ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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青山先生とラビットハウス

 私は小説を書くのが好きな高校生。将来それを生業にできたらな、なんて・・・。

 そんな私には、小説を書く際のとっておきの穴場がある。

 「こんにちは、マスター。あのっ、今日はご相談が・・・」

 白いお髭の似合うマスターが営む小さな喫茶店。あまりお客はいないけど、コーヒーも美味しいし静かでとてもいいお店。

 「小説を書く際のペンネームで悩んでて・・・」

 マスターはよく私の悩みを聞いて、一番欲しい答えを出してくれる。将来私もこんな風に他人の悩みを解決出来たらいいんだけど。

 「青山翠でいいじゃないか」

 「マスターに決めてもらいたいんです!!」

 つい感情的になって大きな声を出してしまった。きっと迷惑だったろう。

 「わかったわかった。ただし有名になっても俺が考えたって言うなよ」

 それでもマスターは嫌な顔一つせずに答えてくれた

 「こういうのは覚えやすさ第一で本当の意味は隠しとくもんだ」

 「・・・はい!それでそのお名前とは・・・・・」

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 「「青山ブルーマウンテン!!」」

 「はいっ!」

 二人分の叱責に脳がたたき起こされ目を覚ましました。

 「気が付いてよかったです。うちで原稿のお仕事中倒れたの覚えてますか?」

 どうやら私はラビットハウスで気絶してしまったみたいですね。チノさんにはご迷惑をおかけしました。

 あら?でも先ほどの叱責、どう聞いても二人分だった気がするのですが?

 「青山さん?」

 「あ。いいえ。すみません、最近執筆が行き詰って徹夜続きだったもので」

 「小説家って大変なんですね」

 「いえ、自分で選んだ道ですから」

 チノさんは気を遣ってくださるようです。やはりマスターのお孫さんですね。お優しいです。

 

 バンッ 

 

 「翠ちゃん死なないで――――っ!!!」

 「私死ぬんですか?」

 「ココアさんが誤解を招く連絡したみたいです」

 

 

 「少し熱っぽい。疲れが出ちゃったんだね」

 無理しすぎて凜ちゃんにも心配をかけてしまったようです。ごめんなさい。

 「特性滋養スムージー作ったぞ」

 「私はパン粥作ったよー」

 皆さん私のために至れり尽くせりです。ここは天国ですね。

 「僕はティッピーを置いていきます。他に欲しいものありますか?」

 「そうですねぇ・・・」

 “夏の怪奇短編”の原稿に悩んでいるので・・・

 「皆さんの不思議体験がお見舞いの品に欲しいです♪」

 「無茶ぶり翠ちゃん!」

 

 

 「青山さん大丈夫そうだし、今日はおいとまするわね」

 「ありがとうございました」

 皆さんの不思議体験、とても参考になりました。

 存在しないはずのゲームセンター、夢を見た時だけ行けるパラレルワールド、ハロウィンの謎の幽霊・・・。不思議なことというのは気づかないだけで、意外と身近に転がっているのかもしれませんね。

 「では、創作意欲があるうちに原稿を」

 「まだ駄目だよ!どう見ても疲れが残ってる!!」

 凜ちゃんは相変わらず厳しいですね。でも私のことを思ってくれてなので反発はできません。

 「じゃあ念のため今日は泊って行って下さい」

 「!!?」

 「あら」

 「ん?何か・・・?」

 チノさんの発言で、凜ちゃんがかつてない顔をしています。

 「ちちちちちちチノさん!!あの仮にも女の人を自分の家に泊めるなんてこここ公序良俗ががががが!!!!!」

 「だだ、大丈夫です・・・。何もやましいことは・・・ぐえんぐえん」

 あの凜ちゃんがチノさんの体を揺さぶっています。珍しい光景ですね。これも小説に取り入れましょうか。

 でも・・・。

 「男の人の家に泊まるなんて、何だかドキドキしますね」

 「翠ちゃぁーーーん!!!」

 

 

 

 「はー。あったまりますー」

 「青山さんと一緒にお風呂だなんて、何だか新鮮だなー」

 チノさんの家の一番風呂をココアさんと一緒にいただいています。ちょっと申し訳ないですけど、疲れた体に温かいお湯が沁みますね。

 「一番風呂を譲ってくださるなんて、チノさんはお優しいですね」

 「チノ君はゆっくり入るのが好きだから。でも青山さんにあったまってほしいって気持ちもあると思うよ」

 流石は恋人のココアさん。チノさんのことは自分のことのように分かってるみたいです。

 そういえば・・・。

 「ココアさんは良かったんですか?」

 「何が?」

 「女の私がチノさんの家に泊まってしまうなんて。差し出がましいことかもしれませんが」

 「ううん。青山さんが泊まってくれて、何だかワクワクしてるよ」

 優しいお言葉ですが、気を遣っているわけではなさそうです。他人の幸せを自分の幸せとして感じれる方なんですね。ココアさんらしいです。

 「それに、チノ君は優しいから。目の前で困ってる人がいたら自然と手を差し伸べれちゃう子なんだ」

 それはココアさんも同じだと思います。お互いに良い影響を与え合っているからこそです。

 「そんなチノ君に並び立っていたいから、私も負けられないんだ」

 「・・・お互いがお互いのことを想い合うからこそ、愛が生まれるんですね」

 「青山さん?」

 「きっとチノさんも同じことを思っています。本当にとてもお似合いのカップルですね」

 「え、えへへ・・・。何だか照れちゃうな」

 ココアさんはお顔が真っ赤です。のぼせ気味なのでしょうか。

 「ココアさん」

 「はい」

 「チノさんと、末永くお幸せに」

 「・・・はい、頑張ります」

 体も心もポカポカで、疲れも一通り取れたみたいです。

 

 

 「ところで、青山さん・・・」

 「はい?」

 「どうやったらそんなに胸が大きくなるのか聞いてもいいですか・・・?」

 「? ココアさんも十分大きいと思いますが?」

 「いや・・・でも、もうちょっと・・・・・」

 「チノさん、大きいのがお好きなんですね」

 「えっ!?ど、どうだろう・・・」

 「揉んだら大きくなると本で読みました。揉んでみましょうか」

 「えっ、ちょっ、青山さんっ。あっ、あーっ!」

 

 「ぶるるっ。な、何だか寒気が・・・」

 

 

 

 「ごちそうさまでした」

 「お粗末様です。お口に合いました?」

 「はい、とても美味しかったですよ」

 「えへへっ、そうでしょー!」

 「何でココアさんが自慢げなんですか」

 夜はチノさんが作った手料理をいただきました。流石喫茶店のマスターを目指すだけあって、お料理もお上手ですね。

 「じゃあ私お皿洗ってくるね!」

 「あ、じゃあ僕も」

 「いいよいいよ。チノ君はお料理作ってくれたし、私にやらせて」

 「でも・・・」

 「その代わり、青山さんのことお願いしていい?」

 「・・・分かりました。ではお願いします」

 「うん」

 ココアさんは早速夕飯の片づけに行き、リビングには私とチノさん二人きりになりました。

 

 「ココアさんとチノさん、心が通じ合っていられるのですね」

 「そう・・・見えますか?」

 「ええ、まるでずっと昔から一緒だったような関係に見えます」

 「そう・・・ですか・・・・・」

 どうやらチノさんは照れているみたいです。お顔がお耳まで真っ赤です。

 「ずっと・・・一緒にいられたらいいんですけど」

 チノさんは少し寂しそうな目になりました。

 ココアさんがこの街を去った時のことを考えているのでしょう。

 「そういえば昔、チノさんとデートに行ったことがありましたね」

 「あっ、そ、そうでしたね」

 「あの時のチノさん、とても優しかったです。そんなチノさんと毎日を暮らせているココアさんが羨ましいです」

 「ど、どういたしまして・・・?」

 ますます顔が赤く。ちょっぴり可愛らしく思えますね。

 「ですから、きっと大丈夫ですよ」

 「え」

 「そんなに優しいチノさんがいるんです。いつか別れてもきっと戻ってきます」

 「青山さん・・・」

 出会いがあれば、別れもある。これは必然です。

 ですけど。

 「世界は繋がっているんです。ですから別れてもきっとまた会えます」

 「ありがとうございます、青山さん」

 「いえいえ。こちらこそ」

 昔はマスターによく悩みを聞いてもらっていましたが。

 今はお孫さんの悩みを私が聞く。これで恩を返せているでしょうか。

 

 「私がチノさんの恋人だったら、きっと戻ってくるでしょうから」

 「えっ、あっ、ありがとうございます・・・」

 「あっ」

 自然と恥ずかしいことを口走ってしまいました・・・。顔が熱いです・・・・・。

 「あ、青山さん・・・。そんな顔を隠さないで」

 チノさんの目が、なんだか直視できません・・・。

 「チ~ノ~く~ん~」

 「こ、ココアさ」

 「今度は青山さんまで誑かしたのー!?」

 「ごっ、誤解ですーっ!話を聞いて―っ!!」

 いつの間にか戻ってきたココアさんがお怒りモードみたいです。

 

 

 

 「今日は天の川が見えそうですね」

 夜、寝る部屋まで提供してもらいました。これは何としても不調を治さなくてはですね。

 でも何だか寝付けなくて、窓から夜空を見上げています。

 今日は皆さんのたくさんのお話を聞けて楽しかったです。

 これを創作に生かせれば・・・。

 「私も、本物の不思議に巡り合ってみたい・・・」

 私の発想は、皆さんのお世話になっているだけ・・・。

 

 ぴょんぴょん

 

 「ティッピーさん?」

 ティッピーさんがベッドから跳ねてぴょんぴょんとどこかへ行ってしまいます。

 「ここは屋上ですよ。一体何が・・・」

 気づくとラビットハウスの屋上へ。夜空がとても綺麗・・・。

 

 ピカッ

 

 「え」

 

 

 

 

 現れたのは、古めの鉄道。

 どこからともなく現れて、宙に浮いている。

 綺麗。まるで小説の銀河鉄道。

 

 

 ドアが開いてカタタタンと階段が下りてくる。

 好奇心のままに乗ろうとすると。

 「バカモン乗るでなーい!!」

 昔、よく聞いた大きな声。

 

 

 「せっかく来てもらったが、まだ乗車できん」

 ティッピーさんの中から声が。

 「待たせてすまない」

 列車の中のウサギを乗せた綺麗な女性へと向けて。

 「もう少し」

 「その声!やっぱりあなたはマスター!!」

 

 

 女性が私とティッピーさんに向けて手を振ると、銀河鉄道は夜空へと還って行きました。

 「あの方は、もしかして・・・ですよね、マスター」

 「・・・・・・」

 「マスター?」

 「あ、あのっ、私とはお話ししていただけないんでしょうか?」

 「・・・・・・」

 「頑固なのは生前と変わりませんね」

 

 

 

 私が元気ないのを見かねて、これを見せてくれたんですよね。

 自分が秘密にしたかったことを破ってくれてまで、私に幻想への好奇心を思い出させてくれたんですよね。

 「いつも見守ってくれて、ありがとうございます」

 やっと、言えた。

 

 天の川が、とても綺麗な夜。

 

 

 

 

 

 「それって臨死体験!?」

 「生命力が弱ってたからお迎えが見えたんだ!!」

 翌日、昨夜の不思議体験を話すと皆さん大盛り上がりでした。

 「えっと、お迎えは私ではなく・・・・・」

 ・・・いえ。

 「やっぱり私、死にかけだったんですね~」

 「笑い事じゃない!!」

 「凜ちゃんさんに連絡しなきゃ!!」

 そのことは、小さなマスターさんにはまだ秘密。ですよね、マスター。

 

 「おじいちゃん、もしかして青山さんと話・・・」

 「いーや、何も変わっとらんよ」

 

 

 「青山ブルーマウンテンとして、心機一転頑張ります!!」

 「前から思ってたけど何でそんなペンネームにしたんだ?」

 それは、マスター曰く・・・。

 「ブルーマウンテンといえば愛飲家が多いコーヒーの王様じゃないですか。僕だったら青山さんの小説の愛読者が増えてほしくてそう名付けるかも・・・です」

 「・・・・・・!」

 「確かにこれ、青山さん良く注文するけど」

 「真相は?」

 

 「流石はお孫さんです・・・!」

 きっと将来は立派なマスターですね。

 

 




そろそろ海編を書きたいと思います。
あれからココアちゃんの実家編への流れも好きです。
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