ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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旅行編⑨ チノくんとロイヤル・キャッツ

 かつての文豪たちの社交場と言われたホテル“ロイヤル・キャッツ”。かつては栄えていましたが歴史の流れのせいか徐々にお客さんも減り、経営をしているばあやたちもホテルの終わりを予期しています。

 「何だかんだ大変だったけど、最後くらいこのホテルにお礼をしてもいいかもね」

 「とりあえず掃除したり?」

 「チマメ隊が出かけてるからあいつらの部屋をデコレーションするのはどうだ?」

 「それじゃあホテルにお礼作戦開始―!」

 しかし彼女たちは違うようです。

 どこでも素敵なカフェにしてしまえるウサギさんたちが、ホテルに新しい華を添えてきています。

 「このビリヤード台を使うのもこれで最後でしょう」

 「諦めるのはまだ早いかもしれませんよ?」

 今まで私は見てきました。彼女たちが幸せを運ぶのを。

 だからもうすぐ何か良いことが起きそうな予感がするんです。

 そう思った瞬間、玄関のドアがガチャリと開く音がしました。

 「あの・・・このホテル」「二人分の部屋空いてますか?」

 「お客さんきたー!!」

 思った通りです。ギャンブルの直感は散々でしたが、こっちの直感は当たりました。

 また何か、新しい物語が始まる予感です。

 

 

 「いいにおいのする人たちだったね」

 「変に思われなかったかな」

 最初はやばいホテルって聞いてたけど、いざ来てみるととってもおもてなしの心が満ちたホテルで安心した。部屋は泊まる前からデコレーションしてあって、お手洗いの安全確認までしてくれたし、独創的な羊羹パンと独創的なピアノのサービスまでしてくれた。マヤのやつ、嘘ついてたな。

 「チップいっぱい渡したら友達になってくれるかな」

 「エル、その考えやめようよ・・・」

 私たちはちょっとお金持ちだから同年代の子から距離を置かれがちだ。そのうえ親の都合で転校が多いから、仲良くなってもすぐ離れ離れになることが多かった。仕方がないと思うようにしてたけど、やっぱりちょっと寂しかった。

 だからあまり仲のいい友達も作らないようにしてた。でもこの旅行に来て本当に離れたくない友達ができちゃった。お金持ちとかそういうの気にせずに、対等に遊び合える友達だ。

 その友達はこのホテルに泊まってるって言ってたんだけど、どこにいるんだろう・・・。

 「あの3人見かけなかったね」「探しに行ってみよっか」

 そう思った矢先。

 「あー、もう足くたくたー」

 「美術館広かったねー」

 「歩き疲れました」

 「「!!?」」「「「!!?」」」

 なぜか当のマヤたちが私たちの部屋に入ってきた!?

 「なんでいるー!?」

「マヤたちこそなんで勝手に入ってくるのー!?」

 「ちょっとこいチマメ」

 「「?」」

 マヤたち3人はキリっとした長身のメイドさんに連れられてどこかにいっちゃった。どうしたんだろう・・・?

 

 ガチャ

 

 「チマメイドでーす」「内一人は執事です」

 「「ホテルに取り込まれた!!」」

 これがメイドさんたちが言ってた働きたくなる呪い!?

 

 

 

 「隣のリッチなホテルに泊まってたんじゃないの?確かエルと、え~っと」

 ホントは覚えてるけど、ちょっとナツメに意地悪してやろ。

 「・・・っなんで、エルは覚えてて私は覚えてないんだよぅ・・・」

 「冗談だから!」

 マジ泣きされて流石に罪悪感に襲われた。

 「忘れるわけないじゃん。ナツメ」

 一期一会で出会った大事な友達なんだから、忘れるわけない。

 「・・・私はそっちの名前忘れたけどねっ!」

 「さっきマヤって呼んだよね」

 

 

 「宿泊中要望があったら何でも言ってね」

 大切なお客さんだし、大事な友達だし、思い出に残るようなおもてなしをしてあげたいんだ。

 「じ・・・じゃあ、一緒に遊んで ほしぃ・・・」

 エルちゃんが消えそうな声でお願いしてきた。そんなことならお客さんじゃなくてもいつだって聞いてあげるのに。

 だって大切な友達だから。

 「じゃあ喉乾いた」

 「図々しいなナツメ」

 「何でもって言ったじゃん」

 「じゃあさっき買ったブライトバニーの飲みかけあげるよ!」

 「最低のサービス!」

 「マヤちゃん印象悪くしないで!」

 「これは期間限定モカチーノ!私の好きな味だ!マヤさんありがと~!」

 「いいの!?これでいいの!?」

 

 

 「待ってください!飲み物が欲しいならボクが最高のコーヒーをご用意するので喫茶店に来てください!」

 「チノが本気だ」

 ラビットハウスの跡取りとして飲みかけのコーヒーなんかに負けられません。それにお客様には最高の環境で最高のコーヒーを飲んでほしいのです。

 「カフェ2回目・・・・・」

 「出来ました」

 用意するのはもちろん。

 「このホテル支配人直伝のアインシュペンナーです」

 

 「あれチノくん!?いつの間に支配人に習ってたの!?」

 「ココアさんが副支配人にパン作りの修行を受けたのなら、ボクだって負けていられません」

 自分の意志でココアさんと並んで歩きたい、この旅行に来て本当にそう思えるようになりましたから。

 「この喫茶店“カフェ・ノワール”の名物だったそうです。この場所に相応しいコーヒーを飲んでほしくて頑張りました」

 それにマヤさんメグさんのお友達なら、ボクにとっても大切なお二人です。

 「さあどうぞ。ぜひ味わってください」

 「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 「? どうかされましたか?」

 「えっ、あっ!ううん!?」

 「じ、じゃあいただきますね!」

 「はい、どうぞ召し上がれ」

 やっぱり喫茶店は、お客様に楽しんでもらってこそです。

 

 「ナツメさんもエルさんも、満足してもらえたようで良かったですね」

 「「・・・・・・・・・・・・」」

 「マヤさん?メグさん?どうかされましたか?」

 ゲシッ ゲシッ ガスッ ガスッ

 「ちょっ!?なんでお尻蹴ってくるんですか!?痛い!痛い!」

 

 

 「「ビリヤードでマヤとメグに勝ったー!」」

 ナツメさんエルさんはマヤさんとメグさんと一緒に、ホテルに備え付けの台でビリヤード勝負をしていました。数日前に会ったばかりなのに昔からの親友のような関係になっちゃっています。

 「私たち旅行中ずっと負けてるような・・・」

 「負けたら何か一つあげるって約束だっけ」

 「じゃあチノが欲しい!」

 「「「えっ」」」

 「私たちの専属バリスタになってもらうの」

 「さっきのコーヒー毎日淹れてほしいな」

 「「ダメーッ!!」」

 ボクのコーヒーの味が認められたのは嬉しいのですが、ラビットハウスがあるので専属バリスタにはなれません。マヤさんメグさんも必死になって止めてくれます。

 というか、二人が両側によって来てるせいでいい香りが漂ってきています。なんというか気品に満ちた上品で爽やかな香りが・・・・・。

 「チノ、後でちょっとどつくからな」

 「な、何もしてないですよ」

 最近ちょっとマヤさんが怖くなってきた気がします・・・。

 「まあまあ、3人とも私の妹になれば全部解決だね」

 「何も解決してないし、ココアは関係ないだろ」

 ココアさんは相変わらずのようです。

 いや、でもボクを抱きしめる力がいつもより強いような・・・。く、苦しい・・・・・。

 

 「ごめんなさい、ボクは自分の喫茶店があるので専属バリスタは無理かと・・・・・」

 「「・・・・・じ、じゃあ」」

 「?」

 「私たちのお婿さんになって!」

 「!?」

 「喫茶店の経済支援するから、毎日私たちのためにコーヒーを淹れてください!」

 「いや、ちょっと・・・」

 「「「「「「ダメ―――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!」」」」」」

 「ひっ!?」

 

 

 

 「トウミョウ隊だって」「あだ名付けられたの初めて」

 ホテルのメイドさんからあだ名付けられちゃった。“マ”ヤさん“メ”グさんで“豆”で、“ナ”ツメちゃんと私、“エ”ルで苗で“豆苗”隊なんだって。あだ名で呼ばれることなんてなかったからビックリしたけど嬉しかったな。

 あの子たちとより仲良くなれたみたい。

 でもこの時間ももうすぐ終わっちゃうんだよね・・・。

 「今度は枕投げ勝負だー!」

 「負けたままじゃいられない」

 枕を持ったメグさんたちとパンのメイドさんが部屋のドアを開けて勢いよく入ってきた。

 お別れの寂しさを吹き飛ばしてくれたみたい。

 「枕投げ・・・やったことないけど・・・」

 「おーっ?戦う前から敗北宣言かー?」

 「なっ!バカにしないでよね!未経験でもマヤくらいになら勝てる自信あるし!」

 「あーっ!またプライド傷付けやがって!じゃあこっちも容赦しないかんな!」

 「こっちだって!」

 「こういうの初めてだからうまくできるかな」

 「大丈夫。枕だからケガしないよ」

 「妹たちはお姉ちゃんが守るからね!」

 「皆さんホテルの迷惑にならない程度にお願いしますね」

 やっぱりこのホテル、おもてなしの心が5つ星だよ。

 

 「ねえ、ナツメちゃん」

 「何?エル?」

 「この戦いって私とナツメちゃんとココアさんチームとマヤさんメグさんチノさんチームの戦いだったよね」

 「うん、そうだったと思う」

 「じゃあさ・・・」

 オイコラチノーッ イツノマニアノコタチヲタブラカシタノーッ オネエチャンソンナコニソダテタオボエナイヨーッ チョッヤメテッマクラデモイタイッ

 「なんでみんなチノさん狙ってるの・・・?」

 「さあ・・・。やっぱり恋人だったのかな・・・?」

 「じゃあ、私たちもしかして寝と」

 「エル、それ以上はいけない」

 

 

 

 「ねえ、何でこのホテルのお客さんなのに接客してたの?」

 「他人のホテルで頑張る理由ある?」

 枕投げ勝負を終えて一息ついた私たちはふと疑問に思ったことをマヤたちに聞いてみた。だって普通はみんなお仕事って嫌がるイメージだし。

 「だって面白そうだったから」

 「そんな理由でお仕事していいの?」

 「面白そうで首突っ込むの好きなんだ。それで実際面白かったら得した気分になれるし」

 そっか。

 そういう理由でお仕事してもいいんだ。

 

 「それに、ナツメちゃんとエルちゃんも来てくれたから」

 「私たちのために?」

 「うん。友達とかお客さんとかが喜んでくれると、こっちもすごく嬉しくなるんだ」

 おもてなしの心が5つ星だと思ってたけど、それが自然の人もいるんだね。

 私もあんな風になりたいな。

 

 「おもてなしで楽しんでもらえると私も楽しい~」

 「ハァ・・・ハァ・・・。こ、コーヒーで、ハッ、し、幸せに・・・・・」

 「「チノさんボロボロ!」」

 

 

 「じゃあこっちからも質問!何でここに来たの?」

 「言わなきゃダメ?」

 「私たちに勝ったら教えてあげるよ」

 「のぞむところだよー」

 「ぼ、ボクちょっと休憩で・・・」

 「「「ダメ」」」

 「えっ」

 「そうだよ!この勝負に勝って私たちチノさん手に入れるから!」

 「えっ!?」

 「マヤたちの恋人じゃないなら私たちがお婿さんに貰ってもいいよね?」

 「えぇっ!?」

 「そういう問題じゃなーい!」

 「重婚は犯罪だよ!」

 「大丈夫!」

 「小切手使って何とかするから!」

 「むーっ!汚い奴らめ!」

 「成敗してやるー!」

 「ぼ、ボクちょっと出ときますね・・・」

 「ダメだよチノくん自分の自由は自分で掴み取らなきゃ」

 「ひぃっ!?」

 こうして、楽しい夜は更けていった。

 

 

 

 チュンチュンと小鳥がさえずる音と、柔らかい朝の陽ざしで目が覚めた。昨日の疲れが残ってるのか、まだ夢見心地でまどろんでる。

ふと部屋を見てみると一緒に寝ていたはずのナエ姉妹がいなかった。

 「あれ、支配人?ナツメとエルは?」

 「電車の都合で朝早く出発なされましたよ」

 「え?何も言わず?」

 「私たちといて楽しくなかったかな・・・?」

 もしかして、上流階級特有の社交辞令だったのかな・・・。

 「伝言をお預かりしていますよ」

 そう言って支配人は、昨日エルにあげたブライトバニーの空きカップを見せてきた。

 そこに書いてあった。

 “ありがとう”って。

 

 「あの二人めー、カッコつけちゃって」

 「また会えるといいね」

 なんだろう。どこに住んでるかもわからないのに。

 近いうちにまた会える。そんな気がしてるんだ。

 

 「よ、より仲良くなれて、良かったですね・・・」

 「あ、チノ忘れてた」

 「たくさんの枕に埋まってティッピーみたいだね」

 

 

 

 私たち姉妹は、帰りの電車に揺られながらホテルでの出来事を思い出していた。

 「ねぇエル。旅行最後に日に思い切ってみてよかったね」

 「景色だけじゃない、世界が広がったね。ナツメちゃん」

 「ブライトバニーの娘でもバイトできるかな」

 「私たちもしてみたいね。おもてなし」

 「! これがあのホテルに泊まると働きたくなるって言ってた!」

 「呪い!?」

 「呪いは怖いから魔法って言おうか」

 「変な魔法使いがいたんだね。きっと」

 私たちはこれからの未来が楽しみなっていた。

 きっと近いうちにあの子たちと再会できるって予感しながら。

 

 




清川元夢さんのご冥福をお祈りいたします。
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