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「…………(もっもっ)」
プリン騒動から数分後。
サムスはまだ無言でゆっくりプリンを食べており、あなたは空になったプリンのビーカーにベビーメトロイドを乗せて遊んでいた。
E.M.M.I.は渡されたアクセスコードでネットサーフィンでもする気なのかは不明だが、既にこの部屋には居ない。
ビーカーに半分乗っているベビーメトロイドを写真に撮りつつ、あなたはふと今回のそもそもの発端になった原因について考え、その解決策をサムスに提案した。
「なに? 名前を書いておく……?」
それはとても在り来たりな事だった。貼り紙を付けておくでも可である。
何人かで暮らすと、自分のものだと言うことを予め主張されていれば今回のような事故は起こらなかっただろう。
尤も、銀河連邦軍時代はそのような行為は意味をなさず、もっぱら早い者勝ちであり、個数を数えれるデザート等は乱闘に勝った奴が持って行っていたため、これでも随分平和的になったものである。
まあ、あなたほどの脳の作りをしているヒューマノイドが、サムスが取り置きしていたプリンだったことを知らずに食べると言うこと自体が奇妙な話であるが、それはあなたが語らないため闇の中に消えた。
「自分のものに名前を書くか……」
そう言いつつ、銀のデザートスプーンの先を少し咥え、天井の方を少し眺めたサムスは、何を思ったのか、一度自分の膝を眺めてからあなたに視線を戻す。
「ならどうして、私にはお前の名前がないんだ?」
その言葉を理解するのにあなたは十数秒掛かった。
更に意味を理解してからは半笑いとも微笑ましさとも違い、若干その場に居たたまれないようなぞわぞわする感覚を覚え、何とも言えない表情になる。
とりあえず、彼女の無垢な根っこの方を尊重しつつ、物品や食べ物にはという条件付けを彼女に教えるあなたなのであった。
◆◇◆◇◆◇
「なんだここは……?」
あなたが研究所区画の一室で、サンプルの整理と保全や機材の点検を行っていると、いつの間にか入って来たサムスが辺りを見渡す。
あなたがコンソールを操作すると、ガラス越しに隔離された円柱状の部屋の中心でロボットアームが起動し、ガラスの無い壁全面を埋め尽くす円形の保管容器が引っ張り出され、別の場所に移されている。
そんな光景を彼女はガラスに手を当てながら物珍しそうに眺めていた。
「食べ物か?」
サムスにとって食べ物はこれぐらい厳重で価値のあるものなのかもしれないが、生憎そうでない。それを告げると彼女は目に見えて落胆して見せる。
「違うのか……」
ここは食料保管庫でも細胞合成室でもなく、研究と保管を目的とした遺伝子研究室だ。
その名の通り、宇宙各地から集めた様々な生命体の遺伝子を保管し、研究を行うための区画であり、別区画の機械開発室や細胞合成室と繋がっているため、やろうと思えばクローンの生産や生体兵器の開発も可能ではある。
『
説明していると何やら警戒な音楽と、女性の合成音声が聞こえ、それが徐々に大きくなっていく事を感じた。どうやらあなたが造ったポンコツかも知れない探査機はまたいらない知識を吸収しているらしい。
しかし、部屋の中や廊下にいるような様子はないにも関わらず、金属を金属で絶え間なく突くようなロボット特有の歩行音だけが響いており、肝心な本体が何処にも見当たらず、あなたは首を傾げ――。
『
「――うッ!?」
たおやかな女性の合成音声で声を掛けられことで、あなたとサムスが反射的にそちらに視線を向けると、天井付近のダクトから真っ赤に輝く頭部コアを覗かせたE.M.M.I.の姿があった。
E.M.M.I.はそのまま、宙返りをするようにしつつ身体の前面と後面を入れ替えながら地面に着地し、二足歩行でこちらまで来る。
『マスター、生体兵器の使用は銀河連邦の定めた法律により厳格に禁じられております』
そして、いきなり真面目になったE.M.M.I.が言った内容は、あなたが入れた覚えのない情報のため、どうやら早速、一般市民用のアクセスコードを用いて情報収集をしているらしい。勤勉なようで何よりである。
しかし、それでは余りにも浅い。幾つか制約を守る必要はあるが、開発と所持は禁止されていないのだ。また、その使用も戦争及び侵略目的では及び
そうでなければあなたが開発した大型警備ロボットのB.O.X.などはコンピューターに生物の脳のクローンを用いているため、開発した時点で違法のはずだろう。
しかし、B.O.X.はあなたが開発した中では、安定性が高く運用も容易と銀河連邦から好評な施設防衛用ハードウェアであり、ハイエンド量産機としては年にそれなりの台数を銀河連邦に出荷しているロングセラー商品である。
「そうなのか。武装は何を積んでいるんだ?」
・焼夷爆弾
・シーカーミサイル
・ウェイブビーム
「何と戦わせる気なんだお前は……」
"絶対に警備ロボットじゃないだろ……"などと言いつつサムスはジト目であなたを眺め、あなたはそれにクツクツと笑い返すばかりだ。
実際のところその通りであり、逆に言えばB.O.X.は侵略兵器に転用出来るレベルの性能を持つ生体兵器である。しかし、法律上は民間企業に譲渡出来る程度でしかない。
そのため、前に言ったように銀河連邦から送られて来る納品した物品の現在の様子を記した定期報告書をあなたは読んでいないのである。読む意味がないからだ。
『なるほど、エミーは建前及び形骸化を覚えました』
それでいい。おお、素晴らしい。
そもそも宇宙に置ける法律とは、銀河連邦が作ったものであり、
それ故、銀河連邦とその連盟国に主だった利益を生み、それ以外が不利益を被るものであることにはなんの疑問もないだろう。また、更に言えば銀河連邦軍が相対する敵とは、スペースパイレーツや侵略種族などの非知的生物や、銀河連邦に対する反乱分子が主だ。
そのため、
そして、支配の本質とはすなわち、他を寄せ付けない圧倒的かつ絶対の力の象徴であること――"力こそ全て"なのだ。
『ならエミーにスクリューアタックをください』
何がならなのかわからないが、とりあえずろくなことにならなそうなので却下しておいた。あなたとしても力と危機管理は全く別の話である。
「ふむ……そう言う割にはメトロイドや生体兵器やクローンなどをお前は使わないのだな」
生体兵器やクローンに関しては、客観的に見れば倫理観から
メトロイドやそれに類する程の力だったフェイゾンに関しては、余りに過ぎた力は身を滅ぼす事にしかならない。仮に惑星を破壊出来る兵器を人民全てが持つ星があれば、その星は1日も持たないだろう。かと言って、1人に力を集約すればそれが何らかの理由で倒れた時に余りにも無力過ぎる。
確かに強大な力を持つあなたではあるが、惑星ゼーベスではメトロイドに屈し、惑星ファイザではフェイゾンに汚染されて死に掛けている。更に宇宙を探せば、あなたを簡単に殺し切れるモノなど他に幾らでもあるだろう。その度に右往左往しているようでは、個人の力など高が知れている。
故に力とは全てであると同時に、全く無意味なものでもあるのだ。
……とまあ、随分話が脱線した事にあなたは詫びを入れる。誰もあなたが銀河連邦軍で掲げていた思想に興味はないであろう。
話を戻すと、遺伝子研究室をこうして設けている理由だが、何故かあなたは銀河連邦の行き過ぎた推進派や一部の過激派に神仏の如く信奉されており、そう言った連中が、学会発表か何かの如く遺伝子サンプルや設計図を賛辞の言葉と共に送り付けてくるのだ。
既に銀河連邦を抜けて尚、未だに続いているのだから始末に負えないだろう。新手の嫌がらせか何かなのだろうか。
『あっ……ふーん』
「慕われているんだな……?」
『――――♪』
彼らから送られて来た物の一例を見せるためにあなたがコンソールを操作していると、ちょうど部屋に今日の脱走をしているベビーメトロイドがふわふわと入ってくる。
背を向けているため気付いていないサムスと、ベビーメトロイドが部屋に入ってから首を160度ほど縦に後ろに倒しつつE.M.M.I.は凝視しているが特に止める気はないらしい。
"おいでおいで"
『――?』
「――!?」
あなたがベビーメトロイドにテレパシーを送ると、サムスの頭上を通過してあなたの肩に乗る。
ベビーメトロイドの笠を指で撫でつつ、どうせならこれに纏わる遺伝子を例に出そうと考えたあなたは――"ボトルシップ"と入力してから更に追加入力を行った。
そして、ロボットアームが暫く作業を行うと、2つのDNA保管容器が取り出され、それぞれの容器に貼られたラベルをサムスが読み上げる。
「"冷気耐性メトロイド"と、"クイーンメトロイド"……?」
今はもう存在しないが、ボトルシップという名の辺境のコロニーで、メトロイドやスペースパイレーツを使った生体兵器の研究をしていた銀河連邦軍の過激派からあなたに送られて来たメトロイドのDNAである。
興味が湧かないあるいは食指が動かなかったため、今の今までこうして保管されていたのだ。
まあ、他にもリトルバードと仮称されていた可愛らしい生き物のDNAも送られて来たため、癒し目的に合成したらとんでもないことになったり、ボトルシップから来たDNAは色々と面白かったが、とりあえずこれらが特に分かりやすい見本だろう。
「メトロイドめ……」
相変わらず何故かサムスは、メトロイドのDNAが詰まった容器を親の仇のように睨む。
それから暫くサムスとE.M.M.I.に後ろから作業を覗かれるあなたであった。
◇◇◇
『――♪ ――♪』
サムスとE.M.M.I.がそれぞれ別の事柄に興味を示して何処かへ行った頃。
遺伝子研究室ではあなたと、いつの間にかあなたの頭の上に移動して寝返りを打つようにくるくると回っているベビーメトロイドだけが残されていた。
作業が一段落したあなたは、このベビーメトロイドが全く成長しない理由を幾度となく考えたが、どうにもそのように生体調整が成されているとしか思えない。
しかし、何が進化のトリガーになるのかを遺伝子情報だけで判定する事は、新たにこのベビーメトロイドのクローンを作成しての追加実験が必要なため、出来る範囲での事しか行っていなかった。
そして、ふと今日取り出した冷気耐性メトロイドと、クイーンメトロイドのDNAの事を思い出す。
さて、遺伝子の操作を悪か善かで言えば自然の摂理には反する事だろう。
しかし、例えばスペースパイレーツの代表であるゼーベス星人は、色によって個体差があるが、あれは別に生まれついてのものではなく、惑星の環境に適応するための生体調整や、戦闘力を引き上げるための遺伝子改造によるものである。
また、サムス・アランは惑星ゼーベスの過酷な環境に適応するために鳥人族のDNAを後天的に組み込まれており、そう言った事例は決して少なくはなく星々で行われている事だ。
『――――?』
あなたは自分を納得させ、頭上のベビーメトロイドを摘まみ上げると、近くにある小型生物用の遺伝子合成機のガラス菅にベビーメトロイドをそっと入れて蓋を閉めた。
そして、保管室に戻した冷気耐性メトロイドと、クイーンメトロイドのDNAの識別番号をコンソールに打ち込むと、ロボットアームが直接遺伝子合成機に2つのDNAをセットする。
そのまま、あなたが遺伝子合成機を操作すると、ガラス菅の中身が液体で満たされ、機材の低い稼働音ばかりが暫く響き渡った。
『――…………Zzz』
その時点で直ぐにベビーメトロイドは眠りに落ちる。このまま、1~2時間もすれば遺伝子改造は完了するだろう。
あなたは愛着を覚えた対象をとても可愛がる質である。記憶喪失のサムスが銀河連邦に渡らないように匿っている理由の半分はそれであり、E.M.M.I.を無駄に強固に造った理由の半分もそれである。
そのため、いつの間にかペットになっていたこの目に入れても痛くないベビーメトロイドが、立派なメトロイドになる事を夢想するのであった。
~簡易登場人物紹介~
あなた
元銀河連邦軍過激派最大勢力の長(無自覚)
サムス
よく艦内で迷子になる
ベビーメトロイド
スーパーメトロイド
エミー
よく艦内で迷子を見付ける