出走となります」

 

「チームスピカのみんながんばれー!他のみんなもがんばれー!つまり全員がんばれー!」

 

 アタシはちらっと横目でみんなを見る。……みんな、なんて良い顔をしてるんだろう。テイオーなんて、シンボリルドルフ会長と勝負できる嬉しさからなのか特にキラキラしている。薬に頼るなんてやっぱり良くない…………今からでも

 

 

 ──10秒間だけしか効果はないが、その10秒間だけはあのトウカイテイオーや……シンボリルドルフをも超えるキラキラウマ娘になれる事を約束しよう

 

「!!」

 

頭の中でタキオンの言葉がこだまする。10秒間だけだとしても、キラキラウマ娘に……なりたい……!! 

 間もなくというタイミングで、アタシは鼻をぬぐう動作を行うと共に素早く口内にカプセルを押し込み、そして飲み込んだ…………

 

「(レースに出ているみんな、観客のみんな、ウマ娘を、レースを愛する全ての人たち、三女神様…………ごめんなさい)」

 

 

そしてとうとう、レースが開始する。

 

「各ウマ娘ゲートイン完了──スタートしま……なんだっ!?」

 

「この輝きは黄金か!? 100万ジュエルか!?」

 

 実況さんとゴルシが慌てふためくのも無理はない。スタート直後、突然ゲート内が鮮やかな輝きに包まれたからだ。

 

「どのウマ娘も突如の輝きに驚いて大きく出遅れている中、1人ナイスネイチャだけが素晴らしいスタ…………なんとなんと! 輝いているのはナイスネイチャだーー!」

 

「やべえ! ゴールデンフリ……ゴールデンネイチャに改名しようぜ!!」

 

 実況を聞きアタシはようやく輝きの正体に気づいた。……ホントにアタシ自身じゃん!! まさか、キラキラウマ娘になれるってこういう事…………? 

 

「クククッ…………アッハッハッハ!! 突然の輝きの中でどれだけのウマ娘が冷静さを維持できるか検証してみたかったのだが、大成功だね。あのシンボリルドルフでさえ出遅れるとは、これはとても有意義な検証結果だよ」

 

 

 唯一出遅れなかったアタシがそのまま1着でゴールに……なんて事は当然無く、もちろんレースは中断、そして再レースに。アタシはみんなに全力で謝り、改めてゲートに入った。おのれタキオンめ……いや、これはアタシのせいだ。アタシが弱い心に負けず、しっかり断っていれば……! 

 

 ……よし! もうここまできたらどうにでもなれだ! ネイチャさん、このレースで灰になるよ!! 

 

 再レースでは誰も出遅れる事無くスタート。結果としてはシンボリルドルフ会長がテイオーに1バ身差をつけて勝利。驚くべき事は、アタシがまさかの5着に入ったことだ。まさかこのキラキラウマ娘ばかりが集まるレースで入着できるとは……余計なことを考えず吹っ切れたのが良かったのかな…………? 

 

 ただしエアグルーヴ先輩は大激怒、アタシとタキオンは徹夜で反省文を書く事となった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

【深夜のフリースペース】

 

「今日はごめんよ。お詫びに今度、人参ハンバーグ定食50人前を奢ろうじゃないか」

 

「それ、嬉しいのはオグリさんとスペちゃんくらい…………って、アタシが望んでたのはあんなキラキラウマ娘(物理)じゃないーーーーーーーー!」

 

「でも嘘ではなかったろ。再レース後の君は……誰よりもキラキラしていた。結果が良かったからそう言っているんじゃないよ。君の心はとてもキラキラしていた。おそらくそれが結果に結びついたんだろうね」

 

 タキオンの言葉に、思わず反省文を書く手が止まる。まさかタキオンは、こういう結果になることが分かってアタシに声を……? ……ってまさか、そんな訳ないか。

 

「(ネイチャ君、君は100%の力を出せばG1バにも負けない力を持っていると前々から思っていたよ。精神的に解放される事で一体どれだけ走りに影響が出るか試してみたが、まさか入着までするとは……この調子ならG1勝利も……キラキラウマ娘、いやぁとても素晴らしい実験結果だったよ! ハッハッハッハッ!)」

 

 

 反省文を書き終わったのは午前4時。にも関わらず、ナイスネイチャもアグネスタキオンもその顔はとてもスッキリとしていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

【翌日】

 

 生徒会室にいるのはシンボリルドルフとエアグルーヴ。エアグルーヴは怒りを(あら)わにしてシンボリルドルフに詰め寄っていた。

 

「タキオンにはもっと厳しい罰を与えるべきです!! それにあんな話に乗るネイチャもネイチャです!」

 

「まあまあ。先ほど2人と話をして反省文も読んだが、2人とも十分に反省していたよ。これくらいにしておこうじゃないか。……今回の一件だが、私としてはとても良い経験になったよ……冷静沈着(れいせいちんちゃく)泰然自若(たいぜんじじゃく)……どんな状況でも冷静でいる事を心がけていたが、まさか輝き程度の影響で出遅れてしまうとは……」

 

「うっ! それは……」

 

 実は中距離レースにはエアグルーヴも出走していた。彼女も同じ事を思っていたため、それ以上の言葉は紡げなかった。

 

 アグネスタキオンから没収した薬を見つめながら、シンボリルドルフは考えを巡らせる。

 

「それにこの薬、使い方次第では何か面白い事に…………おっ?」

 

 その瞬間、エアグルーヴはいわれもない不安に突如(さいな)まれた。

 

「(輝く薬……ピカッと輝く……チームスピカ……チームカノープス……)これは……フフッ」

 

「(会長がこんな表情をする時は決まって……杞憂であればよいのだが)」




翌年のファン感謝祭にて

『チームスピカ 今だけ改め チームス ピカッ!』
『チームカノープス 今だけ改め チーム輝こうっス!』

の面々が、突如全員輝き出しながらうまぴょい伝説を披露し、その日一番の盛り上がりを見せたのはまた別のお話──


 1年越しのフラグ回収に、エアグルーヴのやる気が近年稀に見るくらいに下がったのもまた別のお話──
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