なぜか目の前に白井黒子がいて、なぜか俺に対して畏まってガチガチになっている。その後ろにはニヤニヤしながらこちらを見てくる豪水。なんだこの状況は。わけが分からん。
とりあえずは豪水に聞いてみるとしよう。俺は素早く豪水の後ろに回り込む。そして首根っこをがっしりと掴んで、白井黒子が俺達の話を聞き取れなくなるくらいの距離を取って、
「どういうことだコラ」
小声で豪水に向かって脅すように言い放つ。俺お前から白井黒子が来るなんて聞いてないんですけどー?
「いやさ、研修の休憩時間に俺が白井と話してたんだけどさ。能力のLEVELの話題になったわけよ。その時に俺のLEVELを白井に言ったら、『どうすればそんなにLEVELを上げることができますの!?』って迫られちゃったもんだからさ…」
「特訓のことを教えた、と」
「そういうこと」
なるほど、そういうことか。まあ納得はいく。LEVELの上昇は誰もが望むことだからな。向上心の高い学生が特訓なんて聞いたら、いてもたってもいられなくなるだろう。
よし、白井黒子がここに来た件についてはもういいだろう。だがな、俺にはどうしても腑に落ちないことがある。
「白井のあの畏まりようは何だ!お前はあの子に何を話した!?」
そう、白井黒子の態度は初対面の相手に向けるモノじゃない。豪水と会ってすぐに打ち解けたって言うのだから、人見知りではないはずだ。というか、人見知りだったらまず風紀委員をやりたいとは思わないんじゃないか?
風紀委員は校内の治安維持が主な目的だが、依頼があれば、ゴミ掃除や紛失物の捜索なども行うらしい。風紀委員は人と接することがかなり多いのだ。人見知りに務まるようなモノではない。
チラッと白井黒子の方を見ると、彼女は戸惑った顔をしつつも、こちらに笑顔を向けてくれた。うむ、可愛い。俺の中の
「え、えっと…。『特訓は一人でしていらっしゃるのですか?』って聞かれたからさ、丁度いいかなって思って魅琴のことを話したんだよ。そしたら、何でか分からないけど目をキラキラと輝かせ始めちゃってたから、いろいろと魅琴の武勇伝を語った結果が」
「…あれか。お前どういう風に話したんだよ…。あっ、やっぱいい」
ああもう、勘弁してくれよ…。何だか話しづらくなるじゃないか…。
「あ、あの…どうかなさったんですの?」
「へぅあ!?なな、何でもないよ!気にしないで」
少し彼女を放置しすぎた。可憐さと芯の強さを兼ね備えたような綺麗な顔が不安げになっているではないか。…何で白井の顔を解説しているんだ俺は。
まあとりあえずは話を進めよう。
「じ、じゃあ、まずは自己紹介からしようか。お互いのことは豪水を通してしか知らないからな」
「分かりましたわ。では私から」
そういうと、白井黒子…もう白井でいいな。白井は胸に手を当てて、自信に満ち溢れたようなポーズをとった。そのポーズ必要か?と思ったが、本人がイイ顔してるからいいんじゃないかな、うん。
「私の名前は白井黒子。現在は風紀委員の研修生で、林田さんとは適性試験のときにお知り合いになりましたの。能力は空間移動でLEVELは2。今回は、この特訓にどうしても参加したくて林田さんにお願いしたんですの。どうかよろしくお願いしますわ」
自己紹介を終えると、白井は優雅にお辞儀をした。いやー、優雅だなー。お嬢様だなー。
「それじゃ俺も。俺の名前は御坂魅琴。豪水は一年生の時からのルームメイトだ。ま、豪水から色々聞いているかとは思うが、能力はLEVEL4の電撃使い。珍しくとも何ともない能力だが、汎用性に優れてるから、日常生活でも助かってるな」
「なんだあお前?能力自慢か?」
「しゃらっぷ!」
「おっふぁ!?」
豪水が横槍を入れてきたので、電撃を浴びせて黙らせておく。白井が小さく悲鳴を上げたがそんなのは聞こえない。
「だ、大丈夫なんですの?」
白井が豪水を心配している。まあ普通、超至近距離で電撃なんて浴びたらひとたまりもないな。だがしかし、こいつの能力は肉体再生。何事もなかったかのように立ち上がってくるぜ。
「いってえな!至近距離で電撃はだめだろ!」
「大丈夫。お前にだけしか撃たないから。愛情だと思っとけ」
「そんな愛情なんかいらねえよ!」
お前はゾンビみたいなモノだからきっと大丈夫!ビリッとくる愛情だって受け止めることが出来るはずだ!
漫才じみたことを続けていると、白井が「あー、んんっ」と咳払いをする。おっと、ふざけすぎたか。
「あー、ごめんごめん。じゃあ特訓の話に移ろうか」
日頃振り回されている恨みも込めて豪水を弄っていたため、夢中でやってしまった。いやー、失敗失敗。
さて、話を変えよう。このままじゃいつまで経っても特訓が出来ない。
「じゃあ、今日は特訓メニューをどうするかを先に考えようか」
まずは準備から。意志があっても準備が出来ていなけりゃ何もできないからな。
「メニュー、ですの?」
「そう、メニューだ。自分に合った特訓をしないと、伸びるLEVELも伸びなくなっちまう。だから、特訓をする人物の能力が今現在でどのくらいの段階に位置しているのか、またその人物の性格や得意分野としている能力の使用法とかその他もろもろを、ちゃんと把握して考慮しなくちゃならないんだ」
特訓メニューを考えるのは簡単そうに見えるが、これがまた難しいったらありゃしない。一度下級生のメニューを組んでやったことがあるが、その子の能力と俺の能力じゃ勝手が違うから、思うように結果に出なかったんだよな。その後にひたすらメニューを練って徹夜をしてしまったから、その日の授業が眠くてたまらなかったな。
「で、だ。白井、能力測定の記録、覚えてるか?」
俺は白井に能力の詳細を聞く。白井は確か、LEVEL4の段階での移動可能距離は平均して80mほど、質量制限は130kgほどだったかな。LEVEL2だとどのくらいなんだろうか。
「そうですわね…。確か、移動距離は13mで、最大質量は10Kgでしたわね」
ほー、そんなものなのか。やっぱりLEVELの壁は凄まじいな。
「それは空間移動能力者の中ではいい方なのか?」
まあ悪い方なのは分かっているけど、とりあえず聞いておく。
「いえ、むしろ悪い方ですの。噂によれば、ビル一つを空間移動させることができる空間移動能力者もいるということですし」
ビル一つ!?…ああ、結標淡希か。あわきんか。大まかなくくりでは彼女も空間移動能力者だったな。細かく分けると
「だったら、まずは単純に演算力の強化をした方がいいな。俺達もそれだけでLEVELが上がったし」
「具体的にはどのようなことをすればいいんですの?」
白井に演算力の強化を勧めると、白井は具体的な方法を聞いてきた。
「そうだな…。最初の内は空間移動をひたすらこなすことだな。演算にだって慣れは必要だし。それに、空間移動は高度な演算を必要とするらしいじゃないか。だったら尚更数をこなす必要がある」
これは俺達もやってきた森田先輩直伝の特訓方法である。だが流石に女の子に攻撃しながら、『能力行使の演算をしつつ攻撃をわかせ!』なんてことは言わない。
「空間移動させるのは何でもよろしいんですの?」
「ああ、別に構わない。落ちてある石でもいいぞ」
能力を使用する、という点が大事だからな。
「あ、そうだ。空間移動には集中力もたくさん必要だったっけ?だったら、いい方法を思いついたぜ」
「いい方法を?どのようにしますの?」
白井は俺に説明を要求する。フッフッフッ、まあ待てよ。今から説明してやるから。
「まずは河川敷にある石ころを集める。石を集めたら、その石ころを空間移動させて、地面に自分の好きなように模様を作るんだ」
空間移動による石ころアート。面白そうだろ?
「規模は自由でよろしいんですの?」
「ああ。最初は規模が小さくても、LEVELが上がってくればどんどん大きくできるし、楽しめるから飽きることはないと思うぞ?」
「が、頑張ってみますわ」
さてと、白井の特訓メニューも決まったし、今日は白井の特訓を見守るだけで終わるかな。
「どういう模様にしましょう…。ここから悩みますわね…」
頑張れよ、白井!
空間移動能力者なのに初期のLEVELが低いのはおかしいんじゃないか、というご指摘を何件かいただきました。
黒子のLEVELはすぐに上がっちゃうので、このままでいきたいと思います。