どうも、作者です。
今回から個別:百鬼ルートに入ります。
以上。
個別:百鬼 1
幾つもの小さな光に埋め尽くされた夜空が霞んでしまう程に無数の提灯に照らされてた街並みを一人歩く。
辺りでは街の住人の笑い声が、話し声が響き渡っており、その誰もが笑顔の花を咲かせている。
キョウノミヤコのセイヤ祭。
年に一度のこの祭りは、なるほど、街の規模に負けず劣らずの盛り上がりを見せていた。
『お兄ちゃんは誰かと踊らないの?』
そんな街並みを眺めながら、ふと先ほどのトウヤ君の言葉を思い出す。
誰と踊る。急に問われて思わず答えに詰まってしまった。
というのも、この祭りでは後夜祭にて踊りの時間があり、共に踊った二人は結ばれるというジンクスがあるらしい。
別にジンクスを丸のみにしたわけでは無い。けれど、俺が誘えるとしたらシラカミ神社の三人くらいのものだ。ただ、俺があの三人の誰かに気があるかと言われれば、はっきりと答えを出すことはできない。
恐らく、このカクリヨにおいて踊りに誘うとはそういった意味合いを少なからず含む筈だ。
だが、俺は今の関係を心地良いと思っている。わざわざ、自ら変に意識するようにならずとも良いだろう。
考えすぎている自覚はある、けれど、それだけ現状を気に入っているのだ。
「透さーん。」
不意に呼びかけられて振り返れば、そこには両手いっぱいに袋を引っ提げてこちらに手を振る白い狐の少女。
視線が合えば、彼女は小走りでこちらへと駆け寄ってくる。
「白上、また大漁だな。」
「はい、セイヤ祭の屋台を回るにはこのくらいのペースじゃないと間に合わないので。」
余程楽しみにしていたのだろう、さもご満悦といった様に白上の頬は高揚している。
すると、白上は唐突に何かを思いついたようにポンと手を打った。
「そうだ、良かったら透さんも一緒に回りませんか?」
「俺も?」
そう問われてまず白上の顔を見て、次に彼女の持つ荷物に目をやる。
屋台巡りとはあれだ、屋台を見て回るのではなくその全てを食べて回るという事だ。
そしてキョウノミヤコ全体ともなると、その量は計り知れない。
「…あー悪い、白上。
今回は遠慮しとく。」
「そうですか…残念ですけど仕方ありませんね。」
心苦しい中断ると、しょんぼりとしたように白い耳を垂れさせる彼女に罪悪感を覚えなくはないが、しかし、大事なのは明日の我が身である。
「そう言えば、あの二人はどうしたんだ?」
ふと気になって問いかけてみる。
見た所一緒にはいない様だが、何をしてるのだろうか。
「ミオとあやめちゃんですか?
ミオならさっきあちらの方に居ましたけど…あやめちゃんは見てませんね。」
もしかしてと思い聞いてみたが、百鬼の行方は白上も知らないらしい。
「そっか、ありがとな。」
「いえいえ、それでは白上は新たな地へと旅立ちますので、これで。」
「あぁ、健闘を祈る。」
意味も無く敬礼をして、同じく敬礼をする白上を見送る。
彼女の戦いはこれからが本番なのだろう。
何をしようか決めてなかったこともあり取り合えず大神にでも会いに行こうと思い、白上から聞いた場所へと足を向ける。
相変わらず人は多いが、後夜祭に向けてかキョウノミヤコの中央へと向かう流れが出来ており、幾分かは歩きやすくなっていた。
少しの間辺りを見渡していれば、何処か見覚えのあるシルエットを屋台の中に見つける。
黒い獣耳に、占いとでかでかと書かれた看板。ここまでくればもはや確定だろう。
「いらっしゃいませー。
って、透君だ。どうしたの、占い?」
屋台へとやってきた俺の姿を見て目を丸くしているのは、黒い狼の少女だ。
「あぁ、ちょっと気になってな。
というか、大神はいつの間に屋台の準備なんてしてたんだよ。」
一応彼女も先ほどまでは共に調査を行っていた筈で、あれからそこまで時間は経っていないのだが目の前には立派な占い屋が広がっている。
「実はお昼からやっててね、ここには夕方くらいから場所を移してたの。」
「そうだったのか、通りで…。」
昼に別れてからは百鬼と一緒にいて大神の姿は見ていなかった、何をしてたのかと思えば今の様に占いをしていたらしい。
大神らしいと言えば、大神らしい。
「それで、何を占う?
透君が相手ならちょっと気合入れてちゃうよ。」
「占いに気合って似合わないな…。
んー…それじゃあ…。」
ぐいと腕まくりをして見せる大神に苦笑いを浮かべつつ、思考を巡らせる。
そう言えば、まだ何を占うか決めていなかった。
特段気になるという事も無いし、探し物がある訳でも無い。
確かに百鬼が今何をしているのかは気になるが、わざわざ占う事でもないだろう。
「そうだな、今から何処に行くべきか占ってくれ。
どうせ行くなら、運気の良い場所に行きたいだろ?」
丁度行先にも迷っていたし、これが丁度良いだろう。
「あ、それ良いね。行先。
じゃあ、占うよ。」
そう言って、大神は水晶玉を作り出してそれに手を当てる。
数瞬、淡く輝いた水晶玉の光に包まれるが、それもすぐに収まった。
閉じていた瞳をゆっくりと開けば、大神は厳かに口を開く。
「透君が今から行った方が良い場所は…。」
大神に勧められた場所へと足を向けてから少し経過して、ようやくたどり着いた場所はしかし、先ほどと同じような街並みで、それこそ屋台の種類などは違うがそれ以外は特段違ったものの見られない、普通の祭りの景色が広がっていた。
「…本当にここで合ってるのか?」
辺りに見知った顔がある訳でも無ければ、何かしらのイベントがある訳でも無い。
不安になり一応大神にメモして貰った場所と現在地を照らし合わせてみるが、やはりここで間違いは無いらしい。
「まぁ、とりあえずはこの辺でぶらついてるか。」
もしかするとまだ先に何かあるのかもしれない。
大神の占いを信じていない訳でないが、何か良いことがあれば儲けもの程度の認識で辺りを歩く。
とはいえ祭りというのも不思議なもので、ただ歩いているだけでもこれが結構楽しいものなのだ。
ここが一番歩きやすい場所、という線もありそうだな。
そんなことを思っていた折、不意に路地裏から影が飛び出してきた。
「おっと。」
そのままこちらに突っ込んできたため、咄嗟に受け止めてみる。
その余りに軽い感触に驚きつつ影へと視線を落としてみれば、予想外の見覚えのある顔。
「あれ、ケンジ君?」
「すみません…って、にいちゃん?」
視線の先には今日の昼、百鬼と一緒に遊んでいた子供の中の一人であるケンジ君が驚いたようにその目を丸くしてこちらを見ていた。
彼もキョウノミヤコの住人なのだからここに居ても不思議はないが、何という偶然…。
そこまで考えて、一つの予想が頭に浮かび上がる。
(もしかして、ケンジ君の事か…?)
俺がこの場所に来たのは、大神の占いの結果だ。
するとこれは偶然ではなく、占いの指示した必然であるのかもしれない。ただ、ケンジ君と会うことで何が起こるのか、その疑問だけは残る。
そのケンジ君は俺の姿を確認するなりきょろきょろと周りに視線を巡らせて、おかしいと言わんばかりに首を傾げていた。
「なぁにいちゃん、鬼のねぇちゃんは?
一緒にいるんだろ?」
すると不思議そうにこちらを見ながら、ケンジ君はそんな予想外の問いを投げかけてくる。
鬼のねぇちゃん、とは百鬼の事だろう。
「え、百鬼?
いや、別行動だけど…。」
「…はぁ。」
これには虚を突かれて少しだけ動揺する。
何故そんな質問をするのだろうと思いながらもそう素直に答えるも、しかしケンジ君は呆れたようにそっとため息を付いた。
まさかの反応に疑問を深めていると、ケンジ君はその瞳にまでも呆れを浮かべながら言葉を続ける。
「ったく、にいちゃん、恋人なら踊りに誘ってやるくらいしてやれよ。
これじゃあねぇちゃんが可哀そうだ。」
「待て待て待て、別に俺と百鬼は恋人同士じゃないって。」
何か話がかみ合わないと思っていたが、どうやらそんな勘違いをしていたらしい。確かに恋人同士なら共に踊ることも多いのだろうが、生憎とそれは俺と百鬼には当てはまらない。
慌ててそれを否定すれば、今度はケンジ君が虚を突かれたようにぽかんとその口を開けた。
「え?でも、昼はあんなに仲良さそうにしてたのに。」
ケンジ君は心底意外そうにこちらへ視線を送っている。
そう言えば、昼におままごとで夫婦役をやっていたのだった。もしかすると、それで変に勘違いをしてしまっていたのかもしれない。
「まぁ、仲が良いのは認めるが…。あくまで友人としてだ。」
百鬼のことは好ましく思っている。けれどそれが恋心かと問われると否と答える他ない。
それは百鬼とて同じことだろう。
「そっか…、お似合いなのにな…。」
「あー…、そうなら嬉しいな。」
残念そうに言ってくるケンジ君に、どんな表情を浮かべればよいの分からず結果的には苦笑いという形で落ち着いた。
先ほどの自らの中での問いかけを掘り返されたようで、どうにもやりづらい。
「そう言うケンジ君こそ一人なのか?
ほら、昼の友達とかといっしょだったり。」
話題を変えて、今度はケンジ君に対して質問をしてみる。
一応祭りの夜なのだが、彼は何故か一人でこんな場所にいる。出歩くにしても友人と共に居るなら分かるが、一人でとなると話が変わってくる。
それを聞いたケンジ君は、一瞬だけその顔に影を落とした。
「んー…、そうだよ。
それに、昼の奴らは別に友達って訳じゃないんだ。」
友達では無い。
てっきり常日頃からの仲だと考えていた折にそんなカミングアウトをされて、思わず言葉に詰まってしまう。
「セイヤ祭って当日は親が忙しい子供がよく集まるんだよ。
あの場に集まってたのは、そういう奴ら。」
「…成程な、それで年齢もバラバラだったのか。」
親からしてみれば一つの集団に纏まってくれている方が安心するだろうし、子供達も遊び相手が出来る。
そんな仕組みがキョウノミヤコには存在するようだ。
あの場ではケンジ君がそのまとめ役だったという事だろう。しかし、それが分かると尚のこと彼がここにいる理由が分からなくなる。
「ならさ、ケンジ君は今まで何してたんだ?」
「おれ?」
その疑問を口に出してみれば、ケンジ君はふと考え込む様に視線を宙に彷徨わせた。
何処か答えに悩むようなその素振りに、早まったことを聞いたかと後悔の念が胸中に浮かぶ。しかし、その意に反してケンジ君はぱっと悪戯に笑った。
「…普通におつかい。
足りないものがあったみたいでさ。」
驚いた?と、言わんばかりのその笑みに完全にしてやられたことを察した。それと同時に詰まっていた息を吐きだす。
「脅かさないでくれよ…。」
「へへっ、だってにいちゃん分かり易いんだもん。」
悪戯に成功した子供の様に、実際その通りなのだが、ケンジ君は楽しそうに笑っていた。
この年の子にまでも分かり易いと言われてしまうとは、何とも言い難い敗北感にも似たものを感じる。
「じゃあ、おれはもう行かないとだから。」
そう言ってケンジ君は手を振りながらたっと駆けだす。
「あぁ、気を付けてな。」
先ほどの様に誰かとぶつかっては事だとそれだけ注意すれば、「分かってる!」と元気な返事が返ってくる。
本当に分かっているのか不安になるが、まぁ、大丈夫だろう。
「あ、そうだ!」
遠ざかるケンジ君の背を見送っていれば、不意に彼は立ち止まりこちらへと振り返ると、大きくその口を開けた。
「にいちゃん、あっちの方に高台があるんだ!
多分、そこにねぇちゃんもいると思う!」
それだけ言い残して、今度こそケンジ君は人込みの中へと消えていった。
そして、最後に伝えられた百鬼の居場所。
意図せず知ることが出来てしまったそれに、しばらく呆然とその場に立ちすくむ。
「…行けって事なのかな。」
ケンジ君が指さしていた方向へと目を向けて見れば、微かに高台らしきものが見て取れる。
普段であれば行くことの無い場所、言われてようやく、あの場所に高台があると認識できた。
どうせやることも無いのだ。
百鬼がいるかは分からないが、恐らくあそこは見晴らしが良いだろう。
そんな期待を胸に、俺は高台のある方向へと足を向けた。
かなり入り組んだ道をただ高台を目指して歩き続けてしばらく、ようやくといった形で目的地へと俺はたどり着いた。
そしてたどり着いた先で見つけた、赤い鬼の少女の姿。
「百鬼。」
名を呼べば、ゆっくりと彼女は振り返りその紅の瞳をこちらへと向ける。
こんな場所に人が来るとは思っていなかったのかその表情は驚愕に満ちていて、けれど相手が誰であるか確認すると、華やかに、彼女は微笑んで見せた。
「…透くんも、ケンジくんに教えて貰ったの?」
「あぁ、もってことは、百鬼もそうなんだな。」
何故ケンジ君が百鬼の居場所を知っていたのか合点がいった。
ケンジ君は百鬼に既にこの場所の事を教えていて、その後に俺にもこの場所を教えたのだ。
「隣良いか?」
「良いよ。
多分、驚くと思う。」
快諾して、にやりと笑う百鬼の声は何処か確信に満ちていた。
それほどまでに良い景色なのかと期待に胸を膨らませながら彼女の横へと並んび、その先へと視線を向け
て。
その瞬間、飛び込んできた光景に息が止まった。
一望されたのは夜の闇を切り払うかの如く煌々と輝く街並み。
光は街の端から中央へと続く街道に沿って放たれており、複雑に入り組んだそれは様々な装飾に彩られて、まるで一枚の絵画のようだった。
その余りの美しさに思わず絶句し、呆然と見入ってしまう。
「すごいよね。
余も最初見た時びっくりしたもん。」
「確かに…これは壮観だな。」
話をしながらも、目の前の光景から目を離すことは出来ない程に魅入られていた。
しばらくの間、そうやって二人で街を眺めながら時を過ごす。
会話は無かった。
だが不思議と、その静寂に居心地の悪さは感じなかった。
「なぁ、百鬼は何時からここにいたんだ?」
ふと思い浮かんだ疑問を口にしてみる。
静寂を壊そうと思ったわけでは無い。これで答えが無くても、別に良いと思えた。
しかし、思いの他百鬼はしっかりと答えを返してくれた。
「えっと…、みんなと別れてからすぐにケンジ君に聞いてね。
それからずっとここに居たの。」
「あー、通りで百鬼だけ見当たらない訳だ。」
一応それなりに歩き回って、白上にも人伝いではあるが大神にも出会うことは出来た。
しかし、唯一百鬼だけが見つからなかったのだが、今にして思えば、ここに居たのでは見つけようも無かった。
「じゃあ、フブキちゃんとミオちゃんには会って来たの?」
「そうなるな。
白上は屋台巡りをしてて、大神は占い屋をやってた。」
二人とも、揃って祭りを満喫しているようで、俺も見習いたいものだ。
…まぁ、若干一名真似したくても真似できない狐がいるのだが。
「ふーん、そうなんだ。」
苦笑いを浮かべて話していれば、横合いからそんな拗ねたような百鬼の声が飛んでくる。
「…ん、あれ、百鬼?」
何事かと横へと視線を映してみれば、そこにはぷくりとその頬を膨らませている鬼の姿があった。
「透くん、二人の事は見つけたのに、余の事は見つけてくれなかったんだ。」
「いやいや、ここに居るなんて普通分かるわけないだろ。
それに今こうして一緒にいるし。」
よよよっ、とわざとらしい泣き真似をする百鬼に完全に揶揄われていると理解する。
自ら見つからない場所に行って見つけてくれないと拗ねるとは、中々理不尽な話だ。
そうだった、百鬼は偶にこうして揶揄ってくるのだった。
「最近、悪戯は無かったから安心してたんだがな…。」
「確かに、準備とかで忙しかったもんね。」
現実逃避気味にぼやくが、百鬼は当然の様にそれに肯定してくる。
彼女こそが諸悪の根源なのだが、一体どの口が言っているのだろう。ジトリと視線を送ってみるも、さらりと受け流された。
一時期はそれこそ毎晩の様にひっかけられたものだ、しかも毎回手口を変えてくるのだから尚性質が悪い。
「確か鬼火と、後シキガミも使ってるんだっけ。」
「うん。
まだまだ透くんに見せてないのもあるから、楽しみにしててね。」
百鬼の顔に浮かんでいる可憐な笑みとは裏腹に、宣言されたその内容は全然楽しみだとは思えなかった。
彼女の悪戯は驚かせることに特化していることが多いのだが、その手口の多様性にどう対策してもその裏をかかれてしまい、結果術中に嵌ってしまう。
「バリエーションが豊富過ぎるんだよな。
百鬼、シキガミを何体使役してるんだよ。」
それを支えているのが、シキガミの種類だ。性質の異なるシキガミを組み合わせて、彼女は幾つもの罠を張り巡らせている。
現在確認しているだけでも相当の数になりそうだが、正確な数値は知っておきたかった。
「シキガミの数…。
えっと、いーち、じゅーう、ひゃー…。」
「待て待て、桁の上がりが早い。」
指を折りながら数えていくものだから一つずつ数えていく、せめて十単位で数えていくのかと思えば予想の斜め上を行く数え方に、思わず待ったをかける。
しかし特に気にした様子も無く、百鬼は顎に指をあてて再び口を開いた。
「うーん、でも千は行かないと思う。」
「それであの数え方って、ざっくりし過ぎだろ。」
これでは百で終わってしまう。先ほどは止める必要は無かったらしい。
だがそれほどまでに多くの種類のシキガミを使役している彼女だが、一つだけ重大な欠点というか、問題が存在していて。
「…なんでそれだけ居て揃って戦闘用のシキガミなんろうな。
その辺り百鬼って脳筋だ…。」
どうにも祭りの雰囲気にあてられていたのか、今日は口が滑りやすくなっているらしい。
慌てて自らの口を手で塞ぐが、後の祭り。
「透くん、今なんて?」
「す、すみませんでした。」
横から放たれる可視化するほどの殺気に震え声で秒で謝罪する。
お忘れかもしれないが、彼女と俺の力の差は天と地と言っても良いレベルだ。そんな彼女に逆らうことは、つまり自らの命を放り投げる行為と同等である。
「余の事いつも言うけど、透くんだって意地悪な事多いと思うんですけどね。」
「そうか?
じゃあ、お互い様って事で。」
息も荒く、余は怒ってます、と聞こえんばかりの声音で抗議してくる百鬼に、しかしそういう事ならと態度を改めれば、破れそうな程に頬を膨らませた彼女はそっぽを向いてしまった。
少しやりすぎたな。
「悪かったよ、百鬼。
この通りだ。」
「つーん。
透くんの事なんて知らないよだ。」
「余だけに?」
何とか許しを得ようと拝み倒していた所で、我慢しきれずについぼそりと呟いてしまった。それを聞いた百鬼の体が一瞬硬直する。
意図していることに気が付いたようだ、しかし一度気付いてしまえばそれはボディブローのようにじわじわと効いてくる。
何とか堪えようとするがそれも束の間、やがて決壊するように二人同時に噴き出した。
くすくすとした笑い声がその場に響く。
ひとしきり笑い終えた所で顔を上げた百鬼の眦には一粒の涙が浮かんでいた。
「もう…、馬鹿。」
「あぁ、そうだな。」
本当に、馬鹿馬鹿しいことで笑ってしまった。
そう続けようとしたところで、俺と百鬼は共に横から眩い光に照らされた。
続いて聞こえてきたのは腹に響くような炸裂音に、揃ってそちらへと目を向ければ、暗い夜空に色とりどりの花が咲き誇っていた。
「綺麗…。」
微かに聞こえてくる百鬼の声。
彼女の大きく見開いたその瞳は彩られた夜空を映しだしていた。
「あぁ、本当に綺麗だ。」
咲いては散って、散っては咲いて。
空を埋め尽くさんとばかりに、大きく、大きく咲くそれは、散るが故の儚さと美しさを持ち合わせた、綺麗な花火だった。
「…この瞬間が、永遠に続いたら良いのに。」
ぽつりと零した百鬼の表情の中に、ふと夜空に咲く花火に似た儚さが見えた。
思わず口を開きかけて、けれど形にならずそのまま閉じる。
何処か寂し気に見える彼女に掛ける言葉を、今の俺は持ち合わせていなかった。
口を閉じたまま、空に咲き続ける花を、散りゆく花を、鬼の少女と共にただ見つめ続けた。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。