キリトとソーマの神隠し   作:かんぱにい

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3話 研究発表 其之壱

 

キリト視点

 

研究発表当日。

こちらは研究発表を聞くだけとはいえ、なかなか緊張するものがある。

こういう格式張った場所での正装とか全くもって知らなかった。

まあ学生だから制服で良かったんだけど、スーツの中に1人だけそれじゃあ目立ちまくりに決まっている。

 

昨日は敢えて午前中からALOにダイブしてモンスターを狩りまくって、いつもの暖炉の前の揺り椅子で寝落ちした。

あそこはなぜかいつも眠くなる。

だから寝るにはピッタリなのだ。

 

家に一番近い駅で待ち合わせと言われ、川越駅で待っていると、黒塗りの高級車がやって来た。

まさかな……、と思っていると、運転席から現れたのは、

 

「やあキリト君。待たせたね」

「菊岡さん……こういうとこではそう呼ばないでください。そして目立つんでそういう車はやめて欲しかったんですけど」

「悪いね。でも他のお偉いさん方がたくさん来るんだ。舐められるわけにはいかないからね」

 

コイツ、『悪いね。でも〜』ってしか言わねえのかよ。

 

「舐められたらって、アンタの名前出したらダメだろ」

「そこは偽名を使うさ。ほら」

 

そう言われ、手渡されたのは名刺。

そこには、『菊田誠二』の文字。

 

「あっちでは僕のことは『菊田』と呼んでくれ」

「ほとんど変わってないだろ……」

「いきなり僕を『川原』なんて呼べるかい?」

「……無理だな」

「だからさ、似た名前にしたのは」

 

相変わらずよく分かららない人だ。

思考も性格も。

 

「さて、キリ……ヶ谷君。行こうか」

 

やはり似た名前であった方がいいらしい。

今の反応を見てそう思った。

 

 

 

「ちなみに菊岡さん、どこでその発表があるんですか?」

「……」

「……菊田さん、どこでその発表があるんですか」

 

早速実行しろってか。

 

「さほど遠くはないよ。研究成果を見せて欲しいと頼んだのはラースだからね」

「初耳なんだが」

「言ってないからね」

「で、他のお偉いさんってのは、どこの人が来るんだ?」

「そうだね、君に関係あるとすれば、レクトかな?」

「なっ!彰三さんも来るんですか?」

「ああ、もちろん彼だけではないけどね。他にも何社か」

「そういうことは先に言ってくださいよ……」

「いやぁ、あそこでキリト君を誘ったあとに決まったからね」

 

この男はやはり苦手だ。

その後、しばらく質問しては話し、質問されてはそれを返すという、なかなか気まずい空気が広がった。

 

「さて、桐ヶ谷君、着いたよ」

「ここで発表を聞けるのか……」

 

かなり大きな建物に着くと、思わずこんな声を漏らした。

 

「菊田君、少し遅いわよ」

「いやぁ、すまないねぇ。桐ヶ谷君と話してたらつい」

「凛子さん!」

「久しぶりね、桐ヶ谷君。アスナさんたちとアンダーワールドにダイブして以来かしら」

 

この女性はラース最高責任者、神代凛子だ。

もとは菊岡誠二郎がトップだったのだが、ラース襲撃事件の際、『菊岡誠二郎』という男は死んでしまったため、責任権を移されている。

 

「今日は比嘉さんは来てないんですか?」

「比嘉君は、『そういうところに僕みたいなやつは似合わない』からって。全く、アリスの調整をするのは彼なのに……」

「あはは……」

「今日はアリスも来ているから、私がいないときはよろしく頼むわね」

「はい。……えっ!?初耳ですよ!」

「……菊田君に伝えるように言ったはずなのだけど……。まさかあなた、彼に伝えていないの?」

「つい、ね」

 

あの話の後、実際にこの男にボスのタゲ取らせてHPギリギリまで追い込んだが、まだ懲りていなかったようだ。

次はソードスキルの練習台になってもらおうか。

これくらいならユイにも怒られないだろう。

 

「はぁ。流石にもう伝えていないことはないわよね?」

「僕が覚えてる限りではないね」

「これが重要な話だったらどうするつもりよ」

「そのときはそのときさ」

 

「それで、アリスは今どこにいるんですか?」

「まだ車の中にいるわ。ほら」

「……久しぶりですね。キリト」

「ALOでは昨日も会ったけどな。あと出来れば桐ヶ谷って呼んでくれ」

「なぜ?」

「なぜって、ルールというか、モラルというか……」

「まあいいでしょう。キリガヤ・カズト。これでいいですね?」

「はい……」

 

何か怒らせるようなことをしただろうか……。

昨日は早いうちに、ソロプレイすると伝えたはずだが。

 

「アリス君、何か気に障ることでもあったかい?」

「なっ!きくお

「あなたたちが遅いからです!一体どれほど待たせれば気がすむのですか!」

 

堂々と地雷を踏み抜いていく菊岡。

高級官僚だからって、流石にそれじゃあモテないだろう。

そういえばもう官僚じゃないんだったか。

 

「3人とも、行きますよ」

「「はい」」

 

 

 

「本日、会場にお越しくださいましたのは、遠月茶寮料理学校、十傑第六席、薙切アリス様。同じく十傑第四席、葉山アキラ様。そして、料理を担当していただくのは、遠月十傑第一席、そしてBLUE準優勝の幸平創真様です」

 

「キリ……カズト。遠月十傑とはなんですか?」

「ああ、まず遠月茶寮料理学校って言う、世界でも有名な料理人を育成する学校があるんだ」

「そんなに有名なのですか?」

「俺でも知ってるくらいだからな」

「それで、十傑とは?」

「その遠月でトップ10に入る料理人だな。ただ、今は一番の人が総帥だから、実質2位から11位までってことだと思う」

「よくそのようなことを知ってますね。カズト」

「いや、アスナに教えてもらっただけだよ」

「……そうですか」

 

やっべ、これは不味かったか。

仕方ない、話題を変えるか。

 

「そして、BLUEってのは、確か『Bishoku・Leading・Under35・Entrance』だったかな?」

「桐ヶ谷君の言う通りよ。35歳以下の若手料理人が世界中から集まって戦うの。でも、今年のBLUEはかなり荒れたらしいわ」

「神代博士……私はどんなに美味しい料理でもまだ食べることは出来ないんですよ……」

「あ、ごめんなさい……」

「構いません。そこの気が利かない男よりはずっとマシです」

「わ、悪かったよ……」

「フン!」

「おや、桐ヶ谷君。アリス君を怒らせてしまったようだね」

「不機嫌になったのはあんたのせいだろ……」

 

自分のことを棚に上げておいて、よくもまあそんなことを言えるものだ。

 

「何か言いたげな顔をしているけど、君が来ないと知っていたら、アリス君は不機嫌にはならなかったと思うよ」

「ハイハイそうですか」

「パパ!浮気はダメですよ!」

「ユイ!ここでは静かにしてくれ!」

 

胸ポケットに入れたスマホから、愛娘が小声で叫ぶ。

だがこの場で声を出されたり、パパ呼ばわりは少し、いやかなり不味い。

背景を知らない人には確実に白い目で見られる。

 

「別に問題はないわよ」

「凛子さんまで……」

「そういうことではなくて、桐ヶ谷君、今日オーグマーは持ってきてるかしら」

「ええ、出かける時はいつも」

「そう。流石にこのことは菊田君に伝えてもらえたようね」

「……凛子さん、俺、一言も言われてません。オーグマー持って来いなんて」

「……桐ヶ谷君。アリスを連れて先に研究発表を見てきてくれないかしら」

「は、はい!」

 

キリトは教訓として改めて、女性を怒らせてはいけないことを学んだ。

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