申し訳ございません。
気が付くと目の前に大きなお屋敷がありました。
何でだろう・・・。どうしてこんな所にいるんだっけ・・・・・?
細かいことはいいや。私、猫だし。寒いから中で暖まりたいな。
「あらら~、迷い猫さんですか?」
お屋敷の中から角の生えたお姉さんが出てきた。
もしかして・・・悪魔?
「ぜひお入りください。屋敷の悪魔たちも歓迎してくれるでしょう」
私、食べられちゃう?
「大丈夫。彼女たちは少し罪深いだけですよ♪」
「わー君、すごくモフモフしてるねー!」
ココ姉・・・に似た悪魔?
「私の妹猫になろう!ていうかする!もう決定!!」
すごく強欲みたい。
「ココアったらいい加減にしなさい!モフモフ集めすぎて屋敷中毛玉だらけよ!」
シャロさんに似てる悪魔もいた。すごく怒りっぽいみたい。
「いずれ世界を手にする私に今のうちに平伏しておきなさい」
千夜さんに似た悪魔は傲慢っぽい。
「お前、ふわふわしててうまそうだな」
リゼさんみたいな悪魔は食いしん坊。
「ちょうど抱き枕が欲しかったんだ!こいつぴったりじゃん!」
マヤみたいな悪魔はちょっと怠け者さん?
「おいで~猫さん。美味しいおやつあげるよ~」
メグ悪魔は人をダメにする悪魔みたいだ。
さっきから知ってる人たちに似た悪魔ばかり出てくる。
みんな好きだけど、私はゆっくり休みたいからここに来たんだ。
私はそそくさと逃げるように階段を上がる。
「ねこ・・・?こんな奥の部屋まで迷い込んできてしまったんですね」
そこにも悪魔がいた。
「色んな悪魔に翻弄されて大変だったでしょう。ここなら安全です。くつろいでいって下さいね」
私の、大好きな人にそっくりな悪魔が。
「他の部屋に行っちゃダメですよ?ずっとこの部屋にいていいんですからね」
チノみたいな悪魔は、嫉妬深いみたい。
「よしよし、あなたは温かいですね」
「に、にゃぁ~」
チノ悪魔は私の喉元をコチョコチョと撫でてくる。
くすぐったさと心地よさが同時に襲ってくる。まるで脳みそを直接撫でられてるみたいな気持ちよさだった。
「う~ん、モフモフで気持ちいいです」
「にぃ・・・」
チノは私をギュッと抱きしめてモフモフしてくる。
こんなに可愛がってもらえるなら・・・ずっとここに・・・・・。
「スンスン、それにいい匂い」
「にゃあ?」
チノは私の体をスンスンと嗅いでくる。
そんなに嗅がれると、恥ずかしい。
そう思ったら私をチノは抱き上げて。
「スゥ~~~」
「に、にゃあっ!!?」
私のお腹にポスンと顔を埋めて、私の匂いで肺をいっぱいにするみたいに吸い込んでいた。
チノの生温かい吐息がお腹に当たって変な感じになる。
「にゃあにゃあっ!!」
「ああ、ごめんなさい。嫌でした?」
流石に恥ずかしさで頭がいっぱいになって、思わずチノを拒絶する。
別に・・・嫌、というわけではなかったけど・・・・・。
「嫌いになっちゃいやですよ?」
「にゅう・・・」
チノは私の頭を優しく撫でてくる。
嫌いになんてなるはずない。
こんなに愛しい人だもの。
「じゃあお詫びにもうひとつ」
「にゃ?」
今度は私のお腹を前にするように抱き上げた。
そして。
「ぷうーーーーーっ」
「にゃにゃあーーーーーっっっ!!!??」
私の、お尻に顔を埋めて息を吹きかけてきた!
言いようのない気持ちよさに体を貫かれる。
「どうですか?気持ち良かったですか?」
「にゃ・・・ぁ・・・・・・・・・・・・」
体に、力が入らなかった。
経験したことのない気持ちよさに、体がだらんとなる。
「ずっとここにいてくれますか?」
「にゃあ・・・・・」
ああ・・・やっぱりチノは悪魔だ。
こんな誘惑に勝てるわけがない。
・・・でも、ここにいたままでいいのかな。
「そこまでです。チノさん。その猫さんは自分を思い出したようです」
そう言って出てきたのは、門番をしていた悪魔さんだった。
「今夜はお楽しみいただけましたか?私は『虚偽』をつかさどる悪魔です」
何か言ってるけど、どうでもいいや。私はもっとチノと遊びたい。
「さあ、自分自身と向き合ってください」
「?」
「今までのぜーんぶ夢ですから♪」
「!?」
カーテンから差し込む朝日と、小鳥たちのさえずりが頭に入ってきて目が覚める。爽やかな朝だ
「・・・すごい変な夢見た」
でも全然爽やかじゃない寝起きだった。
変な夢を見て体中汗だくだった。
きっと寝る前にこの本を読んだからだ。
『Seven Rabbit sins』 7人の悪魔に一匹の猫が翻弄される話。
どうして悪魔たちがココ姉たちだったんだろう。名前や性格が少し似てたからかな。
それにしても・・・・・。
『ずっとここにいてくれますか?』
夢の中のチノの表情や感触が、頭から離れない。
「これからどんな顔してチノに会えば・・・」
あんなことやこんなことされる夢を見るなんて・・・恥ずかし過ぎる・・・・・。
私ってそんなにエッチな子だったのかな・・・。
とりあえず汗でビショビショになったスーツと服を変えよう・・・。
私は髪をくしでとかしながらさっき見た夢のことを考える。
・・・別に、チノとあのまま遊んでいたかったとか考えていたわけじゃない。本当に。
夢の中のチノは、少し寂しげな顔に見えた。
現実のチノも最近物憂げな顔をする。だから重なっちゃったのかもしれない。
どこか無理してるような。私をこの街で笑顔にしてくれたのはチノなのに。
多分、ココ姉のことで悩んでるんだろう。力になってあげたい。
でも、私の力でチノを元気にできるのかな・・・。
「この本の作者さん・・・。この街に住んでるんだっけ」
もしかしてチノ達をモデルにしてるなんてこと・・・ないよね。
お久しぶりの木組みの街です。都会のホテルからようやく帰ってきました。皆さん元気にしてるでしょうか。
気のせいか少し景色が違って見えます。私が変わったのか、住人が変わったのか。
そうやって歩いていくとあら?こんなところに新しいお店が。
「あなたは・・・!」
お店の準備をしている店員さんに声をかけられました。
「青山ブルーマウンテン先生・・・ですよね?」
「ひっ!?」
とてもとても怖い目つきで声をかけられてしまいました。
「なんでそんな所に?」
「この体勢が一番落ち着いて人を観察できるんです」
まさかいきなり青山ブルーマウンテン先生に出会えるとは思わなかった。ちょっと変な人だけど。
いや、そんなことより・・・。
「観察・・・Seven Rabbit Sins にもモデルがいるんですか?」
「ええ、ラビットハウスという喫茶店に集まる人たちをモデルにしています」
「やっぱり」
道理で出てくる悪魔たちに既視感があると思った。
「皆さんのお友達だったんですね」
「お友達というか・・・これからもっと知っていきたい人たちです・・・」
もっと仲良くなって、お互いを助け合って・・・。
「それなら今からラビットハウスに行きましょう♪さあさあ♪」
「し、仕事、仕事が終わってから・・・」
想像以上にアクティブな人だった。
「グリードがココ姉・・・ココアさんでエンヴィがチノ・・・ですよね?」
「すごい、当たりです。読み込んで下さり嬉しいです」
「いえ、そんな・・・」
有名な先生と話す、ということでいつも以上に緊張する。向こうは割とフランクな感じだけど。
「登場人物たちが・・・まるで本当にいる人みたいに生き生きしてたから・・・」
実在してるチノ達をモデルにしてるから当然、だけどそれを小説のキャラに落とし込むなんて余程の観察眼が無いとできないはずだ。
普段からこの街の色んなものを観察し続けてるんだろう。それも楽しんで。
「・・・フユさん、ラビットハウスの皆さんのことが大好きなんですね」
「え、何で・・・?」
「観察するのは得意なんです。顔に書いてありましたよ」
「うう・・・・・」
心を読まれた・・・。恥ずかしい・・・・・。
やっぱり大先生だけのことはある。観察力がすごい。
「特に、チノさんが好き、と見ました」
「え、えっ、えぇっ!?」
「やはりそうでしたかー」
観察力がすごすぎてもはやテレパシーだ。
それとも私が分かりやす過ぎるんだろうか。顔から火が出そう・・・。
「顔に・・・書いてありました・・・・・?」
「それもありますが、チノさんは人を好きにさせてしまう力を持っていますから」
「・・・確かに」
チノは人を笑顔にさせる力を持っている。そんな力を持つ人を好きにならない人の方が少ないだろう。
・・・・・・・ん?
「青山さんも・・・好きなんですか・・・・・?」
「フユさんも中々の観察眼ですねー」
またライバルが増えた。それもこんな綺麗で経済力のある大人の人が。
「チノさんは優しくて努力家ですからね」
「はい・・・」
「月並みな誉め言葉ですが、人の魅力としてそれに勝るものは無いと思っています」
「本当に」
やっぱりこの人はすごい小説家だ。
チノの良い所をこんなに分かりやすく、説得力を持って伝えて来るなんて。
何だか私まで嬉しくなってしまった。
「デートの時も、とても頑張って優しくエスコートして下さりましたから」
「そうなんで・・・えっ!?」
その頃、ラビットハウスでは。
「私が憤怒!?そんなに怒りっぽい!?」
「私は暴食か!?確かに最近買い食いは多いけど!?」
「傲慢なんて、私はもっと慎ましやかよ」
「強欲って誰?」
「「「ココア(ちゃん)しかいない」」」
(もしかして嫉妬って・・・僕!?)
青山の新作を巡っててんやわんやとなっていた。
「相変わらずにぎやかです」
「今日は帰った方がいいかな・・・」
「いえ入りましょう!お久しぶりでーす!!」
「「「「「青山さん!?」」」」」
青山先生は意に介さず突撃した。
「フユちゃんも来てくれたんだ~」
「ダメッ、ココ姉っ。チノの中の嫉妬(エンヴィ)が目覚めるっ!」
「何のことです!?」
もし現実で、あんなことになったら・・・。
「チノ・・・あんまりこっちを見ないで・・・・・」
「嫌われた!?」
今朝の夢のせいで・・・チノのことを直視できない・・・・・。
「青山さん!この小説どういう・・・!」
「今日は大事な使命があって来ました」
憤怒の炎を燃やすシャロさんを静止して、青山先生が話し出した。
大事な使命・・・?
「ココアさんに、モカさんからお手紙です」
「お姉ちゃんから!?」
「ロイヤルキャッツ行ってくれたんだ!実家でパン屋さんもさらに頑張り中だって!!」
ココ姉にお姉さんなんていたんだね。きっとココ姉みたいに優しい人なんだろうな。
「私も卒業したら、都会でパン作りを極めるために修行するんだ!」
「!」
そうか・・・。
ココ姉もあと1年足らずで卒業なんだ・・・。
せっかく仲良くなれたのに・・・。
あれ?もしかして・・・。
「チノ、ココ姉がいなくなるから元気なかった?」
「そんな風に見えてました!?」
「うん・・・」
少しの間しか関わってない私がこんなに寂しいんだから、3年間一緒にいたチノはもっと寂しいはず。
元気がなくなるのは当たり前だ。
「・・・ココアさんの決意は旅行の時、なんとなく分かってましたし。思ったより早い決断にビックリしただけです」
「強がってない?」
「強がってなんか・・・。むしろフラフラしてたのが定まって嬉しいくらいです」
「そっ・・・か」
そんなわけない。
明らかに強がってる。
「先の話だけど・・・別れるのは寂しいわ・・・・・」
「大丈夫ですよ。どんなに離れていても、皆さんはここに戻ってくるはずです、ね?」
「青山さん・・・」
「良いこと言ってごまかしたろ!!」
「こんな風に私たち見てたの忘れてませんから!!」
「あくまでフィクション、虚偽なので」
「翠ちゃんいた!帰ったらすぐ連絡してって言ったでしょ!!」
先生は担当さんぽい人に連行されて行かれそうになっていた。
「あのっ」
その前に、伝えたいことを。
「この本書いてくれてありがとうございますっ!出てくる悪魔たちみんな、あったかくてすき・・・だから」
「ですって凜ちゃん♪」
「知ってるよ」
先生、担当さんのことが一番大好きみたい。
「連行される前に、フユさん」
「はい」
「フユさんも中々の観察眼を持ってると思います」
「そう・・・でしょうか」
「その目をつかえば、やりたいこともできると思いますよ♪」
「えっ」
「ほらっ、先生!行きますよ!」
「ではでは~」
やりたいこと・・・。
友達がしてほしいこと・・・。
「チノ」
「はい」
チノがこっちを振り向いた瞬間に。
私はチノをギュッと抱きしめた。
「えっ」
「「「「!!?」」」」
みんなびっくりしてる。
それはそうだ。
私自身が一番自分の行動にビックリしていた。
永遠、なんて気取った表現しかできないような長い時間が流れた、ような気がする・・・。
「ごっ、ごめん・・・」
「い、いえ・・・」
私はパッとチノから手を放す。
チノは顔が赤くなっていた。
私も同じくらい赤いだろう。
でも。
「今日は笑顔・・・私より下手」
それでもじっと、友達を観察する。
何を思っているか。何をしてほしいか。
「チノに辛いことがあったら、今度は私が笑わせるよ・・・!」
何を求めてるか。誰を好きでいたいか。
「マヤやメグや、ナツメにエルもいるよ・・・!」
それに、私が一番したいこと。
「だからえっと・・・スマイル」
チノに、大好きな人に笑っていてほしい。
「はい・・・」
やっと笑ってくれた。
まだ恥ずかしさが残ってるのか、ぎこちなくだけど。
「ココ姉」
「・・・・・あっ、はいっ!」
私はココ姉の方を向いて、口角を少し上げる。
「早く帰ってこないと、私がチノを取っちゃうよ?」
「ぴっ!?」
「フユさん!?」
ココ姉を観察して、一番ビックリさせれそうな言葉を言った。
自分からこんな言葉が出て来るなんて、私が一番ビックリしている。
「が、がんばりましゅ・・・」
ココ姉は委縮しきっていた。
お互い、まだまだ自己観察が足りないね。
今日はビックリする一日だった。
僕たちが小説の中で悪魔になってたり。
まさかフユさんがあんなことをするなんて・・・。
フユさんの体・・・温かかったな・・・・・。
「チノ君」
「はっ、はいっ」
ココアさんの声が耳元でしてビックリ仰天する。
浮気を見透かされたようだった。いや、実際にはしてないんだけど。
「パンの修業が終わったら、チノ君のためにおっきなサプライズ考えてるんだ」
ココアさんがこそこそと耳打ちしてくる。
サプライズ・・・。僕のために・・・・・。
「ココアさんは強欲ですね」
「そりゃそうだよ、大好きなチノ君のためだもん」
大好きな僕のため・・・。
体の芯から嬉しさが湧き上がってくる。
「それに」
と思った瞬間、吹雪のような冷気が一瞬体を襲った。
「フユちゃんには負けられない、から」
「ぴっ」
本当に一瞬だったけど、物凄く冷たかった。
目的のためには手段を選ばない。そんな冷たさだった。
「ふふっ」
「くすっ」
ココアさんとフユさんが、お互いの視線を交じわせあって笑う。
(甲斐性を持たなきゃ・・・)
僕も将来に向けて、決断する時が来てるのかもしれません。
チノがうさぎになって悪魔屋敷に迷い込む、という話も構想しているので近いうちに書きたいです。