ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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ちょっとバレンタインには早いですが、アイディアが湧きたてのうちに。


チノくんとバレンタイン

 いつの間にか新年が明け、ボクもすっかり受験生となっていました。三年前はあんなに遠く感じた受験が今では近くにあります。時がたつのは早いものです。

 そんなボクは高校受験のための勉強をしているのですが。

 「チノくん。今からキッチンを絶対覗いちゃいけないよ」

 「・・・・・。バレンタインの準備ですか」

 無邪気な姉たちはすっかりバレンタインムードのようです。

 「チョコ作ったらしっかり後片付けしてくださいね」

 「冷めててつまらない!」

 

 

 「勉強中の糖分の摂取はとてもいいことなんだよ」

 「チョコにはポリフェノールがたっぷり含まれているの。脳を活性化させる効果があるのよ」

 「げ、原料のカカオはリラックス効果もあるし体にいいことづくめ・・・。毎日差し入れしたいくらいな・・・の」

 どさーっ

 「大事な時に体調崩さないようにね!」

 「崩れながらアピールされても」

 そんなに上に乗ってるからです。シャロさんがもう限界だったようです。

 

 「そういえばリゼちゃん。さっきからずっと黙ってるけどどうかしたの?」

 言われてみると確かに、こういう時真っ先に激励を飛ばしてくれそうなリゼさんが黙りこくっています。どうしたのでしょうか。

 「だだだ、男子にチョコを渡す、なんて・・・」

 顔を真っ赤にしてプルプル震えていました。生まれたてのうさぎのようです。

 「か、勘違いするなよ!バレンタインとは本来親愛なる人に感謝を伝える日なんだからな!!あくまで感謝なんだからな!!!」

 「リゼ先輩ツンデレです!!」

 不器用さが空廻って今時珍しいツンデレになっています。

 「私もお姉ちゃんに教えてもらった!」

 「じゃあタカヒロさんたちにも渡さないとね」

 「ティッピーにもね」

 どうやらお父さんたちにもチョコを渡してくれるようです。うちの父たちにも親愛さを感じてくれている事実に少し嬉しくなります。

 「あーもう。作戦会議なら外でお願いします」

 「はーい。楽しみにしててね!」

 そう言いながらボクはぎゅうぎゅうにたむろっているココアさん達を部屋から押し出しました。

 「まったく」

 こっちは受験というのに騒々しいですね。

 「困ったお姉ちゃんたちです」

 でも本当はすごく嬉しかったりします。

 

 「リゼ先輩!!ああいうことは言わないでおこうってみんなで話したじゃないですか!!」

 「す、すまない・・・。男子にチョコを送るという事実に耐えられなくなって・・・」

 「でもどうしよう・・・。男の子にチョコを送るってすごく緊張する・・・」

 「だだだだ大丈夫だよよよわわわ私たちはおおお姉ちゃんなんだから!!」

 「「「ココア(ちゃん)が一番大丈夫に見えない!!!」」」

 

 

 「言っとくけどチノだけじゃなくてチマメ隊全員にあげるんだからな」

 「分かってるってー」

 そう。今回はバレンタインという名目で、チノくんたちに受験を頑張ってもらうための励ましに手作りチョコレートをプレゼントするの。受験勉強ってとっても大変だから良い息抜きになってくれるといいなあ。

 「でもチノくんの、同じ味付けで大丈夫かしら」

 「女子と男子じゃあ味覚が違うって言うし」

 「いや、チノなら大丈夫だろう」

 私もそう思う。チノくんはコーヒーもミルクと砂糖入れないと飲めないくらいには甘いもの好きだから。あまり大人なチョコレートを嗜むようには見えなかった。

 「チノくんはむしろウサギ型のチョコくらいじゃないと喜ばないよ」

 「だろうな」

 「あー・・・」

 「確かに・・・」

 

 「へっくしっ!風邪かな・・・」

 

 

 「チマメ隊の受験合格は私たちのチョコにかかっている!みんなあきらめるなー!!」

 「「「おー!!」」」

 それから、多くのチョコが生まれ、消えた。

 友情、裏切り、葛藤、様々な感情とともに・・・。

 だが彼女たちは止まらない!大切な人たちの笑顔を見るために!!

 

 「でもキッチンは壊さないでね・・・」

 「そっとしておこう。親父」

 

 

 

 「「「「ダメだー・・・・・」」」」

 色んなアレンジ加えてみたけど、チノくん達の息抜きになるようなチョコができないよ・・・。

 「餡子とチョコの調和がこんなに難しいなんて・・・」

 「いつもの紅茶ならもっとハーブを扱えるのに・・・」

 「チョコに合うパンすら作れないなんて・・・。お姉ちゃん失格だよ・・・」

 「お前ら変なアレンジやめろ・・・。味見役の気持ちにもなれ、うっぷ・・・」

 このままじゃあチョコが出来上がる前に受験が終わっちゃう・・・。

 お姉ちゃんとして少しでもチノくん達の力になれればと思ったんだけどな・・・。

 

 ガチャッ

 

 「あの・・・」

 「チノくん!来ちゃったの!?」

 下の階で騒がしくしすぎちゃったかな。上で集中して勉強してただろうに。

 「あれ、チノくんそれ・・・」

 「皆さんの息抜きにとホットチョコレート作ってみました。チョコは体にいいんですよね」

 「チノくん・・・」

 勉強で忙しいのに、私たちのためにわざわざ作ってくれるなんて。

 「良かったらどうぞ」

 「あ、ありがとう」

 「男子からチョコレート貰うなんて、なんだか逆だな」

 「これ、ホワイトデーには3倍にして返すべきかしら」

 「えっ、いや!別にそういうつもりじゃ・・・!」

 チノくんが顔を真っ赤にして否定する。別にそこまで否定しなくてもいいんじゃないかな・・・。

 「バレンタインは・・・。親愛な人たちへの感謝の日ですし・・・」

 「チノくん・・・」

 「でも・・・。やっぱり男がチョコを渡すなんて変でしたかね・・・」

 「・・・・・! ううん!そんなことないよ!!」

 誰かを大切に想う気持ちに、男の子も女の子も関係ないよ!

 「ありがとうチノくん!すごく元気出てきた!!」

 「本当に立場が逆ですね」

 「えへへ」

 「チノ、待ってろ!最強の息抜きになるチョコを楽しみにしていろ!!」

 「・・・はい!」

 チノくんのチョコレートを飲んでみんな元気が出てきたみたい。

 私たちからもこれ以上の元気をチノくん達に与えてみせるんだから!

 

 

 ココアさん達は再びキッチンにこもってチョコレートを作り始めました。

 「親愛な人たちに感謝・・・」

 男として女子たちからチョコレートを貰えるのはとても嬉しいです。でもそれ以上に、たくさんの人たちに大切に想われているということが何より嬉しかったです。

 ボク達のために、あんなに頑張ってくれて。

 「ボクも頑張らなくちゃ」

 あの努力に必ず答えてあげたい。

 そう思うと俄然やる気が出てきました。

 

 

 今日はバレンタイン当日です。みんなで集まって息抜きにたくさんのチョコを食べています。

 「美味しー!」「ココアちゃん、みんな、ありがとー!」

 マヤさんもメグさんも一心不乱にチョコを詰め込んでいます。

 「いい食べっぷりですなー。応援の気持ちたくさん込めたからねー!」

 「うんっ・・・!」「がんばる・・・!」

 マヤさんメグさんもチョコの中のココアさん達の想いを感じ取ったようです。これならまた勉強のやる気も出るでしょう。

 「あっそうだ。チノに渡したいものがあったんだ」

 「えっ?ボクに?」

 「はいこれ。バレンタインのチョコレート!」

 そう言ってマヤさんメグさんはボクにラッピングした手作りのチョコレートを差し出してきました。

 「二人とも、勉強で忙しかったんじゃ・・・」

 「だ、だって今日はバレンタインだし・・・」

 「違う高校行くチノくんにも頑張ってほしかったからー」

 メグさんはいつものように朗らかな笑顔で、マヤさんは顔を赤くして目を背けながら渡してきました。

 「ありがとうございます・・・!」

 ボクは今、たくさんの人たちに支えられてる。

 それだけでどんなことでも頑張れそうだ。

 「じゃあボクも今からホットチョコレート作りますね。バレンタインのプレゼントです」

 「ええ!それじゃあバレンタインの意味ないじゃん!」

 「マヤちゃん本命だったのー?」

 「ち、ちげーし!」

 「えっへん。チノくんのホットチョコレートは凄いんだよ」

 「飲むだけでやる気が満ち溢れてくるのよね」

 「結局みんなお互いでチョコレート渡しあっちゃったわね」

 「まあいいんじゃないか?良い息抜きにはなっただろうし」

 受験シーズンにしてはちょっと騒がしいけどこれでいいです。

 今日はバレンタイン。お互いがお互いに感謝を伝え合う日ですから。

 

 

  「チノくん」

 「はい?どうしました?」

 ボクはその夜、ココアさんに呼び止められました。なんだか顔を赤くしてもじもじしている様子です。

 「あ、あの。これっ」

 「?」

 差し出されたものを見てみるとそれは、包装紙にまかれラッピングされたチョコレートでした。

 「バレンタインのチョコなら皆さんから受け取ったはずですけど・・・」

 今日の昼に、ココアさん達が苦心して作り上げた応援用のチョコレートをチマメ隊全員で美味しくいただきました。渡し忘れがあったのでしょうか。

 「え、えっと、違くてね・・・」

 「?」

 「それとは、別のやつの・・・」

 話しているうちに段々とココアさんの声がか細くなっていっています。顔もどんどん赤く・・・。

 「ごめん・・・。チョコ、食べ飽きてるかもしれないけど・・・」

 いつもの元気なココアさんとは全然違います。なんだろうか、しおしおになった花束見たいです。

 「・・・そんなことないです」

 「えっ」

 「心を込めて作ってくださったものですから。どんなに貰っても嬉しいです」

 ココアさんはいつもボクの心の支えになってくれている。

 むしろこっちからもっと感謝の想いを伝えたいくらいです。

 「ありがとうございます。ココアさん」

 「・・・!! うん!こちらこそありがとう!!」

 ココアさんの顔に笑顔が戻りました。この笑顔にいつも助けられています。

 チョコレート、大事に食べないとな。

 

 

 「ち、チノっ。これっ」

 「昨日渡しそびれたやつがあるから・・・」

 「おおお落ち着いてねななな何も特別な意味があるわけじゃなななくてね」

 その翌日、リゼさん達からも別にチョコレートを貰いました。

 嬉しいのですが体中が甘ったるくなりそうです・・・。

 

 




書いてて思ったんですがごちうさって意外とキャラの口調や性格の再現が難しいです。すごいバランスで構成された作品なんですね。

あとウサギにチョコって毒じゃなかろうか…

追記 2/20:文章の内容の一部を変更させていただきました。急な変更で申し訳ありません。

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