①白昼堂々通行人の女性を刺した通り魔を先輩が追い掛け、得意の柔術で身柄を確保。
②義父であり上司である藤山課長に呼び出され、近々実施される任務に就く可能性を示唆される。
③艦娘を巡る問題について話した後、元艦娘の少女を養女に引き取る事、翌日に迎えに行くよう言われる。
以上です! では本編をどうぞ!」
微かな波の音がした。それが覚醒の切っ掛けで、次に冷たい感触を知覚したことで意識が明瞭になった。
最初に視界に映ったのは砂だった。どうやら砂浜らしく、透き通るような海水が目の前の砂地を覆っていくのが見えた。
ここは何処なのか、確かめるために上体を起こす。
周囲を見渡すと、どうやらここは島のようだ。
何故、そうだと断言できるのか。その問いに対する答えは単純で、見渡してみたら陸地の先端が見えたからだ。
目測で全長1㎞もあるかどうかという小島。申し訳程度に林が自生していて、あとは自分がいる海岸線だけだった。
「ここ、は……。どうして、私は」
状況が掴めない。
此処は何処なのか、どうして自分はこの島に流れ着いたのか。答えを得ようと以前の記憶を辿ろうとして、気付いてしまった。
「
何も思い出せない。
自分が直前まで何処に居たのか、何をして居たのかが解らない。
唯一解っているのは、自分の名前が〝浜風〟らしいことだけ。他はどれだけ記憶を遡ろうと意識しても、他に何も浮かんでこなかった。
「──動かないと」
意を決して立ち上がる。
何も思い出せないからと言って、ただ海辺で踞っているわけには行かない。とにかく、行動を起こすべきだ。そう思って、一歩目を踏み出した。
それまで静寂だった小島に、異質な音響が届くのを耳にする。
「何、この音……?」
正体の掴めないそれに耳を澄ませる。
それは、強いて例えるなら轟音だった。この小島よりも遠くから響き渡ってきたこの音は鈍く、同時に大気を震わせているようにも感じられる。
それは一度ではなく、断続的にそれは発生しているようだった。初めて聴いた筈の音だったが、何故かそれを知っているような気がして
「──ッ、ううぅ……!」
突然、酷い頭痛に頭を抱えた。水平線の向こうから轟音が聞こえてくる間、鈍器で殴られたような痛覚に堪らず地面に座り込んでしまう。
直後、一際大きな轟音が響いてきた。そちらに視線を向けると、水平線から真っ黒な煙が立ち上っていくところだった。
それは何度か繰り返され、幾つもの黒煙が水平線上に並んでいく。
「いや……!」
両耳を塞ぎ、目もキツく閉じると遠方に現在進行形で起きている事象を、知覚することを拒絶した。
動物的な本能から恐怖感を掻き立てられるのは勿論あったが、何よりも大きいのは聞こえてくる轟音や水平線の先に立ち上っている黒煙を、今までに見た記憶がないのに浜風は知っている。そんな感覚がしていた。
この音を聴いていたくない。水平線を見たくない。何故そう思うのかも不可解で、それすらも浜風の不安と恐怖を煽った。
「お願い……っ」
今こうして一人でいるのは何故? どうしてここにいる? 何でも良い。だから、
「誰か、助けて──」
「────ぁ、……」
弱々しく吐息を漏らし、悪夢から目覚めた。視界は滲んでいる、涙を湛えているのか。
上体を起こした。周囲を見回すと、そこは自分に宛がわれた駆逐艦寮の一室だった。それまで寝ていたベッドから降りて迷わず洗面所に向かう。これは、ここに保護されてから今いる駆逐艦寮の寮長に指導されてから身に付いた習慣だ。
「……酷い顔」
魘されていたのかもしれない。顔に泣き腫らした痕が浮いて見えるし、髪も振り乱しでもしたのか髪留めをしていない右の前髪は酷くボサボサしていた。
取り敢えず、身嗜みを整えないといけない。何故なら今日は、
(私を引き取る家庭の人が迎えに来る)
私が保護されてから世話になった此処、大本営を旅立つ日だ。だから、こんなみっともない姿は見せられない。
そうして、乱れた髪を櫛でといたり、洗顔して10分後。
「──今日でこの制服とはお別れね」
昨夜、就寝時に着ていたパジャマから私服に着替えると、ビニールの袋に収まった状態の衣類一式を見ながら言った。
中期陽炎型駆逐艦の艦娘、浜風の制服。保護されてからすぐに入渠した際に修繕され、それからは一度も着ることがなかった駆逐艦《浜風》であることを示していた服。これから養女としてまだ見ぬ家庭に引き取られていく以上、もう着ることはないだろう。着たいとは思えないが。
そんなことを思っていると、部屋のドアからノックする音が二回響いてきた。
「──浜風、起きていますか」
ドアの向こう側から、こちらの名前を呼ぶ少女の声が聞こえてきた。
「はい。今開けますね」
室内用のスリッパからパタパタと音を立てながら、ドアを開けて出迎えた。
そこに居たのは、黒い長髪の少女だった。
背中まである流れるようなストレートの黒髪。その前髪で片目が隠れ、もう片方でこちらを真っ直ぐ見据える暗色の碧眼が特徴的だ。
勤務時間は既に始まっているので、朝潮型の制服を着ている。彼女は他の朝潮型にはない〝丁改装〟が施されているので、外見上は他の朝潮型改二との差異があった。上着として白のポレロを改二制服の上から重ねている。
「おはようございます、朝潮」
大本営所属駆逐艦、朝潮改二丁。それが彼女の、艦娘としての肩書きだった。
駆逐艦とされているが、大本営内部で彼女は控えめに言っても畏怖されていた。
理由は詳しく知らないが、元の所属だった鎮守府が関係するのだということは、元帥付きの秘書艦である陸奥から教わっている。
「おはようございます、浜風。昨夜は、ちゃんと眠れましたか」
「……ええ。朝までぐっすり眠れたわ」
昔の記憶から悪夢で魘されていたとは流石に言いづらく、少し言い淀みながらも何とか取り繕った。
そんな自分の様子を見て少し不審に感じたのか、朝潮は怪訝な表情を浮かべたが、
「……そうですか。準備はできてますね?」
「昨日のうちに荷物をまとめてあります。行きましょう」
着替えや日用品等が入れられたボストンバッグを持ち、先導する朝潮と共に駆逐艦寮の廊下を歩く。
「私がここに来た頃と比べて、だいぶ人気が無くなりましたね」
「戦争が終わりましたからね。平和になれば、艦娘を大勢抱える必要はなくなります。あとは此処を仮住まいにしてる娘くらいしか居ません」
「……朝潮は、まだ退役しないんですよね」
「艦娘は辞められません。部位欠損した私の体では、艤装を解体すれば隻眼隻腕になってしまうので。義眼だから応募側の受けも良くないですし」
「……ごめんなさい」
失言したことに気付いて、浜風はただ謝罪した。
「今までそれを話さなかったのは私ですから、気にしないでください。それと、来客には私以外には千夏と陸奥さんも出迎えます」
「……元帥とその秘書艦が? 何故」
「これから大本営を訪れる方は、海軍にあまり良くない感情を持っているかもしれないと千夏が心配しているからです。念のため、その場に立ち会うそうです」
それを聞いて浜風は一気に不安になった。どうしよう、もしこれから来る人が怖い人だったら。これからどうなってしまうのだろう。そんな懸念が胸中を埋め尽くし、肩に架かるボストンバッグの手提げを握る力が強くなった。
「安心してください。問題のある相手なら浜風は連れていかず、お引き取り願うことになっています。里親側にもそれは伝えました」
「そう、ですか……」
そんな会話をやり取りしている間に、駆逐艦寮を出て大本営中央棟の応接間に辿り着いた。
「──朝潮です。浜風を連れて参りました」
『入って』
朝潮がノックしながら言うと、ドア越しに入室を促す声がしてきた。
「失礼します」
ドアをくぐり、応接間に入室した。
「いらっしゃい、ちょうどお迎えの方と話をしていたところだったんだ」
出迎えたのは、純白の第一種礼装を着た見た目から10代前半と思われる少女だった。着ている制服は特注なのか既存品とは幾つか差異が見られる。
着ている制服を除けば年端もいかない少女にしか見受けられないが、彼女こそが海軍のトップである
今から一年と数ヵ月前、人類と深海棲艦双方の天敵として出現したゼノと呼ばれた敵による奇襲で殉職した斎川早瀬前海軍元帥の養女であり、その実力から12歳という若さで海軍元帥を継承した才媛。就任から現在までその座を誰にも譲ることがなかったため、その力量が窺えると言えるだろう。
「こちらも、ここへ来るまでに浜風にはその事を話していたところです。……陸奥さんはどちらへ?」
「急な案件が舞い込んだから、そちらを対処してもらってるよ。護衛なら間に合っているしね」
「そうですか、なら……。浜風、挨拶しましょう」
「……はい」
朝潮に促されて、一歩前に歩み出る。
「人間としての戸籍が不明なので、適性艦名で失礼します。陽炎型駆逐艦十三番艦、駆逐艦浜風です」
ペコリ、と会釈しながら自己紹介して、次に来訪者の顔を窺った。
見たところ、20代前半と若い女性のようだった。ただ、彼女が纏っている雰囲気は一般のそれというよりも、艦娘を含んだ軍人に近い物々しさが感じ取れる。
その彼女は、浜風を見たまま硬直していた。何故かは解らない。目を見開き、瞳を揺らしている様子から動揺している事が解る。
「舞、夏……?」
女性は譫言のように呟いた。
「あの、舞夏とはどなたです? お知り合いの方ですか?」
「……いや、何でもない。きっと、人違いだろう」
頭を振ってから、女性は否定した。
「私からも自己紹介させてもらう。広島県警察地域課の婦警、藤山 一夏巡査長だ」
今更ですが、この作品を読んでここはおかしいんじゃないか、という部分があれば遠慮なく感想欄でツッコミしてOKです。必要なら活動報告に質問箱的なものを設けます。