「うーんっ、よく寝た・・・」
朝起きて凝った筋肉をほぐすように伸びをする
外は雲が程度よくある青空で、白と青のコントラストが綺麗だ。
まだ冬から春になり立てということで、空気は刺すような冷たさが残っているけど、それが逆に心地いい。肺の中が洗われるようだ。
隠れた名ホテルでのさわやかな朝だ。
「今日も楽しい日になりそうですね」
ボクは限りあるこのホテルでの生活の、今日という未来に思いをはせていた。
「ギィアアアアアアアアアアアッ!!」
「っ!?な、なに・・・!?」
そんな風に気取ってるとシャワー室から悲鳴が聞こえました。日頃からよく聞いた声です。
「バスルームから水しか出ないよぉぉぉっっ!!!」
「わ゛――――――――――――っっっ!!!!!」
ココアさんがボクの方に向かって、タオル一枚は負っただけの半裸で走ってきました。
今日も騒がしい日になりそうです・・・・・。
シャワー室から水しか出ないということで、冷えた体を温めるためにスパに来ました。
それはいいのですがボクにはひとつ心配事があります。
「・・・・・・・・・・・・・・」
スパに入るということは当然水着です。もちろんボクも海パン一丁の水着姿です。
つまりどういうことかというと。
「チノくんおまたせー!」
(うわー・・・)
ボク以外の皆さんも、つまり女性陣全員水着ということです。
しかも全員肌の露出が多いビキニでした・・・。
どこに目をやればいいか分かりません・・・・・。
「チノくんどうかなー?」
「ど、どうとは・・・?」
「どうせ一度しか着ないし周りは知らない人だらけだから、みんな普段着ないような水着にしてみたんだ」
あまり直視しないように薄目で見てみると、確かに色合いや装飾の具合がいつもの皆さんのイメージと違うような気がした。一度しかない旅行、後悔しないように自分を出し切っているのでしょうか。
シャロさんは緑のフリルが着いたビキニを着ていました。反対に千夜さんは普段と違う活発そうなオレンジ色のラインの入ったビキニを着ています。どちらもイメージと真反対の色を着ているので新鮮みがありました。
「ち、ちょっとチノくん、見すぎよ・・・」
「そういうものだとしても、ちょっと照れちゃうわ・・・」
「あっ、す、すいません・・・・・」
二人に言われて思わず目をそらす。申し訳なさやら気恥ずかしさやらでまともに見れないけど、もう少し見ていたいという邪な感情も湧き出てるのが実感できた。
「二人とも意外性なさすぎ!もっと私くらい思い切って見ようよ!」
そう言ったココアさんのほうを見ると、ココアさんは全身黒のパレオ型のビキニを着ていた。普段ココアさんと暮らしていても黒やパレオというイメージが全然なかったので正直驚いています。
「ど、どうかなチノくん。変じゃないかな?」
「え、ええ。とてもよく似合ってると思います・・・」
「あ、ありがと・・・・・」
ボクとココアさん、どちらも気恥ずかしさで目をそらしてしまう。もうこの状況は目の毒としか言いようがない。
「チノくん、私はどうかなー」
「め、メグさん・・・」
「思い切ってビキニ着てみたんだけどー」
そう言ったメグさんは確かに上下別れたビキニを着ていた。トップにフリフリがついている可愛らしいビキニだった。あとやっぱり、どことは言わないけど成長している。
「どうかなー?」
「え、えっと・・・。す、すごく素敵だと思います・・・・・」
「えへへ、ありがとー」
ドギマギしすぎて常套句しか出てこない。でもこんな状況でうろたえるな、なんて女性経験の少ないボクには無理な相談だった。
「リゼちゃんも出てきなよー!せっかくそんな水着選んだんだから!」
「い、いや!こんな姿、男子のチノに見せるわけには!!」
「もう、観念しなよー」
「ああっ!」
そうココアさんに引っ張り出されたリゼさんは。
全然イメージと違うフリフリのビキニを着ていた。
「っ!!」
「あ、あまり見るな・・・。どうせ変だと思ってるだろ・・・・・」
確かにリゼさんがこんなフリルのたくさん付いたビキニを着るなんて思いもよらなかった。髪もいつもと違うまとめ方で、一瞬リゼさんだと分からなかったくらいだ。
「い、いえ・・・、そんな・・・・・。いつもと違う感じがして、その・・・素敵です」
「ぶ、不器用なお世辞を使うなよ・・・・・」
リゼさんが顔を真っ赤にして否定する。でも確かに恥ずかしいけど、大部分は本音だった。それはそれとしてボクも顔が真っ赤で火みたいに熱い。
どこに視界を向けても皆さんの煽情的な体がある。体中が男の本能でムズムズしていた。頭がどうかしちゃいそうだった。何やら周囲にピンク色の雰囲気が漂っている気がする・・・。
「チノくん、この中じゃ誰がいいかな?」
「え?」
「誰が一番水着が似合ってるか採点してほしいなーなんて」
ココアさんの発言がきっかけで、周囲の空気が一気に緊張感に包まれた。どうしよう。誰か一人を選んだら大変なことになると同時に、ボクの性癖が知れ渡ってしまう気が・・・・・。
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
「うぅ・・・っ」
皆さんがビキニ姿のままズイズイ迫ってくる。視界の逃げ道がなかった。
だれかたすけて。
「ごめん遅れたー!」
「あっ」
そう言って登場したのはマヤさんだった。例によってマヤさんもビキニ姿だった。けど。
「マヤちゃん遅いよー」
「だって着たいビキニなかったし!結局私だけいつも通りじゃん!!」
確かにマヤさんだけビキニの雰囲気がおとなしかった。フリルが付いててかわいいけど、色合いなんかもおとなしい。でもそれが今のボクには逆に安心できました。
それに、皆さんの中で一部分も一番おとなしいし・・・・・。
「皆さん」
「ん?」
「マヤさんが優勝で・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ドゴォッ
「ぐえへぇっ」
「マヤちゃんがチノくんをはり倒した!!!」
「くっそー、チノのやつー」
「マヤちゃん、優勝できて良かったねー」
「全然よくねーよ!!」
チノのやつ、私が一番体が貧相だからってバカにしやがってー。まだイライラが収まらないから、上がったらコーヒー牛乳奢らせてやる。
「あっ、あの」
「ん?」
そう言って見るからに気品がありそうな、金髪の女の子が私たちに話しかけてきた。
「私たち、どこかで会ったことあるよね」
(メグがナンパされてる!)
そのロングの金髪女子はメグにそう言って話しかけている。これはあれだ。都会でよくあるっていうかわいい子見つけてナンパして、その後なんやかんやするやつだ!
そうだ。ここは都会。危険がいっぱいあるところなんだ。
私がメグを守らないと!
「何なの!?保護者の許可を得てくださーい!!」
「マヤちゃんが私の何なの!?」
「ナツメちゃん・・・。私、完全に不審者だ・・・」
「エル、こっちに任せて」
もう一人、ショートの金髪の女の子が出てきて話し合ってる。どうやら二人は双子みたい。
「えっと、バレエの前の席で見かけて、電車の中でもすれ違った気が・・・。あれ、これナンパ?」
何かコミュニケーションを取りたいのかブツブツ言ってる。でもそんなことより。
(あれ私が着たかったビキニじゃん!)
その子は私が目をつけていたかわいいビキニを着ていた。
「メグをナンパしただけでなく私のプライドまで傷つけたなー!!」
「マヤちゃん何言ってるの!?」
「じゃあ私たちと勝負する!?サウナで決着つけようか!!」
「ナツメちゃん何言ってるの!?」
というわけで今サウナにみんなでいる。でも勝負はいいんだけど。
「うー・・・」
「ふえぇ・・・」
「これは・・・」
「暑い・・・」
予想以上に暑いんだな・・・。サウナって・・・・・。
「何・・・?もう降参する・・・・・?」
「まだまだ・・・・・」
頭がボーッとするけど、せっかくの勝負に負けるわけにはいかない。ショートの娘も同じ気持ちらしい。顔を真っ赤にして我慢してる。
「なんかごめんねー・・・」
「こっちこそ。お互い大変だね・・・」
ロングの娘とメグが意気投合してる・・・。何か似通ってるところがあるのかな・・・。
「あなたたち、この街の人じゃなさそうだけど。どこから来たの?」
暇を持て余したのかショートが話しかけてきた。
「木組みの街から、卒業旅行で」
「そっか。楽しそうだね・・・」
ショートはちょっと物憂げな表情をする。何か悪いところに刺さったっぽい。
「みんなで卒業旅行なんて・・・憧れるな・・・・・」
「ナツメちゃん・・・・・」
ロングも心配してるのか物憂げな顔をする。気品あるっぽい双子だし、いろいろ大変なのかな。
「まあ何があったのかは聞かねーけどさ」
「え・・・?」
「今、お前らとサウナ勝負してるの結構楽しいよ」
「・・・・・・」
「うん!私も楽しい!だから元気出して!」
メグも私につられて双子を励ます。でもただの励ましじゃないぞ。ホントに楽しいからこう言ってるんだ。
「ふ、二人ともありがと!ほら、ナツメちゃんも!」
「あ、ありがと・・・」
ちょっと雰囲気緩んだみたいで良かった。このままじゃ居心地悪いもん。
「ほらほらー、そんな顔してちゃ勝負は私の勝ちだなー」
「なっ、励ましは嬉しいけどそれはそれとして負ける気はないから!」
「いつもこんな感じ?」
「そうなんだ。そっちも?」
「うん。でもそれがまた楽しいんだー」
「分かるなー」
サウナ勝負のはずだったのにみんなで意気投合し始めた。でもいいんだ。
住む場所が違う人とも仲良くなれる。
都会に旅行に来て良かったな。
「そういえばさっき小柄な男の子いたよね?」
「ん?チノのこと?」
「あれ、どっちかの彼氏?」
「「ぶぼっ!!!」」
あまりにビックリして、私もメグも思い切り熱い空気を吸い込んでせき込んだ・・・。
一方、チノとココアたち。
「チェックメイト」「負けたー」
「チノくん、チェス勝負してるよ」
プールサイドで大人の女の人たちとチェス勝負している黒髪の女の子がいました。ボクと同じくらいなのに、大人相手に勝つなんてすごいです。
「はい!次の対戦相手に立候補します!」
「ココアさん!?」
「チノくんが!」
「えーっ!?」
「よ、よろしくお願いします・・・」
ボクがそう言うと女の子はコクリと頭を下げました。どうやら無口な性格みたいです。ボクも人のことは言えませんが。
そんなこんなでチェスが開始しました。
(強い・・・)
打ってみて分かりますがこの娘、とっても強いです。今まで打ってきた誰よりも。
でもとてもワクワクしてました。手ごたえもあったし、同年代の子でこんなにチェスが打てる子とやるなんて初めての経験でしたから。
「君、いくつなの?かわいいね。お姉さんとかいる?」
「勝負中にナンパしないでください」
ココアさんは相変わらずでした。
「ココアちゃーん」
「千夜ちゃん!泳げるようになったんだね!」
千夜さんに呼ばれて、ココアさんは千夜さんの方へ行ってしまいました。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
二人残されたボクと女の子は黙々とチェスを打っています。
何か話したほうがいいのでしょうか・・・。
「さっきの・・・」
「はい?」
「君のお姉さん?」
「えっ、いいえ。違いますけど・・・」
日頃から一緒に住んでてよく姉ぶってくるけど、血縁の関係はありません。でもよく勘違いはされます。そんなに実の家族に見えるのでしょうか。少しうれしいです。
「じゃあ彼女?」
「ぶっ!?」
思わぬ方向からのブローで思わず吹き出してしまった。
「ちっ、違います!そんな関係じゃ・・・」
「そっか・・・」
焦って否定してしまいました。初対面の子に失礼だったでしょうか・・・。
「・・・ごめん」
「えっ」
「変なこと聞いちゃって・・・・・」
女の子が申し訳なさそうな表情をしています。そんなに気にすることないのに。真面目で丁寧な子なんですね。
「いいえ、そんなこと。こちらこそごめんなさい。それに」
「それに?」
「大切な人だってことは間違っていませんから」
「・・・そっか」
女の子の表情が少し明るくなりました。ボクも一安心です。
・・・・・・・大切な人。
ココアさんは恋人ではない、でもただの同居人というのも違う・・・。
ボクはココアさんをどう思ってるんだろう・・・・・。
「チェックメイト」
「あっ」
ボーッとしているうちに詰みにはまっていました・・・。
「ま、まだです!ここから挽回を・・・」
「無理だと思う」
「え」
「君、さっきから周りの女の人の胸とかお尻ばかり見てるから」
「えっ!?」
「負けたーっ!!」
「マヤちゃんメグちゃん、どうしたの?」
しばらく目を離したうちにマヤちゃんメグちゃんが顔をゆでダコみたいに真っ赤にしていた。どうしたのかな。
「サウナ勝負で我慢が続かなかった―!」
「あの子たちとちゃんと話せなかったしねー」
「よしよし、お姉ちゃんが慰めてあげるよ」
一期一会の旅の出会いにはしゃいじゃったんだね。これも旅の醍醐味だよ。
あ、そういえば女の子とチェス勝負してたチノくんはどうしたかな。
「まっ、負け・・・ました・・・・・」
頭を抱えて震えていた。どうやら惨敗だったみたい。
「同年代の子に初めて・・・・・」
「お姉ちゃんが慰めて・・・」
「今は優しくしないで!」
「珍しいねー。チノくんがチェスで負けるなんてー」
「え、ええ。相手の子も物凄く強かったので」
「そんなこと言って。周りの女の人の水着姿に気を取られてたからなんじゃないのー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ドスッ
「ぐへぇっ」
「またマヤちゃんがチノくんをはり倒した!!」
「ここに来て勝負ばかりしちゃったね」
「きっかけは全部ココアでしょ」
ちょっとあわただしい旅だけど、予定外も旅の醍醐味だと私は思う。
「じゃあここからはのんびりタイム~♪」
「都会の夜は長いものね」
千夜ちゃんとプールサイドでゆったりしてると、突然プールが光り始めて音楽まで流れ始めた。さすが都会のプールだね。
「綺麗ですね」
「何かワクワクしてきた!」
「都会すごい!」
三人の弟と妹は子供みたいに目をキラキラさせてる。まあまだ子供なんだけどね。
そういう私もワクワクが止まらなかった。
「よーしっ、レッツ☆ダーンス!」
「のんびりするんじゃなかったのかよ!」
予定外こそ旅の醍醐味だよ。
「はぁ・・・悔しい・・・」
「エル?」
「うまく話しかけられなかった・・・。友達になれたかもしれないのに・・・」
「仲良くなってもどうせすぐお別れだし、寂しいだけだよ」
「ナツメちゃん・・・」
「でもこの旅行に来て初めて熱くなった」
「私は別の意味でゆでダコになったよ」
「ところであの男の子。どっちの恋人でもないみたいだけど、じゃあ何なんだろうね」
「きっとどっちとも付き合ってるんだよ!本で読んだ!!」
「その本捨てた方がよくない?」
「はぁ・・・」
一人の少女がため息をついている。どうやら猫たちと戯れているようだ。
「うまく・・・話せなかったな・・・・・」
先ほどまでチノとチェス勝負をしていた少女のようだ。先ほどの勝負に思いをはせているらしい。
「・・・・・・・・・」
その少女は暗くなりかけの夕焼けの空を見上げる。
「また・・・勝負したいな・・・・・」
「・・・・・・・・」
「チノくん、どうしたの?さっきから空を見上げて」
「あっ、いいえ。さっきの子のこと考えてて」
「さっきの子?」
「ええ、名前も聞けませんでしたけど、チェスが楽しかったもので」
「・・・・・・」
「また勝負したいな・・・」
「・・・できるよ!世界は繋がってるんだから!」
スパ回のココアさんの水着、よく見ると腰に穴が開いてるんですよね。
エロですよね。