「都会で働くビジネスウーマン!優雅に接客するウエイターさん!広場の巨大パンダの中の人!みんなかっこいー!!将来の夢が増えちゃうな―!!」
「また増えてる」
今日はラビットハウス組で喫茶店巡りです。相変わらずココアさんは都会の人々の様子を見てはしゃいでいます。全く、しょうがないココアさんです。
「ココアの将来かー」
「パンは焼いてそうです」
「モカお姉ちゃんみたいになれるかな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
「何で黙るの!?」
喫茶店を一通り巡り、次はココアさんのパン屋さん巡りに付き合うことになりました。ベーカリーの跡取りとして、都会のパンを勉強しておきたいのでしょう。パンに関してはいつも真摯なココアさんです。
「今からやるのは遊びじゃない。舌で学ぶんだよ」
かつてない本気の目でした。
「ここがすごく有名なお店だって。買ったら外で食べよ♪」
パン屋さんを巡るココアさんは今までにないくらい生き生きとしていました。
「味に飽きがこないってことなの!それがいかにすごいことか!もっと!味わって!!」
今まで見たことないくらい積極的で真剣でした。
「疲れてきたよ・・・。さすが都会のパン屋・・・・・」
「自分のリアクションのせいだ」
リアクションがオーバーになるくらい真摯にパンに向き合っています。
「おいちい。ホントおいち♪」
「ココアさんの方が語彙力ないじゃないですか」
いややっぱいつも通りかな・・・・・。
「・・・で。どうしたんだココア?」
「へ?」
「何かに焦ってます」
「様子がおかしい」
「なっ、何でわかるの!?」
「そんなの」
「いつもラビットハウスで一緒だし」
「・・・そっかぁ。妹たちには・・・隠し事できないなぁ」
「妹にはなってないが」
「私ね・・・お姉ちゃんは尊敬してるし、パン屋さんにはなりたいけど。真似して後を追ってるだけでいいのかなって思っちゃって」
ココアさんの憧れは昔からお姉さんであるモカさんです。大好きなモカさんの真似をしてパン作りに励んだり、やたら弟や妹を作ろうとしています。
「一番の憧れはお姉ちゃん。それはずっと変わらない」
それだけにとどまらず、自分なりの道を進もうとしているんですね。
「でも背中を追ってるだけじゃなくて、いつか対等になりたい」
・・・・・・・・・・・・・・・。
ボクも・・・ココアさんみたいに・・・・・。
「そのためにパンの勉強しなきゃって思ったら暴走しちゃった。夢が大きすぎたかなぁ」
「なれるんじゃないか?」
こういう時に真っ先に声をかけてくれるのはいつもリゼさんです。
「いいと思ったものは全部自分に取り入れてしまえ。それが一番ココアらしい」
「・・・パン作りも成長してると思います」
ボクも、リゼ教官みたいにうまくはできないけど。
「電車の中で食べたサンドイッチ・・・。おいしかったです・・・・・」
いつも一緒にいる“友達”として、少しでも背中を押してあげたい。
「そっそんなに褒めてっ、どうしちゃったの!?ふたりともおかしいよ!」
「おかしかったのはお前だ!」
翌日の朝、ホテルのロビーでダウンしているココアさんを発見しました。
「いったい何が!?」
「朝食のお手伝いをしてくれたんですが、疲れて寝てしまったようですね」
どうやらホテルの副支配人のおばあさんと一緒に朝食の準備をしていたようです。あたりには焼き立てのパンの香ばしい香りが漂っています。
「パンのいい匂い~」
「お腹ペッコペコ~」
その香りに誘われてマヤさんとメグさんも起きてきました。
昨日言っていた通りに、モカさんに並び立つために努力を重ねているんですね。
夢に向かって頑張るココアさんはキラキラ光っています。とても生き生きとしているようでした。
「頑張ってくださいね。ココアさん」
ボクは眠っているココアさんにそっと毛布をかけました。
「んぅ・・・」
ココアさんがコロンと寝返りを打ちました。緩みきった寝顔が丸見えです。
「・・・・・っ!?」
その寝顔を見た途端、突然胸の奥がザワッとした。心臓がひっくり返るような心地だった。
風邪・・・でしょうか・・・・・?でも熱はないみたいだし・・・。
気を取り直して朝食に向かったけど、その原因が何なのか分からなかった。
「今日は一人で行動!?」
「チノが!?本気か!?」
朝食の最中、今日の予定をみなさんにカミングアウトしたところ非常に驚かれました。そんなに驚くことでしょうか・・・?
「実はずっとやってみたかったんです」
「初めてのお使いって感じね」
「え?」
「マカロン買ってきて♪」
「自分で行ってください!」
シャロさんもマヤさんもボクのことを何だと思ってるのでしょう・・・。
「知らないおじさんについてっちゃだめだよ?」
「知らないお姉ちゃんにもね?」
ココアさんと千夜さんが小さい子に言い聞かせるように言います。ボクもうそんな歳じゃないんですけど。
「あとこれ首から下げてこ?」
「ボクをいくつだと思ってるんですか!?」
幼稚園の名札みたいなものを差し出され流石に憤慨しました・・・。
そんなこんなで今日は一人旅です。リゼさんからもらったお守りティッピーを下げて、目的地へと向かいます。
(皆さん心配しすぎ。お守りティッピーもいるし・・・子供じゃないです)
不慣れな土地で一人・・・。ココアさんも最初はこんな気持ちだったのかな・・・。
(でもココアさんと違って迷うことはありません!文明の利器を利用しますから!)
ボクは得意げに文明の利器のスマホを取り出しました。
「あ・・・。充電するの忘れてた・・・」
ついうっかりしてましたが慌てません。こういう時のための地図です。
「・・・・・ボク、今どこにいるんだろう」
不慣れな土地、しかも経路が複雑な都会のせいか現在位置すら分かりません・・・。
これはもしや一大事では・・・?
不安になりあたりをうろうろします。
そんなチノの様子を、猫を抱いた一人の少女が見ていることに本人は気づかなかった。
(こうなったら、あえて迷ってやりましょう!)
当てのない旅となりますが、予定外も旅の醍醐味です。そうココアさんが言っていました。
当てもなく都会の色んなところを回りましたが楽しいです。いろんな人と触れ合えたり、行きずりの人から勧められた美味しいうさぎ料理(・・・)のレストランに行ったりしました。
じっくり見てみると本当に色々なお店があります。それぞれのお店に独自の特色があります。
この場所は千夜さんとシャロさんが好きそうです。こっちはマヤさんとメグさんと来たいな。
気づくと皆さんが気に入りそうなお店や場所を探していました。まるで誰かさんみたいに、サプライズを考えているみたいです。
右も左もわからないうえに一人なのに寂しくないのは、リゼさんお手製のティッピーがいるからでしょう・・・。
「いないし!落とした!!」
リゼさんティッピーがいなくなった途端、急に心細さが湧き出てきました。
「あ・・・野良ねこ・・・?」
あたりに落としていないかと見まわしていると、道に野良ねこが座り込んでしました。木組みの街は野良うさぎが多かったですが、この街は野良ねこが多いのでしょうか。
「あの、通り道にティッピー落ちてませんでしたか?」
喋れるわけないのに野良ねこに話しかけます。
今は猫の手でも借りたい気分・・・なんて。
「ティッピー?何だいそれは?紅茶の名前かな?」
「!?」
にゃんだって!?
「おみゃー知ってるか?」
「知らないわん」
続々と集まってくる猫たちが談笑し始めます。
都会の猫って喋るんだ・・・。
「お困りなら助けてあげよう」
「チェスで対戦してくれたお礼だよ」
「チェス!?」
いったい何の話・・・。
「・・・あ」
ふと目の前を見ると、この間スパで一緒にチェスをした女の子がいました。
「た、助かりますにゃ・・・」
どうやらこの娘の腹話術だったみたいです。
1時間も一緒になって探し回りましたが、結局見つかりませんでした。行きずりの娘にお手数をかけてしまいました。
「付き合わせてすみません」
女の子は無言で首を横に振ります。気にしなくていいと言ってくれてるみたいです。
・・・・・何か話したいな。でもあまり変なことを言って困らせても悪いし・・・。
ココアさんなら見ず知らずの人とも話せるのでしょうけど。
・・・・・ココアさんみたいに。
「あの」
「?」
「ボクも腹話術ちょっと出来るんですよ」
意を決して頭に被せていた猫で腹話術をします。
「今日はありがとうなのじゃ」
「・・・・・・・・・・・・」
外したかな・・・。緊張が胸を突き刺します。
「・・・君のはねこの声というより、うさぎの声って感じ」
「何のことです!?」
ちゃんと猫の気持ちになって腹話術しました!
「こんなに立派なねこ語だというのに!」
「君の声はもふもふしすぎている」
「だから何ですそれ!?」
名前も知らない子だというのにフランクに会話してしまいました。相手が嫌に思っていなければ良いのですが。
「・・・あのっ、最後に・・・」
もう会うことはないかもだけど、名前も知らずにさよならは嫌だ。
「ボク、香風智乃って言います。あなたは!?」
人ごみの中に去り行く女の子に聞こえるよう、大きな声を出した。
「・・・フユ、風衣葉冬優!」
つい名前を聞いてしまいました。また会えるでしょうか・・・。
(ティッピーのことはリゼさんに謝らないと)
そんなことを考えながら前を歩いていると、すぐ前方によく見知った後姿がありました。
(あれ、ココアさんと・・・誰だろう)
ココアさんと歩いているのは大人の男性のようだった。
見る限りココアさんは楽しそうだ。
それを見た途端、なぜか胸の奥がひびでも入ったように痛くなった。
とっさに胸を押さえるけど、痛みは治まらない。
頭の中に色んな感情がグルグル回る。
ココアさんに都会の知り合いなんていたんだろうか・・・。
あれ・・・?でも、この街に来るなんて初めてのはずだし・・・。
まさか・・・。知らないおじさん騙されてについて行ってるのでは・・・。
『パンあげるからおいで~』
『行きま~す』
悪い光景が頭をよぎり、居ても立っても居られなくなった。
「何やってんですか!!!」
「チノくん!?」
「すみません!すみません!すみません!ココアさんのお父さんとは知らず・・・」
「いいんだよ」
どうやら、ボクが勝手に誤解していたようです。何度も何度もココアさんのお父さんに頭を下げ、謝罪します。
「チノくん、心配してくれたんだ」
「えっ、ええ・・・まあ・・・」
「フフフッ、なんだかうれしいな」
「っ!」
ココアさんの朗らかな笑みを見て、安心すると同時に体が熱くなります。今日の朝からこうです。長旅の疲労が出たのでしょうか。
「そ、それより、ボクも食事に同席してよかったんですか?」
「いつもお世話してもらってるからいいの♪」
「ココアが言うことじゃないよ」
ココアさんのお父さんがココアさんに優しく突っ込みます。ボクのお父さんと比べると、雰囲気が柔らかくて優しそうな人です。
大学教授をしているというので、きっとすごい人なのでしょう。
「デザートからいっちゃおうかな」
「あっ、私も―」
やっぱ変な人だ。
ココアさんとの血を感じます。
「そういえば道端でこんな物を拾ったんだよ」
「ティッピー!!」
ココアさんのお父さんが取り出したのは、リゼさんお手製のティッピーでした。
「見つかってよかった・・・」
「交番に届けようと思ってたから、持ち主が見つかって良かったよ」
ボクはホッとしてティッピーをギュッと抱きしめます。どうやらココアさんと同じように、優しい性格のお父さんのようです。
「お父さん!それで私よりチノくんの心つかめたと思ってるんでしょ!」
「そんなわけな・・・」
「実はその通りだ」
「やっぱりー!」
「乗っかった!!」
どうやらココアさんと同じように、変わったお父さんみたいです。
「私ちょっとお手洗い!その間にチノくん取らないでね!」
「それはどうかな?」
「この冗談まだ続くんです!?」
図らずともココアさんのお父さんと二人だけとなってしまいました。何か話したほうが良いのでしょうか。
「チノ君のことは、よくココアから聞いてるよ」
「は、はい。いつもお世話して・・・いえお世話になっております」
妙な緊張感がボクの体中を突き刺してきます。
なんというか・・・まるでお嫁さんのお父さんに挨拶しに行くような・・・。
「ココアがいつも迷惑かけてないかい?」
「いえ・・・・・」
迷惑・・・・・。
思い返すと正直かけられまくってる気も・・・・・。
・・・・・いや。
「いえ、ココアさんがいてくれるおかげで毎日楽しいです」
騒がしさが目立つけど、それ以上に楽しいことも多い。
「それだけでなく・・・今日、ある人と同じ気持ちを体験をしたくて一人旅したんです」
前ならそんなこと絶対しなかったのに。
「最初からハプニングの連続で、ちょっと後悔したんですが」
前のボクならとても焦って、泣きそうになってたけど。
「ココアさんならそんな時こうするだろうなって行動してみたら、色々ふっきれて・・・ボクも助けられてます」
ココアさんが来てくれたおかげで、ボクもボクの周りもたくさん変わった。
でもそれは怖い変化じゃなくて、とても楽しいものだった。
ココアさんには感謝してもしきれないくらいだ。
「そっか・・・」
ココアさんのお父さんもボクの話を聞いてホッとしたみたいです。愛娘の様子を聞けて安心したのでしょう。
「本当にお互いがお互いを大好きなんだね」
「・・・・・え?」
意をつかれて抜けた声が出た。
「ココアから街の友達の様子をよく聞くけど、その中でもチノ君の話がとても多いんだよ」
「そうなん・・・ですか・・・」
また体が熱くなってきた。
「父親としては娘が旅立つのは寂しいけど、父親なら大好きな人と一緒にいられる子供の幸せを願いたいからね」
「そん・・・な・・・ボクは・・・」
目がチカチカする。目の前が眩しい。
「ん?違ったかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
違うって言いたかった。言うべきだと思った。
でも、口が言うことを効かなかった。
「ボクは・・・ココアさんのことが・・・・・」
やっと口を開けたけど、意に反する言葉が出て・・・。
「ねえ!何の話!?」
「ひゃああああああっっ!!!」
突然後ろからココアさんに話しかけられました。どうやらお手洗いから帰ってきたみたいです。
それにしてもビックリした・・・。口から色々とまろび出るかと思った・・・・・。
「チノ君はココアが思っているよりずっとしっかりしているという話だよ」
「ずるい!私も聞きたい!!」
さっきの話、そんな話でしたっけ・・・?
ココアさんのお父さんがココアさんには気づかれないようウインクしてきます。どうやら、男同士の話として誤魔化してくれるみたいです。
「さあ、今日の冒険譚を聞かせておくれ」
「おくれおくれー」
「え、えーっと・・・」
二人ともニコニコした笑みでボクの話を聞こうとしてきます。
全く、しょうがないですね。
「困っていたときに親切な人にたくさん会いました。まず初めにですね・・・」
ボクが今日の思い出を話し始めた時、窓の向こうには白猫がいた。
まるでボクの話に、その大きな耳を傾けているようだった。
「私のお父さん、優しかったでしょー」
「ええ、すてきな方でした」
短い一人旅も終わり、夕焼けの街をココアさんと帰路に着いていました。
「それにしてもチノくんが一人旅だなんて、お姉ちゃん弟の成長がうれしいよ」
「だから弟じゃ・・・」
ココアさんはいつも通りだ。
でも今じゃ見え方が違う。
本当に隣り合って歩けている。そんな気がする。
「チノくん」
「はい」
「大きくなったね!」
「・・・・・!」
ココアさんがボクの顔を覗き込んでくる。
でも前までと違って、背たけが近づいた気がする。
それだけココアさんの顔もよく見える。
ココアさん、こんなに綺麗だったんだ・・・。
「さあ、早くみんなのところに帰ろー!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ああ、そっか。
「・・・?チノくん、どうかした?」
「・・・いいえ、なんでも。早く帰りましょう」
「うん!よーしっ、ロイヤル・キャッツまで競争だー!」
「待ってください。負けませんよ」
僕、本当にココアさんが好きなんだ。
バランスとるためにフユちゃんも男の子にしようか、という案もありましたが体裁が崩れそうなのでやめました。
番外編としては書いても面白そうです。