『ミサカミコト』
───目が覚めたら、視界は白で覆い尽くされていた。
「………なんてこったい」
まさか、俺はあの空間から出ることが出来なかったというのか。いや、あそことは違う空間に弾き飛ばされたって可能性もある。くそ、やっぱりそう上手く事は進まないか。
「…ん?」
よくよく見てみると、視界の白はただの真っ白い天井だった。うわ、動揺しすぎだろ俺。というより、俺は寝っ転がっていたのか。それすら気付けないなんて、どうしたことやら。
「あ、目が覚めたかい?」
今の言葉は自分に対してだろうか。キョロキョロと周りを見渡すが、俺と声を掛けてきた白衣を着た若い男─何かの研究員なのだろう─の姿しかなかった。じゃあこの声は俺に対してか。
「ここは?」
とりあえずはこの場所について聞いてみることにした。どうでもいいけど、壁まで真っ白な部屋なのは精神的にクるものがある。あの金髪さんの面を思い出してしまうじゃないか。
すると、男はぎょっとした顔でこちらを見つめてきた。何かおかしなことでも言ってしまったのだろうか。
「まずいな…。もしかして能力開発の影響で記憶が無くなってしまったのか?数値上では何の問題も無かったはずだが…」
何やらぶつぶつ呟いているが、俺には聞こえたぜお兄さんよ。あんたは今能力開発と言ったな?だったらこの場所を当ててやるぜ。さあ言ってやる!
「『学園都市』…?」
俺がそう呟くと、男は顔を緩ませ、俺に話しかけてくる。
「よかった!思い出したんだね?いやー、僕ちょっと焦っちゃったよ。あ、でも一応確かめた方がいいかな?」
よし!と思ったがまだ安心はできない。俺のもとの世界でも学園都市なる場所は存在していたからな。何か確証を持てるモノがあればいいんだけど。
「いえ、大丈夫です。ちょっとこの部屋に驚いただけなので」
「そっかそっか!じゃあ大丈夫だね!」
少し苦しい言い訳かと思ったが、男は目の前でニコニコとしている。怪しまれないでよかったが、男の笑顔が近すぎる。ちょっと吐き気を催しそうだ。
まあそれはともかく。
「えっと、あの、それで…」
「ああ、
利夫、演技モードである。ちょっと気の弱そうなふりをしてみた。それなりに上手くいってるんじゃないだろうか。まあ、これでほぼ予想が確信に変わった。
「君の能力は───」
ここは───
「──
───『とある魔術の禁書目録』の世界だ。
…ん?『御坂魅琴君』?
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
自分の名前を聞かされた瞬間に固まってしまってから早一日。内心動揺しまくりつつも、表情は無垢な子供を演じて乗り切り、無人のバスでこれから自分が通うことになる小学校の寮へと、男が同伴になって送ってくれた。何でも、自分は本来とは違う時期にここへとやってきたそうだ。だから周りに自分と同じくらいの年齢の子供が一人もいなかったのか。
日が落ち始める頃、とりあえず寮に着いたので、自分の部屋を確認。四人一部屋で、上級生二人に下級生二人が基本的な構成らしい。ルームメイトは快く歓迎してくれた。聞いたところ、食事は朝昼晩全て給食らしい。学校側はまだ小学生に家事はできない、と判断してるんだろう。ちなみに俺の得意料理は豆腐の素揚げです。
さて、今から給食までは時間があるそうなので、この世界、そして今の自分について考えることにした。
第一に、ここは『学園都市』であるかどうか。
これはもう間違いないだろう。男にも説明してもらったし。何より、ドラム缶みたいな形をした清掃ロボがうろついていたからな。あ、あとバスが無人で動いてたとか。
次に、自分がどういう存在なのか。
『ミサカミコト』という名前。能力は
間違いなく、自分は『とある魔術の禁書目録』の世界における『御坂美琴』の幼少時代なのだろう。…性別が男であることを考慮しなければの話だが。
『御坂美琴』に憑依した、というのなら、性別は女のままのはずだ。だが、自分の性別は男。どう考えたって、俺が『御坂美琴』に憑依したとは考え難い。そこで思いついた仮説は三つ。
一つは、”自分が『御坂美琴』の双子の兄または弟であり、『御坂美琴』とは違う時期に学園都市にやってきた存在である”。
こちらである可能性は低い。いくら双子といえども、『
もう一つは、”自分が『御坂美琴』のクローンである”。
これも可能性は低い。が、もしかしたら、今はもう原作開始の時期をとっくに過ぎていて、自分は『
最後の一つが、”自分は原作とは性別が異なる『御坂美琴』に憑依した存在である”。
現状ではこれが一番可能性があるだろう。だが、そうなると『とある魔術の禁書目録』や『とある科学の超電磁砲』におけるいろいろな問題が浮上してくる。
まず何といっても、常盤台中学に入学できないことだ。性別が男なので、常盤台中学の白井黒子と接点を持つことが出来ない。なので、必然的に初春飾利や佐天涙子とも関わらないことになる。つまり、『御坂魅琴』が大きな事件に巻き込まれることが無くなってしまうのだ。性別が違うだけでスピンオフ作品が丸ごと潰れてしまうとは…。俺、恐ろしい子っ!
まあ他にも色々あるが、それらは後々考えておくとして。一番の問題は『DNAマップの提供』である。
筋ジストロフィーのための研究という題目だが、これが裏に流され、『
幼い頃から強い能力を有していた一方通行は、周りの人間が傷ついてしまったことで自分の能力の危険性を自覚し、それ以来常に人を拒絶して自分に近づけさせないようにしていた。その時に『
つまり、一方通行の分岐点は、『妹達』の個体の一人の打ち止めと出会う時なのだ。その為には、『御坂美琴』がDNAマップを提供しなければならない。
『原作』に従うか。『自分の意思』に従うか。
うんうん唸りながらそのことについて考えていると、上級生から声が掛かる。
「御坂君。給食の時間だから、一緒に行こうか」
その提案に俺は頷く。ルームメイトを放ったらかして随分と考え事をしていたようだ。これからは気を付けないと。
「あ、そうそう。今日君を送ってくれた研究員の人から伝言があったんだった」
ん?伝言?なんで一緒にいた時に伝えなかったんだろう。まあいいか。何でしょ何でしょ。
「『今度の土曜日に一緒に来てもらいたい所がある。朝の九時に迎えを出すから準備をしておいて欲しい』…だって」
えー…。そんなに親しくなったわけじゃないのになんで急にこんな風に誘われてんの?俺の能力測定を担当しただけだよね?あれ?もしかしてショタコン?
「君の能力についてのことらしいよ。詳しいことは聞いてないけど」
俺の能力?どういうことだ?…ってなったらいいんだけどなあ。大体予想出来ちゃうんだよなあ。
───まさか、DNAマップの提供についての選択をこんなに早く迫られるとはな。
前を進んでいく上級生の後ろを歩きながら、俺は土曜日の為に頭の中を整理するのだった。