偽物シリーズ   作:ザ・ディル

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ぼくは戯言遣いに憧れた

 戯言遣い。

 

 ぼくの憧れている存在。

 彼は数々の事件を解決――あるいは隠蔽。世界を終わらせることなく、家に帰った。

 複雑怪奇艱難辛苦の道を経て、現在は請負人をしている。

 

 彼は京都にいて、請負人。つまるところ、居場所は分かる。請負人という仕事には当然事務所があって、その住所が明記されている。まあ、人類最強の請負人はそんな事務所は持っていなそうだけれど。だけれど彼の場合は別にアクティブに日本――世界を駆ける存在ではないのだから、その事務所にいるのだろう。

 とにかく。

 会いたいと思えば会える存在――戯言遣い。

 残念ながら、ぼくは京都にいながらまだ一度も会っていない。

 

 何かを請け負ってくれるのが請負人ではあるけれど、彼が請け負う内容は事件の解決の為がほとんどだ。事件が発生した覚えのないぼくは彼に頼ることができない。

 だから戯言遣い――貴方と邂逅するときは事件に遭遇しているときがいい。

 偶々偶然、ばったりと事件に遭って――貴方に()って、それで初めての思い出にしたい。

 

「どしたの、しーちゃん」

 

「どうしたもなにも、どうもしてないよ、綿罪(わたつみ)

 

 ぼくが彼女と話している場所は大学のいち教室。話している相手は――便宜上は綿罪と呼べる存在だ。

 ぼく同様、彼女にも名前らしき名前はない。名前なんて誰も持っているので、誰も意思持つものではないけれど。それでも名前に意味があるのだとすればそれはやはり記号としか言えない。人を便宜上呼べるためのツールで――ルーツ。名前があるから発展性を持てるし、名前があるから便利。だから便宜上ぼくの名前はしーちゃんなどと呼ばれているわけだ。――というのは嘘で、ぼくは普通に名前がある。戯言遣いの真似をしたかっただけだ。

 

「また適当な嘘考えてるねしーちゃん」

 

「嘘じゃなくて戯言だよ」

 

「はいはい、そーですね。言い訳するしーちゃん可愛い~!」

 

 おかっぱ頭の童顔をぼくに見せつけ笑いながら接してくる。相も変わらず、綿罪らしい。

 と思ったら、笑顔から神妙な顔つきへと変化した。

 

「そうそう。最近この京都で異変が起きてるらしいよ?」

 

「異変?」

 

 異変ね、一体全体どういうものなのだろう。

 

「名付けて解剖解体――解解(ばらばら)事件?」

 

「どうして疑問符を打つんだ……」

 

「いやね、ちゃんとした名称がないんだよ。だからわたしなりに――綿罪の和多罪なりの考えとしては、あれは解剖解体――絶望の淵が京都に広がる災厄最悪事件――京都のすべてが解解(ばらばら)になってしまうって思ったんだよ。つまり京都すべてを人質にした。そう言えば聞こえが悪いかな」

 

「それでお前は何が言いたいんだ? 解解になってしまうのなら異変ってよりは事件じゃないのか?」

 

「異変だよ。犯人が京都のみにターゲットを絞って蹂躙して京都の存在すべてに恐怖を植え付けてるんだから。恐怖を伝えまくって――恐怖で染み込ませているんだから、異変という他ないよね」

 

「異変なのはわかった。それで? どんなことがあればそういう異変が起きてしまうんだ?」

 

「解剖だよ」

 

 綿罪は、ぼくの会話を遮断してしまうほど口速く答えた。

 

「解剖による解剖による解剖。破壊による破壊による破壊。それを何百体にも何千体にも何全体にも――京都の生命をあらかた解剖しているんだよ。もはや人間じゃないね。かつての京都で起きた連続殺人事件――零崎(ぜろざき)の仕業のようにも思えるけど、それにしてはやり口が殺人的じゃない。何せ、殺されているのは人ではなく――人以外の生命だから。

 動物植物すべてに分け隔てなく解剖しまくってる。性質(たち)が悪すぎるんだ。罪に――法に囚われることはない。『殺し名』の仕業というにはあまりにも殺しっぽくはない。殺されたというよりは、解剖解体されてるんだから。そして当然『呪い名』の仕業でもない。どちらかといえばそれら二つを併せ持ったハイブリット。過去の(バッドカインド)偶像崇拝(シームレスバイアス)こと零崎(ぜろざき)軋識(きししき)のような人間かなー? 或いは新種――それこそ四つの世界から飛び出しはみ出、外部にい続け、ついに痕跡のみのデータだけをこの世界に植え付けた存在か。

 

 

 まあ、どれでもいいけどどうでもいいけど。しーちゃん――あなたはこれからどう行動したいの?」

 

 

 なるほど、京都でそれほど異常なことが起こっていたのだとぼくは痛感した。人殺しではなく、人以外の生命殺し。犯罪とは呼べないが悲惨だ。

 そのうえでいう。

 

「犯人を見つけてもいいかもな。――同類かもしれない」

 

 ぼくと綿罪は『秘密基地』を出る。外から見られればブラックボックス中のブラックボックス――中に何が入っているのかそれこそ全く全然皆目見当もつかないけれど、ぼくたちには簡単にわかる。この『秘密基地』はぼくと綿罪二人だけの場所なのだから。

 ぼくはこれからどうなるのかどうするのか、それはぼくたちも知らない。だけれど、同類とそろそろ会うことは自覚していた。解剖凶にして解剖狂のぼくの同類に。

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