「チノ君たちも外でお弁当―?」
「ココアさん達もですか」
学校のお昼の時間、今日はみんなお弁当。僕も例によってフユさんと一緒にお昼を取ろうとしていましたが・・・。
「でも今日はベンチが空いてなくて戻ろうかと」
「わたしシート持ってるから一緒に食べない?」
「さんせ~♪」
「ココ姉が言うんだ」
そんな経緯があって外でお弁当タイムとなった。まるでピクニックに来たような雰囲気になってしまいました。
「千夜さんの和食弁当、すごく綺麗・・・」
「手作り褒めてもらえてうれしい」
確かに千夜さんのお弁当は彩りも栄養バランスも良さそうで美味しそうだ。これを毎朝自分で作ってるというのだからすごい。
「チノとココ姉は中身一緒なんだね」
「え、ええ。一応一緒に住んでるので」
「毎朝二人で作るなんて・・・なかよし」
「なかよしだって~、チノ君~」
「作ったのは、父です」
「フユちゃんは小さいベーグル1個?」
「お腹が満たせればいいから」
「食に執着がない!」
「都会にいた時からこうだったらしくて」
食事内容やお腹の容量は人それぞれだけど、流石に心配になる量だ。
「でも・・・みんなの見てるとちょっといいかも。私も・・・こんな風に作れるかな」
「出来るよ!楽しいよ!」
「だからこれ作ったの“父”!」
*
「はいフユちゃん。あーん」
「えっ」
千夜さんが自分のお弁当を差し出してきてくれた。
「せっかくだし私のお弁当、ちょっと味見してみてくれない?」
優しい言い方だけど、きっと気を遣ってくれたんだ。
「じ、じゃあ。あーん」
ぱむっ
「! おいしい・・・!」
優しい味付けだけど、しっかりとした味わい。いくらでも食べれちゃいそう。
「よかった。もっと遠慮せず食べて♪」
千夜さんは朗らかに笑ってる。喜んでくれたみたい。
・・・私でも、誰かを喜ばせることができたんだ。
「フユちゃん!私のも、あ~ん」
今度はココ姉がおかずを差し出してきた。
でも、隣のチノが一瞬嫉妬の目を光らせたのを、私は見逃さなかった。
「・・・そういうの、チノとやった方がいいんじゃ?」
「えっ?あっ、いやっ、そんなこと・・・っ」
明らかにチノは動揺してる。やっぱり私とココ姉に嫉妬してるんだ。
「大丈夫だよ。かわいい妹のためだもん」
ココ姉はいつもこう。
周りの人みんなに、自然に優しさを振り撒いちゃう。
そしてみんなを喜ばせて、暗い気持なんか消し飛ばしてしまう。
本当にしょうがないココ姉だよ。
「それに、チノ君には家でよくやってあげてるから」
「ここっ、ココアさん!!」
「ちちちちちちちち、チノ君!?」
「ほ、ホント!?」
「え、えっと・・・」
「・・・・・・・・」
それを聞いて、負けられない気持ちになった。
「私、同じおかずならチノにあーんしてもらいたい」
「「「えっ」」」
「良いよね?ココ姉?」
「えーっと・・・・・」
「チノはどう?」
「・・・・・・」
やっぱり悩んでる。言わない方が良かったかもしれない。
でも自分が何をしたいか、友達が何を求めてるか、よく観察して吟味した。後悔はない。
「・・・僕は、ココアさんの恋人です」
「そう・・・だよね」
やっぱり、チノの意志は固い。とってもココ姉のことが好きなんだ。
そんな一途なところも、私が好きになった所だ
・・・でもどうしよう。楽しいピクニックの雰囲気が何だか重く・・・・・。
やっぱり、私じゃ・・・。
「手作りお弁当の交換はどう?」
「「えっ?」」
そう提案してきたのは千夜さんだった。
「友達同士なんだし、恋人じゃなくてもお弁当の交換くらいいいんじゃない?」
いつも通り優しい笑顔。
きっと助け舟を出してくれたんだ。
「それならおかずは被らないし、何より二人の親睦も深まると思うわ♪」
「それいいね!そうしよう!」
ココ姉も同調する。誰一人重い気持ちになってほしくないんだね。
「・・・どう?チノ?」
「・・・フユさんが良ければ、是非」
「わかった。楽しみにしてて」
「フユさんも、ですよ」
「でもまずは、自分たちのお弁当食べないとね」
「はい千夜ちゃん。あーん♪」
「あーん♪」
「ココアさん、早くしないと昼休み終わりますよ」
「チノ、ジェラシーしてる?」
「い、いや、別に・・・?」
失敗しても大丈夫だった。
みんなが助け合って、フォローし合ってくれる。
だからこの街のみんな、いつも笑い合っているんだね。
チノ達が朗らかな昼食を楽しんでいる最中。
「香風君、今日も美少女たちに囲まれてお弁当食べてるね」
「ちくしょーっ!何で俺の所には美少女の先輩が来ないんだーっ!」
「そんな思考してるからじゃない?」
他の男子たちには羨望と嫉妬の眼差しで見られていた。
*
そんなこんなでフユさんと手作りお弁当交換をすることになった。親睦も深まるだろうしとても良いことだ。だけど・・・。
(食べ物の好みとか聞いとけばよかった。でもそれだとサプライズ感がないし・・・)
どんなお弁当にしようか。それが悩みの種だった。
もちろん相手のことを思って作るけど、独りよがりになってフユさんの嫌いな食べ物を押し付けたら意味がない。
それに、自分の料理にどうも自信が・・・。
「お弁当のレシピ相談?」
「仕事が終わったらお願いできますか?」
悩みに悩んだ末、頼りになる姉たちに頼ることにした。一人じゃできないのが情けないけど。
「チノは十分料理上手だろ?」
「そうだよ、不安になることないのに」
「フユさんが作ってくれる決心をしたので、僕もそれに応えるものを作りたいんです」
「うんうん。そっか」
「それに、父のお弁当に比べたら確実に劣ってしまうので」
「「その気持ちは分かる」」
「友達にお弁当作ってもらうの、楽しそうだな」
「じゃあココアのは私が作ろうか?」
「ホント!?それならリゼちゃんのお弁当は私が!」
「明日はもう先約があるんだ」
「えー、なんかずるいー!」
二人がキャピキャピと談笑してる。
・・・僕と話す時より、なんだか楽しそうに見える。
「チノ君、ジェラシーしてる?」
「えっ」
「チノ、私に嫉妬しても意味ないだろ」
「す、すみません・・・」
外にオーラが漏れ出ていたみたいだ。嫌な気分にさせてしまった。
フユさんも、毎回こんな気持ちなんだろうか・・・。
「こ、ココアさん。良ければ僕がココアさんのお弁当を」
「いーらないっ」
「えっ」
「浮気性のチノ君のお弁当なんていりませーんっ」
ココアさんはベェッと舌を出して、リビングを去って行ってしまった。
「チノ、あんなこと言ってるけど・・・」
「分かってますよ」
きっとフユさんのお弁当に集中できるよう気を使ってくれたんだ。
それに僕もココアさんが他の男子にお弁当を作っていたら、あれ以上になるかもしれない。
僕は、彼氏としても人としても未熟だ。
「元気出せ。まずはフユのお弁当に集中しよう」
リゼさんがポンと背中を叩いてくれた。
「・・・はい。とびきり美味しいの作らなきゃですね」
「その意気だ」
今は、助けてくれる人がいる。
でも、いずれ自分だけで。
*
『チノと、お弁当交換してみたい・・・!』
と言って材料を買いに来たのはいいけど。
(お弁当って何入れればいいの・・・!?)
今まで人のために作ることなんて一度もなかった。興味すら湧かなかった。
だからどんなおかずを入れればいいのか・・・。
カップ麺・・・?ダメに決まってる・・・・・。
「あら?フユちゃんも買い物?」
振り返ってみるとシャロさんがいた。
「たっ、助けて・・・!このままじゃチノのご飯、白米だけになる・・・・・!」
「私にも相談してくれれば良かったのに」
「自分がダメなの。気づくの遅くて」
「千夜の発案なのにね」
色々あって甘兎庵でお弁当の開発をすることになった。千夜さんもシャロさんも一緒だ。
・・・そういえばまだお礼を言ってなかった。
「千夜さん・・・。ありがとう」
「ん?」
「あの時のこと。お弁当の交換ってアイディア出してくれて」
あのままじゃ、確実に私のせいで空気が死んでた。
あの後、楽しくお弁当を食べれたのは千夜さんのおかげだ。
「んーん、お弁当の交換をしたいって実際に行動したのはフユちゃんよ。私は少し手助けしただけ」
「でも・・・」
「それにね・・・」
「え?」
「・・・いいえ、何でもないわ」
千夜さんは一瞬憂いたような目をした。
それがどうも気になる。
「さあさ!まずはお弁当作りに集中しましょう!」
シャロさんが手を叩いて雰囲気を切り替えてくれた。
また誰かに助けられちゃった。
「それでチノ君のためにどんなお弁当にしたい?」
「えっと・・・、開けたらビックリして・・・。あと美味しいって言って・・・もらいたい!」
「色々考えちゃうの分かるわ!」
今は助けられてばかりだ。
でも、いつかは私が・・・。
「ビックリなら激辛ロシアンルーレット弁当なら二人で楽しめるわよ♪」
「あんたは黙ってなさい」
「でき・・・た」
「でっ、出来たわねっ」
「初めてなら上出来よ!」
二人は励ましてくれるけど。
これは明らかに・・・・・。
「異形・・・。どう見てもうさぎじゃない・・・・・」
こんなの、とてもチノに見せれないよ・・・・・。
「練習あるのみよ!今日はうちに泊まって朝みんなで作りましょう!」
「至れり尽くせり・・・」
「味はいけるかもしれないわ!」
ぱくっ
「・・・うん!とってもDanger!」
「いつもは得意なスマイルが崩れてるわ」
味も最悪だったみたいだ。
こんなのでチノを喜ばせることなんてできないよ・・・。
「フユちゃん。お料理を上手に作るコツって何か知ってる?」
「・・・わかんない。何?」
「自分も楽しく作ること」
「え・・・?」
「そうよ。チノ君のことを考えるのも大切だけど、まずは自分が楽しくなくちゃ」
「でも・・・」
それで・・・いいのかな・・・・・。
「料理には気持ちがこもるんだから。晴れやかな気持ちで作らないとね」
そう言いながらお弁当を作るシャロさんは、とても楽しそうだった。
「シャロちゃんのはお野菜たくさんいれてあげる」
「・・・お肉もね」
「リゼちゃんのも栄養バランス考えたレシピにしないとダメよ?」
「分かってるわよ!」
言い争っているけど、本気じゃない。
「友達のこと考えながら作るのっていいね。二人とも、楽しそう」
「フユちゃんもね」
「一緒に頑張りましょう」
何だか、楽しさに気づく余裕が出来てきた。
「で、激辛スパイスはワサビ派?タバスコ派?」
「私のお弁当にロシアンルーレット仕込むなー!」
「楽しい・・・ね」
*
「リゼ、今日はお弁当~?」
「シャロのお手製を朝待ち合わせで貰ったんだ。やらんぞ?」
「勝手に食べるわけないじゃ~ん」
今日のランチはシャロの手作りお弁当だ。
そう言えばチノとココアもお昼の時間だな。
チノ、上手くいっただろうか・・・。
ココア、喜んでくれてるだろうか・・・。
「隙あり♪」
「私のミートボール!」
「見せつける方が悪いんだ・・・って辛~っ!?」
「『一つだけ千夜の爆弾が混入したんで気を付けてください』だって」
「ケホケホッ、ひどいな~」
「天罰だ」
「・・・ココアちゃんとチノ君なら大丈夫だよ~」
「なっ、なんでそのことを!?」
「カマかけただけ~。というか最近のリゼの悩みなんて大体それだし~」
「かなわんな・・・」
大切な友達のことだ。否が応でも気になってしまう。
「誰だって、いつまでも子供じゃないんだからさ~」
「・・・そうだな」
最近、みんなどんどん大きくなってる気がする。
いつまでも年下の後輩、ってわけじゃないな。
「は~い隙だらけ~。もう1個いただき~」
「あっ、コラッ」
「ってまた辛~!!!」
「1個だけじゃなかったみたいだな」
*
「チノ君とフユちゃんは手作りお弁当の時間かぁ」
「うまくいってるといいわね」
待ちに待ったお昼休み。昨日の特訓の成果がでてるといいんだけど。
「千夜ちゃん、ありがとね。フユちゃんのこと」
「ううん、大切な友達だもの」
「それに・・・チノ君のことも」
「え?」
「あの時千夜ちゃんがお弁当の提案してくれたおかげで、チノ君も悩みすぎずにすんだから」
「そんなこと・・・」
チノ君だって大切な友達だし。
それに良いことばかりじゃないと思う。
「ココアちゃん、ごめんなさい」
「え、何で謝るの?」
「チノ君はココアちゃんの恋人なのに。だからもう少し別の方法があったと思うの」
敵に塩を送る、とはちょっと違うかもだけど。
ココアちゃんには大好きな人と幸せになってもらいたいのに。
「千夜ちゃん・・・」
「うん・・・」
「ココアチョープッ」
「った?」
ココアちゃんが軽くチョップしてきた。
「そんな簡単に謝っちゃダメ。千夜ちゃん何も悪いことしてないでしょ?」
ココアちゃんは少しムッとした顔。でも本気で怒ってるわけじゃない。
「それに、私フユちゃんのことも大好きだから。あんなに楽しそうにしてくれて嬉しかったよ」
「ココアちゃん・・・」
「だから、今日のお弁当はみんな千夜ちゃんのおかげ!」
そう言ってココアちゃんは懐からお弁当を出した。
「そのお弁当・・・」
「えへへっ、サプラーイズ!ココアお手製のお弁当だよ!チノ君見てたら作りたくなっちゃって」
今日はお弁当作ってこなくていいって言ってたのは、このため・・・。
「んー、ぐすっ」
「泣くほど!?」
「ありがとねっ・・・、ココアちゃんっ・・・」
ずっと不安だった。
何かを間違えたら友達の輪が崩れちゃうんじゃないかって。
でも間違いじゃなかった。
ココアちゃんが正しいって言ってくれた。
「千夜ちゃん泣き止んで!まずはお弁当に集中しよう!」
「ぐすっ、そうね」
涙を拭いてココアちゃんお弁当に向き合う。
友達の輪って本当に素敵。
「そして私のはリゼちゃんお手製料理が入ってます♪」
「あら、友達の輪はお弁当の輪でもあるみたいね」
「へ?」
*
「フユさんのお弁当開けますね」
「緊張する・・・」
「楽しみです」
では。
パカッ
こ、これは・・・。
「ち、チノ。やっぱり・・・」
「うさぎのキャラ弁ですね!かわいいです!」
「・・・・・」
「ち、違いました!?」
「当ててくれて・・・嬉しい・・・!作って良かった・・・!」
(食べる前から既に!?)
フユさんの瞳に涙が潤んでいた。
*
「手作りする素敵さ・・・、みんなが教えてくれた」
「良かったです」
誰かのために作るって、楽しい。
「今度は僕の開けてみてください」
「うん、じゃあ・・・」
パカッ
「!?」
中に入っていたのは、エキセントリックな絵柄の・・・何?
「キャラ弁被りですね。自信作の猫です」
「猫!!」
「どうかしました?」
「私、不安になりすぎてた。チノは・・・すごい!」
「? 喜んでいただけて何よりです」
チノのセンスも独特みたいだ。
*
(一先ずはオーケー。次はここから・・・)
「フユさん・・・?」
「チノ・・・」
「は、はい?」
ひょい
「あ、あーん・・・」
「!?」
フユさんはお弁当のおかずを差し出してきた。
「いやっ、あのっ、僕には・・・」
「大丈夫。ココ姉には了承済み」
「えっ」
「だから、一度だけでも」
フユさんがおかずを差し出してくる。
広場にいる生徒もチラチラと見てくる。
もう逃げ場がない。
「あーん」
覚悟を決めないと。
「じ、じゃあ・・・」
意を決して口を開ける。
中におかずが入れられる。
不思議な味だった。
「お、美味しいです・・・」
「良かった」
ただお弁当を食べただけなのに、ものすごい疲労感が・・・。
「じゃあ次・・・」
「えっ」
「あーん」
「!?」
お次はフユさんが口を開けてきた。
(もう覚悟を決めよう・・・)
その日は、色々と初めてのお弁当交換となった。
*
「というわけで、今日のお弁当交換は順調でした」
「良かったー!みんな喜んでくれたみたいで!」
知らぬ間にみんなでお弁当交換してたみたい。これでより友情が深まったね!
「というわけで。はい、ココアさん」
「これは?」
「僕からのお礼のデザートです」
チノ君がキッチンで作ってくれたのは、簡単だけど美味しそうなデザート。
「僕のお弁当、いらないかもですけど」
「あれは軽いジョークで・・・」
「知ってますよ」
「もうっ、チノ君最近意地悪になってきたよ」
「あはは、ごめんなさい」
「もうっ、くすっ」
そうやってお互い笑い合う。
(浮気性は私の方かも)
「? どうかしました?」
「何でもないよっ。それよりさ、あーん」
「・・・もう、しょうがないですね」
チノ君がデザートをスプーンで掬い、私の口へ運ぶ。
とろりとした甘味が、口いっぱいに広がる。
「美味しい」
「よかった」
「ほら、チノ君も。あーん」
「あ、あーん」
ごめんねフユちゃん。私、フユちゃんのことも好きだけど。
やっぱりチノ君が世界で一番好きみたい。