「ちょっと、幸平君聞いているの?」
「あ、ごめん聞いてなかったわ」
「ずっとヘラヘラ笑って……!」
ここは十傑の執務室。
今は仕事中である。
にも関わらず、仕事をせずフラフラしていたのは十傑評議会第一席、幸平創真である。
対して説教していたのは、遠月総帥、薙切えりなである。
「全く、あなたは自分が第一席ってことを理解しているのかしら!?」
「?だから食戟やってんだろ?」
「それが私たちの仕事を増やすことになるのよ?」
「わかってるよ」
「わかってないでしょう!まだ火曜日なのに幸平君が関わった食戟が七つもあるのよ!」
「な、薙切さん落ち着いて……」
2人の仲裁に入ったのは第十席、田所恵。
評議会のうち、数少ない常識人だ。
「ありがとう田所さん。少し落ち着いたわ」
「そうそうえりな、落ち着いてよ」
打って変わって、こちらは[[rb:白髪 > はくはつ]]と赤い目が特徴の薙切アリス。
第六席で、薙切えりなの従姉妹だ。
「あのねぇ、ちゃんと仕事しているから言わないけれど、あなたも幸平君と同類よ?」
「どうしてかしら?」
「幸平君の次の食戟の相手があなただからよ」
そう言って書類を渡した。
書類には
月曜日
幸平創真 VS タクミ・アルディーニ
幸平創真 VS 葉山アキラ
幸平創真 VS 美作昴
幸平創真 VS 黒木場リョウ
火曜日
幸平創真 VS 久我照紀
幸平創真 VS 岳樺拳
幸平創真 VS 叡山枝津也
予定
幸平創真 VS 薙切アリス
十傑メンバーが誰も幸平創真を咎めないのは、その一端が自分にもあるからである。
先程から一切話していない。
その分仕事はかなり頑張っているようだが。
「食戟をするなとは言わないけれど、その分仕事をしてくれないかしら?」
「わーってるよ。で?何すればいいんだ?」
全くと言っていいほど仕事をしないため、何をすればいいのかわかっていない創真であった。
〜コンコン、ガチャ〜
「えりな様、少しよろしいですか?」
「緋紗子!よく来たわね」
「おお〜、秘書子じゃねえか」
薙切えりなを様付けで呼ぶこの少女は、新戸秘書子……ではなく新戸緋紗子である。
総帥薙切えりなの秘書だ。
「秘書子って呼ぶな!……失礼。えりな様に総帥としての依頼があります」
「依頼?仕事ではなく?……まあいいわ。幸平君はちゃんと仕事していてね」
「ウス」
「あ、あの、えりな様。出来れば十傑の方がいた方が……」
「そう?では皆さん、会議室に移動してください」
「それで、依頼とは?」
「はい。『ラース』から、義体のために味覚と嗅覚についての研究発表をしてほしい、良ければ料理人もそちらで準備してほしい、とのことです」
「『ラース』ってあのラースかい?」
話に食いついたのは、第二席、一色慧。
寮での裸エプロンという奇行を除けば、最も優秀な人物である。
「一色、知ってるの?」
変わってこちら、第九席、紀ノ国寧々。
本人は否定しているがこの2人は幼馴染らしい。
「ああ、こう聞けばわかるかな。『人工知能アリス』」
「「「「ああ〜!」」」」
「アリス?そこにいるだろ?」
「お嬢のことじゃねえよ」
薙切アリスをお嬢と呼ぶ気だるげなこの青年は、黒木場リョウその人である。
ちなみに第五席だ。
新戸緋紗子と同じ立場だが、対局な状態にいる。
料理中には二重人格かと言うくらい性格が変わる。
「味覚はともかく、嗅覚の研究発表なら俺に任せろ。というか、俺以外無理だろ」
褐色の肌のこの青年、葉山アキラは自信があると言わんばかりにそう言い放った。。
ただ、事実に基づいたことなので誰も文句は言わない。
第四席である。
「では、研究発表はアリスと葉山君に任せる、ということで異論はありませんね。2人とも、よろしくお願いしますね」
「はぁーい」
「ああ、わかった」
「にしてもよー。なんでぎ、ぎたい?ってなんだ?」
「そこからか、幸平……」
今ため息をついた第七席タクミ・アルディーニは、自他ともに認める幸平創真のライバルである。
同じ定食屋出身ということで、気が合うこともしばしば。
「じゃあ、義足って知ってるか?」
「足ないやつに付ける、足っぽいやつだろ?」
「ああ、義手も知ってるな?」
「ああ」
「それが体全部ってことだ」
「でも、どうやって動かすんだよ?」
「そこは機械だろ」
「へえー」
「ほんとに理解しているのか……?」
「それでは、お客様に料理を出す人を決めましょうか」
「じゃあ俺はパス。金になりそうじゃねえからな」
遠月において最も稼いだ生徒、第八席叡山枝津也。
話を聞けばわかるように、金になりそうじゃないことはしない。
「ボクちんもパスかな〜。そーゆーとこに中華料理って似合わないっしょ?」
ボクちんなんて言ってはいるが、実際第三席のこの男、久我照紀の一人称は『俺』である。
「私も総帥だから、行くことは出来ないわ」
「残りは俺、タクミ、一色先輩、寧々先輩、黒木場、田所か……」
「俺の意見だが、黒木場は行かない方がいいと思うぞ」
葉山が唐突に話し始めた。
「どうしてだ?別に問題はないと思うが……」
「料理中のコイツを思い出してみろ、あんなの一般人に見せられるか。料理中の様子を見せないとしても、遠月から来たやつの紹介とか、こんな気だるげなまま表に出せねえよ」
「そっすね。俺も遠慮しときます」
すると今度は、一色が手を挙げた。
「どうしました?一色先輩」
「僕の意見なんだけど、幸平君がいいと思うんだ」
「俺っすか?」
「ああ。BLUEっていうのは別に料理界だけに影響を及ぼすだけじゃない。ノワールみたいに裏世界にさえ繋がりがあるんだ。準優勝した幸平君なら申し分ないんじゃないかな」
「なるほど……。他の人も幸平君があちらへ向かう、ということでよろしいでしょうか」
「私は構いません」
「わ、私も創真君がいいと思う!」
「ふむ、仕方ない。今回ばかりは幸平に譲ってやろう」
「では、依頼を受けるのは薙切アリス、葉山アキラ、幸平創真の三名ということで。緋紗子、そのように伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
「じゃあ、研究データ仕上げてくる」
「私もまとめてくるわ♪リョウ君、行くわよ!」
「ウス」
「さて、そういう場所では何作ればいいんだ?」
「それを俺に聞くなよ。司先輩にでも聞けばいいんじゃないか?」
「でも、確か司先輩、BLUEの後竜胆先輩とアマゾンにピラルクー取りに行くっつってた」
「じゃあダメか……」
「ちょっと幸平君、自分のお父さんのことを忘れていないかしら」
「あ、そっか!親父がいた!」
「「大丈夫か(かしら)、この男は……」」
「もしもし親父?実はーー」
「うし、いろいろと教えてもらったぞ。タクミ!料理の仕上げ手伝え!」
「望むところだ、幸平!」
「あ、ちょっと2人とも!……はあ、先に1ヶ月後ってことを伝えておけばよかったわ……」
「十傑の半分が準備にかかりきりになっているというのに、仕事の量がほとんど変わっていないというのは、どういうことかしら……」
「そりゃあ、幸平チンたちの食戟の申し込みが減ったからっしょ」
「俺らに食戟を申し込むバカなんて普通はいねえんだよ」
「確かに、幸平君が誰とでも食戟するって言ってから食戟がかなり増えたね」
「……もう仕事だけして表に出ない十一席を作ったらどうですか?」
「……少しいいと思ってしまったわ。でもそういうわけにはいかないわ」
「薙切さん、私が創真君たちの分まで頑張るから!」
「ありがとう田所さん」
「えへへ……」