「みんなー、今日の予定はもう決めてる?」
都会に来た翌日の朝、皆さんと一緒に朝食をとりながら今日の予定について話し合っていました。
「シャロさんとクラッシックバレエ見に行くよ!」
「ね」
「レンタル自転車で街を走ろうかと」
「同じく~」
皆さん都会をエンジョイする気満々らしいです。木組みの街ではできない様々なことを少しでも多く体験して帰りたいのでしょう。
かく言うボクもその一人ですが。
「チノくんと千夜ちゃんは?」
ココアさんに聞かれてボクは街の様々なお店が乗っている雑誌を取り出しました。
「その付箋を貼ったところに行きたいのね」
気になったようで千夜さんが尋ねてきます。一通り読んで気になったところにはあらかじめ付箋を貼っておきました。
「これ全部喫茶店です」
「そんなに巡るの!?」
ちょっと多すぎたかもしれませんが。
「私と同じだわー!」
「千夜さん・・・!」
千夜さんも同じく付箋を大量に貼った雑誌を取り出してきました。どうやらボクと考えは同じだったようです。
「喫茶店の跡継ぎとして勉強は大事だものね!」
「はいっ」
千夜さんとは祖父母の代が作った喫茶店の跡取りになるという同じ将来の夢を持っています。前にお互い立派な看板娘と息子になろうと誓い合った仲です。だから目的が一緒になるのもある意味必然かもしれません。
正直一人で回るのに少し不安を覚えていました。だから今少しホッとしている自分がいます。
「いいなー。一緒に行きたい!」
「ココアさん自転車乗りたいってさっき言ってましたよね」
「う゛っ」
ココアさんが持ち前の姉ぶりを発揮してきましたが今日は行き先が違います。まったく、しょうがないココアさんです。
「ボク達“カフェ友”の間に入るのはまだ早いですよ」
「今結成したばっかなのに!!」
「千夜ちゃん千夜ちゃん」
「ん?なあにココアちゃん?」
チノくんと一緒に喫茶店巡りをしようと準備してたらココアちゃんに呼び止められたわ。どうかしたのかしら。
「今日はチノくんをよろしくね。私付いていけないから」
「・・・うんっ。任せといてっ♪」
ココアちゃんったら、チノくんのことが心配なのね。血は繋がってないけど本物の弟みたいに思ってるのね。
「お姉ちゃんに任せなさーい」
「ああっ、なんだかお姉ちゃんポジションがとられる予感!」
違った、どうやらココアちゃんがチノくんを見てる目には姉として以外の視線もあるみたい。
「大丈夫、親友のココアちゃんの大切なチノくんを取ったりはしないわ」
「う、うん・・・ありがとう、千夜ちゃん」
「というか大丈夫かしら!?今になって考えると男の子と一緒に出掛けるなんて初めてで・・・!!」
「落ち着いて千夜ちゃん!喫茶店の跡継ぎとしての強さをしっかり持って!!」
「千夜さんいつもの髪飾りつけたんですね」
出かけるときになって気づきましたが、千夜さんが普段身に着けている白い花の髪飾りを付けています。
「気合も入るし、安心感もあるから・・・」
「いつもの感じって大事ですよね」
そう話す千夜さんは少し声色が張っています千夜さんも初めての都会ということで緊張してるのでしょうか。
「都会の人から見て浮いてないといいけど」
「・・・・・・・・・・・・・」
なんというかあまり自信がないように見えます。千夜さんと付き合っていると、たまに自分に自信が持ててないような部分を感じ取ることがあります。
「そんなことないですよ」
「え・・・?」
ボクにも似たような部分があるので少し分かります。でも落ち込むたびに騒がしい自称姉に励まされて、いつの間にかすっかりそんな気持ちを忘れてしまうんです。
「千夜さんらしくて素敵です。とても綺麗に見えます」
「・・・・・フフッ。ありがとうチノくん」
ちょっとでも成長して、そんな姉みたいになりたい。
それも旅に出た目的です。
「? 千夜さん顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「えっ!!?いやっ、あのっ、は、春が近づいてきてだんだんあったかくなってきてるから!!!」
「チノくんの格好もよそ行きって感じがして素敵よ」
「ありがとうございます。でもボクも安心感が欲しいので」
「?」
「これをお供にしようかと」
あっ しゅ く さ れ た ティ ッ ピー
「ティッピー!!!」
「ぬいぐるみです。リゼさんがボクが寂しがると思って作ったらしくて」
「ホッ」
「震えてますが寒いんですか?」
「武者震いよ」
チノくんに言われて気が付く。いつの間にか震えてたみたい。
「ずっとあの街で暮らしていたから、都会の喫茶店は楽しみだけど緊張するわ」
思わず弱気な言葉を吐いてしまう。ダメね、私。今日はココアちゃんからチノくんを任されたのに。
スッ
「えっ」
「ボクもですよ。でもこうすれば安心ですね」
そう言ってほほ笑むチノくんは。
私の手を握っていた。
「えっ!ち、チノくん!?」
「あっ、ごめんなさい。嫌でしたでしょうか?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど・・・」
男の子に急に手を握られてビックリした。お父さん以外の男の人に手を握られるなんてこれが初めてかもしれない。
(チノくんの手のひら・・・ちゃんと男の子ね・・・・・)
女の子みたいと思ってたけど意外と手はがっしりしてて大きい。でも嫌って感じじゃなくて安心するような・・・。
「さあ行きましょうか」
「・・・ええ」
そんな私たち二人の後ろでは。
「わだじもおぉぉぉ」「行くぞココア」
ココアちゃんが物欲しそうに手を伸ばしてリゼちゃんに止められてた。
(ごめん!!ココアちゃん!!)
なんか親友の宝物を盗ったみたいな気分・・・。
そんなわけで千夜さんと一緒に雑誌に載っている有名な老舗カフェに来ました。まるで宮殿のような景観に、初めて見るコーヒーやかわいいケーキがたくさんあります。
さっそく席に着き、アインシュペンナーというコーヒーを注文してみます。
「アインシュペンナー来ました」
「写真撮るわね」
そう言って千夜さんが写真を撮ろうとします。すると初老の店員さんが笑顔で自然と写真に映り込んできました。堅い雰囲気の喫茶店とばかり思っていましたが意外とお茶目です。
「煌びやかで居心地の良い店内!目を引く美味しそうなケーキ!!ユーモアに溢れたサービス心!!!なんて恐ろしい!!!!!」
「それ恐怖するところですか!?」
千夜さんが(半ば勝手に)打ちのめされています。でもそれだけ他の店の良いところを見ようとしている結果なのでしょう。
「・・・千夜さん」
「なに?」
「あーんしてください」
「えっ、こ、こう?」
「はいっ」
パムッ
ボクはフォークで取ったケーキを千夜さんの口の中に押し込みました。
「んっ!チノくん!?」
「突然ごめんなさい。シャロさんが、千夜さんが自分の店と比べて凹むことがあったら喝を入れてくれと・・・」
「シャロちゃんったら」
そう言いつつも千夜さんは嬉しそうです。千夜さんとシャロさんは長年付き合ってきた幼馴染のようなのでお互いのことは自分のことのように分かるのでしょう。少し羨ましいです。
「ボク・・・甘兎庵にしかない雰囲気が楽しくて大好きです」
励ましになってるのでしょうか。でもこれが自分のホントの気持ちです。
「ほっほんと!?」
「クセになる奇怪さです」
「褒められてるの!?」
「今日の千夜さん年下みたいです」
「甘兎庵・・・大好き・・・」
「どうかしましたか?千夜さん?」
「合併も考えたほうがいいかな・・・」
「?」
「さっきはありがとう。チノくん」
「いいえ、お礼ならシャロさんに言ってください」
先の喫茶店から出て、次の喫茶店に向かう最中です。次は前にもココアさんと入ったブライトバニーです。
「あっ、そうだ。千夜さん」
「ん?」
とても大事なことを思い出しました。
「ブライトバニーにはカップル割というのがあるんですけど、どうします?」
「えっ。か、か、カップル?」
「はい。安くはなるんですけど、イヤだったら。千夜さんの判断にお任せします」
確かに安くはなりますがそういう関係でもない男性とカップルになるのは嫌でしょうから。事前に一応聞いておきます。
「か、カップル・・・!男の子と・・・・・!!」
千夜さんは顔を真っ赤にして目もグルグルさせて慌てています。いきなり伝えないほうがよかったでしょうか。
「ち、チノくんは大丈夫なの!?」
「え、ええ。前にココアさんと使ったので」
「えっ」
ボクに関しては体験があるので特に問題はないです。そういう関係と勘違いされてもビックリするだけで特に悪感情も抱かないので。
「そうなんだ・・・」
「千夜さん・・・?」
ちょっと憂いたような雰囲気が千夜さんから漂いました。
「ううん、やめておくわ。そういうのは本当に好きな人と使ったほうがいいもの」
「そう・・・ですか。わかりました」
千夜さん、少し様子が変ですが大丈夫でしょうか。ボクの言葉で傷つかせてしまったのではないかと心配になります。
「気を使ってくれてありがとう。チノくん」
「・・・いえ」
その千夜さんの笑顔が少し寂し気に見えたのは気のせいでしょうか。
「メニュー名が呪文だわ!えっとえっと・・・」
「任せてください。クリーミー・ヘブンズナッツ☆パッション・アイスカプチーノ・ナッツマシマシ・トール一丁!!」
「チノくんが呪文唱えてる!!」
「私のほうが年上なのにエスコートされちゃった」
「成長の証が見せれてうれしいです」
老舗の喫茶店からブライトバニーに着きました。難しいメニュー名を問題なく言えてホッとしています。
「向かい側にも喫茶店があるけど、お客さんの取り合いにならないのかしら」
確かに向かいにも喫茶店があります。ブライトバニーとは違って古風な歴史を感じる喫茶店です。
「向かいのカフェが心配です!行ってみましょう!!」
「エスコートが激しいわ~」
ボクは慌てるあまり、千夜さんの手をずるずると引っ張ってました。
「「このまったり感が落ち着く~」」
思わずため息が出てしまうような落ち着いた雰囲気です。ハイカラなブライトバニーとは正反対のテイストです。
「来てみてわかったわ。それぞれの良さがあるからお客さんの取り合いにならないのね」
「なるほど」
道を歩いている人や、学校の同級生、友達や同居人など一人として同じ人はいません。十人十色、みんな特徴が違います。それは喫茶店にも言えるのかもしれません。それぞれ違うみんながそれぞれ違う喫茶店を好むのでしょう。
「・・・でもうちの隣にブライトバニーが来たらダメかも・・・・・」
「急にネガティブ!」
でもそれは及第点に達している喫茶店だから言えることでしょう。うちのコーヒーは、というかボクの淹れるコーヒーは及第点に達しているのでしょうか・・・。都会のコーヒーを飲んでて自信がなくなってきました・・・。
「チノくん・・・」
「・・・・・・・」
「甘兎チョープッ」
「たっ」
千夜さんが急に弱めのチョップをかましてきました。いきなりなのでビックリしてしまいました。
「さっきのお返し♪」
「千夜さん・・・」
「ラビットハウスのコーヒーは特別だわ。しばらく飲めないのが寂しくなっちゃうくらい」
さっきとは逆に、千夜さんがボクを励ましてくれます。でも気休めではなく本心から言っていると確信できます。
「特に、チノくんが淹れるコーヒーが大好きなの」
それを聞いた途端、胸の奥からたくさんの嬉しさがこみ上げてきました。
「ほんとですか!?」
「ほんとよ」
「ほんとのほんと!!?」
「一気に年下らしくなったわね」
もうすぐ高校生なのに、まるで子供みたいにはしゃいでいました。
「ありがとうございます。千夜さん」
「いいのよ、さっきのお返し」
流石に行きたかったお店は全部回れなかったので帰路についています。今度皆さんを誘って行きましょう。
「それにココアちゃんからも頼まれてたから」
「ココアさんが?」
「ええ、自分が付いていけないから私にチノくんのことをね♪」
「ココアさん・・・」
とても気恥ずかしいけれど嬉しくなる。そんなに心配してくれてたんだ・・・。
「チノくん」
「はい」
「今日はココアちゃんの代わりになれたかしら?」
千夜さんが尋ねてくる。親友のココアさんの頼みを遂行できたか気になるのでしょう。
ボクの答えは決まっていました。
「・・・いいえ」
「えっ」
「ココアさんの代わりじゃなくて、一緒に頑張り合う未来の喫茶店の跡取りとして頼りになりました」
「チノくん・・・・・」
甘兎庵、千夜さんとは競い合うだけじゃなくて、お互いの良いところを切磋琢磨し合う関係でい続けたい。
今日の喫茶店巡りを経てさらにそう思いました。
「だから、これからもよろしくお願いします」
「・・・っ。えぇ!」
前に約束したときみたいに、固い指切りをかわしました。
「あれ、この広間何でしょう?」
ホテルに帰ってきたボク達ですが、そこでずっと使われていない雰囲気の大広間を見つけました。
なんだか見たこと・・・というか馴染み深いような・・・。
「! ここって元々」
「喫茶店!?」
「そうですとも。夜はレストラン、昼はカフェでした」
「やっぱり!」
「昔は従業員も多かったのですが、今は古くなり自然と人も離れていきまして・・・」
「・・・あのっ、ここでコーヒーを淹れさせてもらってもいいでしょうか・・・!?」
「チノくん・・・!」
「自由に使って良いと朝伝えましたでしょう」
「初耳ですが!?」
テーブルには千夜さんの他に受付のおばあさん、キリっとした目をした支配人が座っています。これから都会の全くの他人にボクのコーヒーを飲んでもらうと思うと、なんだか凄いプレッシャーです。
「お、お待たせしました・・・」
ボクはコーヒーをテーブルの上に置きます。決してカチャカチャ音が鳴らないよう丁寧に。
そのコーヒーを支配人の女性が一口含みました。
その後、ギロッと鋭い目つきで僕のほうを睨みます。
「淹れ方は誰かに習われたのですか?」
「そっ祖父です!」
あまりにも鋭い目つきで縮みあがってしまいました。やはり田舎の小さな喫茶店のコーヒーでは力不足でしょうか・・・。
「素晴らしいおじいさまに教わったのですね」
「・・・・・え」
一瞬その一言を受け入れるのに時間がかかりました。
ボクのコーヒー。おじいちゃんからの味。認められた・・・。
「ち、ち、千夜さんが励ましてくれたから淹れられたので・・・次は千夜さんがお茶を・・・」
「こんな風に照れてるチノくん初めて♪」
あたふたしている様子を千夜さんにも見られています・・・。恥ずかしい・・・。
「一足先に帰ってきたよー!コーヒーの匂いがすると思ったらお茶会してる!?」
そんな状況を吹き飛ばすように騒がしい姉が帰ってきました。
「何ここラビットハウスみたい!私もカフェ友に入れて!!」
「許可します」
「支配人!?」
ココアさん、ずっとボクと千夜さんのカフェ友の間に入りたくてうずうずしてたのでしょう。
「あーっ。ティッピー連れてきたの内緒にしてたね~?」
そう言ってココアさんはティッピーのぬいぐるみをモフモフし始めました。
「それ、ぬいぐるみ・・・」
「気づくまで黙ってましょう」
「・・・フフッ」
そう千夜さんと約束しました。今日はそういう日です。
「千夜ちゃん」
お茶会が終わった後、ココアちゃんに呼び止められた。今日のチノくんの様子を聞きたいみたい。
「チノくん、大丈夫だった?お姉ちゃんがいないからって寂しがってなかった?」
「大丈夫よ。むしろ私がエスコートされちゃった」
「・・・そうなんだ!よかった!」
ココアちゃん、とっても嬉しそう。弟同然のチノくんの成長が自分のことみたいにうれしいのね。
「私、ココアちゃんが羨ましいわ」
「? どうして?」
「だって、チノくんみたいに素敵な子といつも一緒だから」
ちょっとらしくない不満を親友にぶつけちゃってる。本当はこんなことしちゃいけないのに。
でも、このまま大切な二人が遠いどこかに行っちゃうような。
そんな気が少ししてしまったから。
「大丈夫だよ!私もチノくんも、これからも千夜ちゃんと一緒だから!」
「ココアちゃん」
「私と親友として、チノくんとはカフェ友として、これからもよろしくね!」
「・・・ええ!」
どうやら取り越し苦労だったみたい。
これから大人になって離れても、結局この二人は戻ってきてくれる。
根拠はないけどそんな気がした。
「チノくんのエスコート、大丈夫だった?」
「ええ、ちょっと激しすぎてお腹タプタプにされちゃったけど」
「・・・・・そうなんだ」
「ココアちゃん・・・?」
「ちょっと待っててね。チノくんとお話ししてくるから」
「え、ええ・・・」
(チノくん、ごめん・・・)
チノちゃんと千夜ちゃんの絡みって思ったより少なくてビックリしました。