「ふぁああ~。休みだからって寝坊しすぎちゃった~」
まだまだ暑い夏の日差しで目を覚ます。私が寝坊助なのはいつものことだけど、ちゃんと起きないとチノ君に愛想付かされちゃうよ。
ぎゅっ
「あれ?チノ君もお寝坊さん?」
昨日一緒に寝たチノ君。いつもは私より早起きなのに珍しいね。
と思ったらそこにいたのは、エルちゃんだった。
あれー?エルちゃんって一緒に暮らしてたっけ。
まあいっか。妹ってことにしておこう。
そう思いなおして私は妹エルちゃんと一緒に二度寝に直行した。
「この度はナツメちゃんのよき姉となるべく、教えを乞うため妹になりに来ました」
そういうことだったんだね。本当はエルちゃんがお姉ちゃんでナツメちゃんが妹だけど、ナツメちゃんの方がしっかり者だから勘違いされちゃうみたい。
待って。ということは・・・。
「私が理想の姉に見えるってこと!?」
「ううん」
「ぐはっ」
「メグさんはココアさんは理想のお姉ちゃんって言ってたから」
「メグちゃん・・・!」
流石私の妹!お姉ちゃんのことをよく見てるよ・・・!
「だから・・・一日限定姉妹で、ココアさんのこともっと知りたいの」
「一日と言わず永遠でいいよ♡」
かわいい妹はいくら増えても良いからね!
「でも妹が増えたらチノ君嫉妬するかも」
「ううん、チノさんはココアさん全然起きないから快くナツメちゃんと兄妹になりにいったよ」
「」
「? ココアさん?」
「ゴヴァアッ!」
「ココアさん!?しっかりして!!メディック!メディッーーーク!!!」
「ごめんなさいチノさん。私たちのワガママに付き合わせちゃって」
「いえ、そんなことは全然」
いきなりエルさんが押し掛けてきたときは驚いたけど、ナツメさんの立派な姉になるために頑張るというのなら僕も応援したいです。快くココアさんを貸し出しました。
でも問題は・・・。
「僕が兄役なんて・・・ナツメさんは本当にいいんですか?」
ナツメさんは僕の妹になりきるみたいだ。でもいつもいつも弟扱いされている僕が兄になって大丈夫なのだろうか。
「うん!私もチノさんからいろいろ学びたいし!」
「僕から学ぶことなんてあるんでしょうか・・・」
「たくさんあるよ!いつも喫茶店の経営頑張って、あんなに美味しいコーヒー淹れて!」
「そ、そうですかね・・・」
グイグイと褒められて照れてしまう。この褒め方は妹というより、某姉に似ていた。
「だから、今日だけでいいから私のお兄様でいて・・・?」
お兄様・・・。
お兄さま・・・・・。
おにいさま・・・・・・・。
「分かりました。ではいきましょう、ナツメ」
「! はい!チノお兄様!!」
その頃のエル&ココア。
「チノ君がまたタラシを発生させた気配・・・!」
「お姉様のテレパシー!?」
「チノお兄様、さっき見つけたこの地図は?」
「これはシストという宝探しゲームの地図ですよ、ナツメ」
「ゲームなら私に任せて!」
早速意気揚々と引っ張っていく。エルさんといる時もこんな風に先頭に立っているのだろうか。
「この暗号は簡単!あそこの丘の上に行けばいいんだ!」
「残念、こっちです」
正解のルートはナツメさんが指した方向とは真反対の道だった。
「ごめんねチノ兄様・・・。まだこの街詳しくないのに、偉そうなこと言って・・・」
ナツメさんは珍しく半べそをかいている。いつもエルさんをフォローしているナツメさんには珍しい光景だ。
そんなナツメさんを見ていたら、何だか・・・世話を焼きたく・・・・・。
「恥じることではないですよ、ナツメ」
僕は優しく、ナツメさんの手を取る。
「遊びながら覚えていけばいいんです」
「チノお兄様―――!!」
妹からすごく頼られる・・・。嬉しい・・・・・。
ココアさんの気持ちがわかってしまう・・・・・。
「またもチノ君がタラシを発生させた気配!」
「姉の超能力!?」
それなりに付き合いが長いせいか、チノ君がやらかした時に離れていても何となく分かるようになってきた。特に女の子関係で。
「全く、しょうがない弟だよ」
さて、浮気性な弟は放っておいて、引き続きエキメッキなんとかを作らなきゃ。
「・・・・・・・・」
「? どうしたのエルちゃん?」
「ごめんなさい、ココアさん・・・・・」
「え?」
「今日私がここに来たのは、本当はナツメちゃんのためなの」
「うん、お姉ちゃん修行でしょ?」
「ううん、それもあるんだけど」
口ごもってる。何だかバツの悪そうな顔をしてた。
「私いつもね・・・ナツメちゃんに付いて行って甘えちゃうし、フォローまでさせちゃうから、私のことは気にせず自由に遊んでほしかったんだ」
そういうことだったんだ。妹のナツメちゃんのこと、本当に大事にしてるんだね。
「でも・・・結果的にココアさんとチノさんの仲に割り込んだみたいで・・・・・私・・・・・!」
「そっかぁ」
私はエルちゃんの頭にポンと手を置いて、優しくなでる。
「慣れないの事なのに勇気出してきてくれたんだね。素敵なお姉ちゃんだよ」
「違う、違うのっ、チノさんはココアさんの恋人なのに・・・っ、利用するようなことして・・・・・っ」
「それもナツメちゃんのこと考えてやったんだよね。大丈夫、その気持ちはナツメちゃんにもチノ君にも届いてるから」
「でも・・・」
「私もね、弟のチノ君に甘えちゃったり、フォローしてもらったりなんかしょっちゅうだから」
「ココアさんも・・・?」
「誰だってそうだよ」
完璧な人間なんていないんだから、そういう時こそ妹や弟を頼ればいいと思う。
「だからね、頼った分チノ君が悩んだ時は私がたっくさんお返ししたげるんだって、頑張りたくなるんだ」
誰だって他人に頼りたくなることはたくさんあるから。
「きっとナツメちゃんも、エルちゃんに助けてもらってお返ししたいって頑張ってるだろうからさ」
それが簡単にできちゃうのが家族だもん。
「だから、一緒に頑張ろうー!」
「・・・っ、うぇぇえ!ココアさん!」
「大丈夫!?瞳から宝石ポポロンしてるー!」
「違うの、嬉しくてーっ!」
「よしよしお姉ちゃんが慰めてあげよう」
今日はたくさんエルちゃんを甘えさせてあげるんだ。
だって一日限定の妹だからね!
「ココアさんがエルさんの悩みを解消したみたいです」
「離れてても分かるんだ!」
「分かりますよ。長い付き合いですから」
「じゃあお姉ちゃん同士頑張って行こー!」
「うん、でも今だけ私は妹だから・・・」
「ん?」
「遠慮なく姉様に甘えていいよね?ナツメちゃんとチノさんには内緒ね?」
「ココアさんが調子に乗った気配・・・!」
「うさぎの第六感!?」
色々あったけどシストを再開する。街を歩いて宝箱を見つけようとするけど・・・。
「「見つからない・・・」」
それどころか、段々道のりも険しくなっていっている気がする。
もしかして、このシストかなりの難易度かもしれない。
だとしたらシスト初心者のナツメさんには危険も付きまとうかも。
「ナツメさん、このシスト・・・」
「見つかるまで続けましょう!」
中止を提案しようとした僕の言葉を先読みしていたかのように、ナツメさんは声を張り上げた。
「で、でもこのシスト結構難しそうですし、日も暮れると危なくなるかも・・・」
「ううん、チノ兄様がここまで頑張ってくれたんだもの。納得できるまで続けたい!」
よく見ると少し服も薄汚れている。高そうな服なのに、そんなこと気にもせず兄である僕のために頑張ってくれてる。
「ごめんなさい、ナツメさん。僕、兄ぶって苦労かけて・・・」
「ううん、助け合うために兄妹っているんだから。今日チノ兄様を支えるのは私の役目!」
「ナツメさん・・・」
妹が頑張ってると、兄の僕も頑張りたくなる。
ココアさんもきっと、こんな気持ちなんだ。
「分かりました、続けましょう」
「チノ兄様・・・!」
「お兄さんに任せなさい」
「はい!」
それから夕暮れまで探したけど、結局宝箱は見つからなかった。
それどころか二人とも泥だらけになってしまった。
「結局宝箱見つからなかったですね」
「ごめんなさい、ナツメさ・・・」
「でもすっごく楽しかった!」
「!」
「大冒険でした!チノ兄様は!?」
「・・・僕も、楽しかったです!」
泥だらけで、何も見つからなかったけど、とても楽しかった。
兄妹って色んなことをお互い楽しめる存在なのかもしれない。
「今日は色々勉強になりました。ありがとうございます」
「こちらこそ、兄というものを学ばされました」
「で、その・・・」
「?」
「また、よければなんですけど・・・お兄様になってもらえますか・・・・・?」
「! いつでも大歓迎です」
かわいい妹はいくら増えてもいい。ココアさんみたいな考えだけど。
「ありがとう!じゃあ私、エルと待ち合わせあるので。また!」
「ええ、また明日」
一日だけの妹が去って行く。少し名残惜しいな。
「あっ、忘れてた!」
「ん?」
「兄にもほしいけど、お婿さんになってほしいって気持ちにも変わりないので!!」
「なっ!?」
「じゃあまたね!チノお兄様!!」
そう言ってナツメさんは泥んこのまま、夕陽に駆けていった。
「・・・・・・・」
気恥ずかしくなって頬をポリポリかく。少し熱かった。
「また会いましょう、ナツメ」
たまにはお兄ちゃんも、いいものです。
僕も帰路に着こうとしたその時だった。
ポンッ ポンッ
後ろから誰かに肩を優しく叩かれた。
瞬間、北極の風に打たれたような冷たさを全身に感じた。
ゆっくりゆっくり、さび付いたかのように首を動かすと。
満面の笑みのマヤさんがそこにいた。
でも顔中に青筋を立てていた。
どう考えてもド怒りだった。
「あ・・・あ・・・・・」
絶大な恐怖を感じ取り、上手く声が出てこない。
「あ、あの・・・僕の話を聞いて・・・くれないですよね・・・・・」
マヤさんは青筋を立てた状態でコックリと首を縦に動かした。
ちょいちょいと、こっちに来いというように指を動かしていた。
僕はそれに従うしかなかった。
「あ、あの・・・接客業なので、顔は・・・ぎ、ぎゃーーーーーーーーっっっ!!!!!」
「だからそんなにボロボロなんだね」
「はい・・・・・」
ちょっと痛いけど、何とかマヤさんも許してくれたみたいで良かった・・・のかな・・・・・。
「でもチノ君が“さん”付けしないなんて、珍しいね」
「ココアさんは姉呼びされて舞い上がったでしょう」
「チノ君もだいぶ舞い上がったそうですねー」
「うっ・・・」
「ナツメちゃんから聞いたもん。人のこと言われたくないなー」
「ごめんなさい・・・・・」
僕はココアさんの恋人だ。
みんなを大事にするのはもちろんだけど、その自覚を忘れないようにしないといけないのに。
「ウソウソ、ちゃんと兄としてナツメちゃんを導いたみたいで何よりだよ」
「ココアさん・・・・・」
「偉い偉い♪流石私の弟♪」
ココアさんは僕の頭を優しく撫でまわしてくる。少しくすぐったい。
やっぱりこれが一番しっくりくる。
「じゃあ罰の代わりにさ、私たちも呼び捨てで呼び合ってみようよ!」
「えっ!?」
「せーのっ!」
「チノ」
「・・・コ、コア・・・・・」
「・・・ぷっ、あははははは!こそばゆくて照れるー!!」
それはこっちが言いたかった。
僕たちは今の姉弟感でいい。
でも、おかしそうに笑うココアさんを見てると、何だかムッとしてきて。
「・・・ココア」
「んー?」
「ココア」
「ち、チノ君・・・?」
僕はのっそりと立ち上がり、ココアさんの方にゆっくりと向かっていく。
「ココア、ココア」
呼び捨てでココアさんの名前を呼びながら、優しくココアさんを抱きしめた。
「チ、ノ・・・・・」
「ココア・・・・・」
ココアさんの体温が伝わってくる。どんどん熱くなっているみたいだ。
「・・・・・チノ」
ココアさんもギュッと僕を抱きしめ返してきた。ココアさんの身体の柔らかさがさらに伝わる。
「ココア」
「チノ」
僕たちは気の済むまで、お互いの名前を呼びながらお互いを抱きしめ続けていた。
「今日は私がパン焼いたの」
「早起きした理由ってそれ!?」
姉妹交換も終わった翌日、エルがすごく張り切っていた。
ココアさんに姉としての姿勢を教わったからかな。
(エル・・・どんどん前に進んでる)
今度は私が驚かせたいな。
「自信作~♪」
そうして姉が出してきたパンは・・・。パンは・・・・・。
これ、パン?
次の休日。
「パンの作り方教えてください。ココア姉様」
「今度はナツメちゃん!?」
私はココアさんに妹志願に行った。
一方。
「今日はよろしくお願いします。チノ兄様♪」
「今度はエルさん!?」
「ずるい、ずるい。私もチノの妹になりたい」
「フユさんまで!?」
ポンッ ポンッ
「め、メグさん!!これはちがっ・・・ぎゃーーーーーーーっっっ!!!!!」
兄というのは、大変です・・・。
腹話術習得回をどうしようか頭を悩ませています。