ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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チノくんと卒業

 『ねえ!私たちと冒険しない!?』

 『さっき宝の地図を見つけたの!』

 あの出会いから三年。

 『チノが仲間に加わった!』

 『テッテレー♪』

 『むりやり!?』

 ついに・・・。

 「卒業式終わったー」

 「長いようで短かったですね」

 「というわけで、チマメ隊解散!!」

 「「えっ!?」」

 別れの季節がやってきました。

 

 

 「うそうそ!冗談だよ!!みんな感傷モードだったから二人にも泣いてもらいたかっただけ」

 「逆効果です」

 卒業式でもいつも通りのマヤさんですが、きっとボクとメグさん二人がしんみりしすぎないよう気を回してくれたのでしょう。やっぱり優しい人です。

 「大丈夫だよ。チマメ隊は永遠・・・。この絆は誰にも引き裂けないんだから」

 「メグさん・・・」

 メグさんも相変わらずぽわぽわしています。でもこのぽわぽわさに大変な時でも和まされてきました。これからも変わらないでほしいです。

 「あ、あの!」

 「香風先輩!!」

 「ん?」

 後ろから誰かに呼び止められて振り向くと、そこには下級生の後輩たちがいました。ちょっとモジモジしているようですがどうしたのでしょうか。

 「「制服の第2ボタンください!!!」」

 「えっ」

 卒業式の恒例行事とは聞いていましたが、まさかボクの所にも来るとは思っても見ませんでした。卒業式という雰囲気がそうさせるのでしょうか。

 「わっ、わたしも!!」「私も欲しいです!!」「お願いします!!」

 「え、え~っと」

 いつの間にか続々と後輩の女子たちが集まってきていました。当たり前ですが第2ボタンには限りがあるのでみんなにはあげられません。困ったな・・・。

 「ま、マヤさん、メグさん。ちょっと助けていただきたいのですが・・・」

 ボクはすがりつくようにマヤさんとメグさんに助けを求めます。ですが。

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「あ、あの・・・・・」

 「さあ、かえって旅行の準備しなきゃ」

 「私もやらないと」

 「そんなあっさり!!?」

 二人とも信じられないくらい冷たい目で一瞥してきて、我関せずと去っていきました・・・。

 

 

 「ちょ、ちょっと待ってください二人とも!!」

 「ぷーん」

 「つーん」

 チノが後輩たちを振り払ったのか、私たちを追いかけてきた。でも気に入らないから無視してる。

 「そのままたくさんの女の子たちに囲まれてれば良かったのに」

 「チノくん、モテモテだったね」

 「さっきまでの友情はどこに!?」

 いつも通りチノはあわあわしてる。メグも気に入らないのか、いつもより態度が冷たい。

 なんでチノなんかの第2ボタンなんか欲しがるんだよ。見た目も女の子みたいだし、たまにしか男らしくないのに。そう考えると余計ムカムカしてきた。

 「それより何か用?」

 「クラスのみんなとのお別れも終わったし、大体は済んだよね?」

 「あ、あのっ」

 そう言ってチノは何かの紙切れを持ち出してきた。

 「今からシストしませんか!?最初の日みたいに!」

 「えっ」「・・・」

 チノが持ってるのは宝探しゲーム「シスト」の地図みたい。そういえばチノと最初に出会った日には私たち二人がチノをシストに誘ったっけ。覚えててくれたんだ。

 「さっきの子たちの相手しなくていいの~?」

 「かわいい子たちがたくさんいたじゃ~ん」

 私もメグもちょっと意地悪するように言う。チノは男の子だし、たくさんの女子にモテた方が嬉しいだろうし。

 「いえ、二人との今の時間を大切にしたいですから」

 「っ・・・・・」「・・・・・」

 なんだよ・・・。チノのくせに・・・。

 ちょっとカッコいいこと言っちゃってさ・・・。

 「しょうがないな~チノは~。いきなりだな~も~」

 「無理やりだな~も~」

 「二人には言われたくないです」

 ようやっといつものチマメ隊の雰囲気に戻った。全く、しょうがないチノだよ。

 でもいつもと違うのは。

 顔が火みたいに熱いってこと。

 「・・・・・・・・」

 横を見るとそれはメグも同じみたい。顔は何とかなんでもない感出してるけど、耳が真っ赤だ。

 でも、照れくさい以上に嬉しさが勝ってたのも本当なんだ。

 

 

 「この抜け穴、目的地までの近道になるよ」

 「一年生の時にも通ったね」

 そう言ってマヤさんが指さしたのはレンガの壁に空いた小さな穴でした。あの頃はみんなすんなり通れてしまいました。ボクも男なのに、女の子の二人と同じように通れてしまい少しショックだった思い出があります・・・。

 「ココアだけ通れなかったよなー」

 「一人残って追っ手を食い止めてくれてたよねー」

 あの頃はココアさんも混じってシストをやっていました。ボク達より年が上なのに、自然と混じって遊べるなんてある意味凄い人だと思いました。

 「それより前は葉っぱでふさがれてて通れなかったよね」

 ボクがまだ中学に入学したころの話です。あの頃は知らない環境と知らない人だらけで先行きが不安でした。だから性別の垣根を越えて友達になってくれた二人には感謝しかありません。

 「チノがバリスタの力で壁を吹き飛ばしてくれたんだよなー」

 「ねー」

 「記憶がねつ造されてます」

 

 「狭いけど通れたよー」

 壁の向こうからマヤさんが喋りかけてきてます。成長して体が大きくなったと思っていましたが、どうやらまだ成長の余地があるようです。

 「私も通れたけど胸が苦しくて通りにくかったよー。マヤちゃん何で通れたの?」

 「メグはここに置いていこう」

 「なんでー!?」

 どうやらちゃんと成長しているようです。確かに制服とか見ても少し膨らんできてたような・・・。

 「チノ、通ってきたらちょっとどつくからな」

 「な、何も言ってませんよ」

 思考が見透かされたようでビクッとしました。気を取り直してボクも通ろうとします。

 「あれ?」

 「どうしたのチノくん?」

 通ろうとはしました。頑張って通ろうとするのですが。

 「きつくて通れない・・・」

 

 「どうしよう!チノくんだけ置いてかれちゃうよ!」

 「チノには残って追っ手を食い止めてもらうしか・・・」

 やっぱり男子と女子では成長の仕方に差異があったようです。ちゃんと成長してることを実感できて少し嬉しくなりました。

 でもどうしたものでしょう。ここを通らなければ宝にはたどり着けません。でも無理をしても通れそうにはありません。

 少し考えて上を見上げます。乗り越えるにはちょっと高めの壁です。

 「・・・・・・・・」

 考えが浮かびましたがどう考えても危ないです。でも、それ以外に方法は見当たりません。

 「二人とも」

 「どうしたの?」

 「やっぱ戻るかー?」

 「ちょっと壁から離れててもらえますか?」

 そう呼びかけて向こうの壁から二人を遠ざけます。もし事故でも起きたら危ないからです。

 「ふぅー」

 息を吐いてリラックスして、手足をほぐします。

 「はっ」

 そして勢いを付けて、レンガの壁を登りました。

 割とデコボコしてたので、多少の足掛かりはあります。でもやはり力がないと登れないくらいには高いです。

 「はっ、と」

怪我をしないよう注意しながら壁を登り切り、周囲に何もないか確認してから壁から飛び降りました。

「お待たせしました」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

「・・・? 二人とも、どうかしましたか?」

 マヤさんもメグさんも、呆けたかのようにこちらを見ていました。鳩が豆鉄砲を食らったというか、目が点になってるといった感じです。

 「あっ、壁登れるなんてビックリしちゃって」

 「・・・ちょっとは成長してるじゃん」

 何でかはよく分かりませんが、二人とも心なしか顔が赤かったです。もう季節は春真っ盛りなので、ちょっと暑いのかもしれません。

 

 

 「発見!」

 「簡単でしたね」

 「私たち、シストのプロだからね」

 とうとう宝を見つけました。横長の高級そうな宝箱です。

 「珍しいねー」

 「レアアイテムの予感」

 ボク達はドキドキしながら宝箱を開けました。そこに入っていたのは・・・。

 「卒業証書だー!」

 「高校生組の手作りかよ!」

 「やられました」

 どうやらココアさん達に先取りされてしまっていたようです。ボク達も成長してココアさん達に追いついたかと思っていましたが、どうやらまだまだ追いつけないようです。

 「こんなサプライズができる高校生になりたいな」

 「二人は高校に行っても同じクラスになりそうですね」

 二人は小さなころからずっと一緒な幼馴染らしいです。これからもその縁は続いていくのでしょう。

 「「その可能性は低いよね?」」

 「現実的!」

 思っていたよりリアリストでした。もうすぐ高校生だからでしょうか。

 「昔からクラス一緒だったし」

 「倦怠感あるね」

 「「そろそろ離れる時が来た」」

 「ドライすぎます」

 どんどん年を取って大人になっていきますが、変わらないでいてほしいものもあります。

 

 「千夜ちゃん!クラスが離れても心は一緒だよ!!」

 「ココアちゃん!離れていても絆を見せつけてやりましょうね!!」

 「千夜ちゃん!!」

「ココアちゃん!!」

 

「あっちは逆にアツいです」

たまたまココアさん達の卒業(クラスが変わるだけだけど)の様子を見てしまいました。

大きくなってもココアさん達くらい子供の心を持ち続けたいです。

・・・いや、あれ程までじゃなくていいかな。

 

 

 「色んな卒業の形があるんですね」

 「高校生活も楽しみ!」

 これで本当に中学も卒業です。シストをやり終わったら急に終わりを実感してきました。

 「チノ、私たち無しで大丈夫かー?」

 「大丈夫です。もう高校生なんですから」

 「別の高校行っても遊ぼうね」

 「メグさん・・・ありがとうございます」

 二人はリゼさんが通うお嬢様学校へ行きます。だからもちろんボクとは別々の高校になります。

 「遊べるといいな・・・」

 「マヤさん・・・?」

 急にマヤさんがしおらしくなりました。まさにシュンとしているといった感じです。

 「ほら、私たち男子と女子だし。やっぱ高校生になったら彼氏彼女でもない限りあんまり男女同士で遊ばないんじゃないかなって」

 「マヤちゃん・・・」

 マヤさんに連れられてメグさんもシュンとし始めました。

 高校生になったらさらに大人に近づきます。そうしたら男女の関係も今より変化するでしょう。

 ボクたちの関係も例外じゃないのかもしれません。

 「いえ、大丈夫です」

 「えっ」「チノくん・・・?」

 「男女とかそういうの関係なしに、大切な友達である二人との今の時間を大切にしたいんです」

 大人になっても変わらない物があると思う。例えわがままでもそれはいつまでも大切にしたい。

 「だから、高校生になっても遊んでくれますか?」

 「・・・しょーがないなー!」

 「私たちズッ友だからね!」

 二人に笑顔が戻りました。どんなに大人になってもこの笑顔が見られるといいな。

 「ところでチノー。高校生になったら男子の友達も作りなよー」

 「えっ」

 「女の子ばかりと遊んでたら学校で噂されちゃうよー」

 「いますから!一応!男子の友達も!!」

 卒業式だというのにいつも通りのチマメ隊です。

 「あれ、メグ泣いてる?」

 「ココアちゃんたち見たらもらい泣きしちゃって。マヤちゃんこそ」

 「こっ、これはあくびしただけっ」

 「ぷぷっ」

 「チノは何笑ってんの」

 「最初ドライだったのに、差がおかしくて」

 「やっぱり泣いてるじゃん」

 春は別れの季節と言います。でもそれ以上に、友情を深め合える季節です。

 「ねぇ、あれやりたい!卒業式に帽子投げるやつ!」

 「あれは特殊な学校だけな気が」

 「まぁいいじゃん」

 「じゃあ行くよー」

「せーのっ」

「「「おめでとう!わたし(ボク)たち!!」」」

春のそよ風と桜並木に、青い帽子が宙を舞いました。

 

 

 

「ねえメグ」

「なに?マヤちゃん?」

「高校生になったら負けないからな」

「私だって」

「ふふん」

「でもその前にココアちゃん倒さないとね」

「いきなり大ボスじゃん・・・」

 

 




そろそろ旅行編を書いていきたいと思っています。
旅行編からのチノちゃんの成長物語が好きなので。
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