「ココアはこの連休は千夜の家なんだって?」
リゼさんがボクに尋ねてきます。ココアさんは千夜さんの家で勉強合宿をするみたいです。ついでに甘兎庵のお仕事も手伝うそうです。
「当分静かになるな」
ラビットハウスの騒がしさの7割はココアさんが元凶です。ココアさんがボケてリゼさんがツッコんで、ボクにモフモフを仕掛けてきたりととても活発です。そういえば出かける前にもモフモフの蓄えと言ってボクに抱き着いてきました。あの感触にはいまだ慣れません・・・。
「いえ・・・騒がしくなります」
「なんだって?」
そんなココアさんがいないのならラビットハウスは従来の静かな喫茶店になりそうですがそうはいきません。
「今日からマヤさんとメグさんがお泊まりに来るんです」
「やっほー!チノー!」
「お世話になりま~す」
そういった傍からマヤさんとメグさんが来ました。噂をすればなんとやらです。
「ココアがいたら喜んだろうにな」
全くです。
「ラビットハウスの制服だー!」
「ここの制服着てみたかったんだー」
お二人がラビットハウスの制服に着替えました。お客さんにもここの制服はかわいいとよく言われます。喜んでいただけてるみたいで何よりです。
「ハンドガンも貸してよー」
「調子に乗るな」
マヤさんがいつもの調子でリゼさんに話しかけます。マヤさんはリゼさんの軍人じみた行動をかっこいいと言ってました。その縁か二人はよく話しています。相性がいいのかもしれません。
「ねえ、チノくん」
「はい、なんでしょう」
制服を着たメグさんがボクに話しかけてきました。
「どうかなー」
「?」
「ラビットハウスの制服、似合ってるー?」
メグさんがその場でくるんと回って全体を見せます。その動きに合わせて長スカートのすそがひらりと舞い上がりました。
「はい。とてもよくお似合いだと思います」
ボクは感じたことをその通りに言います。元々のメグさんののほほんとした性格もあってか柔らかい雰囲気が良く出ていると思います。
「えへへー、ありがとー」
メグさんは嬉しそうににへらと笑いました。言葉が間違っていないようでホッとしました。
「むー、チノー。私はー?」
マヤさんが頬をむくれさせて尋ねてきます。ちょっと怒ってるようにも見えます。なんだろう。ボク、気にさわるようなことでも言ってしまったのでしょうか。
「え、ええ。マヤさんも似合ってると思います」
「えー。同じような感想じゃーん」
褒めたつもりなんですが余計に気を悪くさせてしまったようです。どうしたものかと悩んでいる最中。
「じゃあさ、この三人の中で一番制服が似合ってるのは誰?」
マヤさんがそう言った瞬間、店内に謎の緊張感が走りました。マヤさんもメグさんも、リゼさんまでボクの方を固く見つめてきます。
「え、えっと・・・」
時間をかければかけるほど、三人の視線は固くなっていきます。だんだんと目も細く、鋭くなっていっている気がします。ボクにかかる圧力もどんどん大きく・・・。
「チノ」
「誰が一番」
「かわいいと思う?」
・・・うかつなことを言ったら大変なことになりそうです。
「え、えっと、三人ともそれぞれ別の魅力があって・・・それぞれかわいいと思います・・・」
場を荒らさないよう、なるべく柔らかい言葉を選びました。が。
「はぁ・・・・・」
三人はがっかりとした様子でした。というか失望って言った方がいい様子です・・・。
「チノくん。こういう時はちゃんと選ばないとダメだと思うよ」
「え」
メグさんが普段からは考えられないような冷たい目線でこっちを見てきます。
「チノ、そんな態度取り続けてたらいつか刺されるぞ」
「あの」
リゼさんが冷え切った口調で怖いことを言います。
「ヘタレ」
「みなさん?」
マヤさんが突き放すような言葉を投げかけてきます。
・・・どうしよう。この空気。どうすればいいんだろう・・・。
「あの、おじいちゃん。これは一体・・・」
逃げ場を求めるようにティッピーに話しかけます。
「チノよ」
「はい」
「甲斐性を持つんじゃぞ」
「はい?」
そんなこんなで開店時間です。マヤさんとメグさんにもお仕事を手伝ってもらっています。ココアさんも今頃は甘兎庵のお仕事を手伝っているのでしょう。
「チノー。カプチーノのオーダー入ったぞー」
お客さんからカプチーノのご注文がありました。そういえばココアさんはいつもカプチーノでラテアートの練習をしていました。
「メグさん。このココアをお客様へお願いします」
「分かったよー」
メグさんがご注文の品をお客様のもとへ持っていきます。なんとなくメグさんはココアさんに雰囲気が似ている気がします。
「間違ってミルクココア出しちゃった」
メグさんがうっかりミスをしてしまったようです。そんなところもココアさんと似ています。
「ん?今飲み物作ってるの、チノだよな?」
あれ?
「チノ!さっきからミルクココアしか作ってないじゃないか!!」
リゼさんの声で我に返ります。いつの間にこんなに・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その途端、ヒュッと寒気が走った気がします。ミスをしたから怒られるのは当然ですが、それとは違う怒りのような・・・。
「何?そんなにココアがいいの?」
「・・・マヤさん?」
「ココアちゃん、かわいいもんね」
「・・・・・メグさん?」
「ココアシックになるくらい、ココアのこと考えてるんだな」
「・・・・・・・リゼさん?」
三人方がジトーッとした目でボクの方を見てきます・・・。なんだろう、今日はさっきからこんなことばかりな気が・・・・・。
「・・・カプチーノ、まだかかりそうだな・・・・・」
お客さんは4人の修羅場を見てそう直感した。
「今日は楽しかったねー」
「まだまだ夜はこれからだよ!」
色々あった一日も終わり、夜になりました。でもお二人はまだまだ元気がありまっているようです。
「何して遊ぶー?」
「クロスワードやりましょう」
「心理テストはー?」
「えー!もっとハジけろよー!」
マヤさんが不満そうに言ってきます。確かに大勢で遊ぶとなるとどちらも盛り上がりには欠けます。でもボクの部屋で遊べるものと言えばチェスくらいしか・・・。
「あっ、じゃあDVD見ない?」
メグさんから意外な提案がありました。
「DVDですか?」
「何!?アニメ!?」
「ううん。こういうの」
そう言ってメグさんが取り出したのは怖い絵が描かれたホラー映画のDVDでした。普段のメグさんからはこういうのを見るイメージは出てこないのでボクら二人ともビックリしてしまいました。
「いいじゃん!面白そう!!」
マヤさんが興味津々に身を乗り出してきます。ボクはホラー映画は苦手なのですが、お二人が見たがってそうなのでボクも従うことにしました。
部屋の電気を消してDVDの電源を点けます。こうした方が臨場感が出るとのマヤさんのアイディアです。そうして映画が始まりました。不穏な音楽からの怪しげな画面が映し出されました。
「雰囲気あるー!」
マヤさんは楽しそうです。マヤさんは日ごろからとても明るいので、こういった恐怖までものにできるのでしょう。羨ましい・・・。
そうして映画を楽しもうとした時でした。
ギュウッ
「!?」
片腕に何か柔らかいものが絡みついてきました。ふと横を見るとメグさんが僕の腕に身を預けるようにしがみついています。
「メ、メグさん・・・?」
「えへへ、ホラー映画はこうやって見るものなんだって」
「あの・・・・・」
そうは言ってもそうしがみつかれると女の子特有の色んな部分が嫌がおうにでも当たるというわけで。特にメグさんは最近色々大きくなってきてるらしく、凹凸の感触がしっかりと分かった。
「あーなるほど。じゃあ私も」
「えっ」
そう言い終わらないうちにマヤさんも反対側から抱き着いてきた。メグさん並みの大きさはしていないけど、やっぱり女の子なのかしっかり柔らかい。
「チノー。こわいー」
「えへへー」
「あっ、あっ、あの・・・・・」
映画は進み怖いシーンが映し出される。それに応じて二人はさらに強く抱き着いてくる。薄手のパジャマ越しに、皮膚の暖かさと肌の柔らかさがしっかりと感じられた。
怖いシーンが続くはずなのに、恐怖なんて一つも感じなかった。というか感じる余裕がなかった。
「ココアの言う通り、チノってモフモフだなー」
「ココアちゃんが抱き着く気持ちも分かるよー」
二人は抱き着きながらそんなことを言ってくる。二人とも映画を楽しむというよりボクをからかって楽しんでません!?
このままじゃいずれどうかしちゃいそうだ。そうなる前に振りほどこうとしたその時。
「オオウ。オーウ。アアーン」
「「「!!!?」」」
映画の中で女の人と男の人が映し出された。二人とも服は着ていなかった。何をしていたかはボクの口からは言えない。
こういうのはホラー映画の定番と聞いたことがある。でもこういう状況でこんなの映し出されるなんて・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人も予想外だったらしく、さっきまでの騒ぎようとは打って変わって押し黙ってしまった。暗くて顔は見えないけど、たぶん真赤になってると思う。
部屋の中に妙な雰囲気が流れる。そんな雰囲気と映画のシーンに飲まれ、頭が真っ白になった。そんな時。
トゥルルン トゥルルン
ボクのスマホの電源が鳴った。ココアさんからだ。
「・・・あっ。すいません。ボクちょっと出ます」
ボクはその音で我に返って部屋から出て行った。
『マヤちゃんとメグちゃん来てるのー!?私も一緒に遊びたかったなぁ』
電話の向こうでココアさんが泣いてます。本気で泣くほどのことなのでしょうか・・・。
「・・・でもココアさんと暮らし慣れてなかったら、緊張してしまってあの二人を家に呼ぶこともなかったかもしれません」
『・・・!そっかぁ!』
その言葉でココアさんは泣き止んだようです。実際にココアさんの明るさで色んな人の心が開いています。多分、ボクもその一人です。
『帰ったら、たくさん遊ぼうね!』
「・・・はい」
いつもの明るい元気なココアさんの声。聞くだけで安心できる。
明日すぐ帰ってくるのに、ボクはココアさんの帰りを心待ちにしていた。
「おいチノー!まだかー!?」
「早く映画の続き見よー」
お二人が呼ぶ声が聞こえます。・・・そういえば今の状況を忘れていた。
『映画見てたんだー』
「えっ、はい」
『何の映画?』
「えっ、えっと」
「早くー。怖いから男のチノがいないとー」
「抱き着かないと落ち着いて見れないよー」
『・・・・・チノくん?』
「あっ!!け、携帯の充電切れそうなので切りますね!!じゃあっ!!!」
反射的に思わず携帯の電源を切ってしまった。切れた携帯からはそんなはずないのに冷気が発せられているようだった・・・。
そして次の日の夜。
「あの・・・ココアさん・・・・・」
「こわいなー。チノくんがいないとこわくてみれないなー」
ボクはココアさんに抱き着かれてホラー映画を見ていました。
例によって恐怖”は”感じませんでした・・・。