ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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チノ君とココアホーム

 「ココアさんの実家って、本当に山奥なんですね」

 「でしょ~」

 「森に迷うことないんですか?」

 「時々ねー」

 「えっ」

 不安に駆られながら山奥を進むと。

 「冗談だよ、ほら着いた」

 とてもおしゃれで素敵なパン屋さんがあった。

 

 「ココアさんの案内で迷わないなんて・・・」

 「さすがに迷わないよ!」

 

 

 「チノ君ようこそ!ココアおかえり!」

 「モカさん!?」

 「お姉ちゃん!」

 元気いっぱいな長髪のお姉さん。ココアさんの実の姉、保登モカさんだ。

 「おっお久しぶりです!」

 「一緒に来てくれたんだね。ティッピーも」

 相変らずハツラツと元気いっぱいみたいだ。ココアさんのお姉さんだから当然かもしれないけど。

 「ん~っ、チノ君っ」

 「は、はい?」

 「ココアと恋人になったんだよね!ありがとう!うちの妹をよろしく~!!」

 「もがっ」

 モカさんが前にラビットハウスに来た時のようにモフモフしてくる。こういう所は姉妹そっくりだ。

 いや、それよりも・・・。

 

 もっふもふんっ

 

 モフモフされると当然、一段と大きい胸部がどうしても僕の体を包む。心なしか前回より成長したような気も・・・。

 ココアさんも大きい方だけどモカさんはさらに大きい。姉妹ならもしかしたらいずれココアさんも・・・。

 「オネエチャン。チノクン」

 恐ろしいほどに抑揚のない声が辺りに響き渡った。

 「ワタシホッタラカシニシテナニシテルノワタシホッタラカシニシテナニシテルノワタシホッタラカシニシテナニシテルノワタシホッタラカシニシテナニシテルノワタシホッタラカシニシテナニシテルノワタシホッタラカシニシテナニシテルノワタシホッタラカシニシテナニシテルノ」

 「「ココア(さん)がバグった!!!」」

 

 「ところで、どうシて外にイたノ?」

 まだところどころバグってる・・・。

 「ぱ、パンの宅配があってね!街にも行くし乗ってかない?」

 「スクーターじゃ三人乗りは無理だよ」

 「車だから大丈夫!」

 「進化してる!!」

 とてもご立派なワゴンだった。

 

 

 「車で届けれない所は私たちが届けろなんて、お姉ちゃん人使い荒いな~」

 僕たちは街でパンの宅配をしている。ココアさんは若干不機嫌なのか唇を尖らせている。いつもは意気揚々と仕事をするのに珍しい。

 「チノ君疲れたら言ってね」

 あ、そうか。

 僕に気を遣ってくれたんだ。

 「いえ、街を見るのは楽しいです」

 「ほんとぉ~?」

 「ココアさんが住んでた街ですから」

 大好きな人が育った街。

 だからか、とってもキラキラして見える。

 「・・・もぉ~、チノ君ったらっ」

 「んっ、ココアさん」

 堪らなくなったのか、ココアさんが駆け寄っていつも通りモフモフしてくる。

 木陰から差す夏の日差しでじんわりと暑かったけど、ココアさんの体は春みたいに暖かかった。

 

 「チノ君・・・」

 「ココアさん・・・」

 「やっぱりお姉ちゃんくらい大きくないと嫌?」

 「えっ!?」

 

 

 「宅配喜ばれてましたね」

 「お客さんが喜ぶと嬉しくなっちゃうよね」

 少し目線が温かい気もしたけど。

 小走りでモカさんのフードワゴンに戻ると・・・。

 「大繁盛してる!」

 たくさんの人だかりができていた。

 「手伝お!」

 「僕もいきなり地元民の中へ!?」

 「お~い!妹たち~!街で遊んでていいからね~!」

 「ココアちゃん帰ってたんだ」

 「あれ?男の子もいるよ?」

 モカさんの声で一気に視線がこちらに・・・。

 「ここまで来たら働くもん!あとチノ君は私の彼氏で弟!!」

 「ココアちゃんに彼氏が!?」

 「でも弟って!!」

 「複雑なご家庭!?」

 「誤解される!!」

 

 

 「そっかそっか。とうとうココアちゃんにも彼氏が・・・」

 「何だか感無量だね」

 「そ、そんな・・・。もったいないです・・・」

 街の人たちが温かい目で僕とココアさんを見てくる。涙ぐんでる人までいる。

 いたたまれなさ、と同時に嬉しくなった。

 大好きな人が地元でも愛されていて。

 「えへへ~。私の彼氏、かわいいでしょ~」

 「彼氏、というよりココアちゃんのお兄ちゃんみたいだね」

 「え゛っ」

 ココアさんはやっぱり地元でも相変わらずみたいです。

 「妹よ。です」

 「かつてないどや顔!!」

 「妹の彼氏ってことは、いずれ私の弟になるってことだよね~」

 「も、モカさん・・・」

 「お姉ちゃん!!!!!」

 「三姉妹かぁ~」

 「いいなぁ~」

 「よろしくねぇ~」

 お客さんまでココアさんモードみたいだ。

 

 

 パンも売り終わり、いよいよココアさんの実家にお邪魔した・・・のは良かったのですが。

 「えっ、ええ!チノ君・・・!?」

 ココアさんのお母さんは、僕を見て驚愕していた。

 元々ココアさんだけの帰省の予定だったから当然だ。

 「あのっ、急にお邪魔してすみません・・・!」

 「ちょっとしたサプライズ!」

 帰省した娘に急に着いてきた彼氏、よく考えなくても迷惑に決まってる。

 着いてきたことに後悔はしてないけど、そういう所は考えるべきだったかも・・・。

 「ちょっとどころか・・・あ・・・あぁ・・・・・」

 「ぼ、僕のことはお構いなく・・・!他に泊まれるところを探すので・・・・・!!」

 その方がいい。そっちの方が倫理的にいいに決まって。

 「そんなことさせるわけないでしょおおおおお!!!」

 「うわっ」

 わっっっとココアさんのお母さんが僕を抱きしめてきた。

 この忌避のない距離感、間違いなくココアさんのお母さんだ。

 それにしても(こういうことを思うのはあれだけど)子持ちのお母さんとは思えないくらい綺麗だ。

 何だかいい匂いもするし、やっぱり親子なのか胸も・・・。

 「チノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクンチノクン」

 「またココアさんがバグった!!!」

 

 

 「全くもうっ!チノ君ったら節操ないんだから!」

 「本当にすみません・・・」

 先ほどまでの失態をお詫びするため、僕はココアさんの部屋で土下座している。

 ・・・ここがココアさんの部屋。さすが可愛らしい・・・。

 って、何考えてるんだ僕は!ちゃんと反省の意志を見せないと!!

 「・・・じゃあ、こっち来て」

 ココアさんはベッドに座ったままおいでおいでと手をまねく。

 「・・・・・・」

 ぎこちない感じを覚えつつココアさんの元に向かうと。

 「え、うわっ」

 ココアさんに腕を掴まれベッドに引き込まれた。

 

 「こ、ココアさん・・・?」

 ココアさんが長年使っていたベッド。

 体中がココアさんの匂いに包まれる。

 「チノ君」

 ココアさんは指先で僕の顔の輪郭を撫でてくる。

 少しくすぐったいけどそれが気持ちいい。

 「あ・・・あの・・・ココアさん・・・・・」

 声がうまく出てこなかった。

 喉の奥までココアさんに掴まれたみたいに。

 「だ・・・ダメですよ・・・実家でこんなこと・・・・・」

 「・・・私じゃ嫌なの?」

 少しだけ悲しそうな顔。でもそんな顔も可愛いと思ってしまう。

 「海でも、リゼちゃん達の水着見てて」

 背中が指でツツーと撫でられる。

 「家でもお姉ちゃんとお母さんに照れてて」

 悲しそうな顔が少し悪戯っぽい笑みに変わった。

 「私とは、そういうことしたくないの?」

 

 海での水着姿のココアさん。

 砂浜でのキス。

 

 それらが一斉にフラッシュバックした。

 

 

 「チノ君!チノくーん!!しっかりしてーーー!!!」

 気づかないうちに僕は意識を失っていた。

 鼻の奥から熱くて鉄臭いものが流れ出てくる。

 でも何だか幸せだった。

 

 

 「ココア~、そろそろお風呂に・・・・・って・・・・・・・」

 「あっ、お、お姉ちゃん・・・・・」

 「・・・・・・・ごめん、お邪魔だったね」

 「違うからぁ!!!」

 

 

 

 「ホント・・・ごめん・・・・・」

 「だから本当に違うってー」

 お姉ちゃんと一緒にお風呂に入るのも久しぶりだな~。当のお姉ちゃんはまだブルーな気分から抜け出せていないけど。

 「あの、その・・・」

 「んー?」

 「チノ君とは・・・うまくやれてるの・・・・・?」

 おずおずと聞いてくる。こんなお姉ちゃん、なんか新鮮。

 「だいじょーぶ!日々愛を深められてるよ!」

 「そ、そっか」

 お風呂のせいかどうかは知らないけど顔が真っ赤だ。

 意外にもお姉ちゃんは恋愛経験ないし、耐性ないのかも。私もあまり人のことは言えないけど。

 「妹に彼氏ができるなんて、先を越されちゃったなー」

 「もう、からかわないでよ」

 「本当にそう思ってるんだよ」

 少しだけ、切なそうな声。

 「昔のココアはさ、私の後をついて来てくれたけど、心のどこかでそれだけじゃダメだって思ってたんでしょ」

 「・・・・・・・・・・・」

 「だからね、向こうでいろんな可能性に触れて、自分にしか進めない道を見つけたココアが、お姉ちゃんとても誇らしい」

 お姉ちゃんはいつも近くで私のことを見てくれてる。

 たとえ、どんなに離れていても。

 「最近ね、チノ君がどんどん前に進んでるんだ」

 「んー」

 「そんな姿を見てたら私も頑張らなくちゃって思うんだ。でもね、あまり大きくなりすぎてほしくないって私もいるんだ」

 「男の子はすぐに大きくなるからね」

 「うん、チノ君は男の子だから、私よりもどんどん先に進んじゃう気がして」

 歩幅を合わせる、なんてことはできないかもだけど。

 「大好きだから、ずっと一緒にいたいから。私もどんどん前に進まなきゃって」

 寄り添いながら歩く、それならきっとできると思う。

 「チノ君はさ、きっとココアのこと待っててくれるよ」

 「うん、でもずっと待たせとくのも申し訳ないからね」

 だから、私ももっともっと大きくなりたい。

 「ココア」

 「うん?」

 「しばらく見ないうちに大きくなったね」

 お姉ちゃんが私のことをそっと抱きしめてくれる。とても温かい。

 「私も、そんなココアを見て励まされてきたんだよ」

 見上げると、お姉ちゃんの目に涙が浮かんでいた。

 「うん知ってる!陰で努力しまくってるもんね!」

 「は!?うぇ!?いつ見て・・・!?」

 「えへへー♪お姉ちゃんに1ポイント勝った気分♪」

 これからもどんどん前に進むよ。

 モカお姉ちゃんの妹だからね!

 

 「チノ君と愛を深め合ってるって・・・」

 「え?」

 「私も叔母さんになる日が近いのかな・・・・・」

 「おねーーーちゃぁーーーーーん!!!!!」

 

 

 

 

 

 「はっ!?」

 ふと目を覚ますと辺りが暗かった。いつの間に寝て・・・・・。

 「え?ここは・・・?」

 記憶が途中から曖昧で・・・。目が覚めていくのに比例して脳内も解凍されてきた。

 そうだ!ココアさんの実家にアポなしで訪問して・・・・・。

 「ってココアさん!?」

 ココアさんが床に布団を敷いて寝ていた。対して僕はベッド。流石に実家で一緒に寝るのは憚られたのか。

 ってそんな場合じゃない!彼女を床で寝かすなんて彼氏失格です!!

 「ん?」

 カサッと手元で紙の感触がした。

 紙を開くとメッセージが書いてあった。

 『チノくん、お腹が空いたらリビングへGO! ママより』

 夕食の手伝いもできなかったうえに、ココアさんのお母さんにまで気を遣わせて・・・。

 僕、印象最悪です。

 「おなか減った・・・・・」

 自己嫌悪を覚えていても、空腹は覚えるものだ。

 ここで燻っていても仕方ないので、とりあえずココアさんホームのリビングへ向かう。

 

 リビングに近づくと声がする。ココアさんのお母さんの・・・?

 「ティッピーちゃん昔よりダンディになってな~い?」

 酔ってティッピーに絡んでる・・・!?

 「うさぎちゃんの分もチノ君のこと見ててくれてたんだね。あれから忙しくなって会いに行けなくてごめんね」

 うさぎちゃん・・・?誰のことだろう・・・・・?

 「うさぎちゃんがいたら、“ちょこちゃん心配しすぎ~”って言われるんだろうな」

 

 「ちょこちゃん・・・?」

 

 気になってつい物陰から出てきてしまっていた。

 

 「いっ今の私の愛称・・・!」

 「そっそうだったんですか!?すみません・・・・・」

 恋人の母親を可愛らしい愛称で呼んでしまった。失礼とかいう次元じゃない・・・。

 「気安く呼んですみません・・・。ココアさんのお母さん・・・・・」

 「んー、もう1回」

 「え?」

 「“ちょこちゃん”ってもう1回呼んでみて?」

 「えっ!?」

 そ、それって良いのだろうか?

 何らかの法律に抵触しないだろうか・・・?

 「で、ではちょこさん・・・?」

 「“ちゃん”」

 「“ちゃん”!?」

 ハードルがえげつないくらい高い・・・。

 でも本人は期待に満ちた顔をしてるし・・・。

 「ち・・・」

 「んー?」

 「ちょこちゃん・・・・・」

 ごめんなさいココアさんとココアさんのお父さん・・・・・!!

 「もう1回♡」

 (誰かさんに似てる!!)

 血の繋がりを感じます!

 

 「ココアが木組みの街に行ったって聞いたとき、びっくりしたわ」

 「?」

 「しかも下宿先がラビットハウスになったのも本当に偶然だったのよ」

 「アルバム?」

 そこにはちょこさん・・・ちゃんと女の人が一緒に写真に写っていた。

 

 「これって・・・」

 

 

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