【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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 どうも、作者です。

 UA9万突破、ありがとうございます。
 以上。


個別:百鬼 7

 

 翌日。

 薄暗い空の下、キョウノミヤコへと続く道を鬼の少女と共に進む。辺りに生い茂る木々に緑は無く、寒々しいその有様は身を刺す朝の冷気を助長しているかのようだ。

 今日こそはケンジ君と一緒に遊ぶのだと、百鬼はシラカミ神社を出発する前から息巻いていた。それを表すように隣を歩く彼女からは何処かそわそわした空気が伝わってくる。まだ太陽も登っていないにも拘らず、冷気に包まれた道中に居るのは彼女の気が急いていたことも理由に含まれるだろう。

 ぶるりと、首を風に撫でられて身震いをする。近頃は雪を見かけることは少ないが、雨雲の一つでも出来ようものなら、辺りを銀世界に染め上げることは確実だ。

 

 「透くん、寒いの?」

 

 と、体を震わせる俺とは対照的にけろりとした様子で百鬼が小首を傾げて言った。

 

 「これを寒くないって言うなら冬の季節はいらないだろ。そう言う百鬼は平気そうだな。」

 

 特に着込んでいるわけでも無いのに、彼女が寒さを感じている風にはとても見えない。全く持って羨ましい、そんな怨念にも似た感情を乗せて視線を送れば、彼女は少し考えこむそぶりを見せて何か閃いたようにその瞳を輝かせた。

 

 「じゃあ、余が温めてあげるね。」

 

 「温めるって、どうやって…。」

 

 「こうやってっ!」

 

 そんな声と共にぽすりと横合いから腕に軽い衝撃を感じる。慣れない感触に驚き目を向けて見れば、そこには腕に抱き着く百鬼の姿があった。それを認識するのと同時にカッと顔が熱くなる。

 

 「おい百鬼、って…あったか!?」

 

 思わず振り払おうと力を込めた所で、遅れてやってきた温もりにそれまでの羞恥や驚きが消し飛んでいく。百鬼と触れている部分から伝わってくる体温では済まされない、まるで湯たんぽのようなその熱は身を刺すような寒さをいとも簡単に上書きしてしまった。

 

 「風邪を引いてるとかじゃないんだよな。」

 

 「うん、余は元気だよ。これはね、鬼火を使ってるの。」

 

 「鬼火?」

 

 今一ピンとこないでいると百鬼は「はい。」と片手を掲げ、その手の平の上に薄紫の炎の塊を生み出して見せる。しかし、鬼火が何であるのかは俺も知っている。俺が疑問に思ったのはそれがどう関係しているのかだ。確かに百鬼は暖かいが、それでも炎とは比べ物にならない。

 

 「ミオちゃん程じゃないけど余も火は使えるから、その応用。と言っても、余は自分の身体とその周辺くらいしか温められないんだけど…。」

 

 「そういうことか、いや、十分凄いって。百鬼って器用なこともできたんだな…。」

 

 「透くん、今なんて?」

 

 「すみませんでした。すごく暖かいです、ありがとうございます。」

 

 周囲の気温が比喩無しで低下したのを感じ、自らの失言を慌てて訂正する。ここまで密着しているのは、温められる範囲内に俺も含めるためだったようだ。

 ふと百鬼の表情を伺ってみるも特に意識はしておらず、どちらかと言えば先ほどの失言の方が気になっているようで、ぷくりとその頬を膨らませている。

 

 「余、結構器用だよ。料理だって出来るんだからね。」

 

 「え、百鬼料理できたのか。じゃあシラカミ神社で料理できないのは俺と白上…。」

 

 「フブキちゃんも料理できるよ?」

 

 「…俺だけか…。」 

 

 衝撃の事実が発覚してずんと背中に重りが乗しかかった様な感覚を覚える。大神が料理が出来ることは普段の生活からも共通認識だったが、まさか自分以外の三人全員が出来るとは思わなかった。せめて一人くらいは同士がいるものと考えていたが、それは甘い期待だったらしい。

 山の向こうから太陽が顔を覗かせて日の光が辺りを照らし始める中、百鬼と密着したままキョウノミヤコへと進む。

 

 「なぁ、百鬼。今の俺達って傍から見たら…。」

 

 恋人にでも見られるんじゃないか。ふとそう零しかけて、すんでの所で口を噤む。恐らくこれを伝えてしまえば間違いなく百鬼は離れていくだろう。すると、それと同時に鬼火による効果もまた消えてしまう。一度覚えてしまったこの温もりを、手放したくないと考えてしまった。

 

 「どうしたの?透くん。」

 

 「いや、やっぱり何でもない。」

 

 だから、俺は誤魔化した。不思議そうにしている百鬼だが追及してくることは無く、それからも雑談を交えながらの穏やかな時間が流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キョウノミヤコへと到着すれば、早速ケンジ君の姿を探して例の噴水広場へと足を向ける。三日も経過したともなれば流石にセイヤ祭の名残も見られなくなり、キョウノミヤコはいつもの姿を取り戻していた。

 既に通い慣れた道を進んでいると、妙に周囲から視線を集めているような気がする。とはいえ、特におかしい恰好をしているわけでも無い。不思議に思い百鬼と目を合わせていると、不意に後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

 「にぃちゃん、ねぇちゃん!」

 

 振り返ってみると、そこにはケンジ君が笑顔でこちらへと手を振っていた。手を振り返せば、ケンジ君はすぐに駆け寄ってくる。

 

 「デート中だった?前は違うって言ってたけどやっぱり二人は付き合ってたんだな。」

 

 「ん?いや、デートをしてた訳じゃないぞ?」

 

 「今日はケンジくんと遊ぼうと思って来たんだよ。」

 

 思わぬ勘違いをしていたケンジ君にそれを否定してみせれば、途端に何を言ってるんだこいつらと言わんばかりの胡乱な視線を向けられる。

 

 「…じゃあ、何で二人は抱き合って歩いてるんだよ。」

 

 そう言うケンジ君の視線は俺と百鬼の絡められた腕へと移っていく。それを見てようやく道中と同様に完全に密着した自分たちの姿に気が付いた。なるほど、通りで視線を集めていたわけだ。一人納得している俺とは対照的に、百鬼はカッと顔を赤くすると、目にも止まらぬ速度で離れて行った。

 

 「ち、ちがっ!余は抱き着いてたんじゃなくて、透くんを温めるために…。」

 

 「うん、抱き着いてたんでしょ?」

 

 「そうじゃなくってー!」

 

 あたふたとしながら必死に弁明している百鬼だったが、決定的な瞬間を見られているだけに誤解を解くには困難をきたしそうだ。現にケンジ君も信用の無い表情をしている。

 

 「うぅ、透くん…。」

 

 「ん、あぁ、分かったからそんな目で見ないでくれ。ケンジ君、本当にさっきのにそう言う意味は無くて…。」

 

 助けを求めるような百鬼の視線を受けて、説得へと加勢する。

 少し時間が経って、何とか誤解を解くことには成功した。だがあくまで渋々といった形であり、完全に解けたかと言われると疑問が残るところではある。とはいえ取り合えずは解決したという事で、先日と同じように三人でキョウノミヤコを回ることにする。道の脇には露店が並んでいるが、セイヤ祭の時と比べるとその数は少ないように感じる事から、やはりセイヤ祭とは特別な行事であったのだと実感させられた。

 

 「にぃちゃん達、今日は遊びに来てくれたって言ってたけどさ、もしかして昨日も来てた?」

 

 「そうだな、けど丁度見つけた時にはアヤカちゃんと一緒に居たみたいだから遠慮したんだ。」

 

 隣を歩くケンジ君に問われて昨日の出来事を軽く説明すると、それを聞いた一瞬だけケンジ君の顔が強張るが、すぐに鳴りを潜めた。代わりに誤魔化すように「へー…」と、そんな返事だけが返ってくる。

 

 「あ、そうだ!

  なぁ、にぃちゃん、ねぇちゃん。アヤカも二人に会いたいって言ってるんだけどさ、明日とかまた遊べないかな。」

 

 唐突に聞かれて思わず百鬼と目を見合わせる。明日は特に予定なども無いし、多分約束など無くても百鬼がキョウノミヤコに行こうと言い出すことに変わりは無いだろう。

 

 「あぁ、勿論だ。百鬼も良いよな。」

 

 「うん、余もまたアヤカちゃんと遊びたかったから大歓迎。」 

 

 軽く了承すれば、ケンジ君は断られるとでも思っていたのかほっと息を吐いた。そんな彼の様子に百鬼と揃って小さく笑う。

 

 「な、何だよ…。」

 

 いじけたように言うケンジ君だが、そこにあるのは怒りではなく照れだった。慣れない感覚に戸惑っている様にすら見える。

 

 「何でも無い、それより明日より先に今日は何処に…。」

 

 何処に行こうかと、行先について話を振ろうとしたところで少し離れた場所から歓声が上がった。何事かと目を向けて見れば、噴水の広場の中央辺りに人だかりが出来ている。

 

 「なんだろう…。」

 

 「旅芸人かも、昨日アヤカと見ようとしたんだけど…あの人だかりだから全然見えなかった。」

 

 「確かに、隙間から見るには人が多いな。」

 

 恐らく噴水の周辺に居るのだろうが、それを囲む人だかりは何層にもなっており、入り込むことはおろか、子供の身長では後ろから覗き込むこと出来なさそうだ。チラリとケンジ君をみやれば、羨ましそうな目でじっと見ている。ならば、これからの予定は決まった様なものだ。

 

 「よし、じゃあ見に行くか。」

 

 「にぃちゃん、聞いてなかった?おれの背だと見えないんだって。」

 

 「聞いてたよ。背が足りないなら、こうすれば良い。」

 

 「わっ…!」

 

 言いながらケンジ君を担ぎ上げて首の後ろに乗せ、肩車をする。これなら人込みの上から見通せるだろう。準備もできた所で、早速広場の中央へと移動することに決める。

 

 「よーし、行くぞー!」

 

 「レッツゴー!」

 

 ぽかんとしているケンジ君をそのままに、百鬼と共に掛け声を上げて歩き始める。近づくにつれて聞こえてくる旅芸人の声も大きくなっていき、集まった人々の頭同士の隙間から何をしているかが微かに見えてくる。これなら俺よりも目線の高いケンジ君ははっきりと見えているだろう。

 

 「ケンジ君、見えてるか?」

 

 「うん…うん!」

 

 一応確認してみれば、上から最初は戸惑っていたようだが徐々に興奮の色が混じった声が降ってきて、一安心する。良かった、楽しんでくれている。と、不意に服の裾が引っ張られて視線を向けて見れば、百鬼が困ったように眉を八の字にしてこちらを見上げていた。

 

 「透くん、余、見えない…。」

 

 「あ…、まぁ、そうだよな。」

 

 百鬼は子供ではない、けれど小柄な彼女では前の背中に完全に隠れてしまっている。どうせ見るなら、三人で感想を共有したいと思うのは自然なはずだ。

 

 「…分かった。百鬼、ちょっと我慢してくれよ。」

 

 「うん、お願い!」

 

 一度声を掛けてから、身を預けてくる百鬼を片腕で同じ目線の高さの辺りまで抱き上げる。軽く持ち上がりはするが流石に素では長時間は腕が持たないため、身体強化を発動させておく。しかし、これではどちらが芸人なのか分かったものでは無い。

 

 「…重くない?」

 

 「全然。ちゃんと身体強化も使ってるしな。」

 

 若干心配そうに聞いてくる百鬼に心配ないと答えれば、今度こそ旅芸人の芸へと視線が集まった。彼らが豪快に火を噴けば歓声が上がり、切断ショーで、思い切り刀が振り下ろされれば悲鳴が上がる。他にもイワレによるワザすら使わずに、種も仕掛けもあるマジックを次々に披露していく。

 ケンジ君の表情は見えないが、それでも時折聞こえてくる小さな歓声に彼の心情は察せられる。

 

 「あらあら、良いわねぇ。あなたも昔はあんな風に見せてくれたものね。」

 

 「若い世代のああいった姿を見れると、何だか嬉しくなるわい。」

 

 と、後ろからそんな会話が聞こえてくる。振り返れないが横合いを通りがかった際に見えた声の主は穏やかそうな老夫婦だった。百鬼とケンジ君は前に夢中で気が付いていないようで、一人気恥ずかしさを覚えた。

 

 その後も芸は続いて行き、そして最後には盛大な紙吹雪が舞い上がり、周囲から大きな拍手が上がった。

 芸が終われば、旅芸人達は荷物を纏めてまたほかの場所へと繰り出していき、それを見送ると同時に集まっていた人々も次第に広場から捌けていった。人波に呑まれないよ、開けた場所まで移動してから抱えていた二人を下ろせば、まだ興奮が冷めきらないのかほほを紅潮させている。

 

 「面白かった!初めて見たけど、あんな事出来るんだ!」

 

 「ね、あれどうやってるんだろ。」

 

 「ワザとか使ってる様子無いのにな。」

 

 団子屋の老人然り、先ほどの旅芸人然り、イワレがある故にそれに追いつくように発展でもしていったのか、何かとカクリヨには技術を極めてる人が多い。そうしてここがすごかったと感想を言い合いながら次の場所へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、三人でキョウノミヤコを堪能していれば瞬く間に日が暮れてしまう。

 

 「じゃあな、にぃちゃん、ねぇちゃん、また明日!」

 

 大きく手を振るケンジ君に手を振り返しつつ、キョウノミヤコを後にする。辺りは夕日に照らされて赤く染まっており、このキョウノミヤコの光景を見るとふと脳裏に浮かぶのは先月の調査での出来事。クラウンと遭遇したのも、丁度こんな時間帯だった。

 

 「透くん、今何考えてるの?」

 

 「ん、いや、クラウンの事をちょっと思い出してた。」

 

 結局、クラウンが何をしていたのか。昨日大神が調査していたようだが、何も分からなかったと言っていた。ただ見つけたのは血痕に塗れた大広間のみ、そこで何が起こったのか。そこにクラウンの目的が関与しているのは間違いないだろう。

 

 「何だったんだろうね、あのシキガミ。」

 

 「あぁ、あのシキ…ガミ…。」

 

 思考が一瞬凍り付いた。シキガミ、確かに今百鬼はそう言った。

 

 「百鬼、今俺はクラウンの話をしてたよな。」

 

 「?うん、だからクラウンはシキガミでしょ?余が見た時体がイワレで構成されてたから、間違いないと思う。」

 

 確認を取るように聞けば、百鬼は残酷なまでに率直に答える。彼女の瞳は通常目でとらえることの出来ないイワレを映しだす。それ故に、その話は真実だと信じざるを得なかった。

 

 「なら、本体は。シキガミを操ってたやつが居たって事になるんじゃ。」

 

 「あ、そこは大丈夫だよ。」

 

 本来シキガミは術鞘がいてこそ成り立つ。クラウンがシキガミだというのならその術者が残っていることになるのでは、と浮かんだその疑念はけれど百鬼によってバッサリと切って捨てられた。

 

 「基本的にシキガミと術者って、イワレの糸みたいなので繋がってるの。けど、クラウンにはそれが無かったから、元々はぐれのシキガミだったんだと思うよ。」

 

 「なんだ…そう言う事か…。」

 

 まさか異変の原因がまだ残っていたのではと肝を冷やした。しかし、そう言うことならクラウンの消えた今、あの謎の指輪も回収したことで、異変は終了したと信じてもよさそうだ。

 

 シキガミ神社へとたどり着き、玄関から居間へと向かっていると、道中、鼻歌を歌いながらスキップをして如何にも上機嫌でいる白上の姿を見つけた。

 

 「あ、透さん、あやめちゃん。おかえりなさい!」

 

 彼女はこちらの姿に気が付くとにぱりと笑いかけてきた。

 

 「ただいまフブキちゃん、何かいいことでもあったの?」

 

 「ふふふっ、それが聞いてくださいよ。何と、長年探していた麵屋マボロシを今朝見つけたんですよ!あぁ、最高のきつねうどんでした…。」

 

 恍惚とした表情を浮かべる白上に、先ほどまでの緊張感が完全に薄れて消えてしまった。相変わらずだと百鬼と苦笑いを浮かべていれば、白上の後方から大神が顔を覗かせた。

 

 「おかえり、二人とも。」

 

 「あぁ、ただいま。」

 

 返事を返しつつ、話を聞いておきたいと考えていた所だったので丁度良いと大神に視線を向ける。

 

 「大神、神狐から指輪についての返信はあったのか?」

 

 「それが明日直接話すってまだ何も教えて貰ってなくて。ウチは明日イヅモ神社に行ってくるから、フブキ、ちゃんとご飯食べてね。お菓子は駄目だからね。」

 

 「分かってますよー。」

 

 突然話を振られた白上は唇を尖らせる。そんな白上に不安の色をその瞳に映す大神の苦労が偲ばれた。

 

 「じゃあみんな帰ってきたし、そろそろ夕飯にしよっか。」

 

 大神のそんな一言で、白上と百鬼は和気あいあいと居間へと入っていく。そういえば、遅くまでケンジ君と遊んでいたが、一度ケンジ君の親にも挨拶をしておいたほうが良いかもしれない、そんなことを思いながら三人の背に習い、居間へと足を踏み入れた。

 

 

 

 





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