ご注文はチノくんですか?   作:岩ノ森

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チノくんと風邪ひきお姉ちゃん

 「チノくん見て!雪が積もりまくりだよ!!」

 昨日特に寒かったと思ったら、今朝は一面の銀世界でした。ココアさんはそんな銀世界を見て子供のようにはしゃぎまくっています。ボクより年上なのに相変わらずです。

 「雪うさぎ作るよ!」

 「先に学校行っちゃいますよ」

 早速道草を食べだしています。犬は喜びなんとかっていうけど、ココアさんも同じくらいのはしゃぎようです。

 「完成!」

 「わ。かわいいです」

 作られた雪うさぎを見て思わず声を漏らしてしまいました。ボクの可愛いもの好きはきっと父に似たんでしょう。

 「このくらいの出来で見とれるなんてまだまだ子供だね」

 どっちが。

 

 「きっと学校で雪合戦大会だよ。武者震いするなー」

 はしゃぎすぎたのかココアさんはさっきから震えています。いくら何でも楽しみすぎです。

 「あ、でも千夜ちゃんに球投げられたらって思うとぞっとするなー」

 ・・・何か変です。震えがさっきよりひどくなっています。顔もいつもより赤いし。

 もしかして・・・。

 「ココアさん、ちょっと腰低くしてください」

 「?」

 ココアさんはボクの言ったとおりに腰を低くします。ファイティングポーズを取りかけていましたがそうではないです。

 ボクは自分のおでこをココアさんのおでこにコツンと当てました。

 「!?」

 「すごい熱・・・!」

 

 

 「ココアさん、入りますよ」

思った通り、ココアさんは風邪だったようです。大事になる前に家に引き返せてよかったです。

 「リゼさんがおかゆ作ってくれましたよ。他に何か食べられるものありますか?」

 昼間はリゼさんや他の皆さんもお見舞いに来てくれました。その時は元気そうに接していたので一安心です。

 「ココアさん・・・?」

 様子がおかしい。さっきまで元気だったのに話しかけても応答がありません。

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 「ココアさん!!」

 うなされてる!夜になって風邪がひどくなってきたんだ!顔も真赤だ。

 「ち・・・の・・・」

 「苦しいんですか!?ボクに出来ることがあれば何でも言ってください!!」

 ボクは思わず寝ているココアさんの手を取る。さっきよりも熱くなっている。ジュゥッという音が聞こえてくるくらい。

 「ち・・・・・の・・・・・」

 「ココアさん・・・!!」

 「ち・・・地中海風オマール海老の・・・・リゾットが食べたい・・・な・・・」

 「はい・・・?」

 

 「チノ、風邪薬が切れておるぞ」

 「ええっ!?」

 おじいちゃんの発言に思わず声を上げてしまいました。どうしよう。買いに行くと言っても近くのお店はもう閉まっているし、お父さんは仕事中で手が離せない。どうにかできないものかと考えれば考えるほどあせってしまう。

 「家が近い千夜にもらいに行くというのはどうじゃ」

 「おじいちゃんナイスアイディアです!!」

 おじいちゃんの提案通り、ボクは千夜さんに風邪薬を分けてもらうために家を飛び出しました。

 (たくさん降ってる・・・。朝になったら雪かきしないと)

 急がないと。滑らないよう細心の注意を払いながら小走りで雪だらけの道を行きます。

 「あっ」

 路面が凍結していたのか、足を滑らせて転んでしまいました。おでこを打って痛い。

 余計な時間を取っちゃった。その間にもしココアさんの病状が悪化したら・・・!そう思うと気が気でない。一人不安で胸がつぶれそうになる。

 「チノよ。夜道をひとりで行く気か」

 おじいちゃんの声がしました。心配で追いかけてきてくれたのでしょうか。声のする方を振り向きました。

 「あれ・・・?」

 どこにもおじいちゃん、というかティッピーの姿が見えません。おかしいな。

 ・・・・・まさか。

 「おじいちゃん!!雪と同化してどこにいるか分かりません!!」

 

 目を凝らして雪を掘り返してようやくおじいちゃんを発見できました。

 「チノ。そう不安がるでない」

 おじいちゃんが優しい口調で、でも諫めるようにボクに話しかける。

 「おなごが苦しんでる今、男のお前がしっかり構えなくてはならんぞ」

 「・・・・・!!」

 おじいちゃんの話を聞いて体に力が入る。そうだ。不安がってる場合じゃない。ココアさんのために一秒でも早く、風邪薬を持って帰らないと。

 「はい!!」

 おでこの痛みを気にする間もなく、ボクは再び夜道を駆けだした。

 

 「ココアさん。お薬貰ってきましたよ」

 千夜さんからお薬をもらってようやく帰ってきました。どうやら千夜さんも風邪をひいているシャロさんのためにお薬を買い込んでたそうです。今度お見舞いに行こう。

 「んんぅ・・・。ありがとう、チノくん・・・・・」

 見たところ呼吸はさっきより落ち着いたようです。少し寝て良くなったのでしょうか。でもその代わり、汗をびっしょりかいています。

 「うぅん・・・チノくん・・・。お願いが・・・あるんだけど・・・」

 「何ですか?ボクに出来ることならなんでもどうぞ」

 ココアさんがポーっとした表情でボクに話しかける。出来ることなら何でもしてあげたい。それで風邪が少しでも早く治るのなら。

 「汗・・・拭いてほしいんだ・・・」

 「はい!・・・・・・はい?」

 予想外のことを言われた気がする。

 

 「んぅ・・・。じゃあ脱ぐからね・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 スルッという布擦れの音が聞こえてきたと思ったら、目の前にココアさんの綺麗な背中が現れた。ブラもつけておらず、肩甲骨やくびれまでしっかりと視界に入ってしまう。

 (平常心・・・平常心・・・・・)

 ココアさんは熱で寝ぼけて正常な判断力を失っているんだ。じゃないと男のボクにこんなことは頼まないだろう。そんな状態のココアさんを変な目で見るなんて決してあってはならない。

 「じゃあ・・・・・お願いね・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 ボクは冷水で濡らせたタオルをココアさんの背中に当てる。

 「んっ」

 「・・・・・!!」

 ココアさんが妙な声を漏らす。熱い体にいきなり冷たいタオルを当てられたからより感じてしまってるんだ。

 首をブンブン振って目の前の作業に集中する。真面目にやるんだ。ココアさんは苦しんでるんだ。

 ボクはそのまま濡れタオルをココアさんの背中に沿って動かし始めた。

 「あぁん」

 ココアさんが声を漏らすたび、ボクの心臓は飛び上がる。今まで同居してきたけど、一度も聞いたことのない声だった。

 耳からの情報だけじゃない。視覚や触覚からの情報も絶大な破壊力があった。

 汗のせいで少し室内の光を反射している肌、タオル越しに触れてもその柔らかさが分かる。少し力を入れると少しへこみ、持ち前の弾力性で元に戻る。女の子特有の吸いつくような肌をタオル一枚越しに感じていた。

 よく目を凝らすと体前方にある乳房の輪郭も見える。少し動くだけでメレンゲみたいにプルプル揺れる。大事なところが見えないのが幸い中の不幸、じゃなかった不幸中の幸いだった。

 

 そんな欲望と理性の戦いが脳内で繰り広げられているうちに背中をようやく拭き終わった。疲れた・・・。薬貰いに外に出たときより疲れた気がする・・・。

 「終わりましたよ」

 ボクはふうーと一呼吸着く。

 「うん・・・。ありがとうチノくん・・・」

 ココアさんもだいぶ症状が回復したようだ。これなら数日中によくなるでしょう。良かった。

 「・・・ん?あれ?」

 ココアさんは夢から覚めたように目をぱちくりさせている。

 「・・・・・!!!」

 バッとココアさんはボクから離れて胸元を隠す。・・・どうやらホントに夢から覚めたようです。

 「あ、あ・・・」

 「えっと・・・・・」

 何とも言えない空気が部屋を支配する。ココアさんも再び顔が赤くなってきています。ボクも風邪なんて引いてないのに体が熱くなってきた・・・。

 「ご・・・・・・・・・・・・・・・・」

 長い沈黙を破り、ココアさんが口を開いた。

 「ごめん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「いえ・・・・・こちらこそ・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 その後、しばらくして普通に話せるようになりました。まだ頭の中にあの光景はこびりついてるけど。ココアさんは再びベッドで体を休めています。

 「あれ・・・チノくん・・・。おでこのところどうしたの?」

 色々あって忘れてましたがおでこを怪我したんでした。

 (雪で滑って頭転んだなんて言ったら笑われる・・・!)

 「あー、雪ではしゃいでスノボごっこしたら転んだんだね、あぶないよ」

 「普通に転びました」

 ココアさんじゃないんですからそんなことしません。でもいつも通りのココアさんに戻ったみたいです。胸のつっかえが取れたようでした。

 「今日はありがとね。チノくん」

 ベッドからわざわざ腕を伸ばして、ボクの頭を撫でてくれます。柔らかな笑みと手から感じる暖かさで疲れも忘れたようでした。

 「もし風邪うつしちゃってたら全力で看病するからね」

 「ボクはそんなヤワじゃないです。リゼさんに鍛えられてるので」

 普段と違ってホントにお姉さんみたいなことを言ってきます。ちょっといいなと思ってしまったけど。

 「むー、何かずるい・・・」

 「えっ?」

 「何でもないっ」

 プイッとそのまま寝てしまいました。まだやっぱり熱があるんでしょう。ぶり返さないうちに部屋を出ましょう。

 でもその前に。

 「おやすみなさい」

 と言ってココアさんの頭に軽く手で触れました。

 早いうちにまた元気いっぱいのココアさんを見たいという願いを込めて。

 

 後日、ココアさんは治りましたがボクは遅めのおたふく風邪にかかったのは別の話です。

 

 

 

 「一人で家を出るのは寂しいな」

 チノくんが遅めのおたふく風邪にかかった朝、私はチノくんの看病をしたかったけど学校があったから仕方なく家を出た。帰ったらたくさん看病してあげよう。

 「あっ、この間作った雪うさぎまだある」

 私が風邪をひいた日に作った雪うさぎだ。チノくんからもかわいいと言われたお墨付きだよ。

 「しかも家族が増えてる」

 私の雪うさぎの横に小さめの雪うさぎが三匹くらいいた。チノくんったら自分でもたくさん作ったみたいだ。でもこれなら雪うさぎさんたちも寂しくないね。

 家族・・・・・。

 風邪は治ったはずなのに、体が一気に熱くなった。

 このままじゃまた熱が出ちゃいそうだから早く学校に行こう。と思って歩き出そうとしたけど。

 「・・・・・・・・・・」

 私はごそごそと雪を集めて雪うさぎを作った。ちょっと大きめの雪うさぎだ。そしてそれを小さな雪うさぎたちを挟むようにして、この間の雪うさぎの反対側に置いた。

 作り終わったし学校へ行こう。今のは別に深い意味はないし。

 ちょっとお父さんうさぎもいるだろうなーと思っただけ。

 




これでチノくん流行ったりしないかな、と厚かましくも思いながら書いてます。

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