(10月に入っても)なんて熱さだ! 耐えられない!
「私はサムス・アランというのか」
金髪の女性――サムス・アランはあなたに真顔でそんな言葉を呟く。
そこそこ長生きなあなたではあるが、本人に本人の名前を教えるという経験は流石に初めてであった。
「して……その見るからに嫌なものはなんだ……?」
『――! ――!』
それまで無表情に近かったサムスが、目を三角にして口をへの字に結びつつそんなことを投げ掛けて来る。無論、相手はガラス管に入ったベビーメトロイドに対してである。
ゴリゴリとガラス管に牙を立てているベビーメトロイドを、まるで親の仇か何かのような様子に、彼女の親の仇はかの邪知暴虐のリドリーなのではないかと考えたが、それさえも忘れてしまったのかと思い、あなたは目頭が少し熱くなるのを感じた。
そのため、サムスが記憶を取り戻し、元の彼女に立ち戻る為に資する事を可能な限りしていく事を目を閉じつつ自分に誓う。どうせ隠居してから暇なのでこれぐらいどうということはないだろう。
『――――――!!』
「ミ゜」
するとパリンなどとガラスが割れる音が響いたため、あなたが瞳を開けると、そこには強化ガラスを根性で食い破って脱出したベビーメトロイドと、声にならない悲鳴を上げるサムスの姿があった。
脱出したベビーメトロイドは、そのまま一目散にサムスの頭に髪飾りか何かのように張り付くと、多少の電撃を伴いつつ吸収を始める。
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛」
『――――♪』
サムスは白目を剥いて女性が上げてはいけないほど迫真かつ脳が破壊されていそうな悲鳴を上げつつ身を強張らせる。どうやら彼女はベビーメトロイドを剥がすという行動を取れないらしい。
アイスビームというメトロイド特効の武装はどうしたのかと思いつつ、このままではベビーメトロイドに殺されてしまいそうなので、笠部分を少し強めに摘まんで弛緩させてから軽く引き離した。
『――! ――!』
「ここは誰……? 私はどこ……?」
しかし、どうやら既に若干遅かったようで振り出しに戻ってしまったらしい。
メトロイドにはこのような能力があったのかと思いつつ、この先が思いやられる様子にあなたは苦笑を浮かべるのであった。
◇◆◇◆◇◆
「栄養を補給したい」
再び記憶喪失の彼女への初歩的な刷り込みを終え、なんとかヒューマノイドらしい理性を取り戻したサムスは相変わらずの仏頂面でそんな事を呟いた。
それに釣られて、携帯端末の時刻を確認すれば既に夕飯時である。正午頃に彼女を拾ったため、どうやらかなり時間が経っていたらしい。腹が空くのも納得である。
それはそうと吸収された具合はどうかとあなたはサムスに問い掛けた。
ちなみにベビーメトロイドは今度こそ脱走できないように鳥かごのような鉄檻に入れてあるため、暫く悪さはしないであろう。
「……? なんのことだ?」
どうやらベビーメトロイドに吸収されていた記憶も丸っと忘れているようだ。しかし、こちらに関しては忘れていても特に問題なさそうなため、言わないでおこうとあなたは決める。
とりあえず、彼女を食事場に連れて行き、そこで待つように伝えたが、何故かそのまま調理場まで着いて来てしまったため、仕方なくそのまま食事の用意を始めた。
「なんだこれは?」
自然解凍させるため、昼前から調理場に置いておいた大振りな"ウェーバー"と"サイドホッパー"を、サムスは解体用テーブルに指を突きつつ何とも言えない表情で眺めている。
ウェーバー――。
イボ状の突起物が生えた2枚の甲羅を持ち、波形を描くように飛行するポピュラーな昆虫型クリーチャーである。
この甲羅は進化に伴い翅が変化したもので、内部に溜め込まれた比重の極めて軽いガスによって、羽ばたくことなく空中に浮かび上がることができるらしい。また、外敵や獲物を発見すると、甲羅にうずくまって高速回転する突進攻撃を繰り出し、獲物を気絶させ、その獲物へ長い口吻を突き刺して体液を吸い取る性質を持つ。
まあ、見た目に反して甲羅の耐久力はほぼないため、粗雑なブラスター程度しか防げないので、狩猟は特に苦労するような生物ではない。
「うぇーばー……?」
もう片方はウェーバーと同じくポピュラーな昆虫型クリーチャーのサイドホッパーだ。
1対の複眼と2~3本の牙を持つ丸い頭部を持ち、小さな胴と頭を異常に発達した2本の後脚で支えるという奇妙なフォルムをしているのが特徴だ。よくみると進化の過程で前脚と胴体が退化しており、顎の下に退化した2本の前脚が残っていることが確認できるだろう。
また、これは通常の倍の大きさの巨大な個体であり、サイドホッパーは環境によって若干姿が変わる事もある。
ちなみにその名前通り、発達した後脚を利用して、跳躍を繰り返しながら横方向に移動するカニとバッタを合わせたような不思議な移動をする。また、高い跳躍力を持つため、自分の身長を遥かに超える高い場所に移動することも出来るだけでなく、天井に張り付くことも可能なため、重力に逆らって天井から天井へとぴょんぴょん跳ね回っている姿が見られる事もある。
ただのミサイルぐらいならば簡単に防ぐほど頑丈だが、惑星の原生生物でしかないため、こちらも特に狩猟が難しい生物ではない。
「サイドホッパー……?」
あなたは既に絞めてある2体の生物を手際よく解体して行った。有機生命体なら何でも口に出来るため、色々な生物を食べるのが趣味のひとつである。
よって今日の夕食の献立はウェーバーとサイドホッパーのシチューの予定だ。
「喰えるのかそれは……?」
まあ、見た目の厳つさと、昆虫にしか見えない外見から大多数のヒューマノイドはそう言うであろうことを見越していたため、あなたはサムスの言葉を特に否定しなかった。
確かに中型や大型の昆虫は、大多数のヒューマノイドにとっては硬過ぎる殻ばかりで大した中身もないため、基本的に食べられたものではない。
しかし、ウェーバーやサイドホッパーは確かに昆虫型のクリーチャーだが、あくまでもそれは形だけで確りと筋繊維を持つ生物である。そう、
ウェーバーは2枚の甲羅と胴体を繋ぐ部分を甲羅の裏側を削ぐように引き剥がせば、赤々とした鳥類のささみのような質感と繊維走行をした肉が現れる。このつるんとした筋繊維部分が絶品なのである。
サイドホッパーのミサイルさえ弾き、常に跳躍を繰り返している発達した脚は、外殻を
「つるん……ぷりん……」
筋繊維はどう調理しても旨いのだ――要するにそう言うことであるが、このように食を楽しみ始めたのにも一応訳がある。
まず、はっきりと結論から言ってしまえば、銀河連邦軍の現場の食事が最悪だったからだ。
如何なる環境においても過剰なほど栄養が補給出来ると共に、超長期間保存が利き、かさ張らず大量に少ないスペースに保管出来る
そんな大義名分だけはあなたもよく理解していた。
しかし、食べるついでにスペースパイレーツも殴り殺せると評判なカチコチの石板のようなビスケットかチョコレートに、鮮やかなビビットカラーのゲルと、口内の水分を全て持っていくためスペースパイレーツの拷問に使えると好評な栄養バーなどを戦争や殲滅作業の傍らに食わされては堪ったものではない。上の連中は余りに現場を知らなさ過ぎるのだ。
「カチコチ……」
また、娯楽がとてつもなく少ない事や、戦闘行為どころか食事までストレスな事も一因となり、何処の部隊も喧嘩が絶えず、男女比の偏りから同性愛に目覚めたり、正常な認識を欠いて異種姦に走る者も珍しくはなかった。
"え……お前らそんなもん喰ってんの? うわぁ……"等と取り調べ中のスペースパイレーツに哀れまれる事ほど惨めな事もそうはないだろう。
そのため、航路にある文明のない惑星に行き、密猟紛いのことをしつつ、少しでも美味しい食事を部隊に提供し、英気を養っていたのである。その結果、多くの生物は美味しく食えるという結論に落ち着いたのだ。まあ、銀河連邦法スレスレだが、あなたは握り潰せる立場だったので特に問題なかった。立派な腐敗幹部である。
そんな他愛もない過去の話をしている内に1時間程でウェーバーとサイドホッパーのシチューは完成した。
ウェーバーとサイドホッパー肉を中心に野菜と赤ワインで煮込んだシチューであり、そこそこ作り慣れた料理だ。
まあ、主食がパンやライスではなく、件のレーションのビスケットな点ぐらいが不満点だろう。汁物がある場合に限るが、無駄に保存が利くため、憎らしい事にシップ生活ではとても重宝する。
「これがカチコチの石板か……」
あなたはサムスにどんどん無駄な知識が吸収されているように思えたが、どうせ忘れても覚えていてもどうでもいい事なのでそのままにしておく。
「………………」
そして、食事が始まり暫く黙々と食べ進めるあなたとサムス。あなたとしては彼女に食事の仕方などの手続き記憶まで失われていない事がわかっただけでも御の字であった。
それはそれとして作った者の興味として、彼女に味の感想を求めた。元々、あなたは濃い目の味付けが好きなため、彼女が好まないならば変えようという考えもある。
「…………味か……すまない、よくわからないな。初めて食べたから」
気を使っているのかは定かではないが、どうやらサムスのお気に召すものではなかったらしい。とは言え、それは彼女の感性だったのだから仕方ないだろう。
しかし、そう言う割には既に彼女はシチューを食べ終えており、相変わらずの無表情で皿の底をじっと眺めていた。
その仕草に子供の仕草のような既視感を覚えたあなたは、一応おかわりはいらないかと聞いてみる事にする。
「いいのか?」
すると彼女は少し表情を綻ばせ、あなたの方に空の皿を押してくる。何処と無くその仕草に可愛らしさを覚えたあなたも表情を緩めるのだった。
蛇足だが、サムスは平皿で延々とお代わりを繰り返し、バケツ一杯以上の体積を平らげる姿にあなたが舌を巻いたのは30分程後のお話である。
◆◇◆◇◆◇
食事が終わった後、あなたはサムスを連れて再び格納庫の隅に来ていた。そこには様々なコンテナが積み上げられ、彼女とベビーメトロイドが乗っていた脱出ポッドも寄せて置いてある。
「何をするんだ?」
澄まし顔で頬にビスケットの滓を付けているサムスはそう呟いた。あんなバリカタ石板でも彼女は煎餅か何かのようにバリバリと食べられており、鳥人族のDNAの神秘が垣間見えたが、可愛らしいのでそのままにしている。
ここに来たのは他でもない。彼女にパワードスーツを装着して貰い、どの程度の機能が正常なのか見るためだ。断じて鳥人族の技術の粋を詰め込んだと言われるそのスーツが気になる訳ではきっとない。
「パワードスーツ……?」
サムスは何を言っているんだコイツと言わんばかりに首を傾げる。どうやらそのレベルで彼女の記憶は綺麗さっぱり消し去られているようだ。やや子供っぽく感じるのもそのせいなのかも知れない。
「どうやってやるんだ?」
少々彼女へパワードスーツについて力説したあなただったが、そう言われると言葉に詰まる。
無論、鳥人族のパワードスーツの仕組みなどあなたが知るわけもないからだ。これにはあなたもお手上げであろう。
暫く考え込んだ末――仕方なくあなたはその場で奥の手の"変身"をした。
「おー」
あなたの場合は肉体そのものを細胞レベルで改変し、全身を硬い外殻で覆うと共に戦い易い器官を増設し、数倍の巨体と化したのだ。
正確には変身と言うよりも"先祖返り"であり、ルーツが不明なほど混種のヒューマノイドであるあなたの遺伝子の中で最も強靭な種族の形を模しているだけである。
しかし、今のあなたならば宇宙を駆けてスペースパイレーツの艦隊に突撃し、大立ち回りも可能――というより現役時代はよくしていたため、この姿は余り他人に見せるものではない。
「こんな感じか」
すると見ただけで何となく理解したのか、いつの間にかパワードスーツを着用した彼女の姿があった。その目に優しいオレンジはサムスのトレードマークだろう。
とりあえず、あなたは先祖返りを解く。見た目通り、沢山カロリーを使う上に疲れるからである。ああいうものは奥の手だからいいのだ。
とりあえず、あなたは2m四方のコンテナのひとつを片手で持ち上げると、少し離れたところに置き、サムスの横まで戻る。そして、彼女の右腕のブラスターでそのコンテナを撃つように命じた。
「こうか?」
ブラスターを構えたサムスは何度かコンテナを銃撃して見せる。
しかし、宇宙空間に放り出されても中身を守るように出来ているため、頑丈な事を差し引いても満足なダメージを与えているとは言い難く、精々コンテナに2~3cmの弾痕を付ける程度であった。
なんだ その あわれなブラスターは……。
あなたは困惑した。サムス・アランと言えばメトロイドやスペースパイレーツをプラズマビーム及びアイスビームで征した事は余りに有名だろう。それに比べると、今の彼女のブラスターはゼーベス星人の
「何か違うのか?」
参考になるかは不明だが、あなたは片腕をコンテナへ掲げる。するとその腕に赤黒い雷光のようなエネルギーが集まり、それが十分に充填されたところでブラスターと同じ要領で放たれた。
その瞬間、あなたが放ったそれは容易にコンテナを紙のように貫通したと共に爆散させ、最早コンテナは跡形もなくなっていた。
「おー」
故も知らぬ混種ヒューマノイドであるあなたは、テレパシーや先祖返り以外に幾つもの能力を有しており、これはそのひとつ――"プラズマビーム"である。
あなたの体内にはプラズマを発生させる器官と、荷電粒子を活性化させる器官があり、それらを同時に使って撃ち出す事でプラズマビームとなり、収束させたまま纏わせる事でプラズマ刃となるのだ。
ちなみにサムスのパワードスーツにあるプラズマビームとは似て非なるものである。
サムスの方は鳥人族が封印した最強の兵器であり、その光の矢が命中すると、あらゆるものは一瞬にして核融合反応で爆縮するとのこと。それに比べればあなたのプラズマビームは、電撃殺虫器に群がった羽虫の如くゼーべス星人を灰塵に出来るのが精々のため、並べる事も叶わないだろう。
元々、特に名付けていなかったが、複数の攻撃対象を貫通するビームという特性が彼女のそれと被るらしく、いつの間にか同じ名前で銀河連邦軍に呼ばれていたというだけの話である。
「そうか……? そうなのか……」
それにしても可笑しいとあなたは首を傾げる。
サムスのパワードスーツをスキャンしたところ、確かにアイスビームやスーパーミサイルなどが存在している筈なのだ。しかし、それらがまるで制限でもされたかのように一切使えなくなっていた。まるで彼女の力は経験、あるいは記憶によるものだとでも言わんばかりであろう。
「きゃぁぁ!?」
『――――――!!』
するとサムスの可愛らしい悲鳴が聞こえたため、そちらを眺めるとベビーメトロイドが彼女目掛けて飛来して来ているところであった。
どうやらまた入れ物を喰い破ったらしい。あなたの頭には小さなベビーメトロイドがガジガジと鉄檻を噛む姿が想起される。
「来るなぁぁ!」
『――!?』
すると、サムスはベビーメトロイド目掛けてミサイルを放った。無意識だったのか、意識したものかは不明だが、確かにそれによってベビーメトロイドは4~5m手前で爆発し、爆煙でその小さな姿が見えなくなる。
「やったか!?」
あなたの経験上、戦場で似たような事を言う奴はろくな目に会わないが、言わぬが華だろう。
「あっ……」
『――――!!』
案の定、無傷のベビーメトロイドが爆煙から飛び出て来た。メトロイドはあなたのプラズマビームでも満足なダメージにはならない程のエネルギー吸収能力と高い耐久性を誇る外皮をしているため、幼生体と言えども当たり前の事であるが、記憶のない彼女には知るよしもない事である。
"どうどう"
『――――!! ――!』
仕方なく、あなたはサムスの頭から2~3cmという張り付く直前でベビーメトロイドを摘まんで捕獲し、テレパシーで宥める。身体が小さいのでかえってこのような強引な対処の方が楽なのだ。
何故かとても不満げに食い下がり、厳重抗議しているような態度をテレパシーで感じるあなただったが、ベビーメトロイドのそれはまだ言葉にすらなっていないため、如何なる意志が籠っているのかはさっぱりわからない。もう少し成長すれば変わるのだろうか。
「助かった……」
それにしても記憶は消えようともサムスは本能的にメトロイドが苦手らしい。見た目が冒涜的だとよく言われる宇宙クラゲ図鑑でも渡したらどんな反応をするか興味があったが、苦手なモノをけし掛けるのはよくないため、あなたはぐっと我慢する。
それよりも戦闘あるいは危機的状況によってミサイルが使えるようになった事に注目すべきだろう。なるほど、つまり戦闘経験を積ませる事で彼女は再びサムス・アランとしての自分を取り戻せる可能性があるということだ。ならばそれは軍人であったあなたの分野であろう。
そんなこんなであなたはサムスを一から戦士に育てる事を新たに決心するのであった。
早くゴム毬のように跳ねるサムスさんが見たいですね。
~簡易登場人物紹介~
あなた
弱点:
ディフュージョンミサイル(最大チャージのみ)
プラズマビーム以上(最大チャージのみ)
パワーボム
サムス
ぽんこつクソ雑魚ナメクジ
ベビーメトロイド
記憶処理装置
~QAコーナー~
Q:主人公ってどんな奴なの?
A:銀河連邦軍のリドリー
Q:赤黒いプラズマビームはなんとなくわかるけど、赤黒いプラズマ刃ってどんなの?
A:シスのライトセーバー
Q:なんかこの主人公かなり強くない?
A:この小説で誰がラスボスになるか考えてみよう