雨の日のラビットハウス。雨音は好きだけど客入りはまばらだ。
「二人分の席空いてますか!?」
「突然雨に降られて!」
そう思ってたら神紗さんご姉妹が来た。
「大変でしたね~。タオルでお拭きしまーす」
「当店自慢のココアはいかかでしょう?」
最初に入ってきてくれたお客さんのとびきりのおもてなしをしようということで、マヤさんメグさんは意気込んでいる。同じ学校の友達だからというのもあるだろうけど、ラビットハウスで正式にバイトを始められて嬉しいらしい。こっちまで嬉しくなる。
「何だか今日丁寧過ぎない?」
「マヤの方こそ熱があるんじゃ・・・」
「頭がおかしくなったみたいに言うなー!」
「大人しくサービス受けろー」
チマメ喫茶・・・。今後大丈夫でしょうか・・・・・。
「あのっ、来る途中で雨が・・・」
「フユさん!タオル持ってきます!!」
大雨の中フユさんも来てくれた。こんな雨の中来てくれるなんて嬉しいけど、濡れさせたままで置いておくわけにはいかない。早くタオルを。
「わっ」
お嬢様みたいなおもてなしを受けているナツメさんエルさんを見て驚いたようだ。
「流石ブラバの社長令嬢・・・。待遇が違う・・・・・」
「ちがっ、これは皆が勝手に・・・」
「引かないでー」
・・・・・・・・。
「ブラバの社長令嬢だったんですかぁーーーーーっ!!?」
「こっちは今知った!?」
「うわわっ、雨もっと強くなったし雷も鳴ってるよー!」
「ココアさん達は千夜さんの家に泊まるって連絡が来ました」
こんな雨の中無理して帰るくらいならそうした方がいいだろう。身の安全を第一にしてほしいです。
あ、でもフユさん達はどうしよう・・・。
「車呼ぶから送ってこうか?」
「乗ってく?」
「え、えっと・・・」
・・・雨の中、無理して帰らせるくらいなら。
「あの」
「「「?」」」
「明日は休日ですし、皆さん家に泊まっていきませんか?」
「「えっ!?」」
「「「!!?」」」
こんな大雨の中、女の子達を無理して帰らせるわけにはいかない。
それにフユさん達ともっと仲良くなれるいい機会かもしれないし。
「男の子の家に泊まる・・・」
「なんて・・・・・」
「む、迎えが来るなら無理にとは・・・」
「「と、泊まります!!」」
気を利かせたつもりでしたが、よく考えるとご令嬢が男子の家に泊まるなんて問題だったでしょうか・・・。
「ち、チノ・・・。私・・・も・・・・・?」
「え、ええ。良かったら・・・」
「と、泊まる・・・」
フユさん顔が真っ赤だ。雨に降られて風邪気味なんだろうか。早いところお風呂であったまってもらいたいです。
「お二人もぜひ泊って行ってください。ああ、お風呂は濡れたフユさん達が優先でいいですよね」
「「・・・・・・・・・・・・」」
「あの・・・」
「良かったね、ハーレムじゃん」
「酒池肉林の長い夜だねー」
「何の話!?」
「チノの部屋、案内するね」
「あ、はい」
「2階だったよねー」
「エル、落ち着いて。人の家だよ」
なんだかんだでみんな浮かれているようだ。友達の家に泊まるというのはワクワクするものなんだろう。
「ん・・・?」
「何でマヤとメグがチノの部屋の場所知ってるの・・・?」
「だって私たち泊ったことあるし」
「「えっ!!?」」
「ほ、ほんとっ!?チノッ!?」
「え、ええ。何度か・・・」
「おおお男の子の家に泊って一夜を過ごすなんて・・・」
「大人だ・・・!」
「そうだろー?ナツメたちより色々経験してんだからなー」
「この家で分からないことがあったら何でも聞いてね」
「僕の家です」
まるでマヤさんメグさんは実家のようなくつろぎっぷりだ。誰かさんを思い出します。
でもそれが何だか嬉しかったり。
「チノ」
「はい、フユさん?」
「ココ姉がいるのに他の女の子連れ込んでるの・・・?」
「ち、ちがちがちが・・・。そんな不純なことは一切・・・・・」
フユさんの目が、ネズミを見つけた暗闇の猫の目のようにギラギラ光っていた・・・。
「お、お邪魔します・・・」
「ここがチノの部屋・・・・・」
「遠慮せずくつろいでくださいね」
「・・・・・・・」
「どうしましたエルさん?」
「う、ううん!何でもない!」
「?」
「雑誌に書いてあったことと違う・・・。臭わないし、散乱したティッシュもない・・・」
「エル失礼でしょ!!チノさんがそんなことするわけないし!!!」
「いや、でもチノも男の子だし・・・。可能性は・・・・・」
「「「・・・・・・・・・」」」
ジャバーッとお湯が流れる音がする。雨で冷えた体にお風呂のお湯が染み渡る。
「「「・・・・・・・・・・」」」
今、私たちはチノの家のお風呂に入っている。
そう、好きな男の子の家のお風呂に。
「こ、このお風呂に、チノさん毎日入ってるんだよね・・・」
「え、エル!!」
ドクンドクンと心臓が響くのが止まらない。
チノが毎日入ってるお風呂、ということは間接的にチノと一緒に入ってる、ということになるんじゃないか。
このお湯に浸かってるということは、裸のチノに包まれてるということと同義になるんじゃないか。
そう考えれば考えるほど体が芯から熱くなる。雨で冷えていた体なんてどこかへ行ってしまった。
見る限り神紗姉妹も同じことを考えているみたいだ。この二人もチノのこと好きみたいだし。
あれ・・・?よく考えてみると・・・。
「ね、ねえ!」
「な、何ですか?フユさん・・・」
「こっ、このあと・・・、チノもお風呂に入るんだよね・・・・・?」
「「あ・・・・・」」
この家に住んでるわけだからそりゃあ当然、チノもこのお風呂に入るわけで。
つまりは私たちが浸かった後のお湯に、裸のチノが・・・。
「「「~~~~~~っっっ!!!」」」
たまらなくなり、私たちはザブンッとお風呂のお湯に潜った。
「へくちっ」
「風邪かいチノ?」
「いえ、誰かが噂してるのかも・・・」
みんながお風呂に入っている間、僕はお父さんと一緒に皆の夕食を作っていた。
一人でサラッと作りたかったけど、まだまだ僕の実力では無理みたいだ。
「チノの友達だからね」
「え」
「美味しい夕食で喜んでもらおう」
お父さんとこうして一緒に何かをするなんて、あまり経験がなかった。
何だか新鮮だけど、とても嬉しい。
「はい」
たまには甘えていい、時もある。
「ところでチノ、不純異性交遊はダメだからね」
「え?」
「君の本命はココア君だろう?」
「お父さーーーん!!!」
こんなに大きな声を出したのは生まれて初めてかもしれない。
「ご飯すっごく美味しかった!」
「チノ君はいいお嫁さんになるねー」
「父にも手伝ってもらったので・・・というか、僕がお嫁さん?」
チノのご飯はとても美味しかった。これなら結婚してもお嫁さんと仲良くやっていけると思う。
「じゃあ僕もお風呂に失礼しますね」
(((!!)))
私と神紗姉妹はきっと同じことを考えているんだろう。体がビクついた。
「ゆ、ゆっくり入ってきていいからね」
「この家の主なんだし」
「しししっかりあったまってくださいね」
「い、いえ、今日はシャワーで済まそうかと」
「「「え」」」
お風呂での読みが外れた。
「何で・・・?」
「何でって・・・それは・・・・・」
チノは顔を赤くして逸らしてしまう。言わずともわかる。きっと気を遣ってくれてるんだろう。
「お風呂には・・・トラウマがあって・・・・・」
「トラウマ?」
「これの腹話術できる?」
「やってやって」
「・・・・・・・・・」
お風呂から上がってみんなくつろいでいる。
でもまだフユさんは緊張して怯えている様子です。
何か親睦を深める方法は・・・。
「あの、皆さん」
「んー?」
「時間もありますし、映画でも見ませんか?」
再生されてる映画は前にみんなで見に行った“うさぎになったバリスタ”
僕のおすすめの映画でとても感動できる物語だからみんなに見てほしかった。
それに、いかがわしいシーンもないし・・・。
「お店が経営難なんて・・・なんて過酷な物語」
「喫茶店って楽しいことばかりじゃないんだね」
みんな夢中で見ているようだ。
でもよく考えるとこれで親睦が深まるんだろうか。
「このマスターさん、チノさんに似てるね」
「えっ?」
「うさぎがいるところもそっくりだね」
どちらかというと僕は父を見ているように感じる。
経営難だった喫茶店をジャズで立て直した、なんてお父さんそのものだ。
「チノが大人になったらこうなるのかな」
「そ、それは・・・どうでしょう」
「チノはこんなにかっこよくならねーよー」
「もっとふんわりした感じの男の人になりそうだよねー」
「流石にそこまでは・・・」
大人になった僕・・・。
よく考えるとあと5年ほどで僕も成人だ。
いつまでも子供じゃいられない。
そうすると喫茶店経営も僕が主導でやらなきゃいけない時も来るだろう。
・・・おじいちゃんが残してくれた喫茶店。
僕はラビットハウスをどうしていきたいんだろう。
ピロロロロロロロッ
そんなことを考えながら映画を見ていると、スマホが鳴った。
どうやらココアさんからみたいだ。
「すみません。僕ちょっと出ます」
「ええ、みんなで映画を見ていたんです。だ、大丈夫です。いかがわしいシーンなんてありませんから」
『ほんとー?』
「うさぎになったバリスタを見てたんですよ。一緒に見に行ったでしょう?」
『それなら、まあ・・・』
ココアさんもだいぶ嫉妬深くなってきた気がする。今回は女の子たちを家に泊めた僕も問題だけど。
『チノ君、みんなのこと楽しませようといっぱい考えてたんだね』
「そうでしょうか」
『そうだよ、きっとそのことはフユちゃんたちにも伝わってると思うよ』
電話でココアさんの声を聴いて安心した。
顔は見えなくても、一番近くで僕のことを見てくれている。
「僕だって励ましたりとか、頼ったりとか、まとめたりとか、フォローしたりできます」
今までたくさんの人たちにたくさん助けられてきたからだ。
「ある人たちを参考に頑張りました」
だから、今度はいよいよ自分が助ける番なんだろう。
「それはご想像にお任せします」
それが、大人になるってことなんだ。
「チノー!遅いよー!」
「クライマックスのシーン始まっちゃうよー」
「ごめんなさい、間にあって良かったです」
いそいそと部屋に戻ると映画もいよいよ大詰めだった。
でもこの映画は何回も見てるから、ある程度のシーンは頭に入ってる。
でも、みんなと見るとまた違った楽しみ方ができる。
「メグちゃん!みんなで映画って楽しいね!」
「うん!チノ君のおかげだね!」
「え」
「チノさん、今日は色々とありがとう。楽しかったよ」
「まあチノにしては女の子喜ばせた方かな」
「チノ・・・ありがとう・・・・・」
「こちらこそです」
あの人の言う通りだった。
空回りかなって不安にも思ったけど、ちゃんと伝わっていた。
それに、みんなあたたかくて優しい人ばかりだから。
「・・・・・・・・・・」
ピトッ
「えっ、フユさん・・・?」
フユさんが僕の体に密着してきた。
「何だか寒くなっちゃって。あったまってもいい?」
「え、ええ・・・」
フユさんの体、温かい・・・。
それにお風呂上がりの湿っぽい肌の感触と良い匂いが・・・。
「「・・・・・・・・・・・・」」
ピタッ
「マヤさん!?メグさん!?」
「映画はこうして見るもんだからな」
「何だか昔のことを思い出すねー」
マヤさんメグさんの二人も僕の体にくっついてきた。
言うまでもなく温かくて柔らかいけど、何だかフユさんとは別の種類の良い匂いが・・・。
「ちょ!マヤ!そんなこと不純だって!」
「・・・・・・・私も」
「エル!?」
ビトッ
「!!」
「わ、わあ・・・。チノさんの体、温かくて、意外と固い・・・」
エルさんから興味津々な艶っぽい声が発せられる。
そんな台詞聞かされたら、ますます体が熱くなってしまう。
でも耐えるんだ。僕にはココアさんが・・・。
「・・・・・・・・私も」
「ひっ」
ギュウーッ
とうとうナツメさんまで引っ付いて来てしまった。
「男の子の背中、本当に広いんだ・・・」
艶やかな声、温かい体温、柔らかい肌、少し湿った髪、甘い甘い良い香り。
こんな状況、もう堪らない。
そんな本能を、僕は強引にねじ伏せていた。
頭の中は、もう映画のラストシーンなんて吹き飛んでいた。
温かい春の草原で僕は寝っ転がっていた。
涼しい風と、それに揺られる草花が僕の肌をくすぐり気持ちがいい。
そして何より、僕の周囲にはたくさんのウサギがいる。
温かくてモフモフしてていい匂いで、まさに天国だった。
夢なら覚めないでほしい・・・。
うん?夢?
前にもこんな夢を見た気が・・・。
嫌な予感を覚えながら、まどろみの中で目を開けると。
「!!!!!?????」
僕の周囲にフユさん達が寝ていた。
恐らく、映画を見ているうちに寝てしまい、その結果朝起きたら密着していたんだろう。
僕の右上側にエルさん、反対の左上側にメグさん。
僕の右下側にマヤさん、左下側にナツメさん。
そして、僕の体の上にはフユさんが気持ちよさそうに寝ていた。
(ああ・・・ココアさんごめんなさい・・・・・)
真っ先に出てきたのが、恋人への謝罪。
意図的でなくてもあってはならないことだからだ。
(一体、どうすれば・・・)
どうにかして抜け出さないと。そう考えようとするけど。
「んっ・・・」「ううん・・・」
「っ!!」
サスサス スリスリ
下の方にいるマヤさんとナツメさんが、寝ぼけて僕のお腹や腰回りを手や脚で撫でまわしてきた。
(ダメだ・・・考えるな・・・・・)
二人の肌の感触が気持ちいい、なんて絶対考えない。考えたらとんでもないことになりそうだからだ。
「むぅぅん・・・」「むにゃ・・・」
ムニュッ
「ぶえっ」
メグさんとエルさんが寝ぼけて体を動かした結果、二人の胸に僕の顔が埋まってしまった。
二人とも着やせするタイプなのか、想像していたよりも大きく・・・。
(素数を!素数を数えて!!)
落ち着くときは素数を数えると良いとココアさんから教わった。
落ち着かなければ。恋人のココアさんも裏切ることになる。
「すぅ・・・チノ・・・・・」
「フユさん・・・」
僕の夢を見てくれているのか。さらに強く抱き着いてきた。
スゥーーーッ
「ひんっ」
フユさんはパジャマ越しに僕の胸板に顔をうずめ、鼻や唇を沿わしてくる。
こんなのココアさんくらいとしかやったことないのに。
「誰か・・・助けて・・・・」
地平線が薄い青に染まる明朝、僕は本能という怪物と必死に戦っていた。
「フユちゃんとナツエルちゃんがそんなことに・・・!」
「チマメ喫茶も順調でした」
大雨でお泊り会があった翌日、とうとうココアさんが帰ってきた。
1日空けただけなのに、もう数か月もあってない気がしてくる。
「みんな僕の作ってくれたご飯、喜んでくれました」
「えらい!」
「映画作戦も大成功でした」
「えらえらチノ君!何だか今日お喋りで嬉しい♡」
「・・・!!」
「一日置いただけでこんなに話すことあるんだね」
ココアさんは少し悪戯っぽい笑みだった。
大人っぽくて、何だかゾクゾクした。
「私がいなくても問題なかったかー」
「当然です」
もう高校生。いつまでも子供じゃありません。
「そうだよね!じゃあ安心してこの街を離れられるよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「チェックメイト強くなったでしょー!?さぁて明日からもがんばろー!」
「あの・・・フユさん達と寝たことは謝りますから・・・・・捨てないで・・・・・」
「・・・・・どういうこと?」
「あ」
ここのチノ君とココアちゃんは男女なので原作と離れる理由が少し変わってきます。
それも次回以降書けたらなーと思います。
あとハーレムと純愛って両立難しすぎ・・・。