ウマ娘 自作短編お話まとめ   作:ゆきたか

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連携さん(https://twitter.com/axartist)主催の #未実装ウマ娘SS合同企画 の参加作品です。

ナイスネイチャと共にシルバーコレクター・ブロンズコレクターと言われているロイスアンドロイス。
以前からお話を書こうと思っていましたが、連携さんの企画のお陰でお話を強く考えるキッカケが生まれこうして完成しました。感謝しております。


5.敗北は 敗北ではなく 勝ちの途中

「テイオーさんが一番速いの!」

 

「確かにテイオーさんは速いけど、一番はマックイーンさん!」

 

「「ムムムムムム……!」」

 

 教室の隅で行われている見慣れた光景。今日もクラスメイトのキタちゃんとダイヤちゃんが『テイオーさんとメジロマックイーンさんどちらが速いか論争』を行っている。

 

 テイオーさんもマックイーンさんも確かに凄いウマ娘。だけど……私が一番に憧れているのは……

 

 ────────────────────

 

『──ナイスネイチャは3着!』

 

「ネイチャはまた3着か! 良く頑張ったな!」「ウイニングライブ、楽しみにしてるよ」

 

 観客からの拍手と歓声を受けてアタシは笑顔で大きく手を振る。

 また3着……か。いや、分かってるんですよ。沢山のウマ娘が走っている中での毎回3着に入っているのは凄い! と言う思いで言ってくれてるんだって。でも……勝ちたいなぁ……1番になりたいなぁ……次こそは!! 

 

「──チャさーん!」

 

 あっ、この声は。

 

「ネイチャさーん!!」

 

 またあの子、来てるんだ……

 

 アタシたちウマ娘の耳は人間に比べて優れているので、大きな歓声の中でも誰が何を言っているのかが比較的分かる。

 アタシのファンは年配の人が多いのもあり、男性女性共に応援の声は低めなんだけど……だからこそ最前列からアタシの名前を呼ぶ幼い子特有の高い声は、一番に耳に入ってくる。

 

 以前パドックの時に近くで見た事あるけど、あの子まだ小学生だよね。

 テイオーとマックイーンに熱烈な小学生ウマ娘ファンが付いてるのは知っている。確か名前は……キタサンブラックとサトノダイヤモンドだったかな? 

 あの2人にそう言ったファンが付くのは良く分かる。2人とも本当にキラキラしてるもん、そりゃあ小さい子は憧れるよね。

 

 だからこそ分からない。なんであの子は……アタシなんかに。

 

 

 ウイニングライブを終えてひと段落したアタシは、寮に戻るために外に出た。ここ最近根詰めてトレーニングをしていたから、今日は帰ったら早めに休んで……あれ? あの子……

 

 目線の奥に見覚えのある顔があった。さっきまで大声でアタシを応援してくれていた子だ。少なくてもアタシの知る限り、ここ東京競馬場や中山競馬場でのレースの時はいつもあの子の声援が聞こえる。

 アタシからいきなり声をかけるのは変だし、そのまま立ち去ろうかと思ったけど……応援してくれているのは本当に嬉しいし、そのお礼がしたかった。それと……1つ聞きたい事もあったから。

 あの子は考え事をしているのかこちらには気づいていない。アタシは正面から近づいていき声をかけた。

 

「こんにちは。アタシ、ナイスネイチャ。いつも応援ありがとう」

 

「えっ? ……………………」

 

 あれ? 無反応だ。もしかして違う子だった? いや、そんなはずはない。間違いなくこの子だ。

 

「おーい、聞いてる?」

 

「……………………(ドサッ)」

 

 えっ!? 突然倒れちゃったよ!? 一体どうしたの!? きゅ、救急車!? ま、まずは近くにあるベンチに!! 

 

 

「大丈夫?」

 

「ほ……本当にごめんなさい!! まさか目の前に本物のネイチャさんが現れるなんて、ビックリのあまり……」

 

 体調不良じゃなくて良かった〜! 

 でも……そんなに、気を失っちゃうくらいにアタシの事を好きだなんて。もちろん嬉しい、嬉しいよ。だけど……なんでアタシなんかをそんなに。

 

「そういえば、あなたの名前はなんて言うの?」

 

「はい! 私の名前はロイスアンドロイスと言います!」

 

 ああ! なんて真っ直ぐな自己紹介!! かわい〜〜〜。

 それに……凄い真っ直ぐな目をした子だなぁ。

 

「ねえロイスちゃん、1つ聞いていい?」

 

「はい! なんでもどーぞです!」

 

「なんで、アタシな……アタシをこんなに応援してくれるのかな? 自分で言うのもアレだけど、良いとこ2着3着止まりで勝ちからは随分遠ざかっちゃってるし。他にもっと、応援したくなるような子がいるんじゃないかなって」

 

『なんで、アタシなんかを……』と言いかけて慌てて訂正した。この子はアタシの事を好きでアタシに憧れて応援してくれている……だからこそ、そんな子を前に自分自身を卑下し過ぎるような態度はダメだよね。

 

「それは……ちょっと私の話、聞いてもらってもいいですか?」

 

 ロイスちゃんは遠慮がちに私に問いかける。

 

「うん、是非聞かせて」

 

「はい。私、将来はトレセン学園に入って誰よりも速いウマ娘になりたくて今から練習してるんですけど……他のウマ娘の子たちとレースしても全然勝てなくて。私には遠い夢なのかなあと諦めかけていたんです……そんな時に出会ったのが、ネイチャさんだったんです」

 

 なんと、ここでアタシの名前? 

 

「ネイチャさんの目に……諦めない目に惹かれたんです」

 

「目?」

 

「はい。ネイチャさんはいつも……いつも諦めない目をしているんです。次こそは勝つ! と言う目を」

 

 確かに負ける度に『次こそは!』って思ってたけど、まさかそんな風に見えていたなんて。

 

「ネイチャさん!!」

 

「なっ、なに?」

 

 突然ロイスちゃんの声色が変わった。熱さたっぷり……だけど、どこか悲しみの入り混じった声に。

 

「どうしてネイチャさんは……諦めないでいられるんですか!? 私もネイチャさんみたいに諦めないで頑張っているつもりなんですが……ずっと結果が出なくて……辛くて……こんなんじゃとてもトレセン学園に入れないし、万が一入れたとしても……こんな私なんかじゃ……」

 

 ロイスちゃんの声はどんどん涙混じりになっていき、その表情は今にも泣きそうだ。

 なんか……トレセン学園に入ったばかりの自分自身を見ているようだった。一歩道が違ったら、アタシは間違いなくキラキラウマ娘への道を諦めていた。

 

「どうしてアタシが諦めないでいられるか……か。いくつかあるけど、一番は……ライバルがいたからかな」

 

「ライバル、ですか?」

 

「うん。ロイスちゃんにはライバルはいる?」

 

「私には……クラスに2人ウマ娘の子がいるんですが、2人とも私と違ってとても速くて……とてもライバルとは……」

 

 あぁ……その気持ちは分かるよ。

 自分よりずっと速い子に対してライバルだなんてとても言えないよね。でも……

 

「ライバルだよ」

 

 アタシはハッキリと言った。自分自身にも言い聞かせるように。

 

「えっ……?」

 

「ロイスちゃんとその2人はライバルだよ。ロイスちゃん、トウカイテイオーって知ってるよね?」

 

「はい! もちろん知ってます。凄い速くていつも元気なウマ娘さんですよね」

 

「うん、そう。実はアタシ……テイオーの事、ライバルだって思ってるんだ。これまで勝てた事は無いし、これから先も分からない。世間ではアタシとテイオーがライバルと思っている人はいないと思うし、テイオー自身がどう思っているのかも分からない。でも……アタシはライバルだって思ってる。

 ロイスちゃんがその2人と本気で走りたい、本気で勝ちたいって思っているなら……それこそがライバルの証なんじゃないかなって、アタシは思ってるよ」

 

 あぁ……我ながら身分不相応な事言ってるなあ! 言ってて恥ずかしい!! 

 でも、嘘じゃない。本気でそう思ってる。だからこそロイスちゃんには、その想いを伝えたかった。

 

「ネイチャさん……ネイチャ゛さ゛ん゛〜〜〜〜」

 

 あわわわわ! ロイスちゃんが泣き出しちゃったよ! アタシ変な事言っちゃった!? えーと、ハンカチは……! 

 それから5分後、ようやくロイスちゃんは喋れる所まで落ち着きを取り戻した。

 

 

 

「大丈夫?」

 

「本当に……本当にごめんなさい! またご迷惑をおかけしちゃって……私、ネイチャさんのお話を聞いている内に自分がどれだけ甘かったか思い知らされました。結局は自分には才能が無いからとか、負けの言い訳ばかりしてました」

 

 いやぁ、アタシがロイスちゃんくらいの年の頃は全然そんな事考えたこと無かったよ。この年にしてこれだけ負けの怖さを知っていてそれに抗おうとしている……うん、この子は間違いなく強くなる。

 

「かっこいい事言っちゃったけど、アタシだって今も負けるのは怖いよ。だけど思うんだ。勝負から逃げちゃったらそれ以下なんじゃないかって。それに……敗北を糧に出来れば、それはただの敗北ではなく勝ちの途中になるんじゃないかなって」

 

「逃げちゃったらそれ以下……勝ちの途中……」

 

「だからアタシは諦めないでこれからも頑張る! ロイスちゃんも頑張ろう!」

 

「はい! 今日は本当にありがとうございました!!」

 

 アタシは最後にロイスちゃんと固い握手を交わして、トレセン学園へと戻っていった。

 本当は寮に戻って早く休む予定だったけど……その前にちょっと走りたくなっちゃった! ロイスちゃん、お礼を言うのはアタシの方だよ。G1レースで1着でゴール板を駆け抜ける姿、あなたに必ず見せるから。

 

 

 ────────────────────

 

 

『本日のレースですが1番人気はキタサンブラック、2番人気はサトノダイヤモンドとなっております。ロイスアンドロイスにも注目が集まっております』

 

『ロイスアンドロイス、毎回良いところまでいくんですがねぇ。本日のレースに期待しましょう』

 

 うっ……! 解説さんの声が耳に入ってきて私は思わずビクッとした。

 そうだよね、後一歩が足りないんだよね……でも、今回こそは1番になる! 

 

「──スさーん!」

 

 あっ、この声は。

 

「ロイスさーん!!」

 

 またあの子、来てるんだ……そういえば私も、あのくらいの歳の頃はいつもネイチャさんを見に最前列で応援していたなあ。……本バ場入場までもう少し時間あるよね。

 

 私はその場を後にして、あの子の元へと向かった。

 

「こんにちは、今日も応援ありがとう」

 

「えっ……えっ!?」

 

 フフッ、突然ネイチャさんに声をかけられた時の私と同じようなリアクションしてる。あの時は本当にドキドキで……本当に嬉しかった。

 

「ねえ、あなたのお名前はなんて言うの?」

 

「……は! はい!! 私の名前はエタリオウと言います!」

 

「いつも応援ありがとう、エタリオウちゃん。今日こそは勝つからね」

 

 その場を後に本バ場へと向かい始めた私の後方から、エタリオウちゃんの声が聞こえてきた。

 

「私! いつもいつもダメダメで!! 諦めたくなる事ばかりで! そんな時にロイスさんの走りを見てロイスさんの事を知って! ロイスさんのどんな時でも全力で! その……諦めを知らない目にとても惹かれて!! えーと……えーと……頑張ってください!!!」

 

 もう本バ場入場直前だ、戻ってその声に応える時間は無い。私は親指を突き立てた状態の右手を……エタリオウちゃんに見える様にグッと後ろに突き出した。

 

 

(引退レースまで応援に来てくれてありがとう。アハハ、残念ながら最後までG1では勝てなかったよ)

 

 ネイチャさんは最後までG1での勝利にこだわっていた。

 G1にこだわらずオープン戦メインに出ていたら、おそらくもっと勝利していたんだと思う……でもネイチャさんは最後までライバルと戦って、ライバルに勝ちたかったんだと思う。

 

(ロイスちゃんはもうすぐデビューだよね。アタシ、応援しているから)

 

 負けるのは怖いけど、勝負から逃げちゃったらそれ以下……敗北は勝ちの途中……ですよね。

 だから私も、最後までライバルと戦い続けます! 

 

 

 

『第4コーナーを回って各バ最後の直線へと入ってきた! 先頭は並んでキタサンブラックとサトノダイヤモンド!! ゴールまで残り200mを切っ……おっと! 大外から1人ものすごい勢いで突っ込んできた!! 大外から突っ込んできたのはロ──』

 

 

「いけえぇぇぇぇぇ! ロイスさんーーーーー!!!!!!」

「いけえぇぇぇぇぇ! ロイスちゃんーーーーー!!!!!!」




【史実成績】
ナイスネイチャ:41戦7勝(2着6回、3着8回 有馬記念3年連続3着 マイルチャンピオンシップ3着 )
ロイスアンドロイス:28戦3勝(2着9回、3着7回 天皇賞・秋3着 ジャパンカップ3着)
エタリオウ:17戦1勝(2着7回、3着0回 菊花賞2着)

※実際の競馬だと、ナイスネイチャくらい獲得賞金が多いと斤量の関係でとてもオープン戦には出られないですね。
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