こんにちは、ラビットハウスの跡取り息子のチノです。
今、どういう状況かというと
「すぅ、すぅ、むにゃむにゃ・・・」
ボクの横でココアさんが寝ています・・・・・・
「ここのピースは・・・ここかな!?」
その夜、ボクは同居人のココアさんと遊んでいました。新しく買ったジクソーパズルを一緒に組み立ててます。
「もうこんな時間。そろそろ寝ましょう」
「えー!もう少しで完成なのにー!」
「ダメです。また明日寝坊しますよ」
ココアさんは朝に弱いんです。ボクが部屋に起こしに行っても中々起きないくらい。
「明日も学校がありますから、遅刻するのは嫌でしょう」
「むー」
ココアさんは一応ボクより年上のはずなのにすごく子供っぽい。お姉ちゃんと呼ぶことを要求してきますがとても姉としては見れないくらいです。
「じゃあさ!明日の夜こそ完成させようね!」
ずいっとココアさんが身を乗り出してきました。その瞬間、ボクの鼻に一瞬甘い香りが漂いました。
「・・・あっ、はい。」
「やったー!」
やっぱりココアさんは姉として見れない。サラサラの髪、丸く大きな瞳、それなりにふくよかな胸、健康的な腿。
思春期男子のボクにとってココアさんは魅力的な異性としてしか見れない。なんでこんなかわいい人が思春期男子と平気で同居できてるんだろう。危機感をもう少し感じた方がいいのでは・・・
「ふふっ、明日の夜が楽しみだね!チノくん!!」
微妙にドギマギするようなことを臆面もなく言い放ってくる。自分が一人の女性という自覚があるのでしょうか・・・
ふわぁ・・・
(何か・・・いい匂いがする・・・)
ケーキみたいな焼きたてのパンみたいな、柔らかで優しい匂い。
昔嗅いだことがあるような匂い。
もふんっ
(それに柔らかい・・・)
フワフワのパンみたいな、モフモフしたうさぎみたいな感触。
これも昔から馴染みがあるような・・・。
(そしてあったかい・・・・・)
お日様の光をたくさん浴びた布団みたいな暖かさだった。
ああ、この感覚・・・・・
(お母さん・・・・・・・・)
そう思い、まどろみの中で目を開けると。
ボクはココアさんの胸の中に埋まっていた。
「――――――っ!!――――――――――――っっっ!!!!」
真夜中だというのに声にならない叫びを上げてしまった。
「それで・・・何でボクの横で寝ていたんです・・・?」
さっきの叫びでココアさんも目を覚ましました。ココアさんは正座でボクの尋問を受けています。
「えっと、あの、えへへ・・・」
ココアさんは顔を赤らめて歯切れの悪い返事をしている。ボクもさっきの感触やら匂いやらが忘れられず、まともにココアさんの顔を見ることができません・・・。
「あのね、夜中にトイレに起きてね」
ようやくココアさんが弁解し始めました。
「トイレのついでにチノくんの寝顔を少し見ようかなーなんて思ってチノくんの部屋に入って」
「何でボクの寝顔なんか・・・」
「弟の可愛い寝顔は姉として見たくなるものだよ!」
「弟じゃないです・・・」
少し歯切れは悪いようですがいつものココアさんみたいです。
「それでね、チノくんの寝顔をベッドの横で見てたら・・・」
ココアさんの口調の歯切れがさらに悪くなり、もじもじし始めました。
「寝ぼけたチノくんに・・・ベッドに引き込まれて・・・・・」
「・・・・・え?」
「結構強い力だったから出るに出られなくて・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そのまま寝ちゃって、今に至ります・・・・・・・・」
途端に顔が火みたいに熱くなって、周りがぐるぐるし始めました。
「チノくーーーーーんっ!!しっかりしてーーーーーーっっ!!!!」
倒れたボクの顔を、ココアさんは優しくうちわで仰いでくれています。
「ごめんねチノくん。大丈夫?」
「・・・えぇ。なんとか・・・・・」
真夜中だというのにかいがいしく他人を介抱してくれている、やっぱりココアさんはとてもやさしい人なんだなと思わせてくれます。
・・・・・いや、そんなことより・・・・・
「ココアさん・・・」
「あっ。ダメだよ、まだ寝てなきゃ」
ボクはココアさんに向き直り正座しました。
「すいませんでした・・・」
「えっ?」
今のボクは正座した状態でおでこを地面につけている。いわゆるジャパニーズ・ドゲザです。
「そんなことしなくてもいいよ!チノくん、何も悪いことしてないでしょ!?」
「いえ、女の子をベッドに引きこむなんて、間違いでもあってはいけないことです」
土下座した状態でボクは弁明する。そうだ。嫁入り前の女の子を無理やりベッドに引き込んだのは事実だ。ココアさんは居候しているけど他人なんだ。下手しなくても犯罪ものだ。
「土下座したくらいで許されることじゃないでしょうけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ほかに気が済むようなことがあれば言ってください。なるべく何でもしますから」
「・・・・・じゃあ、顔上げて」
「・・・・・・・・」
ボクはゆっくりと顔を上げる。少しココアさんは厳しめの顔をしていた。
「チノくん・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ていっ」
「いたっ」
ボクの額に軽いデコピンが飛んできた。
「チノくん、そんなに自分を安売りしちゃダメ」
ちょっと怒った口調でココアさんは言う。
「それに一緒に住んでるし、お互い迷惑かけあうのは当たり前でしょ?」
口調が少し優しくなった。額の方はまだ少しジンジンしている。
「まだ家族って言える距離感じゃないかもだけど、少しくらい迷惑かけ合えるくらいの仲だと思ってたよ」
だから土下座の方がショックだったかな~、なんていつも通り子供みたいな話し方で言う。
・・・なんだろう、今は、今だけは・・・・・
ココアさんがすごくお姉さんに見えます・・・・・
「それよりもどうしようかなー。ちょっとビックリしちゃって目が冴えちゃった」
いつも通りのあっけらかんとしたココアさんに戻りました。さっきまで姉に見えてたのに今はそうには見えません。
「でも明日は学校だし、早く寝ないとだね」
「・・・・・・・・今日は」
「ん?」
「今日は、少し、夜ふかししたい気分です・・・・・」
だから一緒に夜ふかししてくれませんか、と気づいたら口に出てました。自分でも迷惑なのは分かっているんですけど。
「ふふっ」
でもココアさんは優しく微笑んでくれました。
「いいよ!お姉ちゃんと一緒に夜更かししよっか!」
ココアさんは満面の笑みで答えます。ボクも釣られて笑顔になります。
「じゃあさっきのジグソーパズル、今夜中に完成させちゃおう!かわいい弟の頼みだもんね!」
「弟じゃないです」
作りかけのジグソーパズルを出しながらいつも通りのやり取りをする。
家族や友達とは違う、もちろん恋人でもない、ちょっと一言では言い表しにくい関係だけど。
気軽に迷惑を言い合える関係、そんな関係でずっといられたら、とボクは思った。
その翌朝、またボクのすぐ横にココアさんが寝ていて、ボクの絶叫が響き渡ったのは別の話です。
チノくんは私にとって弟みたいなものなんだ。
兄妹の中でも末っ子だったから、ずっと妹か弟が欲しくって。
だからラビットハウスに来てチノくんと一緒に過ごせるようになって嬉しかったんだ。何か弟ができて、憧れのお姉ちゃんになれたみたいで。
だからね、チノくんのこと男の子としては見てなかったんだと思う。
でも今は。
(チノくん、意外と力強かったんだ・・・)
今は。
(少し筋肉もあるし・・・女の子とは全然違うな・・・・・)
今はチノくんのこと、弟じゃなくて男の子として見ちゃうんだ。
ジクソーパズルをしながら、チラチラ見えるチノくんの胸板を見ながら少しいけないことを考えてしまう。
(まだ家族って言える距離感じゃないかもだけど)
もしも、もしも将来そう言える関係になれたら。そんな思いが頭を通り抜けて、私はブンブン頭を振り払った。
「? どうかしました?ココアさん?」
「ううん!なんでもない!!」
そう言い放った私の顔は、火みたいに熱かった気がする。
ココアさん、チノちゃんが男の子だったらいずれ"男"として意識していくのかな、と妄想しながら書いた