「チノくーん!」
「うわっ」
ココアさんが抱き着いてくる。ラビットハウスのいつもの日常だ。
「う~ん、今日も相変わらずモフモフだねぇ~。」
「あの・・・」
困ってしまう。友好的なのは構わないけれど一応女の人に抱き着かれるとその、いろいろと・・・
「ココア、いい加減離してやれよ。チノが困ってるぞ。」
見かねたリゼさんがこの場を諫めようとしてくれる。でもココアさんはまだ離そうとはしなかった。
「えぇ~、だってチノくんすごくモフモフしてるんだよ~。リゼちゃんもモフモフしてみない?」
「なっ、するか!」
リゼさんが顔を真っ赤にして否定する。そりゃあ恋人でもない異性同士が抱き合うなんて普通は恥ずかしいだろう。普通は。
「お前もそんなに抱き着くな!!チノは一応男なんだぞ!!!」
そう、このボク”香風智乃”は立派な男なのだから。
「リゼさん、一応は余計です。」
「いいじゃん。だってチノくんは私の弟なんだし!」
「弟じゃないです。」
ココアさんはさらに強く抱きしめてくる。そんなに抱きしめられたら女の人特有の柔らかい部分がボクの色んな所に否が応にでもあたってしまう。ふわっとほのかに甘い匂いもする。(一応)男として、意識しないというのは無理な相談だった。
「それにこんなにかわいいんだし!男の子も女の子も関係ないよー。」
そんなにボクは女の子のように見えるのだろうか。確かに顔立ちが女の子っぽいとはよく言われる。同級生のマヤさんとメグさんにも初見では間違われたし、悔しいけどリゼさんココアさんよりも背が低い。
「リゼちゃんだって、最初はチノくんのこと女の子と間違えてたんでしょ?」
「なっ」
「あっ」
リゼさんが顔を真っ赤にして硬直してしまう。確かにリゼさんがこのラビットハウスに来た頃にはボクのことを女の子だと思っていたようだ。リゼさんが着替えている最中、ボクが更衣室のドアを間違えて開けてもすごくあっけらかんとしていた。それどころか挨拶しようとそのまま迫ってきたのだからボクはあたふたしてしまった。その時は女の人だけど豪快な人なのかなとボクも思っていた。(実際、軍人のような言動と行動をしてたし) でもボクが男だと発覚した後は本人も恥ずかしかったのかしばらく目も合わせてくれなくなった。
その時のリゼさん、まさに顔から火が出るという言葉のとおり真っ赤だったな。そんなことがあったことを思い出す。
「思い出させるなぁーーーーっっ!!!!」
リゼさんの絶叫がラビットハウス中に響く。これ、外まで響いてないよね。
「お前も思い出すなぁ!!私の下着姿なんて!!!」
「えっ!いや!!考えてませんよ!!!」
リゼさんがそんなこと言うから思い出してしまった。青と水色のストライプ柄だった。胸は大きくお尻も程よい大きさで腰はくびれていてすごくスタイルが良かった・・・。
ボクもリゼさんも顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「むぅーっ。」
ココアさんが顔をむくれさせている。自分だけ蚊帳の外だからだろうか。
「私だって!チノくんと一緒にお風呂入ったもん!!!!」
「!!?」
「ぶっ!?」
リゼさんが驚愕のあまりものすごい速度でこっちを見てくる。ボクも思わず吹き出してしまった。
ココアさんがラビットハウスに住み込みに来た頃、リゼさんと同じくボクのことを女の子だと思っていたらしくボクの入っているお風呂に堂々と入ってきた。タオルで大事なところは隠れていたものの女の人らしい柔らかく綺麗な躰をしていたことは覚えている。というか目に焼き付いてしまっている。
「それだけじゃなくて!何回か一緒にね、寝たことだってあるし!!も、もう心も体も通じあってる仲なんだよっ!!!」
「ちょ、ちょっとココアさん!?」
確かに一緒のベッドで何度か寝たことはある(あくまで寝ただけ)。親睦を深めようとココアさんが潜り込んできたっけ。狭いベッド、というか一人用ベッドなので寝ている間にお互いの体の色んな所が当たってしまい、ボクはロクに眠れなかった。ココアさんは多分寝ていただろうけど。
そんなことを言いながらココアさんはさらに力を入れてボクを抱きしめる。むにっと胸のあたりで音がして何かがつぶれる感触がする。
「そうか・・・」
リゼさんが静かな声でつぶやいた。あれ、なんだか凄みが・・・。
「チノ・・・お前はそういう奴だったのか・・・?」
リゼさんの目にハイライトがなかった。目を黒く染め、顔には表情がなく、身にまとっているオーラもどず黒かった。
「たらしなのか!!!?お前は女をはべらす女たらしだったのかっ!!!??」
すごい勢いでリゼさんが迫ってくる。
「そのたるんだ精神を鍛えなおしてやる!!!」
「わっ!?」
むにゅうっとボクの顔面で何かが潰れる。リゼさんはココアさんの腕の中からボクを奪い取りぎゅうっと強く抱きしめていた。リゼさんの背が高めだからボクの顔がちょうどリゼさんの胸のあたりに当たってしまう。鍛えているせいかココアさんのとは違いリゼさんのは張りがあった。
「ううっ」
リゼさんと密着しているせいでリゼさんの体から発せられる匂いが鼻腔を直撃する。ココアさんの文字通りココアのような柔らかい匂いとは違い、リゼさんはミントと柑橘系の匂いが混ざり合ったようなとても爽やかな匂いだった。
「むー!チノくんは私の弟なんだよ!!!」
リゼさんに抱きかかえられているボクにさらにココアさんが抱き着いてくる。ボクは二人の体にサンドイッチされてしまった。
「リゼちゃんとは争いたくなかったけど、お姉ちゃんの座を奪い取るなら勝負だよ!」
「悪いがこればかりは譲れそうにない!」
二人ともボクを強く抱きしめる。二人より背が低いせいで両方の胸がボクの頭の両側に当たり、感触の違う柔らかさを伝えてくる。胸だけではなく腿のあたりも絡み合っていてその柔らかさが二人がまぎれもなく女の子であることをまざまざと伝えてくる。さらに二人の違う種類の香りが混ざり合い鼻腔の中に入り込んでくる。
「ううっ、二人とも、落ち着いてくだ、うぐぅ・・・」
だんだん目の前がクラクラしてくる。ココアさんとリゼさんの女の子であることを証明する部分をいやというほど思い知らされ、ボクの脳の本能の部分が暴れまわっている。
「リゼちゃぁーん。ん?あれっ?」
「ココアぁー。あっ。」
二人の柔らかく、かぐわしい香りのする体に抱きしめられたボクは。
目をぐるぐる回し意識を失ってしまった・・・
「チノくーん!!!大丈夫―!!!??」
「チノー!!!しっかりしろー!!!!」
二人がボクの体を揺さぶってくる。その度に二人の体とボクの体がフニフニと接触する。放心状態のボクは天国にいるような錯覚を覚えていた。あ、お母さんが、お母さんが花畑で手を振っている・・・。
「ごめんくださーい。」
チリンチリンとドアの鈴の音が鳴る。どうやらお客のようだ。
「ココアちゃーん。いまお仕事中?あら・・・」
「先輩。ココア。バイト先で茶葉貰いすぎちゃったからおすそ分けに、えっ・・・」
入ってきたのは千夜さん、シャロさんだった。タイミング悪く、二人に抱きしめられているところを見られてしまった。
「ち、千夜ちゃん・・・?」
「シャ、シャロ・・・」
ココアさん、リゼさん両者が硬直する。さっきより体温も上がったようだ。
「せ、先輩・・・」
この光景を見たシャロさんがわなわなと震えていた。
「か、仮にも男の子に抱き着くなんて!!精神がたるんでますっーっっ!!!!」
「シャ、シャロっ!!!違うんだーっ!!!!」
シャロさんが顔を真っ赤にして指導してくる。リゼさんは必死になって弁明しているようだ。
「うふふ、仲がいいのね。三人とも。」
「え、えっへん。なんたってチノくんは私の弟だからね!」
ココアさんと千夜さんはマイペースに会話を続けていた。
少したって僕は放心状態から抜け出した。でも感触や匂いはまだ体の中に残っている感じがする。思わず顔が熱くなった。
「相も変わらず騒がしいのう。」
ティッピーの中に入っているおじいちゃんがこの喧騒を見て言った。
「わしの目指した喫茶店とは少し違うが。これはこれでいいかもしれんのう。」
ボクとおじいちゃんは喫茶店の様子を見渡す。4人ともまだ騒いでいた。
「これじゃあ、うさぎも来ませんよ。」
思わずクスッと笑みがこぼれた。
マイペースなココアさん。おっとりした千夜さん。キリッとしたリゼさん。ふわっと綺麗なシャロさん。
この人たちが織り成す喧騒も今はすごく心地いい音楽に思える。
これが、”いま”のラビットハウスだ。
「ところでチノよ。ちゃんと選ばねばならんぞ。」
「はい?」
「多重婚はこの国では無理じゃからな。」
「ボクはそんなつもりは毛頭ありません!!!!!」
後の話と比べると書いたスパンが空いているのでちょっと地の文の口調が違ったりします。機会があれば直します。