どうも、作者です。
百鬼ルート2話目。
誤字報告、感謝。
以上。
「え、百鬼、今日からしばらく鍛錬出来ないのか?」
シラカミ神社の境内。まだ空も明るさを取り戻しておらず朝日を迎え入れる準備をしている頃。
何時ものように鍛錬をしようとしていた所にやってきた百鬼から唐突に鍛錬には参加できないと告げられて、思わず瞠目し聞き返す。
「うん、昨日は伝えそびれちゃったけど。
キョウノミヤコに用事が出来て…。」
余忘れてた、と百鬼はバツが悪そうに頬をかいた。
「ごめん、透くん。」
そう言って申し訳なさそうに手を合わせる彼女とは対照的に、俺は呆然としてその場に立ちすくんでいた。
また日常が戻ってくると何処か安心感にも似た感情があったのもある、しかし、それ以上に俺が今まで鍛錬を続けることが出来ていたのは、一重に百鬼の存在が大きかった。
今でこそ鍛錬は日常の一部となっているが、その楽しさを教えてくれたのは彼女だ。
少なくとも俺一人ではここまで続けることは出来ていなかったかもしれない。
だからこそそんな彼女との鍛錬が無くなるともなれば、少なからず残念には思う。
「そっか、まぁ用事なら仕方ないよな…。」
とはいえ、彼女も用事があるというのなら無理に引き留めることも出来ない。今日からは一人で鍛錬をする他ないだろう。
しかし、そうなると鍛錬の内容をどうするか考えなくてはならなくなる。
「それで…なんだけどさ。」
一人でどんな鍛錬が出来るかと頭を悩ませていると、不意に百鬼はそう言葉を続けた。
百鬼はその視線をこちらに真っ直ぐと向けて、言い淀む様に一瞬唇を噛むと、何処か緊張した面持ちで再度口を開く。
「もし良かったら。
透くんも、余と一緒に来てほしい。」
「…俺も?」
真剣な眼差しを向けてくる百鬼に自分を指さして確認するように問いかければ、彼女はこくりと頷いて見せる。
百鬼のその用事と俺が一緒に行くことに何か繋がりでもあるのだろうか。
そんな疑問が頭を駆け巡るが、けれど改めて考えてみればそれを確かめるという意味でも、一緒に行く事も有りだと考える自分もいる。
「分かった、百鬼に付き合うよ。」
そもそも断る理由自体存在しない。
軽く了承すれば、百鬼はほっとしたようにその表情を緩めた。
「良かったー、断られたらどうしようかと思ってた。」
「断らないって。
セイヤ祭も終わって、やることも無くなってたしな。」
祭りの後の虚脱感とでも言えば良いのだろうか。自分の中でもどこか気の抜けている側面はある。今日の鍛錬ではそれを引き締めようと思っていたが、他にやることがあるのなら自然と引き締まるというものだ。
「それで、キョウノミヤコには何をしに行くんだ?」
話も纏まった所で、先ほどから気になっていた用事とやらの無いようを訪ねてみる。
場所がキョウノミヤコという事もあり、危険なものでは無いとは思うが、かといって見当がつくかと言われれば何も思い浮かばない。
すると、百鬼も勿体ぶる様子は無いようで、すぐにその口を開いた。
「えっとね…。」
「…なぁ、本当にこの辺りなのか?」
「その筈なんだけど…。あれ?」
場所はキョウノミヤコ。
とある通りを歩きながら首を傾げる百鬼に、沸き上がってくる不安から思わず苦笑いが浮かんだ。
待ち合わせの場所であると百鬼から聞いた地点には既にたどり着いているはずだが、辺りにそれらしい人影はない。
「えっと…、おかしいな。」
そう言ってきょろきょろと目印でも探すように百鬼は視線を巡らせる。
そんな彼女の姿を見てその動揺ぶりに何処か可笑しさを覚えつつ、そういう事ならキョウノミヤコの地図でも手に入れておけば良かったと遅い後悔を胸に抱きながら、同様に目的の人物を探す。
「あっ、透くん、こっち!」
「お、見つけたのか。」
気が付いたように声を上げる百鬼に手を引かれて進んだ先にようやく見えた目的の人物であるケンジ君が、噴水の淵に座ったまま驚いた様子で呆然とこちらを見つめていた。
「ねぇちゃん、本当に来たんだ…。
それと…。」
ケンジ君はまず百鬼に視線を向けて、そしてこちらへと視線を移すと見開いていた目をさらに大きく見開いて、言葉を失ったように口を開閉する。
「だって約束したもん。
それとね、透くんにも声を掛けてみたんだよ。」
「あぁ、百鬼から聞いてな。
…もしかして迷惑だったか?」
その余りの驚き様に若干自分が来たのは間違いだったかという不安に駆られるが、意に反して、ケンジ君はぶんぶんと即座にその首を横に振って迷惑ではないと否定してくれる。
「そんなことない、けど、にぃちゃんまで来るとは思ってなかったから、驚いて。」
「そうか?
なら、来て良かった。」
最悪の事態は避けられたようで、ほっと胸を撫で下ろす。
危ない、これで正面から迷惑と言われていたら三日は寝込むところであった。
しかし、昨夜会った時は普通にしていたのに今更何をそんなに驚いているのだろうか。普通に想定外であったのならそこまでだが。
とはいえ、気にしていても仕方がないか。
今日の目的はまだまだこれからなのだから。
「よーし、じゃあ、早速遊びに行こう!」
「「おー!」」
喜色満面の笑みで高らかに声を上げる百鬼に同調して、俺とケンジ君も揃って雲一つなく晴れ渡る空に向かって拳を上げる。
こうして、キョウノミヤコでの一日が始まりを告げた。
「なぁなぁ、にぃちゃん。」
「ん?」
通りを三人で歩いていると、幾分か驚きも抜けていつもの調子を取り戻してきたのか、ケンジ君がこそこそと百鬼には聞こえないような声量で声を掛けてくる。
「昨日さ、どうだった?ねぇちゃんと踊った?」
唐突にそう問われて思わずケンジ君の顔を見れば、そこには何処か期待したような笑みが浮かんでいた。そう言えば昨夜も踊りに誘えば良いのにとは言っていた気がする。
やはり、カクリヨにおいて話題の種とでもいうべきか、周辺にとってもイベントの一種なのだろう。
しかし、結果としては御生憎だ。
「残念ながら、一緒に花火見て終わったよ。」
「えー…、そこまで行ったら踊れよな…。」
花火を見た後も特にそれらしいことは無かった。それを聞いたケンジ君は面白くなさそうにその顔を露骨にしかめた。
こちらとしては何もなかったからと言って特に思う所は無いのだが、どうもケンジ君からするとそうもいかないらしい。
「何の話してるの?」
横でこそこそと話していれば気にもなるだろう。
ケンジくんの隣を歩く百鬼がそう興味深げに目を輝かせて問いかけてくる。
「ん?あぁ、いや、特には…。」
「にぃちゃんとねぇちゃんが昨日踊らなかったって話。」
聞かせるような話でも無いかと適当にお茶を濁そうとするも、しかし、それはそっぽを向くケンジ君の手によって阻まれ、冷や汗が額に浮かぶ。
一瞬言葉を上手く呑み込めないようにぽかんとその口を開ける百鬼だったが、すぐに処理が追いついたのかその頬に徐々に朱が差し込んでいく。
「踊るって…、その、ジンクスの?」
「そうそう、お似合いなんだから踊ればよかったのにさ。」
片言で確認する百鬼に対して、ケンジ君は容赦なく爆弾を投下していった。しかし、それは俺も巻き添えとする広範囲に及んでいる。
例え恋愛感情は無かろうと、そう言った話題の対象にされれば照れもする。
ぽんと音が聞こえてくるほどに急速にその顔を瞳と同じ紅に染めた百鬼は何処か挙動不審となっていた。
「え、えーっと、そうだ!
あっちに美味しいお団子の屋台があるんだって!」
「団子か良いな!なら早速行ってみるか!」
やや強引に話題を逸らす百鬼だが、この話が続いて欲しくないのはこちらも同じだ。直ぐにそれに続き、話の流れを断ち切る。
早く行こう、すぐ行こうと素早く方向転換をするそんな俺と百鬼の姿を見て、ケンジ君はジトリとした視線をむけ、ため息を一つ溢した。
「はぁ…、まだまだ先になりそう…。」
「…ん?
ケンジ君、どうかしたか?」
ふと、立ち止まっているケンジ君に足を止めて声を掛ける。
「ううん、何でも…。」
答えながら顔を上げたケンジ君だったが、しかし、こちらへと視線を移すと同時にその言葉は途切れてしまった。
呆けた様子で無言のまま目を見開くそんなケンジ君の様子に、百鬼と二人揃って首を傾げる。
「何でもない。
それよりねぇちゃん、そこってどんな団子がある?」
そう言って駆け寄ってくるケンジ君の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「えっとね確か…草団子がおすすめだったはず。
後はゴマ団子と、みたらし団子とか!」
「あ、みたらし団子。
おれ食べてみたい。」
「俺はゴマ団子かな…今から楽しみだ。」
団子と一概に言ってもかなりの種類がある。
あれはどうだろう、これも良いかもしれななど、話題も尽きぬままに青空の下を三人で歩いた。
百鬼の案内でしばらく歩いていれば、視線の先にそれらしき建物が見えてきた。
『だんご』とでかでかと書かれた看板をひっさげたその茶屋は煌びやかとは言えないが年季を感じさせている。
「ここね、フブキちゃんに教えて貰ったんだけどすごく美味しいらしいよ。」
「へぇ、白上のおすすめなら期待できるな。」
この辺りを拠点としている白上ならキョウノミヤコにある茶屋をすべて網羅していてもおかしくはない。そんな彼女がおすすめというのなら間違いは無いだろう。
「にぃちゃん、ねぇちゃん、早く入ろう!」
いつの間にか入り口の前まで進んでいたケンジ君にテンション高い声でそう催促されて、思わず百鬼と顏を見合わせ、同時に笑みを浮かべる。
先ほどから妙にはしゃいでいる様に見えるのは気のせいではないだろう。
「…良かった、楽しんでくれてるみたい…。」
そんなケンジ君を見てぽつりと呟かれた百鬼の声は安堵したように穏やかだった。
店内は予想に比べて空いている、と考えた所でそう言えばまだ昼には遠い時間帯であることを思い出す。これでは朝食といった方がしっくりと来る程だ。
取り合えず席だけ確保しておいて、早速団子を頼むことにする。
店主らしき老人が出てきて各々自らの食べる団子を伝えれば、老人は奥へと戻っていき、けれどすぐにその手に人数分の団子とお茶の乗った盆を手に戻ってくる。
「あ、…ありがとうございます。」
差し出されたので普通に盆を受け取ると、軽く会釈だけして老人は再び奥へと戻って行った。
その動作があまりに自然で、思わず呆然とその場に突っ立ってしまう。
「…なぁ、あの人アヤカシか?それともカミ?」
自らの手の内にある盆を見下ろして呟く。
今の時間、団子を焼く時間はおろか茶を急須から湯呑に入れる時間すらなかった。にも関わらず盆の上にある湯呑からは湯気が立ち上っている。
「余からは普通のヒトに見えたけど…。」
「へー、技術ってやつかな。」
百鬼は視覚的にイワレを捉えることが出来る。通常は使用していないらしい能力だが、ワザが発動したのなら知覚することくらいは出来るらしい。
それにも引っかからないという事は、つまりケンジ君の言う通り技術しか無い。まぁ、技術をもってしても可能かどうかという疑問は残るのだが。
考えた所で理解は出来ないのだろう。
それよりも、とお茶が冷めないうちに席へと戻ることにする。
先ほどの事は取り合えず無かったことにして、今は何よりも団子だ。
最終的にそれぞれが頼んだのはケンジ君はみたらし団子、百鬼は草団子を、俺はゴマ団子だ。
揃って手を合わせてから、団子を手に取る。
「お、美味いな。」
その団子の味は想像を軽く超えてきて驚き、つい声に出た。
多分、今まで食べた団子の中で一番と言っても過言ではない。
隣を見てみればケンジ君は夢中で食べ進めていて、その奥に座る百鬼も満足感が顔に浮かび上がっている。
「フブキちゃんにお礼言っとかないと。」
「…そのフブキちゃんって、ねぇちゃんの友達?」
そんな百鬼の言葉を聞いたケンジ君は、一休みとばかりに茶を飲んで問いかける。
「うん、そうだよ。
余の大切なお友達。」
百鬼はその問いかけに対して、強く頷いてはっきりと答えた。彼女の表情からも、それが本心であるという事が伺える。
無論白上だけでなく、大神も同様に彼女は大切に思っているだろう。
「じゃあ、にぃちゃんは?」
「へ、透くん?」
再びの問い。
けれど、今度は先ほどの様に即答とはいかなかった。代わりにちらりとこちらへ視線だけが向けられる。
「えっと…その。」
「あれ、おい百鬼?」
言い淀むその姿に、思わず名を呼びかける。
そこは白上の時と同様にすらりと答えても良いのではないか。少なくともこちら側からは友人であると思っているのだが、彼女からすると実はそうでも無かったりするのだろうか。
などと無駄に不安に思うのとは裏腹に、彼女は何処か照れたようにその頬を紅潮させて口を開く。
「本人の前は、恥ずかしいから…余、答えたくない…。」
そんなことを言われては、こちらまで羞恥は伝播してしまう。同時に自らの顔に熱が籠るのを感じる。
だが、そういう事なら悪くは思われていないのだろう。
それが分かりほっと胸を撫で下ろす。が、話はそこで終わらなかった。
「…みたいだからさ、にぃちゃん。
ちょっと席を外して?」
「待ってくれ、それはそれで寂しいだろ。」
顔を隠す百鬼を見てこちらを向くと容赦なくこの場を離れろと宣告してくるケンジ君に、思わず待ったをかける。
結果も分からずにまた戻ってくるなど気まずさが残るに決まっている。
「大丈夫、後でこっそり教えるから。
にぃちゃんだって気になるだろ?」
「それは…まぁ。」
百鬼がどう思ってくれているのか、気にならないかと言われれば否だ、普通に気になる。
ちらりと百鬼へと視線を向ければ、丁度こちらに視線を向けていた彼女と視線が交差し、思わず二人同時に目を逸らす。
「…。」
「…。」
束の間の静寂が場を支配する。
やはりここは一度この場を離れた方が得策かもしれないと、腰を浮かせかけるも、それよりも早く百鬼の声が聞こえてくる。
「その…透くんも、余の大切なお友達…だから。」
零すように、微かな声で百鬼は呟く。
「そっか…ありがとな。」
そんな彼女に対して感じるむず痒さと気恥ずかしさを押し殺しながら、何とかそれだけ返す。
ただ互いが友人である。行ってしまえばこの程度の話なのに、こうも羞恥を感じるのはどうしてだろう。
「良かったな、にぃちゃん。
ねぇちゃんが大切だって。」
「そうだな…けどケンジ君。
この話はそろそろ…。」
主に俺と百鬼が限界を迎えそうである。
特に百鬼など先ほどから赤い顔を俯かせてプルプルと震えてしまっている。
「うー…余、お団子頼んでくる!」
多分、居たたまれなさとか其の他もろもろを一旦整理したかったのだろう。
百鬼は立ち上がると、そう言い残して老人の出てきた場所まで歩いて行くと団子を注文する。
「あ、おい、百鬼。
ここは…。」
だが一つ。
彼女は焦りのあまり忘れているのだろうが、この茶屋、提供速度がそこらのモノとは格が違う。
これで一息つけると、百鬼が息を吐く瞬間には既に老人は盆を持って彼女の前に立っていた。
「あ…。」
それを見て彼女も気が付いたようで、その表情が固まる。
だが、受け取らないわけにもいかない。
百鬼は礼を言って先ほどよりも赤くなった顔でとぼとぼとこちらへと戻ってきた。
「あー…、百鬼。
俺も百鬼の事は大切な友達だって思ってるぞ。」
何かフォローせねばと考え、確固たる決意の元で掛けたその言葉は、しかし百鬼にとっては止めの一言となってしまった。
「もう…!
やっぱり、透くん嫌い!」
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。