クリスマスシーズン到来です。どのお店も売り方に力が入っています。
でも今年のうちの営業はつつましやかになりそうです。なぜならココアさんはバイトの掛け持ち、リゼさんは演劇の代役でバイトに来れそうにないからです。
「お店くらいボク一人で頑張れますし・・・」
「声が震えておるぞ」
雨が降りそうなので傘を持ってココアさんのバイトのお迎えに行く道中、シャロさんと千夜さんに会いました。
「リゼちゃんのモノマネだったんだけど」
「全然似てないのよーっ!」
クリスマスでも相変わらず仲が良さそうでほほえましいです。
「お店を一人で回すって大変じゃない?」
「父もいるので大丈夫ですよ」
二人とも心配してくれて嬉しいです。でもお店の跡取りとして頑張り時なので気を強く行きたいです。
「一人で無理は禁物よ?って私もリゼちゃんに言われたことなんだけど」
「先輩ならこんな感じね。頼りたいなら遠慮なく支援要請しろ!!」
「さっきの真似事の対抗だわ!」
二人とも楽しそうです。このマーケットの雰囲気がそうさせるんでしょうか。
・・・そういえば夏服を作った時に黄色と緑の布を見つけて、その分の制服を作ったことを思い出しました。お二人が着てくれたら似合いそうです。
頭にそんな考えがよぎりましたがすぐ振り払います。二人ともクリスマスは稼ぎ時で忙しいでしょう。頼りきってはいけません。自分のお店は自分の力で何とかしなくては。
またしばらく行くと今度はリゼさんとマヤさんとメグさんに会いました。マヤさんとメグさんはリゼさんにワッフルのおねだりをしていました。でも心なしかリゼさんは嬉しそうでした。
せっかくなので奢ってもらうことになりました。
「おいしー!」
「私もリゼさんみたいな高校生になるんだー」
「確かに頼りになります」
リゼさんはいつも毅然としていてお仕事でもボクとココアさんを引っ張ってくれています。性別は違うけどボクもリゼさんみたいな頼りがいのある高校生になりたいです。
「財布ぅぅぅ、忘れた・・・」
思った矢先に頼りないです。
「たまには私を頼ってくれてもいいんだよ?」
「たかっといて調子いいな!」
3人とも楽しそうです。やっぱりクリスマスという特別な雰囲気が浮かれさせるのでしょう。
「チノも頼ってくれていいんだよ?」
「リゼさんみたいにはいかないけどねー」
マヤさんメグさんが浮かれ気味でお姉さんぶってきます。
「「お姉ちゃんに任せなさーい」」
「だんだんココアさんに似てきましたね」
ホントにココアさんの影響力はすさまじいです。
「なんだか迷った気がします・・・」
「今年は出店が多いのう」
360度どこを見ても出店だらけです。これだとココアさんのバイト先を見つけるのも一苦労です。
一先ず少し休むことにしました。そうして落ち着いてみると音楽が聞こえてきます。
「・・・オルゴールの音?」
その音楽の出所をたどって行ってみると、ココアさんが焼き栗を打っていました。どうやらお店は繁盛しているみたいです。
「・・・・・・・・・・」
ココアさん、お客さんととても楽しそうにしています。ココアさんはどんな人とも楽しくなれる人みたいです。いつも一緒にいるせいかうっかり忘れていました。
・・・ちょっと、羨ましいです。
「焼き栗やさんのバイトだったんですね」
「サンタさんの恰好が評判いいんだよー」
冷え込んできた夕暮れ時の道をボクとココアさんは辿ります。
「前にサンタさんに憧れているって言ってましたから。ある意味夢が叶ったのかもですね」
「えへへ、そんなにサンタさんに見えたかな」
ココアさんがいつも通り朗らかに笑います。夢がかなって嬉しいのでしょうか。
「でもね、最近また夢が増えたんだ」
「どんな夢なんですか?」
「んー」
ココアさんは口に手を当てて顔を上げます。はぐらかすつもりなんでしょうか。
「あっ、何か降って来た」
「ごまかさないでくだ・・・傘どこかに置いてきてる!!」
うっかりしてました。これじゃあ何のための迎えなのか・・・。
「でもこれ・・・雪だよ!」
鼻にふんわりと冷たいものが当たります。今年はホワイトクリスマスみたいです。
「傘がないから踊りながら帰れるね!」
「恥ずかしいです!栗が落ちます!!」
ココアさんはボクの手を取ってグルグルと回ります。ココアさんはどんな状況でも明るく振舞えちゃう人なんです。
「ところで夢が増えたってどんな夢なんですか?」
「ん?内緒だよ!」
そんなことだろうと思いました。
「ころんだー」
「とばっちりです」
そんなこんなしているうちにそろそろ家へと付きます。でも家へと続く道に行列ができています。
「この行列なんでしょう」
「繁盛しているお店なんだね」
そう言って行列をたどって行くと。
「うちだ」
行列の基はラビットハウスでした。
「ありえない!!!」
「自虐だよ!?」
うちではお父さんの他に、リゼさんのお父さんも働いていました。どうやら青山さんの担当さんの凛さんが取材してくれた記事の雑誌が発売されたようで、その影響で話題となりお客さんが殺到したみたいです。クリスマスの時期と重なってすごい人だかりです。
「嬉しいですが、今月いっぱい忙しくなりそうですね」
「大丈夫!私バリバリ動けるよ!」
ココアさんは元気にふるまってくれています。ですが顔色には明らかに疲労の色が見えています。
「大丈夫ですよ。ココアさんは休んでてください」
「何で!?私いらない子!!?」
ガーンと効果音が鳴りそうなリアクションをしています。
「バイトを掛け持ちして疲れているでしょう?そんな状態で働いたら体に毒ですよ」
「で、でも」
「従業員の健康を考えるのも、跡取りとしての役目です。安心して休んで下さい」
そう言って説き伏せます。正直ボク一人だと大変でしょうけど、ココアさんの体の方が大切です。
「・・・・・分かった。無理しないで、大変だったら呼んでね」
「無理してるのはココアさんですよ」
これからもたくさん助けられるから、今はボクが助けてあげたい。
「制服のまま寝てしまいましたね」
「昼間から働いてたからのう」
ココアさんはすっかり熟睡しています。とても幸せそうな寝顔です。
思えばボクはたくさんの人たちに助けられています。今の今までずっと助けられっぱなしです。
この気持ちを返せるよう人になりたい・・・。
いや、返せる人になるんだ。
「お父さん。ちょっとお願いが」
クリスマス当日到来です。街も華やかで、ラビットハウスのお客の入りもすごいです。
「シャロちゃんお願い!」
「3番テーブルのオーダーね」
「ラビットハウスにようこそ!」
「ご予約のお客様こちらになります!」
今日はココアさん、リゼさんだけでなく、千夜さんとシャロさん、マヤさんとメグさんまで手伝いに来てくれています。皆さん自分のお店や受験勉強で忙しいだろうに、結局また助けてもらっています。
「フルール流ハーブティー花の滝よー!」
忙しさとコーヒーの香りで酔ったシャロさんが過剰なサービスを始めています。
「負けてられない!封じられしコラボ、コーヒーあんみついかがですか!」
千夜さんも負けじと対抗しています。幼馴染コンビネーションというヤツでしょうか。
「甘兎庵とフルールに乗っ取られとる!止めるのじゃチノ!!」
「今なら3Dラテアートサービス中です」
「聖夜が悪夢じゃあああ!!」
おじいちゃんちょっと静かに。
「マヤさんとメグさんもありがとうございます。今の時期誘っても大変かなと思っていたので」
「それはチノもでしょー」
「高校生になったら正式にバイト始められるし、先に制服作ってもらうのもいいかなーって」
「・・・ありがとうございます!」
ボクの周りは優しい人たちばかりです。やっぱりボクはたくさんの人に助けてもらってます。
でもみんなここにいるけど一人足りません。
ふとそんなことを考えるとボクの肩にポンと優しく手が置かれました。
「信じて待ちましょう」
「千夜さん」
「きっと間に合うわ」
「シャロさん」
「これだけ妹たちがいるんだからな」
「リゼさん」
そうです。あんなサンタさんみたいな人がこんな楽しいクリスマス見逃すはずがありません。すぐにでも飛んでくるでしょう。
「サンタさんだよー!!」
言ってる傍からサンタさんが来ました。
「じゃーん!正体はココアでしたー!」
「知ってます」
「作りかけの黄色と緑の制服完成させてたなんて」
「サプライズだったでしょ」
「リゼさんもマヤさんとメグさんの制服を作ってたなんて」
「裁縫は苦手じゃないしな」
こうして皆さんの制服がそろうなんて。夢みたいです。
「チノー!惚けてんなよー!」
「まだお客さんいっぱいだよー」
そうでした。まだお仕事の最中でした。
今日のために頑張ってきたことがあるんでした。
「じゃあボクからも。サプライズってわけじゃあないですけど」
「えー。なになにー?」
「じゃあお父さん、お願いします」
お父さんはこくりと頷いて準備を始めました。
ボクはお父さんと一緒に壇上へ立ちました。そしてボクもサックスを持ち準備をします。
「クリスマスの特別演奏会です。みなさん楽しんでいってください」
そう言ってお父さんと一緒にジャズを演奏し始めました。この日のために少しずつ練習してきたんです。
正直、付け焼き刃なので上手くできているか分かりません。ワンテンポ遅れているかもしれない、音がずれているかもしれないなどと思うと、本当に自分の演奏がそう聞こえてきます。でも途中でやめるわけにはいきません。ボクは構わず演奏を続けます。
お客さんもココアさん達も静かにボクたちの演奏を聞いています。
この音楽はお客さんとココアさん達に送る音楽です。
いつもみなさんに助けてもらっている気持ちを少しでも返したい。そんな思いを込めながら奏でる音楽です。
そう考えていると音楽はいつの間にか終わっていました。ただ無我夢中でした。
上手く演奏できたかな。そんな不安が胸を占めます。
一瞬の静寂がお店を支配した後。
お店の中が拍手で包まれました。
「すげーやチノ!」
「サックス弾けるなんてかっこいいよー!」
「この日のために練習してたのね」
「きっと毎日頑張ってたのね」
「ココア、私たちサプライズ負けしたみたいだな、って泣いてる!?」
「うぇーんっ、ぐすっ、すごくがんばったんだねチノくん!」
どうやら演奏会は成功したみたいです。ホッとしたら眠くなってきました。
「大丈夫チノくん!?」
「ごめんなさい、最近あんまり寝てなくて」
「徹夜して練習頑張ってたんだな」
「あとは私たちに任せて、ゆっくり休んで」
「でも皆さんもお疲れなのに、そんな・・・」
「人に頼れるときは頼った方がいいわ」
「そうだぞー。演奏会で十分すぎるほど働いたんだからな」
「あとは私たちが頑張るからー」
結局皆さんに助けられてしまいました。この分もまた返さなくちゃいけませんね。
「いえ、せっかくのクリスマス。もっと皆さんと一緒に働きたいです。だからもう少し頑張らせてください」
これはお返しじゃあないです。ボクのわがままです。
「・・・・・わかった。でも無理しないでお姉ちゃんたちに言うんだよ?」
「はい」
ココアさんはもうとっくに、十分すぎるほどサンタさんです。
「タカヒロよ。サキのやつは想像しておったじゃろうか」
「ん?」
「作りかけの制服が完成することを。新しい二色の制服が作られることを」
「・・・・・」
「これはあやつが夢見ていた以上の光景じゃ」
「・・・・・・ふっ」
「ところでチノのやつ、だんだんとお前に似てきたんじゃあないか?」
「女たらしのところは親父に似ていると思うが」
「なんじゃと?」
ラビットハウスでのパーティーも終わり夜も更けたころ、ボクはココアさんの部屋に忍び込んでいました。別にいかがわしいことをするつもりはないです。
(起きたらびっくりするでしょう)
こっそりココアさんの枕元にプレゼントを置くつもりです。去年の仕返しです。
そう思った矢先。
ピピピピピピピピッ
「目覚ましが!」
「サンタの時間だ!!」
「こういう時だけすぐ起きる!!!」
「やっぱりボクにも仕掛けようとしていたんですね」
「おあいこだね」
サプライズじゃあココアさんには叶わないかもしれません。
「開けてみて」
ボクはココアさんのプレゼントを開けます。中には手作りと思われる時計が出てきました。
「ずっと一緒にいるからね。普段使えるものがいいかなって」
「!!」
ココアさんの発言にドキッとしてしまいました。多分自覚はしていないでしょうけど・・・。
「ボクのプレゼントが普通に感じてしまいます・・・」
多分、ココアさんには一生かなわないんだろうな。
翌朝、ココアさんのプレゼントの時計がけたたましく鳴り響きました。
『おっはよー朝だよ!お姉ちゃんと一緒にレッツダンス♪』
「このうるさいの止め方教えてください!!」
「時計、喜んでくれて良かったなー」
チノくんとのプレゼント交換を終えて、ベッドの中にくるまりながら独り言をつぶやいた。
今日のチノくん、カッコよかったなぁ。まさかジャズを練習してたなんて、お姉ちゃんサプライズ負けしちゃった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
チノくんのお母さんはジャズの演奏に合わせて歌を歌っていたらしい。
私もいつか歌えるようになるのかな。
「夢、叶うといいな」
私のプレゼントに込めた思い、届いてるといいな。