目が覚めるとそこは知らない天井だった。待って一回やってみたかったのブラウザバックしないで。
女神様の言った通りここは病院らしい。頭に包帯が巻かれてるし、腕も固定されてる。話の通り手酷くやられたんだな。机に俺の私物らしき物があるけどカードは破かれた“エルフの剣士”だけ。残りは全部いじめっ子に持ってかれたんだろうさ。
「デュエリストだってのにカードを大切にしないとか恥ずかしくないのか?っと」
引き出しを確認すると手紙が入ってた。女神様からだった。
『勝俊さんへ
この手紙を読んでいるという事は転生が完了したという事。これから貴方の第二の人生が始まります。お話した通りこの世界ではデュエルモンスターズが社会で浸透しています。貴方のデッキはご自宅に送りましたのでそちらをお使いください。こちらの勝俊さんをいじめていた子達をどうするかは貴方に委ねます。
出来る事ならあの子の分まで貴方が幸福になってください。
「…最後まで自分の名前は明かさないのね。まあそういうシステムなだけなのかもしれないけど」
神とは感情が無いただのシステムだという話をどこかで聞いたことがある。どこで聞いたかも覚えてないけど面白いなと思ってたんだ。記憶といえばこっちの俺の記憶だ。何となくだけど俺の身に覚えのない記憶が浮かんでくる。今は十歳、今年はまだ誕生日を迎えてないから五年生か。カードプールは…じゅ、十一期まである…だと…!
「にしても気持ち悪い。融合召喚の時のモンスターもこんな感じなんかな」
いくらこっちの自分とはいえ他人の記憶が混ざるっていうのは予想以上に辛い。記憶が混ざり合うなんてこれから先有り得ないけど、二度とやりたくないわ。
「えっと…ナースコール押せばいいのか?」
ナースコールを押すとすぐに看護師のお姉さんが来てくれた。凄い慌てた様子だったけどまあ死にかけてたから当然…なのか?
「……信じられない。つい昨日まで意識不明だったのに」
医者の先生が信じられないものを見るような目で俺を見てくる。話を聞くとこの体は二週間意識不明で死亡判定を下してもおかしくなかったそうな。まあ生き返ったからそうはならなかったけど。
「兎に角、ご両親に連絡を入れておくからね。それと今日は大事をとって安静にして、明日検査するから。食事はとれそうかい?」
「はい、寧ろ腹減っちゃって」
「そうか、なら用意しておこう。丁度夕飯時だしね」
俺としてはデッキを確認したかったから早く帰りたい所だったけど先生が許してくれないだろうし帰れるのは明後日になるのか…その間デッキ触れないからかなり暇だな。
「にしても、デュエルが社会に…ねぇ…」
テレビを付けてみると新しいパックのCMが流れて、ニュースが入れば世界ランキングの上位者について言及されていた。
『いやーランキング1位“J”のデュエルはやはり圧巻ですね!何よりエースモンスターの“
『Jの強さは確かにF・G・Dもそうですが何より相手のフィールドを蹂躙する展開力にもあります。ドラゴン族特有の大量展開で妨害が追い付かないほどの物量で攻め落とすという戦略もダイナミックで見ごたえがあるんですよ』
ランキング1位のエースが…F・G・Dだと…!ただの5000打点と光以外の戦闘耐性なんてオネストのカモだぞ?1位でこれだと2位以下のデュエリストってどうなってんだよ…
「これまさかアニメ次元みたいなやつか?だとしたらデッキクソザコでも運命力バグってるんか?」
アニメのデュエルで熱くなる理由はトップ解決を地でいく運命力だ。「次のターンお前は負ける!」というのが負けフラグになる世界だったがもしかしてOCG次元出身だからといってぬるいデュエルをするとヤバい?
「勝俊!!」
そんな事を考えていると病室の扉が開いた。先生が連絡したのだろう母さんだ。
「ああ勝俊、ごめんね…本当にごめんなさい…」
「母さん、もう面会時間過ぎてるのに」
「何言ってるの!息子が目を覚ましたのに会いに来ない親がどこにいるって言うのよ!」
「でも母さんおれのSOS全部切り捨ててたよね。遊んでるだけだって」
「それは…お母さんが間違っていたわ。あなたの言葉を無視して、母親失格だって思ってる。あなたもお母さんを信じられないって思ってると思う。だけど私はあなたの味方よ」
俺に対して許しを請うように見つめる母。でも俺は知っている。この人は俺を、というよりはこっちの俺を何とも思っていないと。こっちの俺のSOSを尽く無視してきた。それどころか俺に興味なんて欠片も無く兄貴しか気にかけていなかった。
「じゃあさ、お願い聞いてもらっていいかな」
「ええ!なんでも言って!」
それから二日経ち、退院の日となった。先生やお姉さんも見送りに来てくれている。
「それじゃあ、何かあったら電話してください。意識が回復して健康状態も良好とはいえ、油断は出来ないからね」
「はい、二週間ありがとうございました」
「しかし君の精神力というか、生きたいという意思は凄まじいな。あのような状況から意識を取り戻すなんて並のものじゃ無理だ」
「あ、あはは…」
まあ俺は俺でも中身が違うんだけどな。それを知るのは俺だけだし誰かに言う気も無いから笑って誤魔化すしかない。
「では、ありがとうございました」
「お大事に」
母さんの乗ってきた車で病院を後にする。行先は
カードショップだ!!
「おお~~~」
カードショップに着いた俺は思わず感嘆の声をあげた。でもそれくらい規模がデカいのなんのって、パックは勿論シングルにサプライ、デュエルディスクがある!これに興奮しないなんてデュエリストじゃねえ!!
「勝俊、デュエルディスクが壊れたわよね。新しいの買ってあげる」
「本当?ラッキーありがとう」
デュエルディスクが手に入る?しかもソリットビジョンを使ってデュエル?子供の頃の夢が現実になるって事じゃねえかやったあああああああ!!!
平日昼間という事もあって他の客が少ないからじっくり選べるのも良い。やはりこういった買い物はゆっくり静かに選びたいよな。デュエルディスクも種類が多くて悩む。初代とかGXのモデルは勿論ゼアルのモデルもある。流石にアークファイブみたいなリアルソリットビジョンの上にカードを置くような技術は無いのが悲しいけど十分だな。
「前のデュエルディスクは初期モデルだったし、このパッドモデルにしたら?」
母さんはゼアルのモデルを指さす。確かにゼアルも好きだけどどっちかっていうと初代の方が好きだし
「いや、前と同じモデルでいくよ。気に入ってるし、この色合いが好きなんだ」
この言葉に嘘は無い。実際初代のデュエルディスクはデザインが完成されてるし、GXのモデルは小さい頃ちょっとダサいって思ってた。今だとカッコいいって思うけど子供は初代の方がいいって言うと思う。
「そう?こっちの方が持ちやすいと思うけど…」
「こういうのは持ちやすいとかじゃないよ。どれだけ自分に合うか、自分が気に入った物じゃないとデュエルも楽しめないよ」
なんならスリーブもこだわりたい。チラッと見ただけでもエース級モンスターのスリーブがいくつも見えた。青眼ブラマジ真紅眼ネオススタダホープオッP…他にもありそうだから元居た世界よりも充実してるのは明白だ。こんなの満足するしかねえ!!
「じゃあ後はデッキね。スターターデッキがあったけどどれにする?」
「いや、ストラクチャーデッキにするよ。テーマデッキを組みたいって思ってた所だったし」
ストラクチャーデッキのコーナーを見てみるとドラゴンや戦士、植物機械とそれぞれのテーマを主としたデッキが並んでる。値段は…っげ!6500!?
「レシピは…えぇ…?」
戦士族のデッキを見てみると、そのレシピは元の世界の昔のストラクチャーデッキにも負けず劣らずに酷い内容だった。“ギルフォード・ザ・ライトニング”“切り込み隊長”“荒野の女戦士”はいいとして“オシロ・ヒーロー”“コピックス”といった取り敢えず入れたみたいなカードに“ジュッテ・ナイト”もシンクロがギミックに無いのになんで入ってるのか分からない。デッキパーツとしてはいいかもしれないけどストラクチャーデッキどころの話じゃない。
「パックの方がまだマシかも…」
「どうして?このデッキとかよさそうじゃない」
そういって母さんが手に取ったのは植物族。“ローン・ファイア・ブロッサム”や“にん人”“イービル・ソーン”もいいカードだけど
「“ダンディ・ライオン”は禁止カードだよ母さん」
「え?じゃあなんで入ってるの?」
「多分このデッキが発売する時にはまだ使えたんだよ。その後に禁止になったけどその前に生産されたこれはそのまま残ってるって訳」
これは元の世界でもあった。バルブやトーチもリンクに使えたから採録されてたけど後にしっかり禁止になったなクソッタレ。
「取り敢えず今日はディスクとスリーブとパック買って帰ろう。それから考えるさ」
「そう?…ならいいけど」
デュエルディスクは25000円、スリーブも700円と案外安い。十万くらい覚悟してたけどそんな事はなかった。スリーブはもっと欲しかったけど小遣い貯めてコンプリートするんだ…!
「よし、デッキ確認やるか」
家に帰ってから自室に籠って俺は送られてきたデッキを見つけた。部屋に身に覚えのない物があるってなったら家族も怪しむだろうから見つからないような場所にあったのは女神様ナイス判断。数が数だったからかストレージ二つに分かれている。
「青眼、ジャンド、ブラマジ、三幻魔、三幻神、BF、ドラグニティ、シャドール、リンク…全部あるな」
二十数個あるデッキはサイド含めて全て入っていた。スリーブは適応して無かったから外されているけどそれはすぐ買い直す。取り敢えず買ったスリーブにデッキを入れていこう。
「しかしここはここで金使いが荒くなるな。間違いなく足りねえって」
シングルカードなんてバイトしたって難しい。ストレージとかワゴンで売られてるのはまだしもショーケースのカードはどれも三千円以上した。ファイルもあったけどそっちは十万するカードが当たり前のようにコピー品で表示されてる。盗難防止の力の入れようが元の世界の比じゃない。スリーブはスリーブで数が多いからその時にどれを買うかすら迷う。
「よし、入れ終わった。んんっ…寝よう」
カードショップで興奮し過ぎたせいか眠い。カード確認だけでも二時間かかってた。明日は学校あるっぽいし早めに…ん?
「勝俊、少し…いいかしら?」
「母さん、改まってどうしたの?」
「ええ、勝俊
転校、したい?」
母さんの口から出たのは意外なものだった。今日は罪悪感とかが作用して色々買ってくれたんだろうけど兄貴の方を優先して考えると思ったけど…
「お父さんがね、神奈川に転勤するの。それに付いて行ったらどうかなって」
ああ成程ね。父さんの転勤は元の世界では無かったけどこっちとの差異ってやつだ。そしてそのついでに俺も消えろと。
「いいよ。いつから?」
「一週間後よ。ごめんなさいね、急で」
「本当だよ。まあ友達もいないし別れを言う相手もいないしね」
「え?陽菜ちゃんはいいの?」
その名前を聞くと共に俺の表情が消えるのが分かった。園田陽菜は俺の幼馴染で家族ぐるみで付き合いがある。元の世界でも変わらず、死ぬ直前だった高校時代にもそれは変わらなかった。
でもこっちでは違う。
幼馴染は変わらないけど俺の優しさが仇になったのか三年からいじめが始まった。陽菜は篠田剛と虎依哲平を中心としたいじめグループで俺を袋叩きにしてカードを奪ってきた。正直こっちの陽菜と仲よくしろと言われてもまず間違いなく殴りかかる。絶対ぶん殴る。
「大丈夫だよ。向こうだって俺とつるむ気ないって」
「でも…昔から一緒だったのに」
「昔とは違うって事だよ。一週間ね、準備しとかなきゃ」
「あ、そうだったわ。これ来てたわよ」
そういって母さんが差し出したのは一枚のはがきだった。内容は
「デュエルフェス?」
「今年は絶対行くんだーって言ってたもんね。一週間後だし、引っ越しが終わったら行けるようになるわよ」
「おぉ、楽しみが出来たな」
「……」
母さんがどこか物憂げに見てくるけど気にしない。そのまま母さんも部屋を出たから俺も歯を磨いて床に就いた。
目が覚め、自分の部屋にいる事が俺が転生したんだと認識させられる。でもこれからはデュエルが楽しめるんだ。ワクワクするぜ!着替えて通学用の鞄にデュエルディスクとデッキと勉強道具を入れ、リビングに向かう。母さんが朝食を作り終えていた。といってもパンと目玉焼きだが。
「おはよう勝俊。大和はもう出たわよ」
「おはよう。まあ朝練あるんだしね。俺は関係ありませんよっと、いただきます」
手早く食べ終え鞄を持って玄関に向かう。靴を履いて扉を開ける。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃーい」
学校の道は俺も良く知る坂道だ。街並みもデュエルに関するものを除けば何も変わらない。そして
「おいおい、こんな所にクズがあるぜ!誰だよクズを勝手に捨てた奴はよぉ!!」
馬鹿でかい声も相変わらずだ。とはいってもこっちの俺にとって変わらないんだが。
「言ってやるなよ剛、こいつは自分が主人公だって信じてるんだからアッハッハッハ!!」
「それもそうだな!主人公は最初クズだったりするのが多いもんな!まあこいつはクズのまま死ぬけど!」
自分が差別主義者だって公に言える胆力すげえな。脳みそ馬バエに犯されてんのか。後ろなんて向かなくても分かる。篠田と虎依、そして陽菜だろう。まるでのび太の気分だ。
「おい、無視してんじゃねえよ。また買って貰ったんだろ?よこせ」
「……は?」
会って早々に乞食とか親が泣くな。まあ親も親で物乞いしろって教えてるんだろうけど
「は?じゃねえよ。友達料だよ。カード四十枚早くよこせ」
「俺の分も忘れるなよ!」
篠田に便乗するように虎依もたかりに来る。だが当然
「お断りだ」
「な!?」
「寧ろ聞くが、お前達は自分でカードを手に入れる考えが無いのか?お前達の両親は今回の件を知ってるのか?それを知ってるんだとしたらなんで同じ事をやろうと考えられるんだろうな。ああ、お前達の両親も揃って乞食なのか」
「ああ!ふざけんじゃねえ!こうなったらデュエルだ。俺が勝ったらお前のカードを全部貰うぞ!」
「いいだろう!しかしお前が負けたら今までの清算をしてもらう!」
「「デュエル!!」」
睦月勝俊
LP4000
VS
篠田剛
LP4000
俺がこの世界で驚いたのは、小学生まではライフが4000で進んで中学以降は8000になる。つまりより早くデュエルの決着が付くんだ。
「俺のターン!俺は“Y-ドラゴン・ヘッド”を召喚!ターンエンドだ」
「は?」
バック無しに棒立ち1体?小学生だとしてももう少しマシなやつあるだろ。
「なんだ?ビビったのか?お前のカードはクズばかりだもんな!」
「お前馬鹿にしてんのか?バックも無しによく威勢よくできたもんだ」
「なんだと!? お前みたいなクズが俺のたくあんを馬鹿に出来るのかよ!」
「沢庵じゃなくてタクティクスだ脳無し。ライフ4000を精々大事にするべきだったな。俺のターン、手札の“
磁石の戦士マグネット・バルキリオン
ATK3500/DEF3850
「攻撃力…3500!?」
「マグネット・バルキリオンの効果発動。自身をリリースして墓地のα、β、γを特殊召喚する」
「はぁ?こいつ馬鹿だぜ。折角のモンスターを墓地に送ってやがる!俺の方が有効活用出来るんだから俺が使うべきなんだよ!」
「残念だがお前じゃ無理だ。俺以上に俺のデッキを理解していないやつはいないってな。速攻魔法“マグネット・リバース”発動!墓地または除外されている特殊召喚出来ないモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚出来る。マグネット・バルキリオン!」
「そ、そんな…」
「温いデュエルだ。バトル!βでY-ドラゴン・ヘッドを攻撃!」
篠田剛
LP4000→3800
「続いてαのダイレクトアタック!」
LP3800→2400
「お、俺の…俺の最強デッキが…」
「こんなので最強なんてな。最強って言葉を辞書で調べ直してこい。マグネット・バルキリオンで攻撃!マグネット・ソード!!」
LP2400→0
「うあああああああ!!」
「お前に、デュエリストを名乗る資格は無い!!」
作者の脳内垂れ流しだから何でも許せる人向け(遅い)