ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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チノくんと千夜

 こんにちは。喫茶店ラビットハウスの跡取り息子のチノです。

 でも今日は少しいつもと違います。

 「チノくん大丈夫?着物って動きにくいかしら」

 「すみません、なんかしっくりこなくて」

 学校の授業の一環でお仕事体験です。それで甘兎庵で着物を着て働いているのですが・・・。

 「結構歩きにくい・・・あっ」

 「きゃっ」

 なれない着物で足がもつれて・・・。

 ムニュゥ

 「だ、大丈夫?チノくん?」

 「は、はい・・・。すみません・・・・・」

 千夜さんの胸元へ一直線でした・・・・・。

 そんな感じでやっています。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 少しもやもやしています。原因は分かっています。

 別に千夜さんの胸の感触を思い出したわけではないです。ホントです。

 (柔らかかったな・・・・・)

 着物を着てさらしを巻いてるだろうに、あの柔らかさ。ココアさんはパンみたいにふかふか、リゼさんはどこか引き締まった張りがあったけど千夜さんは大福みたいに大きくもちもちして・・・・・・・。

 (何を考えてるんだボクは!!!)

 仕事中にも関わらずふしだらな考えになっている頭を頬をバシバシ叩いて矯正します。仮にもお仕事なんだから真面目にやらないと。

 でもココアさん、リゼさん、ティッピーがいない環境でのお仕事なんて初めてです。だからちょっともやもやするんでしょうか・・・。

 「チノくん。チノくん」

 千夜さんから話しかけられて後ろを振り向きます。

 「食い逃げだ!発砲許可!頭を狙え!!」

 すると千夜さんが拳銃を持って、まるでリゼさんのようなことをしていました。

 突然のことだったのでビックリしてボクは目を丸くさせて見ていました。

 「リゼちゃんのモノマネだったんだけど、緊張をほぐそうと思って・・・」

 「・・・・・・フフッ」

 千夜さん、おしとやかに見えるけど意外とお茶目さんです。

 「ありがとうございます。ボクのために普段やらないようなモノマネまで・・・」

 「いいのよ、ラビットハウスごっこはよくやってるから」

 「えっ」

 

 「ボクに近いサイズの着物なんてあったんですね」

 ボクの着物は千夜さんが職場体験になってすぐ用意してくれました。男の子のアルバイトさんを想定していたのでしょうか。

 「昔友達のために作ったんだけど、着てもらう機会がなくて・・・」

 千夜さんの友達と言ったら真っ先に思い浮かぶのは・・・。

 「シャロさん用なんですか」

 「うん・・・」

 千夜さんとシャロさんは昔からの友達です。でも学校もバイト先も違います。だから少し寂しいのかな・・・。

 あれ、ということはこれ、女の子用?通りで少しキツイ様な・・・。

 「でもラビットハウスの後継ぎさんがこうして働いてくれるんだもの。こんなに嬉しいことはないわ」

 「千夜さん・・・」

 うちのラビットハウスと甘兎庵はおじいちゃんの世代からお互い競い合ったライバル同士だったらしい。ボクも知ったのはつい最近なんですけど。

 ラビットハウスにはボクの他にココアさんやリゼさんがいます。でも甘兎庵には千夜さん以外のバイトさんはいません。

 「千夜さん」

 「ん?」

 千夜さんがボクの方を向きます。

 「こ、これから数日は、お、お兄さんに任せなさ~い」

 「えっ?」

 千夜さんは目を丸くして困惑しています。慣れないことはしない方は良かったかな・・・。

 「こ、ココアさんのモノマネ、だったんですけど・・・」

 外したっぽいです。ヤバイ。恥ずかしい。

 「・・・・・フフフッ」

 千夜さんは手を口に当てて微笑みます。

 「ありがとう、チノくん。元気出てきたわ」

 その姿はまさに大和撫子といった感じです。

 「お互い跡取りとしてお店盛り上げていきましょうね」

 「・・・!はい!」

 喫茶店経営は大変だろうけど、しのぎを削り合える友達がいるなら、長く続けられると思う。

 「ところで、ココアちゃんのマネなら私だって得意なのよ」

 「仕事そっちのけなところがすでにそれっぽいです」

 「お姉ちゃんに任せなさい!」

 千夜さんはココアさんの姉ポーズを取りました。

 「ココアさんより姉オーラが出てしまってます。美人さんだから様になっちゃってます」

 「えっ・・・!」

 千夜さんが驚いたような顔をします。そんな変なこと言ったかな?

 「そ、そうかな・・・・・」

 顔もどことなく赤くなっています。体調悪いのかな。少し心配です。

 

 

 「チノは今頃甘兎庵かぁ」

 「千夜ちゃんに影響されて」

 『今日から抹茶派です。コーヒー派に宣戦布告です』

 「こんなことになってたりして・・・!」

 「ただの中学の職業体験だろ。3日間だけだし」

 「ん~・・・。はっ、まさか!こんなことに・・・!」

 『俺はこの娘と結婚することに決めたぜ!です。ボインな大和撫子はサイコーだぜ!です』

 『甘兎庵看板夫婦!』

 『爆誕!』

 「ヴェアアアアア!!チノくん取られるーーー!!!」

 「お、落ち着け!単なる職業体験だから!!」パリンッ「あっ」

 (また皿がダメになりおったわい・・・)

 そんな様子をティッピーに入っているチノの祖父は心でため息をつきながら眺める。

 それも落として割ったのではなく左右に引っ張って引きちぎるようにして割ったのだからすごい怪力である。

 「二人とも年上なのにチノのことになるとダメになるね」

 そんな二人の様子を同じく職業体験で来ていたマヤも眺めていた。

 「じゃあ私がチノの代わりに妹になるー」

 「うんうん!マヤちゃんもとっくに私の妹だよ!」

 「いつの間に勢力を拡大したんだ」

 「リゼちゃんも入れてラビットハウス三姉妹~」

 「いえー!」

 「私も入ってるのか!?」

 そんなおなじみのやり取りをしているさなか、ココアの携帯にメールが入った。

 「あ、チノくんからメールだ」

 ココアにつられて思わず二人も画面をのぞき込む。

 『夕飯にお呼ばれしたので帰りは遅くなります』

 といった文面が画面には描かれていた。

 「よくやってるみたいだな」

 「帰ってきたら今日の話たくさん聞けるといいね」

 そんな話をしながら残りのメール内容も確認していく。

 下の方の文面には写真付きでこうあった。

 『千夜さんいわく、甘兎庵看板姉弟爆誕です』

 

 ピシッ

 

 今ラビットハウスは客もおらず静かなはずだ。そのはずなのに何かにひびが入る音が確かに聞こえた。

 (ふ、二人が昼のドラマに出てくるような女の人の目ぇしてるよ~)

 マヤは能面のような顔と光の消えた目になったココアとリゼの気迫におののいた。気のせいか周囲の空気も冷気を発しているようだ。

 「よくやってるみたいだな」

 「帰ってきたら今日の話たくさん聞けるといいね」

 さっきと話の内容は同じはずなのに、まるで殺害予告のように声に凄みがあった。

 (明日、うちの跡取りは生き延びれているのじゃろうか・・・)

 ティッピーの中にいる老人は孫の行く末とこの喫茶店の未来を憂いた。

 




4人の中で一番シチュに困った・・・。
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