青い空。白い雲。光り輝くような砂浜に、透き通るくらい綺麗な海。
そして。
「あははー!つめたーい!」「やったなー!それーっ!!」
海ではしゃぐココアさんたち。
バシッ
「ぐえっ」
「いやらしー目でココアたち見るな」
「鼻の下伸びてるよ」
「そんなつもりは・・・」
マヤさんに叩かれた後頭部が痛い・・・。
僕たちはシストで見つけた宝の地図に導かれて、この秘密の砂浜にやってきた。でもみんな、宝探しなんてこと忘れて無邪気に遊んでいる。
「ひゃっほ~!」
バッシャーンッ!
「こわくなかった~?」
「楽しいよー!」
「何かあっても私が助けるから―」
「リゼ先輩にそんなことさせられない!やるなら私が!!」
「じゃあシャロちゃん遠慮なくー!」
「思いきり向かってくるなー!!」
バシャーンッ!!
みんな若干高めの崖からの飛び込みを楽しんでいる。
残りは僕とココアさん、メグさんだけになった。
「向こうの世界で待ってるから!」
とうとうメグさんも意を決して飛び込んだ。残るは僕とココアさん二人だけだ。
高めの崖だけど飛び込んでもケガはしないだろう。
それでもやっぱり少し怖い。
飛び込むというより、未知のものを経験するという行為が。
「チノ君・・・怖いならやめてもいいんだよ?」
そう言って強がっているココアさんの声は若干上ずっているように聞こえた。
何でも楽しいものに変えることができるココアさん。
でも、やっぱり外の世界に飛び出すのは怖いんだ。
「・・・・・・」
僕はココアさんの手を取った。
「ち、チノ君!?」
「怖いなら、一緒に飛び込みましょう」
誰だってそうだ。新しい世界に行くのは怖い。
それでも、一歩を踏み出す勇気が凄いのだから。
「・・・そうだね!思い切っちゃえば、きっと楽しいよね!」
それでも怖かったら、こうやって手を繋ぎ合えばいい。
『おじいちゃんは大丈夫ですか?』
『お前らの間に挟まっていいのならな』
『口調が生意気です』
『そりゃお前じゃ』
小声でおじいちゃんに確認を取る。
まだまだおじいちゃんにもついて来てほしいと思うのは、甘えだろうか。
「さあチノ君行くよー!」
「ええご一緒に」
僕とココアさんは思い切り大地を蹴り上げて、輝く海へ飛び込んだ。
「いつでも、一緒です」
「え?」
新世界・・・!!
「ぷはぁ!」
チノ君と一緒に飛び込んで、思い切り顔を水面から上げた。ひんやりした海水が気持ちいい。
「ココアちゃんお疲れ様」
「あははっ、楽しいねっ」
「見せつけてくれちゃって」
「え?」
「チノがリードするなんて、あいつもやるようになったな」
ぜ、全部見られてた・・・。恥ずかしい・・・・・。
それに飛び込む瞬間、何か嬉し恥ずかしいことを言われた気が・・・・・。
「あーっ、ココア顔真っ赤!」
「彼氏のチノ君と共同作業出来て嬉しいんだね~」
「もうっ!みんなからかわないでよ!」
恥ずかしいけど、どこなく嬉しい。
やっぱりあんな言葉言われたからかな?
「あの、そのチノが浮かんでこないんだが・・・」
『え』
まさか・・・溺れちゃって・・・・・?
「ヤダヤダー!チノ君!!私潜って探す!!!!!」
「ココアちゃん!」
「落ち着きなさい!!」
まだまだ一緒にいたいのに!ここでお別れなんてヤダー!!
「ぷはぁっ!!」
「ヴェアアアアアッ!!!」
と思ったら目の前に頭までびしょ濡れのチノ君が現れた。
「あっ、チノいた!」
「大丈夫か?」
「怖かったよね?」
「浜辺で休む?」
「・・・・・ぷっ」
表情が伺い知れなかったチノ君が急に噴き出した。
「あははははっ」
「ち、チノ君どうしたの!?壊れた!?」
どうしよう・・・。私のせいで・・・・・。
「いや、想像より楽しくって!あんなに躊躇してた自分がおかしいです!」
チノ君はそれはもう楽しそうに笑う。
最近筋肉質になってきたチノ君。流れる海水の水滴が輝いて、カッコいいというか艶めかしく見える。
チノ君も、どんどん大人になってる。
「ココアさん?」
私は気づかないうちに。
チノ君の身体を抱きしめていた。
「!? ちょっ!?ココアさん!?」
「あっ、ご、ごめんねチノ君・・・」
自分のしたことが今更恥ずかしくなって離れる。
だって、あのままほっといたら。
チノ君がどこかへ行ってしまいそうな気がしたから。
「ちょっとー!私たちもいるんだけどー!?」
「馬に蹴らないうちに退散するか・・・」
「間に挟まったら死刑だものね」
「ここ、二人のプライベートビーチにしようかー」
「あまりハメ外しすぎるなよエロチノ」
「みんなそんな気を遣わなくていいですからぁーっ!!」
「気を取り直してリゼ先輩、浜辺で青春全開しましょう」
「シャロを追いかければいいのか?待てー!」
「きゃー♪」
「挟み撃ち!」
「お縄に着きなさい!」
「ぎゃー!!」
「子供かよー」
「人のこと言えないよー」
「僕たちは浜辺で芸術活動です」
芸術活動、と言う名の砂遊びだ。
高校生にもなってどうかと思うけど、楽しいからいいだろう。
「いいのかチノ?ココアほっといて」
「さっきまであんなにアチュラチュだったのにー」
「今はリゼさん達と楽しんでるので・・・アチュラチュ?」
確かにさっきは急に抱きしめられてビックリした。
いつものモフモフと違ってぬるりとした感じで・・・。
「ココアの体思い出してんだろエロチノ」
「えっ!?」
「ココアちゃん意外と大きいもんねー」
「あ、あの、メグさん?女の子がそういう話は・・・?」
「女の子だってそういうのには興味あるよー。ねー、マヤちゃん?」
「え、え、う、うん」
言い出しっぺのマヤさんが顔を真っ赤にして身を縮ませてしまった。
「みんなどんどん、大人になってるんだからね」
「・・・そうですよね」
大人になる、ということは関係が変わるということ。
僕やココアさん、それに皆も今まで通りの関係じゃいられなくなる。
それでも。
「でも、大人になっても、こうして遊べたらいいですね」
「・・・そうだね」
砂の肌触りは昔から大好きだ。
これからもこの感覚が同じであってほしい。
「全くー!二人ともー!まだまだ子どもなんだからー!!」
「マヤちゃんには言われたくないよー」
「同い年ですしね」
「ふんっ!ココアにばっか目がいって!私だってどんどんナイスバディになってるんだからなー!」
マヤさんは見せつけるように背伸びして、わざとらしいポーズを取る。
確かに・・・起伏は少ないけどスタイル自体は・・・。
「・・・・・そうですね」
「・・・・・・・・・・・」
バキャッ ゴスッ
「ぐぎゃああっ」
「マヤちゃんがチノ君を蹴り飛ばした!」
「あら素敵な・・・鬼ヶ島?」
「ティッピーです」
「もふもふさせるのが難しいのなら丸くするのはどう?」
「私は綺麗な貝殻見つけてきたから飾ろー♪」
「私もガラス玉持ってたわ♪」
ココアさんと千夜さんも参加して・・・。
「トロピカルティッピー完成~!」
皆の貝殻やガラス玉が集まって煌びやかなティッピーになった。
まるで宝物みたい・・・。
・・・・・宝物?
『宝探し忘れてた!!』
遊びに夢中で本来の目的を忘れてました。
でも今から探すには遅すぎるし・・・。
「シャロ追いかけてたら宝箱見つけたぞ」
「そんなあっさり!?」
中には手紙が入っていた。その内容は・・・。
「“休暇こそ宝なり”」
「そういうオチかー」
「じゃあたくさん遊ばなきゃ」
「脱力ね」
「そんなことないよ」
「最近バイトや勉強ばかりで遊べなかったじゃない」
「宝物ありがとー!!」
「誰に向かって言ってるの」
「『ガラス玉と貝殻は思い出として持ち帰ってください。二つ合わせれば真珠みたいで素敵でしょ♪』・・・だと」
「粋な人!中の物と交換するための者だと思ってたわ」
「じゃあレモン組とソーダ組で交換しない!?」
「4人と3人じゃ交換成立しませんよ?」
「私貝殻二つ拾ったからチノちゃんとリゼちゃんから貰いたい!」
「「強欲!!」」
「じゃあメグ交換ね。割らないでよ」
「マヤちゃんこそ無くさないでよ」
「交換、いいアイデアね」
「・・・・・」
「今日の思い出が素敵な形になったもの」
「・・・はい」
ココアさんは、いつも素敵なプレゼントを運んできてくれる。
まるでサンタさんみたいに。
サンタさんがくれた、宝物。
「いつの間にか暗くなってきた」
「着替えてホテル行くぞ」
夕焼けも沈み、空も暗い藍色になってきたとき気づいた。
「地図の裏に小さく“うさぎ&ちょこ”って書いてあって・・・作者さんでしょうか」
「二人組・・・。だから地図が二つあったのかも!」
ここに来た二人も、素敵な宝物を見つけたんだろう。
そしてその宝物を、たくさんの人に見つけてほしかったのかも。
「私たちもいつか作って見よっか。名前は“ココ・チーノ”」
「・・・ええ。きっといつか」
離れ離れになって、再開した未来で。
それが僕の宝物だ。
「あっ!」
「どうしたココア?」
「ちょっと砂浜に忘れ物しちゃった!みんな先行ってて!」
「まったく、しょうがないですね」
「チノ君は一緒に来て」
「ええ、何で!?」
「・・・分かった、じゃあ先行ってるぞー」
そして僕はなぜかココアさんに連れられて砂浜に来た。
「来ましたけど、ココアさん。一体何を忘れて・・・」
そう振り返った瞬間に。
僕はココアさんにキスされていた。
「んっ!?」
「んぅ・・・」
辺りに響くのは波の音だけ。
僕ら二人以外誰もいない。
その空間がよりキスの味を鮮明にさせていた。
「んっ」
ココアさんは少しキツく抱き着いてきた。
水着一枚しか着てないから、ココアさんの柔らかな肌を直接感じる。
胸部分で“もぎゅう”と幸せな音がした。
「ぷはぁっ」
「はあっ、はっ、はっ」
キスは普段から何度かしている。
でも今回くらいドキドキしたキスは無かった。
「チノ君、よかったかな?」
「はっ、はっ、へっ、えっ」
舌が痺れて、呂律が回らない。
「私だけ宝物二つなんてずるいと思って、チノ君にもあげたかったんだ」
そんなココアさんは、いつもより大人に見えた。
艶やかというか、妖艶に。
「あんまりみんな待たせちゃいけないね。ホテル行こっか」
あっという間にいつも通りのココアさんに戻る。
まるでさっきのが夢だったように思える。
でも。
「あ、あの・・・」
「ん?」
「ちょ、ちょっと収まるまで待ってくれませんか・・・?」
「・・・・・・・あっ」
僕はうずくまったまま起き上がれなかった。
この感覚は夢じゃない。
翌日、木組みの街に帰る日。
「完敗した・・・。夏の日差しに・・・・・」
「私とマヤちゃんは夏生まれなんだから!日焼けして当然よ!!」
マヤさんとシャロさんはこんがりと焼けていた。
「ブロカントで買った堕天Tシャツ、どうかしら?」
「私も宣伝になればなーって。甘兎Tシャツ!」
二人は休暇というのに宣伝(?)に身を勤しんでる。
「私たちも何かしよっか!宣伝!」
『“休日は宝なり”と言われたばかりじゃろ。宣伝など良いわ』
「確かに!」
いつも通りおじいちゃんが助けてくれた。
「チノのツッコミ、相変わらず鋭いよねー」
「本当にティッピーが喋ってるみたい」
おじいちゃんがいつも含蓄のある言葉を言ってくれる。
それをみんなは僕の言葉だと思っている。
でもいつまでもおじいちゃんに頼ってばかりいられない。
これからは、自分の言葉を発さないと。
『あんまりそう気を張らんでよい』
「え・・・」
『人生は長いんじゃ。急がず行け』
「・・・はい」
僕の一番欲しい言葉をくれる。
ずっと頭に乗せているからだろうか。
いや、きっと、僕のおじいちゃんだからだ。
これからも、なるべく長く一緒にいたい。
「でも昨日のあのシーンでは他の所にいてほしかったです・・・」
『あれは仕方なかろう・・・』
「もう駅着いちゃった」
「あっという間だったわね」
楽しい休暇ももう終わり。まだまだもっとみんなと一緒にいたかったな。
「今回はありがとうココアちゃん」
「お礼ならブラバ組に・・・」
「それもだけど、誘ってくれる人がいないと始まらないわ」
「そうだよ!」
「発起人―!」
「え・・・へへ・・・」
みんな、あんなに嬉しそうにして・・・。
「嬉しー!!」
「そっちの電車じゃないぞ!?」
「早く戻らないと、逆方向に出発するわよ」
「ココアさん・・・?」
「実はね・・・いいタイミングだから、このまま実家に帰ることにしました!!」
『ええ~~~!?』
サプライズ大成功!!
「早く教えてくれたら着いていったのに!」
「遊びいきた~い!」
「みんな予定あったから」
「急すぎよ」
「モカさんたちによろしくね」
というわけで、ここでみんなとは一旦別れて・・・。
『まもなく電車が閉まります』
アナウンスさんの声がしたその途端。
『チノー!?』
チノ君が脱兎のごとく駆け込んできた。
「・・・・・・」
「チノ君・・・?どうして・・・・・?」
「なっ、夏はお互い見張ろうって言ったの・・・ココアさんじゃないですか」
・・・・・・・・あっ。
「言ったーーー!!」
「行ってしまった・・・」
「・・・まあ彼氏としては心配になるよね」
「もしかしたら、二人とも大人になって帰ってきたりして」
「そ、そうなったら・・・赤ちゃんの名前も考えといた方が・・・・・」
「しなくていいわ!!」
「まさかチノ君まで着いてくるなんて。お母さんに紹介しないとね」
「急ですみません。でも約束しましたから」
「約束?」
「いつでも一緒、って」
「チノ君・・・」
「・・・・・・」
少し人はいたけど、私たちは軽く唇を触れ合わせた。