さかのぼること1日。
発表メンバー一行は、準備を終え、関東へ向かおうとしていた。
だが……
「おい幸平!いつまで料理してるつもりだ!手伝うとは言ったが、流石に徹夜するとは思わなかったぞ!」
「いや〜、親父の言う通り作ってみたけどよ〜、ほんとにこれでいいのかわかんねえじゃん?」
「タクミもずっと仕上げに付き合ってんじゃねえよ。やるとしてもせめて昨日までにしとけよ……」
「もう、幸平君!私、あっちで観光したいのだけど!早くしてよね。ねええりな、リョウ君やっぱり連れてっちゃダメ?」
「アリス……。観光するためにあっちに行くわけではないのよ?」
「今回は俺、行かないって言ったでしょう。お嬢」
「えりなったら、堅いこと言わないの!」
「そ、創真君!早く行って『ゆきひら』に風を通してきたらどうかな?」
「おっ、それもそうだな!少し待ってろ!」
田所の一言に我に返る幸平。
このとき、この場にいる全員が心の中で
「「「「「よくやった!」」」」」
と叫んだのは言うまでもない。
「それじゃあ行ってくるわ!」
「お土産期待しててね♪」
「おいお前ら、ただでさえ待たせてるんだ。とっとと行くぞ」
「「「「行ってらっしゃーい!」」」」
声を揃えて送り出したのは、極星寮女子メンバー、田所恵、吉野悠姫、榊涼子の三名に、タクミ・アルディーニの弟イサミ・アルディーニ。
女子に混ざっていても気にしてはならない。
「おい幸平、帰ってきたら俺と食戟しろ!」
「違う、次は俺だ。アルディーニ兄ぃ」
「なんだと!」
「アイツら仲良いなぁ」
「本当にそう見えるなら眼科言った方がいいぞ、幸平」
乗り込んだ車の中では、会話が弾んでいた。
「もう、リョウ君を連れて来られないなんて……。せっかく観光しようと思ったのに。葉山君」
「断る」
「何も言ってないでしょ!」
「どうせ黒木場の代わりに荷物持ちになれって言うんだろ?」
「違うわよ!一緒に回ろうって思ったのよ!」
「荷物持ちはしないからな」
「おっ、あれ見ろよ!」
外を見ると、極星寮男子、丸井善二、伊武崎峻、青木大吾、佐藤昭二が横断幕を掲げていた。
「アイツら、いないと思ったら、こんなとこにいたのか!」
そう、まだここ、遠月の敷地内である。
集合場所は薙切家の屋敷のそばだったのだが、未だに正門が見えないあたり、どれだけこの学校が広いのかがわかるだろう。
閑話休題それはともかく。
「しっかし、一色先輩たちが見送りに来れないってのは、残念だったな」
「あのねぇ、幸平君。私たちは研究のデータがまとまったあとは、十傑の仕事もちゃんとやってたのよ?」
「それに幸平、お前やアルディーニに申し込まれるはずの食戟が、俺たちに向かって来たんだぞ。少しは回数減らせよ」
今日、叡山枝津也を除いた十傑3年生は直前に入った食戟の審査員として、そちらを優先している。
そのため見送りに来ることが出来なかったのだ。
「相変わらず騒がしいね、君たちは」
唐突に運転手が話しかけてきた。
車内にいる三名それぞれと何かしら関わりがあるこの男。
「薊おじ様!」
「中村先輩!」
薙切えりなの父親にして前遠月総帥、薙切薊である。
「今日は薙切家お抱えの運転手じゃないんですね」
「今回は料理界ではなく別のところにパイプを作れるからね。無理を言って変わってもらったよ」
「「へぇ〜。薊おじ様ったら(中村先輩って)暇なのね(なんすね)」」
思わず苦笑いする葉山と薊。
車内は翌日に会場へ向かうはずの、別の学生を乗せた車とはうって変わり、和気あいあいと話が弾んでいた。
「ふぅー。ようやく着いたな」
「流石にずっと座ってると体が痛いな……」
薙切家の持つ車とはいえ、ずっと座っているままというのはなかなかくるものがある。
「とりあえず、荷物をホテルに預けてこようか」
「それが終わったら回ってきてもいいかしら?」
「ああ、構わないよ。どうせなら、僕も着いて行こうか」
「はぁ、助かった……」
「ほんとに?ありがと、薊おじ様!」
「おい葉山ぁ!何してんだ!早く行こうぜ!」
ホテルとはもちろん、薙切家所有のものである。
そこで別れた4人は、それぞれ思い思いに時間を過ごした。
翌日。
準備のために他の人よりも早めに会場へと到着した遠月一行。
準備とは言ってもマイクやプロジェクターなどの動作確認程度だ。
そう思っていたのだが……
「本日はようこそお越しくださいました。早速ですが、こちらを装着してください」
「なんすか、これ?イヤホン?」
「これは見たことねえな……」
なんだかんだ最新技術に触れている葉山でも、これは見たことがないらしい。
「そちらはオーグマーです。ご存知ありませんか?」
「ふむ、聞いたことがあります。確か、s
「確か重村徹大って人が開発したデバイスよね!」
「え、ええ。その通りです。会場の皆様がオーグマーを使用する予定ですので、使い方を覚えていただければ、と」
ただプレゼンを見るだけなら簡単なのですが、と続ける役員。
「よかったな、幸平。
「まぁそうだな。耳に引っ掛けりゃいいのか?」
「はい。わかりました。そのようにお伝えします。……皆様、会場の準備が完了しましたので、開会式を執り行います。名前が呼ばれましたら、ステージに登ってください」
「それじゃあみんな、あとは私は一般席で見ているから、頑張ってくれたまえ。アリス君、葉山君。素晴らしい発表を期待しているよ。幸平君。私の舌をうならせる料理を出してみなさい」
「ちゃんと見ててね、薊おじ様♪」
「はい、頑張ってきます」
「この会場の全員に、うまいって言わせてみせますよ!」
「本日、会場にお越しくださいましたのは、遠月茶寮料理學園、十傑第六席、薙切アリス様。同じく十傑第四席、葉山アキラ様。そして、料理を担当していただくのは、遠月十傑第一席、そしてBLUE準優勝の幸平創真様です」
「自分の名前を様付けで呼ばれるって、なんだかくすぐったいわね」
「葉山アキラ様だってよ」
「笑うな、幸平。お前も俺と同じようなもんだろ。……それより、後ろの方に、俺らと同じくらいの学生いなかったか?」
「学生……?あ、いたわね、2人」
「へぇ〜、学生も自由に参加できるんだな」
「いや、ここの大人の誰かとコネがないと来れないだろ。そもそもこの研究発表すら知らない可能性もあるな」
「えっと……?よくわかんねえや」
「幸平君に同意を求めても無駄じゃないかしら?」
「確かにそうだな」
「それじゃあまずは俺の番だな」
「行ってこい、葉山!」
「噛まないようにね~」
「余計なお世話だ」
「それでは葉山アキラ様。発表の方をお願いします」
「皆様、本日は私たちの研究発表を聞きにきていただき、ありがとうございます。それではまず…………」
「……ということがわかっております。この研究成果を別の分野に生かしてもらえるとありがたいです。これで私の研究発表を終わりにしたいと思います。ご静聴、ありがとうございました」
「葉山様、ありがとうございました。皆様、葉山様に大きな拍手をお願いします」
~パチパチパチパチ~
「やるわね、葉山君。私はもっともーっと大きい拍手もらえるようにするんだから。見てなさい!」
「フン、やれるもんならな」
「続いて、薙切アリス様の発表になります。どうぞ、ご覧ください」
「皆様、こんにちは!私は味覚の研究をしています。研究を重ねた上で…………」
「……ですので、まだまだわかっていないこともありますが、それを更に解明していきたいと思っています。ありがとうございました!」
「薙切様、ありがとうございました大きな拍手をお願いします。そして、研究発表をしてくださったお二人に、もう一度、大きな拍手をお願いします」
~パチパチパチパチ~
「素晴らしい発表だったね。2人とも、お疲れ様」
「あれ、幸平君はどこ?」
「幸平君なら調理に入ったよ。この人数の分を調理するからね」
「でも、1年生のときの試験の朝食メニュー作りを見てると、とても忙しいとは思えないわね」
「確か30分で200人分だったか?BLUEの前の試験といい、腐っても定食屋だな」