ゴールの向こう側に   作:宮瀬賢一郎

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走っちゃうのか

朝になった。俺はきまって6時半のアラームで起きている。夏ということで空はすっかり明るくなり、飽きるくらい澄み渡っていた。母の作った朝食をテレビをなんとなく見ながら食べ、身支度を整えて学校に向かう。

 

「今日もあちいな」

 

誰にも届かない独りごとをつぶやく。自転車に乗ってすぐに汗が出てきてまあ不快なことったらない。着替えを余分に持ってこなきゃいけないからこれもめんどい。いつも春か秋だったらいいのにと地球の理では絶対あり得ないことを思う。

 

しばらく自転車を漕いでいると白い校舎が見えた。よく先人はこの校舎のことを「城」といっていたがその通りであるような、言い過ぎであるようなものだ。いちおう都内では割と新しいほうではあるが。

 

ふと昨日の亮太とのやり取りを思い出した。うわー、どうやって断ろ?脳みそをここぞとばかりに回転させる。これくらいの回転で数学のテストを乗り越えたいものだまったく。

 

「いいこと思いついちゃった」

 

彼の誘いを断る方法を。寸法はこうだ。

 

 

監督である加藤先生に駅伝に出ていいかを確認する。するとおそらく、

 

「新人戦も近いしなかなか大変じゃないか」

 

と言うはず。これでパーフェクト。

 

「先生も厳しいんじゃないかって言ってたからごめんな」

 

って方程式が完成する。Q.E.D.こうしちゃいられないな。さっさと確認に行くかぁ!

 

 

「失礼します。1年3組の河野勝です。加藤先生に用があってきました」

「うい、どうした」

 

低い声で応えたのが加藤先生だ。

 

「実は陸上部のほうから駅伝に出ないかとさそわれていまして~」

「あー、陸上の藤原先生からその話聞いてたぞ」

「え」

「スタミナ強化にいいんじゃないか。駅伝の本番は特に練習試合も組んでないからやってみれば?」

 

いや、いやいや。聞いてないよそれ。なにそれ。ガチで終わったわコレ。断れないパターンきちゃったねえ。

 

「陸上部からも是非お願いしたいな」

 

あ~、藤原先生もいっちゃうのそれ。反則だよ?この場面で登場するのは。

 

「わかりました…。やります…」

 

このようにして駅伝に出ることになってしまいましたとさ。

 

 

肩を落として教室に向かっていると亮太にばったりと会った。いや、会ってしまったというほうが正しいか。

 

「昨日の件さ、考えてくれた?」

「さっき話ついちゃったよ」

「マジで!?」

「よろしくお願いします」

 

少し不満げに挨拶をしたが、当の本人はというと満足げに笑みを浮かべて、

 

「マジでありがてえ!絶対後悔させないから!」

 

なんか眩しいセリフ吐いてるんだが。キモ。朝に食ったトーストがそのまんま出てくるわ。…でも嬉しそうだから悪い気はしないわな。どうせならいい感じで走ってもっと感謝されてやろうかな。

 

「とりあえず走ってくれればOKだから!」

 

なんだコイツ。俺のポテンシャル舐めてるな。いいでしょう、やってやるわ。フランス革命が平民から発生したように、俺が土下座されるくらいの結果を出してやるわ。本番まで震えて待っとけゴラ。

 

これをきっかけに俺のスイッチが完全に入ったのであった。負けずが高じるよくない癖がでちゃいました。


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