常盤台の雷撃王子   作:天駆ける丼

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黒子ちゃんがおこのようです。


『合否』

「ど、どうしてですの!?」

 

 

電話に応答していた白井が、突然声を上げる。河川敷に少女特有の高い声が響き渡った。

 

 

白井が俺たちの特訓に参加してから四ヶ月経った。豪水と白井は研修を無事に終了し、後は結果報告を待つだけであった。通達方法は電話で直接伝えられると豪水が言っていたが、今の電話はそれなのだろうか。

 

 

「せ、せめて!せめて理由を聞かせてくださいまし!…え?そ、そんな理由でですの!?そんな理由では到底納得できませんわ!あ、ちょっと!?まだ私の話は終わって…!」

 

 

ブツッという電話が切られる乱暴な音と共に白井が黙り込む。何があったんだ?おそらく風紀委員になることは叶わなかったのだろうが、この不服そうな表情を見ると、何かへんてこな理由でも付けられたか?

 

 

隣では豪水が気まずそうに地面に座っている。その腕には風紀委員の証である盾をモチーフとした腕章がついていた。

 

 

「…はあ」

 

 

白井が溜息をつくと、豪水の肩がビクゥッと跳ねた。お前はなにもやってないだろ。とりあえず落ち着いとけ。

 

 

「…私は風紀委員になれなかったようですの」

 

 

元気なさげにそう俺たちに告げる白井。ふむ、ここは先輩面をして愚痴の相手にでもなってやろうかね。

 

 

「…白井、悪いが聞かせてくれ。どんな理由だったんだ?」

 

 

風紀委員の新人研修には前期と後期がある。前期は筋トレや持久走を行ったり、もしもの時に対処できるように戦闘術を学んだりする。これを二ヶ月間続け、その後に後期の野外実習が先輩風紀委員の付添いにより行われる。

 

 

この研修、前期はあまり判断材料として考慮されていない。もっとも、あまりに体が貧弱だったりすれば、こちらの結果を見て判断を下されるだろう。

 

 

だが、恐ろしいのは後期である。後期は野外実習とされているが、ここで重要なのは野外実習をどう頑張るかではない。付添いの風紀委員にどれだけ良い印象を与えられるかだ。

 

 

野外実習に関しての報告は、実際にその活動を見ている付添いの風紀委員がすることになっている。思ったことをありのままに伝えるように言われているため、どんなに活動に尽力しても、先輩が気に食わなければ全く意味が無くなってしまうのだ。恐らく、白井は付添いの風紀委員に気に入られなかったのだろう。白井が納得できていない様子から推測することができる。

 

 

頑張りを好意的に取る人の担当になるか、逆として取る人の担当になるか。

 

 

結局は運で決まってしまうのと同義なのだ、この研修は。

 

 

「『言うことを聞かなかったから』、だそうですの」

 

 

言うことを聞かなかった、か。それがどういう状況下なのかによるな。

 

 

「例えば、どんな場面で?」

「女学生がスキルアウトに執拗に絡まれていましたの。なので私が注意に向かおうとしたら、なぜか先輩が私を引きとめたんですの。私はその手を振り払って行こうとしましたが、その間に髪がツンツンしている殿方が助けに入ってたので、結局は注意しに行くことができませんでしたの」

 

 

あー、そういえばそうだった。この子、やたら自分に自信を持ってるんだよな。だからこういう荒事にも進んで突っ込んで自分で解決しようとしたのか。これは自分一人で何でもできるわけじゃないってことを気付かせないといけないな。

 

 

まあ今は愚痴に付き合うって決めてるし、

 

 

「あの場面では注意しに向かうのが風紀委員ではないのですか!?それを見ないふりした挙句、言うことを聞かなかったから風紀委員として認めないなど理不尽すぎますの!大体───」

 

 

もう愚痴が止まってないしな。さてさて、どのくらい長く続くのやら。

 

 

 

 

 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

 

 

 

「…なあ」

「なんだ?」

 

 

白井の愚痴が続くこと約二時間。言いたいことを全て言い終わった彼女は、スッキリとした顔で学生寮へと帰って行った。長い戦いだったぜ…。

 

 

「俺だけが風紀委員になっちゃって、よかったのかな」

 

 

豪水が珍しくナイーブになっている。どうしたっていうんだ。

 

 

「仕方ないだろ?二人ともが絶対同時に合格する、なんてことはないんだからな。気にすることはねえよ」

「でも…」

 

 

ああもう!なんでこいつはこんなにジメジメしてんだよ!いつもみたいにしときゃいいのに!…やっぱいつも通りでも暑苦しいな。俺はどうしたらいいんだ。

 

 

「白井が気にしてないのにお前が気にしてどうする?お前は白井を歓迎する立場になったんだ。何も考えずにドッシリと構えてろ。そんで、風紀委員になった白井に先輩面しときゃいいんだよ」

 

 

こいつに難しいことを言っても分かんないだろうから、こう言っておくのがベストだろう。

 

 

「…それで、いいのかな」

「いいんだよ。お前は変に考えても無駄になるだけだろ?」

 

 

頭が空っぽのくせに何考えてるんだか。

 

 

「…そっか。そうだな!俺がウジウジしたままじゃ白井にも迷惑だしな!よし、もう気にしねえぞ!」

 

 

おい、俺に一番迷惑をかけてるだろ。俺には何もないのかよ。

 

 

「魅琴!立ち直してくれてありがとな!」

 

 

ああ、眩しい。その笑顔がすごい眩しい。なんて単純なんだお前は。

 

 

「なあ魅琴。俺、寮に戻ったらしたいことがあるんだ。協力してくれよ」

 

 

したいこと?一体何をするんだ。まあ別に構わんが。

 

 

「何するんだよ」

「それは帰ってから教えるよ」

 

 

何をもったいぶってやがる。気になるじゃないか。

 

 

寮に着くまで、俺はずっとモヤモヤとした疑問を抱えたままだった。

 

 

 

 

 

「で、何をするんだ?」

 

 

寮に着いたがいつまで経ってももったいぶる豪水に、俺は少しイライラしながら問い掛ける。

 

 

「よくぞ聞いてくれた!では今から、俺の決めポーズを考えたいと思う!」

 

 

…決めポーズ?決めポーズって、原作で白井がやったりしてる決めポーズのことか?何でまたそんなことを…。

 

 

「噂によると、風紀委員は全員が決めポーズを持っているらしいんだ。だから俺も決めポーズを持っておこうかと思ってな!」

 

 

お前絶対それ建前だろ。決めポーズがあった方がかっこいいからとかそんなんだろ、どうせ。

 

 

「まあ本当は決めポーズがあった方がかっこいいと思ったからだけど」

 

 

やっぱりな。こいつの考えてることが大体分かるようになってきた。

 

 

「で、実はもうひとつ考えてあるんだ」

 

 

ほう、もう考えてるのか。どんなモノか見てやろうじゃないか。

 

 

「どんなポーズなんだ?ちょっとやってくれよ」

 

 

俺は豪水にそう促す。すると豪水は、仕方ないなー、と言いながら腕章を腕につけ始める。あ、腕章外してたのか。

 

 

「それじゃあ…。すぅ……風紀委員だ!!」

 

 

その掛け声と同時に、豪水がビシィッ!とポーズを決める。おお…。何ていうか…。

 

 

「ダサいな」

「な、なにぃ!?」

 

 

いやな、お前、まず何で片足を高く上げてるんだよ。その時点でもうアウトだよ。そして両腕を高く上げるな。お前、荒ぶる鷹のポーズでもしてんのか。

 

 

「ど、とこがダサいって言うんだ!」

「それが分からないならお前は一生ダサいままだな」

 

 

豪水のセンスは色々と壊滅的のようだ。

 

 

「お前もう決めポーズ止めちまえ」

「そ、そんな!?」

 

 

俺じゃお前に決めポーズを与えることができない。さっきのポーズがかっこいいと思ってるんなら、人と感覚が色々と違うだろ。無理だ無理。

 

 

「お、俺は絶対に決めポーズを考え抜いてやる!」

 

 

おいやめろ。隣の部屋に迷惑がかかるだろ。「風紀委員だ!!」が延々と聞こえて眠れないだなんて俺は絶対に嫌だな。

 

 

この日、俺達は下級生を巻き込みながら、ずっと豪水の決めポーズを考えていた。

 

 

…隣の部屋の皆さん、ごめんなさい。

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