「チノくーん!こっち向いてー!制服最高に似合ってるー!」
4月1日。
「その髪型も決まってるねー!ポーズもグッド!」
新しい世界に行く日。
「カッコいい!カッコいいよ!お姉ちゃん誇らしい!!」
そう、入学の日だ。
「って入学当日に僕で遊ばないでくださーい!!」
「当日だからこそだよー」
相も変わらずだった。
「何せ弟の高校デビューだからね!」
「浮かれすぎです」
まるで自分のことみたいに気合を入れてくれている。嬉しいけどはしゃぎすぎではないだろうか。嬉しいけど。
「それにね」
「それに?」
「みんなに・・・自慢の彼氏の紹介もしたいし・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
自慢の彼氏・・・。
そう思われてることが凄く嬉しくて表情筋が上がりそうになる。
・・・ダメだ。これじゃココアさんと同じくらい浮かれることになってしまう。
でも・・・・・。
「お願いします・・・・・」
どうも最近、僕はココアさんに弱いみたいだ。
「えへへ~、緊張しないでー。私の姉力パワーも注入してあげるからー」
「いつもの数倍浮かれココアさんじゃ説得力ないです」
いや、別にそんなことないかも・・・・・。
「あっ、そうだ。チノ君、こっち向いて」
「何ですか?」
僕はココアさんの方に向き直る。
すると
チュッ
「!!」
「えへへ。恋人パワーも注入してあげたよ」
おでこに軽くキスをされた。そのおかげか知らないけど体がじんわりと温かく、緊張もほぐれたみたいだ。
やっぱり僕はココアさんに弱いみたいだ。
「「行ってきまーす」」
「いってらっしゃい、二人とも」
お父さんの見送りで僕ら二人は家を出る。高校に入る前も一緒に出てたけど。
「一緒の学校だからもう分かれ道で別れることはないね」
「ですね」
そうだ。今日からはずっと一緒の道を歩ける。
学校が同じだから当たり前だけど。
「でも僕はあえてこっちの道から行きます」
「ぞんな゛!!」
「ウソですよ」
「もーっ、チノ君だってホントは浮かれてるでしょ!!」
その通りだけどしょうがない。
こんなに嬉しいんだから。
「チノとココアだーっ!」
「マヤさん、メグさん」
向こうから高校の制服を着た二人が僕らを見つけるなり走ってきた。
「制服に合ってるー!」
「お二人も今日入学式でしたね」
二人も僕らと同じくらい浮かれているみたいだ。でも二人とも制服のせいか大人びて見える。
「あれ?メグちゃんの制服、リボンなんだ」
「うん。今年からネクタイと選べるみたいなの」
確かにマヤさんの服とは違ってリボンを結んでいた。メグさんの雰囲気と合わさって良く似合ってると思う。
「どうかな?チノ君?」
「ええ、とても可愛らしくてメグさんにピッタリです」
「えへへ、ありがと!」
喜んでくれてるみたいだ。良かった。
「むー、チノ。何だか口説き文句に磨きがかかったな」
「マ、マヤさん。別にそんなことは・・・・・」
「やっぱココアみたいなかわいい彼女出来て浮かれてんなー」
「そんなこと・・・・・」
と言いつつも思わず目をそらしてしまう。図星な部分がかなりある・・・・・。
「じゃあ私はどう?ちょっと着崩してみたんだけど」
確かに。マヤさんは制服のシャツの上からパーカーを羽織っているうえ、一番上のシャツのボタンも開けている。よく見るとスカートもメグさんのそれよりきもち短い気もする。
・・・ここは意を決して。
「ええ、いつもより大人びていて素敵です」
「・・・まあ及第点かな」
マヤさんはプイッと向こうを向いてしまった。けれどとても嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「マヤちゃん、今日はネクタイくらいちゃんとしなきゃダメー!」
「ぐえっ」
「3人の晴れ着姿が見れてお姉ちゃん感激~!!」
「ぐええっ」
「早くしないと遅刻しますよ」
みんな浮かれていた。
だって初めての高校だから。
「じゃあ行ってきます」「メグちゃんマヤちゃん行ってらっしゃーい!」
「行ってきまーす」「ココアとチノも行ってらっしゃーい!」
「この感じ懐かしいなー。ここでリゼちゃんと遭遇したんだよねー」
「そうだったんですか」
「そして何度も迷って私を混乱させたな」
「ひゃあっ」
噂をすれば、後ろの方から本人がぬっと現れた。
朝のジョギング中らしく、ラフなジャージスタイルだ。スポーティーな大人って感じがする。
「ついてきてくれるの?寂しいの?」
「コースが同じだけだ!」
前言撤回。子供っぽいところもまだまだあるみたいです。
「いいかチノ?ココアが迷わないよう毎日見張るんだぞ?」
「もちろん」
「迷わないよ!!」
ココアさんはブーブー文句を言っていましたが、可能性はゼロではありません。彼氏として導いてあげなくては。
「分かってるって。行ってらっしゃい」
リゼさんはココアさんの頭を優しくなでて、去っていきました。
「・・・・・リゼちゃんの姉力が上がってる気がする」
大学生になって、精神的に余裕ができたのだろうか。
「大人って、すごいですね」
「うん」
この前まで近くにいた人が、突然遠くなった気がした。
少し寂しい・・・。
「本当に迷わないですよね?」
「本当だって!証明するためにこっちの道から行ってみよう!!」
「言ってるそばから!!」
僕の恋人はもう少し大人になった方がいいかも。
「千夜ちゃんおはよー」「おはようございます」
「おはよう。二人とも」
登校の道中、千夜さんが待っててくれた。そうだ。千夜さんも今日から同じ学校の先輩になるんだ。
「我ら、スクールメイツ3人衆」
「うぅ~」
「??」
「「イエーイ!!」」
「!?」
二人は飛び上がってお互いの手をたたいた。
「ダメよチノ君、ついてこなくちゃ」
「明日は成功させよ☆」
「これ毎日やるんですか!?」
男子高校生にはつらいです!!
「チノ君と一緒に通えるなんて感慨深いわ」
「これからよろしくお願いします」
思えば千夜さんとは、同じ喫茶店の跡取り同士という以外の接点があまりなかった気がする。こうやってつながりが増えるのは嬉しいことだ。
「これからは・・・千夜『先輩』ですね」
そう言った途端、両肩をガシッと千夜さんに掴まれた。
「もう一回言って?」
「・・・・・・・・」
「お願いもう一回!?」
何だろう。この感じデジャヴが・・・・・。
「むー千夜ちゃん!チノ君は私の弟兼彼氏兼後輩なんだからね!!」
「ぐっ!?」
後ろ側からココアさんに抱き着かれた。後頭部に抗えないふにっとした感触を感じる。
「ココアちゃんと争うつもりはないけど・・・。私の後輩でもあるから!!」
「もごっ!!」
前方から千夜さんの大きな胸部がせまり僕の顔面を押しつぶした。おかげで僕は二人の柔らかい体にサンドイッチされることになってしまった。
頭部全体に言葉にできない幸せが広がる。
「後輩の部分だけでもいいから頂戴?」
「あげたいけど心がイヤって叫んでるー!」
「ふ、ふたりとも・・・みんな見て・・・ちこく・・・・・ぐむぅ・・・・・」
息が苦しいからなるべく思い切り息を吸い込む。その度に二人の優しい甘い香りを吸い込んでしまう。
苦しいやら恥ずかしいやら嬉しいやらでわけが分からなかった。
「ようやく着いた・・・」
「朝からみんなの話が聞けていい日になりそう♪」
ここが・・・今日から三年間お世話になる学び舎・・・。
よろしくお願いします。
「あら?あの子、外の街からの転入生かしら?」
「うさぎに興味津々だし、きっとそうだよ!」
あれ?
あの子って・・・。
「声かけてみよっか」
「待ってください!」
思わずココアさんをせき止める。
「ぼ、僕が行っても・・・いいでしょうか・・・・・?」
「チノ君・・・・・」
ココアさんはちょっと驚いていたみたいだ。それもそうだろう。普段の僕なら知らない人に積極的に話に行くなんてしないだろうから。
「健闘を祈る!」
「私たちは先に行ってクラス替え掲示板見てるわね!」
二人は敬礼をして送り出してくれた。まるで本当の弟の晴れ舞台を見送るように。
「・・・じゃあ、行ってきます」
おかげで勇気が出た。
二人のあの敬礼に答えたい。
それに、再び会えた友達と、もう一度話したい。
弟が勇敢に話しかけに行ってる・・・
私と会った時のココアちゃんみたい
そうだっけ?
そうなの
あれで楽しくなりそうって思えたんだから
どうしよう・・・。いざ話すとなると緊張してる・・・・・。
ココアさんの笑顔を真似て・・・。浮かれ顔になってしまうけど・・・・・。
・・・姉力と、恋人パワー・・・・・。
「あのっ、僕のこと覚えてますか?」
その子は、僕の声を聞いて振り向いた。
「フユさん
この街に来てくれたんですね
嬉しいです」
・・・フユさんからは返事がない。
一度出会っただけだし、もしかしたら忘れて・・・・・
カキーンッ
「固まってる!?」
「こんな偶然越えて奇跡みたいなことあるなんてこの世は摩訶不思議みゅうみゅう」
「うさぎはみゅうみゅうって鳴きません!」
フユさんお得意の腹話術は健在みたいだ。
そんなこんなしているうちにうさぎはピョーンッと逃げていってしまった。
「捕まえましょう!」
僕は思わず追おうとする。
その瞬間、服の袖をクイッと掴まれた。
「名前・・・覚えててくれて、うれしいよ」
「チノ・・・・・!」
フユちゃんとの絡みもたくさん書いていきたいです。