ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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旅行編最終話 ただいま

 「んっ・・・」

 なんだかいい匂いがする。

 焼き立てのパンのような、安心する匂い。

 それにとっても柔らかい。

 モフモフしたウサギのような、安らぐような柔らかさ。

 そしてとても温かい。

 太陽の光を浴びた布団のような、ホッとする温かさだった。

 

 そうしてまどろみの中で目を開けると。

 「っ!?」

 僕の隣にココアさんが寝ていた。

 何かデジャヴが・・・。

 

 「おはようチノ君」

 「あっ、おはようございます・・・」

 ココアさんは何事もないかのように目を覚まし、こちらに微笑みかけてくる。

 「よく眠れた?」

 「は、はい。とても・・・」

 起き抜けでボーッとしている頭を整理して、ようやく昨日の記憶がよみがえってきた。

 「もうちょっとチノ君の寝顔見ていたかったけど、もう時間だし仕方ないね」

 (先に起きて見られてた)

 そうだった。

 僕とココアさんは恋人になったんだ。

 

 「じゃあ私、みんなの分のパン作らなきゃ」

 「僕も何か手伝いましょうか?」

 「大丈夫だよ。チノ君は帰る準備でもしてて」

 相変わらずココアさんはみんなに優しい。

 僕もそんなココアさんに並び立っていたい。

 「じゃあ僕は皆さんのコーヒーでも入れますよ」

 そうやって二人で朝食の準備を始めた。

 二人一緒に何かをできることが何となく嬉しかった。

 

 

 「ないーないないのない~、今日が帰る日なのに~」

 「何がないのシャロちゃん?」

 「私の下着が足りない」

 「昨日の洗濯当番、マヤとメグだったな」

 「おはよーいい朝だねー」

 「最後の洗濯もの取り込んできたよー」

 「みんなで洗濯し合ったりした共同生活、それももう終わりなのね・・・」

 「この中にもパンツない!」

 

 「誰かの荷物に紛れ込んでるんじゃないのか?」

 「あれ、私のバックに間違えて入っちゃってたこれは?」

 「そのパープルチェックは・・・リゼちゃんね」

 「何でお前が分かるんだよ!?」

 「私が当てたかった・・・」

 「この背伸びした感じのやつはー?」

 「マヤちゃんそれ私の!」

 

 

 ココアさんの作ったパンと、僕の淹れたコーヒーで朝食の準備ができました。このホテルでの最後の朝食、早速皆さんに食べてもらいましょう。

 「あーっ、ノワール!私のパンツ!!」

 「犯人だ捕まえろー!!」

 何だかにぎやかです。旅行最後の朝なのでもうちょっとしんみりしてると思ってましたが、相変わらずで安心します。

 「皆さん、朝食出来ましたよ」

 そうやってドアを開けた瞬間。

 「あっ!!」「パンツがドアの方に!!」

 ファサファサッ

 色とりどりのパンツたちが僕の体に降りかかってきました・・・。

 

 「・・・・・・・・・・・」

 あまりの出来事に僕は硬直していた。リゼさん達も顔を真っ赤にして硬直している。

 僕の体には未だにそれぞれ色の違うカラフルなパンツたちが引っかかっている。

 こんなことを思うのもあれだけど、皆さんのは何というか肌触りがいい。それに洗濯仕立てというせいか芳香剤の良い香りも漂っていた。

 「あの・・・いったい何が・・・」

 僕はなるべく平静を保って状況を整理しようとした。

 「チノ君」

 聞き慣れた声だけど非常に冷たい声が横から響いた。

 僕は錆びついたブリキ人形のようにギギギと首を横に向けた。

 「何で恋人がみんなのパン作ってる時に、チノ君はみんなのパンツ食ってるのかな?」

 そこにはココアさんが見るからにド怒りモードで立っていた。

 爽やかな朝ののどかなホテルに、みんなの叫び声とココアさんの怒り声と僕の断末魔が響き渡った。

 

 

 「このサンドイッチ、来た時食べたのよりおいしくなってる!」

 「フフフ、こっちでたくさん修行したからね!」

 朝食のメニューはココアさんが作ったサンドイッチと僕が淹れたコーヒーです。ココアさんのサンドイッチは修行の成果も相まってさらにおいしくなっています。

 「ちゃんとお姉ちゃんしてるでしょー?」

 「うん!」

「そうだな」

「立派なお姉ちゃんだわ」

「少し認めてあげる」

 「えっ、みんな突然どうしたの?」

 「褒めた途端引くなよ」

 みんなにお姉ちゃんと言われ慣れていないからなのか、ココアさんは顔を真っ赤にして照れています。そんなココアさんを見ていると何故か自分まで嬉しくなってきます。

 「このコーヒーも美味しい!」

 「ココアちゃんのパンと会うわ」

 「チノ君が淹れたんだよ!すごいでしょ!」

 「なんでココアさんが自慢げなんですか」

 「えへへ」

 でも成長の成果が認められたのは嬉しいです。ココアさんのパンと一緒に褒められたのなら尚更です。

 「初めての共同作業だねー」

 「ち、ちょっとメグ!」

 「あっ。ご、ごめんなさい・・・」

 メグさんからそんなことを言われ、顔が一気に熱くなった。ココアさんも同様のようだ。

 改めると昨日の行動が恥ずかしい・・・。

 「・・・そうだったな。二人は恋人になったんだったな」

 リゼさんがコーヒーをすすりながら感慨深そうに呟いた。

 「何というか、前から二人の様子を見てきた側からすると感無量ね」

 「シャロさん・・・」

 「お互い好き同士のパンとコーヒーだから、こんなに合うのかもしれないわね」

 「千夜ちゃん・・・」

 「それに二人とも、昨日よりとっても生き生きしてて輝いて見えるもの」

 みんな僕たちの幸せを自分のことのように感じてくれている。

 こんなに嬉しいことなんてない。

 「ううっ、ぐしゅっ、みんなぁ、ありがとぉっ」

 「おいココア、泣くことないだろ」

 「チノ君、恋人として慰めてあげて・・・」

 「ぐすっ、みなさんっ、ありがとうございますっ、ぐすっ」

 「って、こっちも泣いてるし!」

 「おいチノ!ココアの彼氏になったんだからしっかりしろよ!」

 「そんなんじゃココアちゃん幸せにできないよー」

 「は、はいっ。ずびっ」

 みんなとの最後の朝食は少ししょっぱかった。

 「フフフ、二人とも。お幸せにね」

 

 

 

 「ついに帰ってきましたね」

 「あちこちで花が咲き始めてるー」

 とうとう木組みの街に帰ってきました。少し離れていただけなのに、まるで数年ぶりに帰ってきたかのような懐かしさを感じます。

 「さっそく今日泊まるホテルへ向かいましょう」

 「まともなホテルだといいけど」

 「かわいい街~」

 「ここなら楽しく暮らせそう~」

 「いつまで旅行気分なんだ」

 まだまだ旅行気分から抜けきっていない人もいます。それだけ共同生活が自然だったのかもしれません。かく言う僕もその一人ですが。

 向こうで買ったブライトバニーのコーヒーも当分飲めないと思うと名残惜しいです。

 「私たちが旅行してる間にブライトバニーが出店してる!こっちでも飲めるね!」

 「「いやぁーーーーーっっっ!!!」」

 「ライバル店がまた増えるってわけね」

 

 

 

 木組みの街に着き、僕たちは解散しました。

みんな自分の家に帰っていく。

 あれだけ騒がしくて楽しかった旅行も本当に終わったんだと実感できた。

 「私たちも帰ろう。ラビットハウスに」

 「ええ」

 そして僕たちも帰る。僕たちの家に。

 

 「新学期はみんなバラバラなんでしょうね」

 「7人が毎日顔を合わせることはないでしょうね」

 新学期が始まり、リゼさんは大学へ、マヤさんメグさんはシャロさんの学校へ、僕はココアさんと千夜さんの学校へ行く。みんな今まで以上にバラバラになるだろう。

 「でもさ・・・旅行中の私たちってさ。こう思ってるの私だけかもしれないけどさ・・・」

 ココアさんがモジモジしている。

 「そうですね・・・本当に」

 言いたいことは分かっていた。

 「“家族”・・・でしたね」

 「・・・あーあ、もう妹たちが恋しいよー」

 「調子に乗りすぎると見損なわれますよ」

 そんな風に見る街は、旅行に行く時よりももっといろんなものが見えた気がした。

 

 「チノ君」

 「はい?」

 「ちょっと背高くなってない?」

 「そう・・・ですか・・・?」

 「うん。声もちょっと低くなったし」

 そうだろうか。自分じゃ気付かないけど。

 「どんどん男の子になっていくね」

 「僕、元々男ですよ」

 「あはは、ごめんごめん」

 ココアさんはいつも通り笑う。でも前に見た笑いよりも印象が違う気がした。

 「そうだよね。どんどん時間がたって、どんどん変わっていって」

 言われてみれば確かに、ココアさんの頭が少し低いような気がした。

 「いつの間にかお互い恋人になって」

 そう語るココアさんの瞳は何処か遠くを見てるようだった。

 「“大人”になったんだね」

 「っ・・・」

 そう言って僕の方を振り向いたココアさんは、とっても綺麗だった。

 「ココアさん」

 「ん?」

 僕は少し腰を落として、ココアさんに自分の顔を近づけた。

 旅行に行くよりココアさんは小さくて温かい気がした。

 

 

 「ティッピー!ただいまです!」

 とうとう我が家に帰ってきた。久しぶりの我が家でまず行くところといえば大好きなおじいちゃんのところだ。

 「おじいちゃんに言われた通りたくさんのものに触れてきました!面白い喫茶店も沢山あったんですよ!他にもおかしいことがいっぱいあって!」

 伝えたいことがありすぎて、口が矢継ぎ早にグルグル回る。

 「あ、それに」

 でも一つだけ、絶対に伝えておきたいことがあった。

 「僕とココアさん、恋人になったんですよ」

 大好きな人とのことは大好きな人に一番に伝えたかった。

 「まだ男として未熟かもしれませんけど、ココアさんを守れるくらいになるまで頑張ります」

 そう僕の話を聞いているおじいちゃんは、今まで見たことないくらいほほ笑んで見えた。

 「他にも面白いことがいっぱいあって・・・。あ、これまた後で聞いてください」

 お父さんにも報告しに行かないと。

 「タカヒロさーん。ただいまー」

 「おとうさーん」

 まだまだ僕は未熟だ。

 だからおじいちゃん、ずっとじゃなくていいけど。

 まだまだ僕のことを見守っていてください。

 

 

 「チノ」

 「はい。なんでしょう、お父さん?」

 ふとお父さんから話しかけられた。何だろう、こんな風にお父さんに話しかけられるなんてどこか新鮮な気がする。

 「ココア君と恋人になったんだって?」

 「・・・はい」

 お父さんはいつもより少し真剣な口調だった。それも相まってか、お父さんとはあまりそういった浮ついた話をしないからか、少し緊張する。

 「自分を好きと言ってくれる人は、大切にしなさい」

 そう言うお父さんの目は真っすぐと僕を見据えていた。

 自分の“子供”、というより一人の“男”として僕を見ているようだった。

 「はい。勿論です」

 そんなお父さんに返す言葉なんて決まっていた。

 

 

 「シャロちゃんママからサプライズが届いてるー!」

 「なんですそれ?」

 いつの間にか家にラッピングされた箱が届いていた。どうやらココアさんたちがいつの間にか、僕たちチマメ隊に卒業プレゼントを作ってくれていたみたいだ。

 「いつの間に」

 「開けて開けて」

 そう急かされて開けてみると、中には手作りの陶器のマグカップが入っていた。

 中央には『We are Family』と書かれていた。

 「これ、みんなお揃いのデザイン描いたんですか・・・?」

 「きれいに焼けてる!すごーい!」

 「僕よりココアさんの方が驚いてるんじゃ」

 きっとみんなにも届いてるんだろう。

 

 どんなに大きくなっても、離れ離れになっても絆はいつまでも。

 そうだったらきっと素敵だろうな。

 

 

 「あれ?僕のマグカップ、ココアさんのより少し大きくないですか?」

 見比べてみると僕のマグカップの方が明らかに一回り大きい。

 「ああ、それね。チノ君これから大きくなるし、たくさんコーヒー飲むかなーと思って」

 「そんなにカフェイン中毒にはならないですよ」

 コトリと自分のマグカップをココアさんの小さなマグカップの横に置く。

 こう並べてみるとまるで。

 「チノ君」

 「はい」

 「みんなでこのマグカップ、長く使えるといいね」

 それはきっと本心なんだろう。

 でもココアさんの頬の赤さ。

 僕と同じく照れ隠ししてるとすぐに分かった。

 「はい。そうですね」

 僕も内心照れていた。

 うまくフォローや気障な返しが出来たらよかったけど、僕たちはこれでいい。

 

 この人と、いつか本当の“家族”になれたら。

 大好きな人もそう考えてくれてるといいな。

 

 




旅行編、長いですけどアニメでやってほしいですね。
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