ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

58 / 65
色々考えた結果、腹話術回は文化祭編に盛り込むことにしました。


チノ君とフユとフルール

 「よ、ようこそ、フルール・ド・ラパンへ・・・。おすすめはカモミールティーです」

 ある日、僕はフユさんと一緒にフルールで職場体験をしていた。

 「チノすごい・・・。完璧な接客・・・!」

 「え、ええ・・・」

 フユさんとシャロさんも壁際から僕の様子を見ている。それをとても恥ずかしいと思うのには理由があった。

 「メイド服じゃなければね・・・」

 「チノ・・・かわいい・・・・・」

 (恥ずかしい!!)

 僕はフルールのメイド服を着て接客をしていた。

 どうしてこうなったのかというと・・・。

 

 

 

 遡ること数日前。

 『今年の2校合同行事だった球技大会とマラソン大会は大成功に終わった。しかしどちらも向こうのお嬢様学校に敗北した。悔しい!』

 例によって生徒会長が、お嬢様学校にライバル意識を燃やして全校集会をしていた。

 『文化祭は合同ではなく我々が主役だ。今度こそぎゃふんと・・・いや我が校のすばらしさを伝えよう!』

 「私怨?」「私怨です」

 『なおクラスの出し物には人気投票を行うので心してかかるように!』

 って事は・・・。

 

 ((((私(僕)たちライバルだ!))))

 

 

 

 そんなこんなでココ姉たちと競うことになってしまった。私としてはみんなと仲良くやりたいけど。

 ココ姉の彼氏のチノなら特にそう思ってるだろう。

 「文化祭実行委員の立候補いるかなー?」

 先生が実行委員の取り決めをしようと聞いてくる。みんな流石に委縮してる感じだ。

 私も、誰かの先頭に立てるタイプじゃないし・・・。

 「は・・・はい!」

 そんな中真っ先に手を挙げたのは。

 「チノ!?」

 意外だった。チノも誰かを先導するタイプには見えなかったし。実際緊張のせいか少し震えている(かわいい)

 「一人目はチノさんに決定でーす」

 「勇気ある~」

 「流石香風!ハーレム漫画の主人公だな!」

 「からかわないの」

 「チノ君がやるなら私もやろっかな~」

 「いいねー、チノ君との合同作業」

 (!!)

 みんなの意気揚々とした声(特に女子)を聞いて。

 「はいっ!!」

 思わず反射的に声を上げていた。

 「フユさん!?すごいやる気で先生嬉しいわ!!」

 

 

 ということがあって、私はチノと一緒に文化祭実行委員をやることになった。

 「一緒に頑張りましょう、フユさん」

 「うん」

 チノと一緒に頑張れる。すごく嬉しいけど、それはそれとして文化祭は真面目にやらないと。

 「まずは意見箱を見てみましょうか。皆さん、どんな出し物がしたいんですかね」

 そうして意見箱から出てきたたくさんの意見用紙を見てみると・・・。

 

 かわいいエプロン

 紅茶

 お花

 うさ耳

 

 すごくファンシーだった。

 これ、女子の要望なんだろうか。

 それとも女子のいかがわしい姿を見たいという男子たちの欲望なんだろうか。

 「コーヒーがあったらうちが協力できたんですが・・・」

 「だ、大丈夫っ。みんなまだコーヒーの良さに気づいてないだけっ」

 「頑張れ焙煎・・・」

 わかりやすく落ち込んでるチノを慰める。パートナーの務めだ。

 「でもこの要望だったら・・・」

 「フルールが参考になりそうですね」

 そうした経緯で私たちはフルールへ向かった。

 

 なのに・・・。

 「何で私が執事服で・・・」

 「僕がメイド服・・・?」

 何故か男女逆転した制服を着せられていた。

 「う~ん新鮮☆たまには視点を変えてみないとね☆」

 「ごめんなさい!うちの店長がごめんなさい!!」

 

 

 そういうわけで、私が執事服、チノがメイド服を着る羽目になってしまった。

 「こちらのお席へどうぞ。こちらメニュー表となります」

 「あんな状況でもお客様に対応してる・・・・・」

 「チノ、すごい・・・・・」

普段から自分の家の喫茶店を継ごうと頑張ってる成果なんだろう。何故か私まで誇らしい。

 それと同時に。

 (私、笑顔下手だから・・・。きっとお客さん怖がらせちゃうな・・・・・)

 自分への劣等感も感じていた。

 「フユちゃん、大丈夫」

 そんな私を見かねたのかシャロさんが話しかけてくる。

 「人前で笑顔でいるのってみんな大変だから」

 「でも、シャロさんはいつも笑顔ですよ」

 「それにはね、コツがあるの」

 「ハッピーな想像をするのよ」

 ハッピーな・・・想像・・・・・。

 「こんな風にぃ~」

 「何を想像したらそんな顔に!?」

 にへらぁ~と緩み切った顔だった。

 

 

 

 (この格好、中々恥ずかしいし動きづらいですね・・・)

 本来女の人が着るものということを踏まえても、お客さんの目が気になるしスカートの中が見えないかひやひやする。これをいつも続けているシャロさんは本当にすごい人だ。

 (せっかく店長も協力してくれてるんだし、頑張らないと)

 意気込みを新たに仕事に勤しもうとした時だった。

 

 チリンチリーン

 

 「いらっしゃいま・・・せ」

 「チノ君!?」

 「何その格好!?」

 「そんなキャラだったなんて意外!!」

 学校の女子の皆さんがフルールに来てしまった。

 よりにもよって僕がメイド服を着ている時に。

 「あ、あのこれは・・・」

 「やーん!でもかわいいー!!」

 「顔立ちが中性的だから似合ってるー!!」

 「写メ撮って良い!?はいチーズ!!」

 「あ、あのできれば控えていただければ・・・」

テンションの上がった女子の皆さんの勢いは抑えきれない。

  僕はもはやされるがままになっていた。

 

 

 「チノ・・・クラスの女子と楽しそうに・・・・・」

 「フユちゃん!!スマイル!!!ハッピーなこと想像して!!!!」

 

 

 (私も出ないと・・・。せっかくみんな来てくれたんだし・・・・・)

 そうは思うけど足がすくんで中々出ることができない。

 もしもこの衣装を笑われたりしたら・・・。

 「フユさん大丈夫ですか?」

 そんな中、チノが抜け出して様子を見に来てくれた。

 仕事で忙しいだろうに、迷惑をかけてしまった。

 「ご、ごめんね。ハッピーに仕事しないといけないのに」

 「はっぴ・・・?」

 わけわかんないことを口走ってしまった。恥ずかしい・・・。

 「よく分からないけど僕はハッピーですよ」

 「え・・・」

 「フユさんと、いつもとは違う格好で働けるなんて幸せです」

 メイド服で、見るからに幸せそうな顔を浮かべている。

 そうか。

 何で気付かなかったんだろう。

 今、この状況こそが・・・。

 「オーダーは・・・私に任せて」

 「急に!?」

 

 

 「ご注文・・・お決まりですか?」

 「はっ、はい!あっ・・・」

 「フユちゃ・・・・・」

 大丈夫。

 今とってもハッピーだから。

 「みんな、ようこそ・・・♪」

 自然に笑える。

 

 「きゃーっ!!」

 「初めて笑いかけてくれたー!!」

 「執事服似合ってるー!!カッコいいー!!」

 「男装もいいねー!!」

 「いっそのことうち、男女逆転喫茶にしちゃうっていうのは!?」

 「ありだねー!!」

 みんな喜んでくれる。

 それもとてもハッピーだった。

 

 ただ、恥ずかしいから隠れたい・・・。

 

 

 (フユさん、良かったです)

 さて、僕もオーダーを頑張らないと。

 「・・・・・・・・・・・・・」

 「あ、あの、ご注文は・・・」

 「なあ香風・・・・・」

 「はっはい」

 「何で勇気出してこの店来たのに応対が女装した香風なんだぁーーーっっっ!!!」

 「ひぃっ、ごめんなさいごめんなさい!!」

 「やめなよ、香風君引いてるじゃん」

 男友達の二人に失望させてしまった・・・・・。

 「はぁ・・・。もういっそ、香風でいいか・・・・・」

 「えっ」

 「うん、正直思春期男子の目から見ても結構いける風体してるよ」

 「えっ!?」

 

 

 

 「何とかなりそうで良かった」

 「シャロさんの学校とフルールも協力してくれるみたいですね」

 色々あったけど、何とか職場体験も終わった。

 「フユさん、今日はありがとうございます」

 「そんな。あまり役に立てなくて・・・」

 「そんなことないです。フユさんがいてくれて心強いです」

 「え?」

 「僕も正直プレッシャーだったので・・・」

 そっか。

 そんなチノを支えたかったから、あの時立候補したのかも。

 「一緒に成功させましょう。文化祭」

 「うん・・・。チノはやっぱり・・・かっこいい」

 「え、そうですか?」

 顔を赤くして照れてる。かわいい。

 普段はそうでもいざという時に誰かのためにかっこよくなれる。

 

 だから大好きになったんだよ。

 

 「でも、フルールのチノは可愛かったよ」

 「できれば忘れてください・・・」

 

 

 

 「はぁ・・・」

 「どうしたのチノ君!?」

 その日の夜、僕は自分の部屋でため息をついていた。

 「フユさんに大口叩いてしまったのではと恥ずかしく・・・」

 「フユちゃんはそう思ってないってー」

 大見栄きってしまったけど、ちゃんと先導できてるんだろうか。

 失敗して呆れられてくない・・・。

 「そういえば千夜さんとは別クラスになったんですよね」

 ということは、ココアさんと千夜さんも敵同士ということになる。

 「あのコンビが好きだったので、今年は見れないと思うと残念です」

 大人になると関係性が変わる。

 僕の周りもどんどん変わっていっている。

 楽しいことも多いけど、寂しいこともある。

 「チノ君・・・」

 ココアさんだって寂しく・・・。

 「もしかして去年の私たちに憧れて立候補したのーーー!?」

 「夜は静かに!!」

 そんな寂しさを吹き飛ばすくらい、ココアさんは平常運転だった。

 

 

 今日の事、おじいちゃんがいたら。

 『フルールと協力!?コーヒーを出せい!!』

 とか言ってたのかな。

 情けないけど寂しくなって、童話の本をめくる。

 「その本面白い―?」

 「ココアさん。不法侵入ですよ」

 「いいじゃん恋人なんだからー」

 ココアさんはいつも通りだ。

 まるで寂しんでばかりじゃいられないと言うように。

 「それで文化祭のコンセプトは何にしたの?」

 「当日のお楽しみです」

 寂しくなったらハッピーなことを考えないと。

 この童話みたいに。

 

 「あ、そうそう。シャロちゃんから送られてきたんだけど」

 「?」

 「メイドチノ君、かわいいねー」

 「!?」

 「今度私に前でも着てほしいなー」

 「勘弁してくださーい!!!」

 

 

 

 幸せなこと。普段と違う自分。

 「ティッピー」

 おじいちゃんが中にいないティッピー。元々雌だったからか、女の子らしくなった気がする。

 ぴょんぴょん跳ねて僕の頭に乗る。おじいちゃんとは違う感じがするけど、それでも何だか嬉しかった。

 「あなたともちゃんと話さないとですね」

 おじいちゃんの声じゃなくて、自分の声で喋らなきゃ。

 もうすぐ大人になるんだから。

 「きゅうっ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。