〇リゼとのシェアルーム
「ではリゼさん、今日はよろしくお願いしますね」
今回の旅行では部屋を二人一組でローテーションして使うということになっています。一人一部屋使えればよかったのですが、予算の都合上予約できた部屋がこれだけしかないので仕方がないです。先日はメグさんとシェアルームになりました。
「・・・・・? リゼさん?」
何だか様子が変です。さっきからリゼさんが黙りこくっています。
「だだだ男子と・・・。おおお同じ部屋で・・・・・」
「あー・・・・・」
どうやら異性に人一倍耐性のないリゼさんは限界に近いようです。かく言うボクも先日のこともあってかなり緊張しています・・・。
「あ、あのリゼさん・・・。今日ボク、ソファの方で寝ますから・・・」
「・・・・・かたじけない」
今度はトイレに起きても絶対寝ぼけないようにしよう。多分二度はないから・・・。
「じゃあ寝ますね。おやすみなさい」
「お、おやすみ・・・・・」
部屋の電気を消して床につきます。ボクはソファ、リゼさんはベッド。距離があるので間違いは起こらない・・・と願いたいです。
「ふぅ」
目を閉じて眠りにつくと部屋の色んな音が聞こえてきます。時計の音や外の風で窓が動く音。一つの感覚が奪われると残りの感覚が冴えるというのは本当かもしれません。夜一人部屋にいると時計の針の音やタップ音がやけに聞こえるあれです。
「んっ、すぅ・・・」
「!」
「ん~、ぅぅん」
スルッ シュッ
「・・・・・・・・・」
聴覚が冴えているせいでリゼさんの衣服の擦れの音や、小さな息遣いまでが聞こえてくる。目を閉じて眠ろうとするけど、そうすればするほど余計に意識してしまう。脳内にリゼさんのあられもない姿の妄想まで浮かんできて全然眠れそうにない。
(ダメだ。落ち着くんだ・・・)
あまり音を立てないよう。小さく深呼吸をする。そうすると今度は部屋の中に漂っている、お風呂上がりの女の子特有の匂いが鼻腔を通して肺の中に入ってきて更に眠れない。
僕はどんどん冴えてくる自分の感覚に悶々とするばかりだった。
チノが自分の欲望に四苦八苦している一方。
(ち、チノの呼吸の音が聞こえる・・・! 服の擦れの音も・・・! 男子と寝るって・・・。いいや!考えるな!!)
リゼも煩悩と悪戦苦闘していた。
「おはよう。あら、大丈夫二人とも?目の下すごい隈だけど」
「別に・・・・・」
「ちょっと眠れなくて・・・・・」
○千夜とのシェアルーム
「じゃあチノくん、今日はよろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします・・・」
今日は千夜さんとのシェアルームです。先日のリゼさんとのシェアルームでは何もなかったのですが、お互い意識しすぎてしまったので大変でした・・・。今日は耳栓でもするとしましょう。
「フフフ、男の子とのシェアルームなんて、何だか緊張しちゃうわね」
そう言って余裕ぶってる千夜さんですが、頬が少し赤いです。やはり千夜さんも異性との関りが少ないのですごく緊張しているのでしょう。
「ココアちゃんはいつもこんな感じで過ごしてるのかしら」
「ココアさんはボクなんか気にせずいつもマイペースです」
「ココアちゃんらしいわ」
ココアさんは一応居候の身でありながらくつろぎすぎです。別に問題も文句もありませんが、あまりにも図太い神経だと一周回って感心するほどです。
「チノくんのこと、本当の家族みたいだと思ってるのね」
「そんなこと・・・」
「ちょっと二人が羨ましいわ」
「・・・・・・・」
千夜さんはいつも落ち着いてるけど、本当は少し寂しがり屋です。シャロさんと違う学校に行くことになって、気の合う友達ができるか心配していたと聞いたことがあります。
ボクも、ココアさんが来る前はもっと寂しかったです。
「この旅行をしている間は、みんな家族みたいなものですよ」
「チノくん・・・」
「特に今日は。だからよろしくお願いします」
「ええ。よろしくね」
少し緊張がほぐれた気がします。家族なら遠慮しすぎなくても大丈夫です。
「千夜さん、先にシャワーどうぞ」
「じゃあ失礼するわね」
千夜さんに先にシャワーに入ってもらいます。例によってレディファーストです。
でもよく考えるとお風呂やシャワーで大失敗したことが何度もあります。二度あることは三度ある、とも言いますし千夜さんが入っている間、散歩でもして少し部屋から離れておこうかな。
「あれ、これって?」
そう思って部屋を出ようとすると、机の上に何か置いてあるのを見つけました。どうやらタオルみたいです。
「千夜さんのかな?」
多分忘れていったのだろうけど、シャワー室に入るわけにもいきません。部屋から出るついでにシャワー室の近くにでも置いておいてあげようかな。
そう思った時でした。
「いけない。タオル忘れちゃった」
「え」
「あ・・・・・・・・」
シャワー室から千夜さんが出てきた。
千夜さんはシャワーを浴びようとしていた。つまり当然服は脱ぐ。
つまり千夜さんはなにも身に着けていなかった。
衝撃と静寂が部屋を支配する。
「~~~~~~~っっっ!!!チノくんと同室なの忘れてたぁ!!!!!」
千夜さんは顔どころか体全体を真っ赤にして、シャワー室に引っ込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ボクは先の映像がまだ網膜にこびりついていた。
衝撃のあまり、瞬き一つせず放心していた。
「おはよう二人とも。って!どうしたの二人とも!?目ぇ真っ赤よ!?」
「ああ、いえ・・・・・」
「ううん、何でもないの・・・・・」
そんな事件があったので、当然一睡もできなかった。
家族の中にも、遠慮は必要です・・・。
〇シャロとのシェアルーム
「で、では今日はよろしくお願いします・・・」
「エエエエエエエエ、えぇ・・・・・」
今日はシャロさんとのシェアルームです・・・。今度こそ、今度こそ何事もなく朝を迎えます。
例によってシャロさんは緊張しています。先日のこともあって肩身が狭いです・・・。
「ままままままあそんなにききき緊張しないでこここ心が静まるハーブティーを飲みましょぉー?」
「シャロさんに落ち着きが必要みたいです・・・」
ティーカップには何も入っていませんでした。
「美味しいです」
「フフ、よかった」
ハーブティーを飲んで気分も落ち着きました。お互い緊張がほぐれたようで今では談笑しています。
「この間は千夜がありがとね」
「いえ、そんなこと。ボクも勉強になりましたから」
先日、千夜さんと一緒に都会の喫茶店巡りをしたことを言っているのでしょう。ボクの方も色々と助けてもらいました。
「千夜、仲のいい同業者が欲しいってずっと言ってたから。今あの子とっても楽しいと思うの」
シャロさんは違う学校に行く千夜さんのことをずっと心配していたそうです。本当に仲のいい幼馴染なんですね。
まるで家族みたいです。
「ボクの方もとっても楽しいです」
「そう?」
「ええ。お互い切磋琢磨できる友達がいるから頑張れるんです」
「フフ、千夜が聞いたら喜ぶわ」
シャロさんは自分のことみたいに嬉しそうです。笑顔でお茶菓子のクッキーを口に運びます。
他人同士なのにこんなに思い合える友だちがいるなんて素敵なことだと思う。
ボクもなんだか嬉しくなりながらクッキーをサクリとかじります。
このクッキー、中にとろりとしたチョコレートが入ってるんですね。サクサクとトロトロが嚙み合って美味しい・・・。
ん・・・?チョコレート・・・・・?
「・・・・・・チノくん」
「は、はいっ。なんでしょうシャロさん・・・?」
シャロさんが急に顔を下に向け静けさを纏っています。
何だか・・・嫌な予感が・・・・・。
「すっごい良い子ねー!チノくんー!!」
「うわぁ!!」
やっぱり!!クッキーに入ってたチョコのカフェインで酔っ払ったんだ!!
「チノくんみたいな良い子、シャロお姉さん大好き―」
「むごごごご」
ぎゅうとシャロさんの細い腕で抱きしめられる。
か細い腕が背中に回り、ボクの頭がちょうどシャロさんの胸部分に来るようにして抱きすくめられている。
温かくて心地いい体温と、ほんのり甘くてかぐわしい香りと、柔らかくていつまでも味わっていたい感触がボクの顔をはじめとしてダイレクトに襲った。
「ふぁ、ふぁろふぁんふぁめっ・・・」
「チノくんモフモフー♪」
シャロさんはボクのモフモフを味わいながら、ボクはシャロさんの体を五感で味わいながら夜が更けていった。
「はよー、チノー、シャロー。どうしたの?寝不足?」
「ええ・・・、ちょっと・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
シャロさんは今にも消え入りそうでした・・・。
○マヤとのシェアルーム
「もし変なことしたらウサギの餌だかんな」
「な、何もしませんよ」
いきなし物騒なことを言ってくるマヤさんですが多分この反応が一般的です。変なことをするつもりもしたこともありませんが(多分)。
「じゃあ早速ゲームで対戦しようぜ!夜更かししてな!」
それはそれとしてシェアルームは楽しむようです。マヤさんらしいです。
「あ、あの今日は早めに寝たいなー、なんて」
「ええー!つまんねーの!」
ここ最近諸事情で寝不足が続いていてそろそろ限界です。マヤさんなら変なことにはならないだろうし、今日はゆっくり寝たいです。
「じゃあ一緒に寝るかー?」
「寝ません。さっき変なことしたらウサギの餌だって言ったのマヤさんじゃないですか」
「いっひひひ!照れてんの!」
「照れてないです」
マヤさんは砕けた性格もあってか男友達のような感覚に近いです。そんな明るい性格がボクには安心できたりします。
「・・・ちょっとくらい照れろよ」
「? どうかしました?」
「何でもねー!」
イーッとした顔をこちらに向けられてしまいました。せっかくのシェアルームなので嫌な気持ちにさせたくはないです。
「マヤさん」
「んー?」
「ゲームで対戦しましょう」
「・・・しょーがねーなー。負けねーぞ!」
「はい。お手柔らかに」
こんな感じのマヤさんだけど、本当は相手のことを自然と考えられる優しい人です。そんな友達を持てて誇りに思います。
ボクもそんな友達に恥じないようにしないと。
(友達としてしか見られてないのかな)
「どうかしました?」
「別にー。チノ、ゲーム弱いなーって」
「テーブルゲーム派なので・・・」
「おじいちゃんみたいだな!」
「そうですかねぇ・・・」
「じゃあおやすみなさい」
「ソファで寝るんだな」
「ウサギの餌にはなりたくないので」
例によってボクはソファで寝ます。そろそろベッドが恋しいですが、ソファもフカフカなので特に文句はありません。
「・・・・・」
「マヤさん?」
「ソファだと寝づらいだろうし、こっち来たら」
「え」
両手を合わせてイジリイジリしながらボソボソと呟いています。こんなマヤさんは珍しいです。
きっと気を使ってくれたんだ。本当に優しくていい人だ。
「大丈夫ですよ。ソファもフカフカで意外と寝心地いいですから」
「・・・・・・・・・・・・・・」
あれ?
「あっ、そ。じゃ、おやすみ」
あれ!?
豆電球が点いていて、少し赤い光を纏っている夜の部屋。ほんのり明かりがあるのが逆に安心して眠れる。
最近眠れていないせいか、とても深い眠りに落ちていて夢の中でさえうつらうつらとしていた。
だからはっと起きた時にも夢と現実の区別が付かなかったんだと思う。
ふとした拍子に目を覚ます。何だかモフモフと温かいものを抱いて寝ていた。
「・・・・・・・・・?」
暗がりの中、よく確認してみる。それは。
「スゥ・・・スゥ・・・」
マヤさんだった。
あれ?何で?マヤさんはベッドに寝ていたはず。ここはソファだし。マヤさんが寝ぼけてくるのも考えづらいし。
「スゥ・・・クゥ・・・」
きっと夢なんだろう。仮にも女の子のマヤさんと相部屋してて緊張で夢に見ちゃったんだろう。
そう都合よく解釈しながら、ボクは心地いい眠りの方を優先した。
「・・・・・・・・・変なことしないのな」
「うわああああああああああああああああっっっ!!!???」
朝起きるとボクの隣にマヤさんが寝ていた。何で・・・?また寝ぼけて・・・?
「おはよ。チノ」
マヤさんはいつもと変わらないようだった。何で・・・?仮にも男のボクが隣で寝てたのに・・・?
「ま、マヤさん・・・」
「ん?」
「へ、変なことはしてないと思ま・・・」
「知ってるよ」
なんだかいつもよりぶっきらぼうっぽい。それもそうだろう。友達とはいえ、男のボクが隣で寝ていて嫌な気分にならないはずがない。
「ご、ごめんなさい・・・・・」
「別にいいよ」
「でも・・・」
「潜り込んだの私だし」
「え」
そう言ってマヤさんは乱れた髪を整えていた。
何だろう。普段そういう目で見ないのに。
マヤさんが何だか、色っぽい。
「着替えるから外出てて」
「あっ、はい」
そう言って急いで外に出るボクの頬は、少し熱かった気がする・・・。
「おはよー二人とも!よく眠れた?」
「うん、まあね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
○ココアとのシェアルーム
「何とか完成しましたね」
「うーんっ、楽しかったねー!」
ココアさんと恋人になった夜、僕とココアさんは新しいパズルに熱中していた。恋人同士になって初めて一緒にすることがパズル?と疑問に思う人もいるかもだけど、僕たちはこういう恋人でいいのかもしれない。
「そろそろ寝ましょうか」
「えー!最後の夜だしもっと楽しもうよー!」
「明日帰るんですよ。そろそろ寝ないとチェックアウトの時間に起きれませんよ」
「ちぇー」
ココアさんが頬を膨らませる。最近成長したかと思ったけど、あんまり変わらない部分も多いみたいだ。
・・・・・拗ねてるココアさんもかわいいな。
「しょうがないね。みんなに迷惑かけれないし寝よっか」
「そうですね。おやすみなさい」
そう言ってソファへ向かおうとした時だった。
「チノ君、どこ行くの?」
「いや、寝ようと」
「・・・・・せっかくだしさ、こっちで寝なよ・・・・・・・」
「!?」
ココアさんは顔を赤らめて隣のベッドをポンポンとする。
確かに恋人にはなったけど・・・。
まだ、そういう関係に進むには・・・・・。
「チノ君」
声を聞いてココアさんの方を見る。
「大丈夫」
ココアさんの目は、吸い込まれそうになるくらい深くて綺麗だった。
「おいで」
ソファに座って手を開いていた。
思わず喉を鳴らす音が自分でも確かに聞こえた。
「チノ君って相変わらずモフモフだねぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕はベッドの上でココアさんの胸にうずくまって寝ている。そういう準備をしていないし、まだそこまで進んでないしで、もちろんそういうことは今夜はしない。
けど今までこれほど心臓がドクンドクンなった経験はなかった。
ココアさんの体に密着していると、ココアさんの鳴っている心臓の鼓動も伝わってくる。トクントクンと心地いい。
「それにあったかい」
ココアさんがきつくしがみついてくる。僕も思わずもっときつくしがみ返す。
ドクンドクン トクンッ トクンッ・・・
心臓の鼓動の周期がココアさんのと一致した気がする。そうすると心地よさも増した気がした。
「んんぅ」
「んっ」
お互いの体の匂いを吸い込む。ココアさんの匂いが鼻腔を経由して喉を通り、肺から血管を通して体全体に広がった。
抱き合っている手でココアさんの背中をさするようにする。ココアさんも僕の背中をさすってくる。少しくすぐったくて気持ちいい。
体中がココアさん色に染められていっている。
ココアさんも僕色に染められていっているのかな。
「チノ君」
「はい」
「好きだよ」
「僕もです」
そういって軽く唇を触れ合わせた。
そんな風に抱き合っている間に、とろんとした眠気にいざなわれていった。
「あの、その、二人とも、よく眠れたか・・・?」
「う、うん・・・とっても・・・・・」
「ちゃんと責任とれよ?」
「まだ健全な関係ですから!」
(((”まだ”なんだ・・・・・)))
・個人的に思うそれぞれの男子耐性
ココア:兄もいたのでそれなり
リゼ:あんまりない
千夜:あんまりない
シャロ:上二人よりかはある
マヤ:兄もいるし本人もノリが近いのでそれなり。でも意外と純情
メグ:あんまりよくわからないけど別に大丈夫