ココアちゃんが来なかった世界線ってちょっとゾッとしますね。
「チノー!!ボーッとしていると高校に遅れるぞ!!」
「!?」
あれ?僕、何して・・・?
迷子になったココアさんを探しにミラーハウスに入ったらちょっと頭がボーッとして・・・?
というか、それよりも・・・!
「おじい・・・ちゃん・・・・・?」
ティッピーからした声は、確かに僕のおじいちゃん。
でも、おじいちゃんは・・・。
「あれ!?今日はハロウィンで!おじいちゃんはもう・・・」
「妙な夢を見とる場合か」
夢・・・?
ココアさんの実家に行って、そして帰ってきたらティッピーからおじいちゃんが消えてて・・・・・。
あれ?そういえば、ココアさんは・・・?
「あの、おじいちゃん。ココアさんは・・・」
「? 誰じゃそいつは?」
ココアさんが・・・いない。
いや、元からいなかった・・・?
今までの、全部夢・・・?
「ああ・・・そっか・・・・・」
そう言われてみれば・・・そんな気もしてきた。
「高校、行かないとですね」
いつも通りだ。
いつも通りの、毎日が始まる。
いつも通り、お父さんと二、三言の言葉を交わしてから、朝食を食べて高校へ向かう。
別に親子仲が悪いわけじゃない。
でも、別に面白い話題というのもないからだ。お互い無口な方だし、これが普通だ。
こっちの方へ住んでる同級生がいないから、登校はいつも一人。でも寂しくはない。慣れたものだ。
高校へ行って、クラスメイトの皆に挨拶しながら授業が始まるのを待つ。
そしていつも通りの授業を受けていると、いつの間にか昼休みになっている。
机をくっつけてお弁当を食べながら、知人の男子の話を聞く。
自分から積極的に話す、ということはない。口下手な方なので聞くに徹する。
向こうもそれに関して何か突っ込んでくることはないから、別にこのままでもいい。特に話題もないし。
別にいじめられているというわけでもないし、無視されているわけでもない。普通に会話はするし、くだらない話で笑い合ったりもする。
でも、特別仲のいい友達がいるというわけでもない。
仲のいい友達・・・。
中学の頃はいたっけ。
そんなこんなで放課後。ラビットハウスもあるので部活はしていない。学校が終わったらそのまま帰宅する。
いつもの毎日の筈なのに、何かが足りない気がする。
足を止めて、スマホを何となくいじる。
そうするとマヤさんの連絡先が出てきた。
中学の頃、よく遊んでくれた女子だ。他にもメグさんという女子もいた。
今考えると、異性同士なのによくまあ友達付き合いがあったものだ。2人ともそれだけ優しかったんだと思う。別に恋人だった、というわけでもない。断じて。
でも、二人がお嬢様学校へ進学してからは付き合いも格段に減った。言うまでもないが僕がお嬢様学校へ行くわけにもいかないからだ。
僕はアプリを開いて、マヤさんにメッセージを送った。久しぶりです、元気ですか、と。
あまり間を置かずマヤさんから返信が帰ってきた。文字列から既に、元気いっぱいに高校生活を送っているのが分かる。メグさんの近況も教えてくれた。2人とも中学時代と変わっていなさそうで笑みがこぼれる。
メッセージを交わしながらふと気になって返信を送った。
シャロさんは元気ですか、と。
そうするとマヤさんから驚いた様子のメッセージが帰ってきた。
『何でチノがうちの学校の先輩のこと知ってるの?』
そう聞かれて自分でも疑問だった。
何で知ってるんだろう・・・?
何か違和感を覚えながら帰路に着く。
そうすると分かれ道に出た。
僕はいつも通りの道に行かず、何故か別方向の道を選んだ。
こっちはラビットハウスじゃないのに。
でも、何か大切なものがあった気がする。
そう思いながら足を進める。
そこにあったのは、喫茶「甘兎庵」。
雑誌で見たことある。抹茶と独創的な和菓子を出す喫茶店。
おじいちゃんが何故かライバル視していた。
だから印象に残ってこっちに来たのだろうか。
自分でも行動原理が分からない。
「買い出し、行ってきまーす」
甘兎庵から出てきたのは、見るからに和風美人と言ったお姉さん。
「あら、お客さん?」
僕のことを知らないみたいだ。当然だ。僕もこの人のことを知らない。
でも、何故か一つの名前が口から出た。
「千夜さん・・・?」
「どうして私の名前を・・・?どこかで会いましたっけ?」
何でだろう。僕にも分からない。どうしてこの人の名前を・・・?
「・・・あっ、あなたラビットハウスのお孫さんね!」
「・・・は、はい」
「やっぱりー!おばあちゃんから話は聞いてるわ!!昔から因縁があるライバル店同士だって!!」
僕の手を取りながらぶんぶん上下させて来る。まるでどこかの姉みたいだ。
姉・・・・・・・・?
僕にお姉さんなんて・・・・・。
「因縁対決なら受けて立つわ!!!」
「今日は退散します・・・・・」
「おかえり、チノ」
「・・・ただいまです」
ようやくラビットハウスに帰ってきた。いつも通り、バイトのリゼさんがお出迎えしてくれた。大学生で自由な時間が多いから、高校時代よりシフトも調整しやすいらしい。
でもそのリゼさんの髪型は、ポニーテール。
「リゼさんツインテやめちゃったんですか?」
「いや、流石に大学生だし・・・。というかだいぶ前からやめてたと思うが・・・・・」
「そういえばそうでした・・・・・」
記憶をたどると、高校卒業前からやめていた記憶がある。何で朧げなんだろう。何故かつい昨日までツインテだったような気がする。記憶が合致しない。
「ま、まあお前が言うなら、お前の前でならツインテをしてやってもいいが・・・」
「え?」
「だって恋人同士だし・・・それくらい・・・・・」
恋人?
僕とリゼさんが恋人?
「どうした?鳩が豆鉄砲を食ったような顔して?」
「えっ?い、いいえ・・・」
頑張って記憶をたどる。
確かに、リゼさんが高校を卒業して、僕が高校に受かって、お互い恋人になった記憶はある。
割と長い間バイトで助け合ってきたし、お互い憎からず思う関係だったからだ。
でも・・・。
僕の恋人は・・・・・。
「どうしたチノ?」
「・・・いえ」
「・・・まさか浮気か?」
「えっ」
「恋人の私を差し置いて浮気か!?そんな不純なこと許さんぞ!!!」
「ちはちはちはちは・・・いひゃいいひゃいいひゃい・・・・・」
リゼさんに両頬をびよーんと引っ張られ、しばらくジンジンと頬が赤かった。
こういうやり取りを、前によくした気がする。
何かが足りない。おじいちゃんはここにいるのに。頭に靄がかかったみたいで。
「チノ?本当に大丈夫か?」
「リゼさん・・・。大丈夫です。ちょっとボーっとしちゃって・・・」
「しばらく働き詰めだったからな。まあこれでも食べて一息つけ」
そうして手渡されたのは、とてもいい香りのするパン。
パン・・・。
「!!」
匂いを嗅いだ瞬間思い出した。
ここにいない、とても大切な人のことを。
「チノ・・・?」
「おじいちゃん・・・、リゼさん・・・・・、ごめんなさいっ!!!」
「チノ!?」
リゼさんの呼び止める声も聞かず、僕はラビットハウスを飛び出した。
(ごめんなさい)
きっと、どっちか選ばなきゃいけない。
(ごめんなさい二人とも)
おじいちゃんが生きている世界。恋人がリゼさんな世界。
(ごめんなさいみんな)
そして、みんな知り合わずに暮らしてる世界。
でも僕は。
あの人と一緒にいたい。
走り回って思い出の場所を探す。
思い出の場所が多すぎる。こんなにあったんだ。
そもそもこの街にいないかもしれない。というか、いるわけがない。
でも。
街の外に出たとしても。
見つけてみせる。
「まったく・・・こんな場所まで走らせて、世話が焼けます」
思い出の場所。
遊園地の汽車の中。
「僕が忘れるわけないじゃないですか」
迎えに来ましたよ。
ココアさん。
一番割食ったのがリゼちゃんになっちゃった・・・。ごめんね・・・・・。