キリトとソーマの神隠し   作:かんぱにい

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1話 SAO組

本編

 

「アスナ、ごめん!」

「だ、大丈夫だよキリト君!別に怒ってないから」

 

中庭でいつもなら昼食を摂っている時間、不意に彼ー桐ヶ谷和人は膝と手を地に付け、頭を下げた。

いわゆる土下座というものである。

土下座された方ー結城明日奈は困惑していた。

 

「……ほんとに怒ってない?」

「怒ってないってば。だって来週の日曜日でしょ?早いうちに言ってくれたんだから文句は言わないよ」

「……デートの予定が入ってたけど……?」

「うーん。それじゃあ再来週にしようか」

「ありがとう、アスナ!」

 

週明けの月曜日から、一体何の話をしているかというと、前日の日曜日にさかのぼる。

 

 

 

〜prr、prr、prr〜

 

「もしもし、桐ヶ谷です」

 

珍しく、ALOに潜らず、家で課題を終わらせていると、滅多に掛かって来ない家の電話が鳴った。

妹の直葉は部活、母の翠も仕事で家に居なかったため、必然的に自分が出ることになった。

 

一体誰が掛けてきたのか疑問に思いながら返事をすると、見知った(聞き知った)声が聞こえてきた。

 

「もしもしキリト君。元気かい?」

 

俺のことをキリト君と呼ぶ人は2人しかいない。

彼女であるアスナともう1人。

 

「何の用ですか、菊岡さん」

 

元総務省役員、菊岡誠二郎だ。

 

「わざわざ家の電話に掛けてくるのやめてもらえますか?俺以外が出たらどうするつもりだったんです?」

「いやぁ、悪いね。でも僕のことは君の家族みんな知ってると思うけどね」

「……用がないなら切りますよ」

「ちょ、ちょっと待って。話す、話すから!」

「それで?何の話ですか」

「実はね……やっぱりいつものとこで話そうかな?」

 

こう言って電話を切られた。

よし、決めた。

今度クリスハイト1人でボスのタゲ取らせよう。

 

幸い課題はあと少しで終わる。

なら行っても大丈夫だろう。

 

「ユイ、いるか?」

「はい、パパ」

「明日奈たちに菊岡さんに会ってくるって伝えておいてくれ」

「了解です!事故に合わないように気を付けてくださいね!」

「ああ。あと直葉に鍵しまってるってメール送ってくれ」

「わかりました!」

 

 

 

「やぁ、すまないね。急に呼び出して」

「悪いと思ってるなら二度とやるなよ」

「もちろん、わかっているさ」

 

この人のことだ。

どうせまたこういうことがあるんだろう。

 

「で?結局話ってのはなんだよ」

「まあ落ち着いて……。君は『遠月茶寮料理學園』って知っているかい?」

「『遠月茶寮料理學園』?確か、凄い優秀な料理人を育成する所だろ?それがどうかしたのか?」

 

自分に関係あるとは到底思えない話だ。

 

「そこの学生たちが研究発表をするんだ。君も来ないかい?」

「……それじゃあ帰ります。さよなら」

 

何の話かと思えば、料理の話か。

確かに美味いものは好きだが、研究を聞きたいわけじゃない。

 

「……キリト君自身には関係ないが、ユイ君やアリス君に関係あると僕は考えているんだがね」

「なんだって!」

 

言ってから口をつぐむ。

流石にここで大声を出すのは不味い。

席についてもう一度話を聞く。

 

「……料理がどう2人に関係あるんだ」

「彼女たちは将来、いや、もう1人は既に現実世界に来ている。ユイ君もこの世界を見ることくらいはできるだろう?」

「それがどうした」

 

ユイやアリスは人間に限りなく近いAI、人工知能だ。

将来……現実世界……人工知能……。

 

「……義体、か?」

「その通り。話が早くて助かるよ」

「視覚や聴覚はもうできている。残りは味覚と嗅覚、あと触覚だけど……、料理ってことは」

「前二つだよ。そのスペシャリストがいるんだ」

「なるほど……いつその研究発表があるんだ?」

「ちょうど二週間後の今日だよ」

 

確か……その日はアスナとデートだったはず。

 

「持ち帰って考えていいか?」

「いや、今ここで決めてくれ」

「うーん……。わかった。参加する」

「ふぅ、良かった。あ、あと研究発表でびっくりするようなことがあるから」

「そりゃそうだろ。知らないことを知るんだから」

「いや、そういうことじゃなくてね……」

「?」

「まあいいか。それじゃあね。はいこれ」

「なんだよ、これ」

「ここのケーキだよ。家族によろしくね」

 

せっかく良い話で終わったのに、最後の最後にイラッとさせることを……!

やっぱり食えない人だ。

 

 

 

「ただいま」

「おかえりー、お兄ちゃん。もう、出かけるなら先に言ってよね」

「悪い、スグ。急用でな。代わりにこれ」

 

菊岡さんにもらったケーキは、ご機嫌取りに使わせてもらおう。

 

「うわぁ、ケーキだ!ありがとうお兄ちゃん」

「おう」

 

 

 

「こんにちは、キリト君」

「よう、アスナ」

「菊岡さんの所に行ってくるって言ってたけど、何の話をしてきたの?」

「実はーー」

 

昨日菊岡さんに言われたことと、デートに行けないこと、そして勝手に決めてしまったことを伝えた。

土下座で。

そして冒頭に戻る。

 

「アスナ、ごめん!」

「だ、大丈夫だよキリト君!別に怒ってないから」

「……ほんとに怒ってない?」

「怒ってないってば。だって来週の日曜日でしょ?早いうちに言ってくれたんだから文句は言わないよ」

「……デートの予定が入ってたけど……?」

「うーん。それじゃあ再来週にしようか」

「ありがとう、アスナ!」

 

 

学食組視点

 

「おいっ、桐ヶ谷が姫に謝ってるぞ!」

「なんだって!俺にも見せろ!」

 

篠崎里香が食堂に着くとそこは荒れていた。

 

「何よ、これ……」

 

いつもなら窓際は空いており、余裕で席を確保できるのだが、今日に限っては空いていなかったのだ。

誰かが座っているわけではない。

人が密集して座れないのだ。

 

「リズさん!いい所に!」

 

唖然としていると、綾野珪子、通称シリカがやって来た。

 

「シリカ!これ、何があったのよ」

「私もよくわかっていませんが、キリトさんが土下座しているみたいです」

「キリトが土下座ぁ?アイツ、一体何やらかしたのよ!シリカ、見てないの?」

「無理ですよ!こんな壁みたいに男子が集まってたら」

「仕方ないわねぇ。男子、邪魔よ!どきなさい!」

 

無理やりにも男子に道を開けさせる。

 

「今告白したら俺ワンチャンあんじゃね?」

「バカ言うな。姫と付き合うのは俺だ!」

「ああもう、うるさいわね!」

 

中庭を覗いてみると、確かにキリトは土下座していた。

だが、されている方のアスナは、困惑というか、焦燥というか、怒ってはいない顔をしていた。

 

「ああ、なるほどね。多分デートの日とかにどうしても外せない用事が入ったとかそういう所ね」

 

流石に2人とは長い付き合いなだけはある。

推理が完全に一致している。

 

「大丈夫でしょうか……」

「心配する事ないわよ。もうすぐ男子もガッカリしていなくなるわ」

 

 

 

午後の授業では、明らかに気の抜けた男子生徒が大量発生したという。

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