「行ってきまーす!」
「行ってきます」
晴れ渡った朝、ボクとココアさんは学校へと登校します。途中まではココアさんと道が一緒なのでそこまでは一緒に登校しています。
「チノくん。今日もまたセロリ残してたでしょ」
「ココアさんもトマトジュース飲んでませんでしたよ」
「えへへへ」
ココアさんは調子が悪くなったらいつもこうして笑います。あまりに朗らかに笑うので思わず許してしまいそうになります。
「でも私よりチノくんの方が好き嫌い多いよ。このままじゃ大きくなれないよ」
「心配はいらないです。ココアさんと同じ年の頃にはボクの方が大きくなっています」
「え~、そうかな~」
ボクはこれでも男なので、今では女の子に背丈は負けていますが後で必ず大きくなるはずです。
ココアさんは顔を宙に向けて何か考えています。ボクが大きくなった時のことを考えているのでしょうか。
と思ったらココアさんの顔が赤くなりました。そんなにおかしかったんでしょうか。ちょっとムッとします。
「で、でも、チノくん毎日ティッピー頭にのせてるよね?」
ココアさんが気を取り直すように話を始めます。ボクはラビットハウスで働いているとき、必ずアンゴラウサギのティッピーを頭に乗せます。その方が色々と集中できて、バランスも取りやすいからです。
「ティッピー頭に乗せてて背が伸びるのかな」
「・・・・・・・・・・・・・ハッ!!」
天啓を受けたようでした。
ココアさんと別れ、ボクは自分の通学路を歩きます。
さっき言われたことがまだ少し気になりますね・・・。男としては知り合いの女の子よりは大きくなりたいです。
「あっ、おっはよーチノ!」
「今日は暑いねー」
せめて友達のマヤさんメグさんよりかは。
さっきの話もあって思わずマヤさんとメグさんの背を見てしまいます。
「どうしたの?」
見比べてみるとマヤさんもメグさんも背丈はそんなにボクと変わりません。なんならメグさんの方はボクより少し大きいかもしれません。
・・・大丈夫です。女の子の方が伸びるのが早いだけなんです。男の子のボクは後から伸びるんです。絶対そうです。
「そんなに休み中私たちに会いたかったー?」
「照れるじゃん!」
ボクたちが出会ったのは中学での入学式の時でした。
「香風智乃です。夢はバリスタになることです」
そんな挨拶をしたことを覚えています。
あと周りが女子だらけで少し緊張してました。もともと女学園だったのを少子化により共学にしたそうです。だから男子より女子の比率が多めでした。そんな環境で友達ができるか不安でした。
そんな状態で話しかけてきてくれたのがマヤさんメグさんでした。
「ねぇ!私たちと冒険しない!?」
「さっきね、宝の地図を見つけたの!」
お二人は宝探しゲーム”シスト”に誘ってくれました。
「な、何ですか。いきなり・・・」
「バリスタの力が必要なんだ!」
一人本を読んでるボクに、手を差し伸べてくれて。
「チノが仲間に加わった!」
「てってれー♪」
「むりやり!?」
・・・どちらかというと攻略用の兵器が見つかったという感じでしたけど。
あとボクを女の子だと思ってて同性のノリで気軽に誘ったそうです。明らかにズボンを履いてたんですが・・・。
ボクたちは登校しながら他愛のない話をします。マヤさんが昨日お兄さんをパシリに使っただとか、メグさんのお母さんのバレエ教室でお菓子を持ってきた人がいたとか。
その流れでふと思い出したことがありました。
「マヤさん、メグさん。ボク、コーヒーくさいですか?」
「いきなりどうしたの?」
「ええちょっと」
今朝ココアさんのうっかりで頭からコーヒーカスを被ったので、少し匂わないか気になっています。
「かいでみてもいい?」
「いいですよ」
「くんくん」
「んー」
二人はボクの頭に顔を近づけてかいでくる。話を振ったのはボクだけど、二人の顔が近づいてきて、二人の体温や息遣いを直で感じて少しくすぐったい。顔が熱くなってきた気がする。
「確かにほろ苦い香りが・・・」
「でも私、コーヒーの匂い好きだよ」
あまり気にならない程度なら良かったです。ホッとしたのはいいんですが、そろそろ二人とも遠ざかってくれないでしょうか・・・。
「あれ・・・?」
「この匂い・・・」
何でしょう?やっぱり臭かったんでしょうか?
「アレードウシテカナー」
「ホカノオンナノニオイガスルヨー」
「!!?」
二人から眼の光が消えて周囲から冷たい空気が!本能で恐怖を感じ取り一瞬で鳥肌が立った。
「なんてうそー!」
「あははー!冗談だよー!」
すぐにいつもの二人に戻りました。マヤさんはいつものように肩をバシバシ叩きながら話しかけてきます。でもさっきの気配、冗談では済まされない圧だった気が・・・。
そんなこんなしているうちにボクたちは学校へ着きました。他の生徒たちも続々と登校してきています。
「早く昼休みにならないかなー!」
「マヤちゃん、まだ授業も始まってないよ」
マヤさんとメグさんはいつものようにふわふわしたやり取りをしています。お二人はボクと出会う前から友達だったらしいので息はツーカーなんでしょう。
「・・・あれ?メグ、ちょっと顔赤くない?」
「えっ。そうかな」
マヤさんが何かに気付いたようにメグさんに話しかけます。言われてみればメグさんの顔、いつもより赤いような・・・。
「ん~、今日はいつもより暑いし、そのせいだよ」
と言ってメグさんは下駄箱に向かおうとしていました。けどその途端、メグさんの脚がおぼつかなくなりました。
「メグ!」
「メグさん!」
ボクは思わずメグさんの手を取りました。熱い。メグさんの体がボクの体温よりはるかに熱いことが感覚で分かりました。
「大丈夫か、メグ!?」
「えへへ、大丈夫だよ。ちょっとフラフラしただけだから」
そう言っていますが傍から見たら明らかに調子が悪そうです。そういえば今日は朝からずっと暑かったです。熱中症にでもかかったのかもしれません。
「教室行って休めば大丈夫。さあ早く行こー」
気を使っているのかそのままメグさんは教室に向かおうとする。そんなメグさんをボクはすぐさま抱きかかえた。
「ふえ?」
「無理しちゃダメです。大事になる前に保健室で休みましょう」
熱中症は放っておけば大変なことになる。そうなる前に無理やりにでも保健室に連れて行かないと。
「マヤさんは先に教室へ行っておいてください。ボクはメグさんを保健室へ送ってから行くので」
「・・・えっ、ううん。私も心配だからついてくよ」
「そうですか。じゃあ一緒に行きましょう」
「えーっと」
マヤさんはお調子者に見えるけど、本当は繊細な気遣い屋さんだ。だから友達のメグさんを放って一人教室に行くなんて気が気でないんだろう。優しい人だ。
「あのー、私、一人で歩けるよ?」
「ダメです。調子が悪い時は無理したら余計ひどくなりますよ」
「う・・・うん」
メグさんが遠慮するように言う。ボクのことを気にしてくれているのかもしれない。でもボクは少し背は低いけど女の子ひとりくらいなら抱えれる力はある。こういう時にこそ男のボクがしっかりしないと。
「でもそれ、お姫様抱っこだよね」
「え?」
「マ、マヤちゃん!!」
・・・言われてみればその通りです。でも緊急事態だからしょうがありません。メグさんの体もさらに熱くなってきたので急いで保健室へと向かいましょう。
「・・・なんかそれ余計ひどくなりそうな気がする」
「?何か言いました?」
「別に」
マヤさんが何かつぶやいた気がするけどよく聞こえませんでした。後でそのことは聞くとして、今はメグさんのことを優先しましょう。
「メグさん、たいしたことないそうで良かったですね」
「うん」
メグはどうやら軽い熱中症だったらしい。軽いものだから少し休んだら良くなるって保健室の先生が言ってた。
「あ、そういえばさ。チノ」
「なんですか?」
「みんなの前でお姫様抱っこなんて大胆じゃん!」
さっきの光景をぶり返してチノを茶化す。お姫様抱っこなんて現実で初めて見たんだもん。いつものチノなら恥ずかしがってしないだろうから尚更。まあチノにしてはちょっとカッコよかったけど。
「・・・緊急事態だからしょうがないです」
「でもおんぶでも良かったんじゃない?」
「無我夢中だったんです・・・・・」
チノはいつもより更に縮こまって小声で喋る。顔もトマトみたいに真赤だ。うんうん、これでこそいつものチノだよ。
「それならー」
私はチノにじりじりと近寄る。チノは若干警戒していた。
「私もおんぶして連れてけー!」
「うわっ!!」
私はチノの背に飛びかかるようにした。まあいつものじゃれ合いだし気にしないだろ。
と思ってから気づいた。チノにおぶさって見る景色が意外と高いことに。
・・・チノは私と背丈、あんまり変わんないはずなのに。男の子だからか?なんか背中も広い気がする。よく分からないけど何か悔しい・・・。
「・・・?マヤさん?どうかしましたか?」
「なんでもねー!!チノはもうずっと大きくなるなー!!」
「ええちょっと何で!?そんなに頭をおさえ込まないでください!!」
学校の設定に既視感を覚えるのと無理がありすぎるのは突っ込まないでいただけると嬉しいです。