【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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個別:百鬼 20

 

 木漏れ日に照らされた山道。普段は走り込みに利用しているその道を百鬼と二人で歩く。そこに会話は無く、何を話そうかという気まずい空気が俺達の間には流れていた。

 百鬼は先ほどの俺の誘いに頷きで返答してくれて、朝食の準備が終えると同時に俺達はシラカミ神社を出た。白上には先に食べておいて良いと先に言ってあるため、待ちぼうけをくらうことも無い筈だ。それよりも目を向けるべき問題は目の前にある。

 シラカミ神社を出てからこの方、百鬼は黙り込んだまま普段と比べて離れた位置にいた。彼女との間に出来たその距離に何処か寂しさを覚えるのは、それだけ俺の中で彼女の存在が大きく、近くにいて当たり前のものになっていたからだ。

 「…こうして歩くのも、結構新鮮だな。」

 「う、うん。余も、見慣れてる筈なんだけど…。」

 ぎこちないそんな会話を嗤うように、木々の合間を風が吹き抜ける。百鬼も先の件による羞恥がまだ残っているようで、横から見る彼女の横顔は仄かに赤い。とは言うものの、冷めやらぬ自らの顔の熱を鑑みるにそれは俺も同様なのだろう。

 「そのさ、その猫耳と尻尾は何処で?もしかして私物か?」

 感じる気まずさを誤魔化すように百鬼へと目を向け、未だに彼女の頭に生えている猫耳を指さして話を振る。今までそんなものを持っているとは聞いたことが無い、シラカミ神社に置いてあったものかそれとも彼女の私物なのか気になっていたのもあった。

 その問いに対し、百鬼はこくりと小さく首肯する。

 「昨日キョウノミヤコで偶々見つけたから、その…衝動的に。」

 「あー、そう言えば一瞬何処かに行ってたな。あの時か…。」 

 先日、百鬼が何の脈絡も無く不意に姿を消していた事を思い出す。その時は理由を聞きそびれていたが、どうやら猫耳を手に入れる為に露店へふらりと立ち寄っていたようだ。一応あの時から兆候はあったのだろうが、生憎とそれに気が付ける程には俺は鋭く無い。

 「…。」

 「ん、百鬼?」

 そっと立ち止まる百鬼。それに釣られるように足を止めて百鬼の方を見やれば、彼女は頭の上の猫耳へと手を当てて、おずおずとこちらを見上げながら一言ぽつりと、けれどはっきりと口にする。

 「…どう?」

 その姿に心臓が高鳴るのが分かった。何について問われているのか、そのくらいは察することが出来る。けれどそれを実際に口にするとなると話は別だ。

 「どうって、何が…。」

 「感想。余、まだ透くんから聞いてない。」

 咄嗟に誤魔化そうとするも百鬼は被せる様にそう言うと、こちらへ一歩歩み寄る。距離が縮まり、すぐ近くに来た百鬼のその瞳は朝と同様に不安に揺れていた。

 何をそんなに不安がっている。そんな疑問と同時に彼女を安心させたいという想いが同時に浮かび上がる。

 「…可愛い、と思う。」

 そんな感情に突き動かされるように口にしたその言葉に、遅れて沸き上がって来る羞恥がかっと全身を熱くさせる。

 「あ、ありがとう…ございます。」

 再び顔を朱に染める百鬼はそのまま顔を俯かせてしまった。自分から聞いておいて照れないで貰いたいと思うのは俺の我儘なのだろうか。火照った頬を冷まそうにも、示し合わせたかのように風は凪いでしまっている。

 ちらりと俯く百鬼を見る。猫耳を生やした彼女は確かに可愛い。しかし。

 「けど、やっぱり俺は普段の百鬼の方が好きだな。」

 そもそも猫耳の有無など些細な問題ではあるのだ。問題なのは百鬼を見るだけで心をざわつかせるこの感情だけで。

 「…じゃあ、透くんは余よりフブキちゃんの方が良いって事?」

 「ん?いや、待ってくれ何でそうなるんだ。」

 先ほどまでの羞恥は何処へやら悲し気に眉を歪ませる百鬼に言われて、思わずそう聞き返す。白上の話は今出ていなかった筈だ、なのに何故そこで白上が出てくる。

 そんな疑問の答えはすぐに彼女自身から語られた。

 「だって、昨日フブキちゃんばっかり見てたから…。」

 朝と同じ言葉を前に、再び言葉に詰まる。やはり、どうしても問題はそこに帰結してしまうようだ。元々その話をする予定ではあったのだが、いざとなるとどうにも躊躇いが出る。

 だが目の前にいる想い人の曇った表情を前にすれば、それも塵のように飛んでいった。

 「聞いてくれ、百鬼。白上を見てたのは確かにそうだけど、別に百鬼と比べてって事じゃないんだ。」

 百鬼と向き直り改めて話を切りだす。

 彼女にはずっと笑っていて欲しい。彼女の笑顔が見たい。それが叶うのなら、躊躇うことなど何一つ有りはしない。

 「なら、どうして…?」

 不安に揺れる声で百鬼は問いかけてくる。その不安が何かは知らないが、これが原因だというのなら解消したいと思った。

 「それは…、百鬼を見てると何て言うか、自分の感情が不安定になりそうだったんだ。それで視線を逸らしてるうちに自然と白上の方に行っただけで…。いや、確かに獣耳もあるんだが…。

  とにかく昨日は悪かった。それに関してはもう大丈夫だ、昨日みたいな事は絶対にしない。」

 余計なことまで言いそうになり、やや強引に話を纏める。だが、伝えたいことは伝えた。

 「…本当?」

 それを聞いた百鬼は恐る恐ると確認するよう声を上げる。

 「本当に、もう余の事避けたりしない?」

 「…あぁ、避けない。だから安心してくれ。」

 その言葉に彼女からはそう見えていたのかと驚きつつもすぐに強く肯定すれば、明らかに百鬼の表情が弛緩した。

 「良かったー…。」

 そう言ってふわりと百鬼は笑う。この様子なら、不安は解消されたと見て問題はないだろう。それを理解して緊張が解けたのか、がくりと全身から力が抜けそうになった。

 「にしても、百鬼は何をそんなに不安がってたんだ?」

 百鬼のほっとしたようなその笑みに、つい気になって聞いてみる。わざわざ猫耳を付けてまで気を引こうとするなど、少なくとも普通ではないだろう。そう思っての問いかけだったのだが、当の百鬼はこてりと小首を傾げてしまう。

 「うーん…、余も良く分かんない。」

 「そうか?…まぁ、百鬼らしいけどな。」

 百鬼の返答に思わず苦笑いが浮かぶ。

 あぁ、そうだ、そんな彼女の事を俺は好きになったのだ。一度灯されたその炎は身を焦がす程に大きく、今尚止まることなく成長を遂げている。

 「透くん、余のこと馬鹿にしてるでしょ。」

 そう断言する百鬼は、ぷくりと頬を膨らませていた。とはいえ特に身に覚えもない為、即刻否定する。

 「いや、馬鹿になんかしてないって。」

 「嘘、だって透くんニヤニヤしてる。」

 むっとした百鬼に指摘され、思わず口元を隠すように手を当てる。自分が表情に出やすいのは知っているが、流石にこれが表に出るのはまずい。神社に帰ったら、まず仮面でも探そう。

 「さぁ、気のせいじゃないか?」

 「えー、でも…。もう、やっぱり透くんずるい。」

 考えつつこの場は流しておこうと白を切って言えば、百鬼は不服そうにしながらもそれ以上追求してくることは無かった。

 少し拗ねたようにそっぽを向く百鬼につい小さく笑みが浮ぶ。

 「それじゃあ話も終わった事だし、神社の方に戻ろう。」

 「うん、安心したらお腹空いてきちゃった。」

 そう言って腹部をさする百鬼と共に、止めていた足を再び進ませる。

 「時間かかるし、走って帰るか?」

 気まずい空気の中黙々と歩き続けたこともあり、神社からそれなりに離れた位置まで来ていた。どうしようかと百鬼に問いかければ彼女は首を横に振る。

 「余はこのまま歩いて帰りたいな。こうして歩くのも新鮮だし、それに…。」

 そう百鬼が言葉を区切るのと同時、腕にとんと軽く彼女の肩が触れた。

 「もうちょっとだけ、透くんの事独り占めしたいから。」

 百鬼の表情は、丁度彼女の前髪に隠れて伺えない。けれどそれはお互い様で、俺も今の表情は誰にも見られたくは無かった。

 「…昨日は全然だったし。」

 しかし、それも次に続いた百鬼の言葉に霧散することとなる。

 「悪かったって、さては結構根に持ってるな?」

 「…駄目?」 

 こちらを見上げる百鬼の発したその言葉がどちらを指しているのか、わざわざ聞く程野暮ではない。それにどちらにせよ、昨夜の件を持ち出された以上俺に拒否権は無いのだ。

 「…お嬢様の仰せのままに。」

 「うむ、くるしゅうない。」

 ぱっと満面の笑みを咲かせる彼女に釣られて思わず笑みが浮かぶ。そうして木漏れ日の中を歩く俺達の間の距離は、拳一つとして開いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 俺と百鬼が神社に到着したのはそれから少し経ってからで、時間帯的には遅めの朝食になる頃であった。

 「もうご飯冷めちゃってるかな。」

 「流石にな、まぁ温めなおせば問題ないだろ。」

 ゆっくりと歩いて帰ったこともあり、予想よりも遅い到着となった。冬の寒さを考えるといくら室内とはいえ、冷えるのも早いだろう。取り合えずキッチンに向かおうと玄関から入り、廊下を進む。途中居間を通りかかるが、ふとその中の光景に二人して足を止めた。

 「…あれ、フブキちゃん寝てるのかな。」

 中では白上がテーブルに突っ伏したまま、ピクリとも動かないでいる。しかしよくよく見てみれば、規則正しい呼吸に合わせて微かに体が揺れていた。

 「そうみたいだ。じゃあ、起こさないように…。」

 そんな事を言っている最中、不意に白上の上の辺りに虚空から白い狐のシキガミが姿を現した。

 「あれ、フブキちゃんのシキガミだ。」

 「勝手に出てきたみたいだな。」

 唐突な登場にあっけに取られつつ、何となくその動向を伺っているとシキガミはそのままテーブルへと降り立ち、丁度白上とは対角のテーブルの隅まで移動した。そして、シキガミは力をためる様にぐっと姿勢を落とすと、そこから白上の無防備にさらされた頭の天辺目掛けて思い切り突っ込んだ。

 「にゃっ!??」

 ごんっという鈍い音が響くと同時に、そんな白上の悲鳴が聞こえてくる。頭を抑えて悶絶する白上を横目に、シキガミは役目は果たしたとばかりに虚空へと消え去って行った。

 「し、白上、無事か?」

 「フブキちゃん大丈夫?」

 流石に憐れに思えて堪らず居間に入り白上の元へ駆け寄る。それに気づき、頭に手を置いたまま顔を上げる白上の瞳は涙に潤んでいた。

 「と、透さんに、あやめちゃん。白上に何の恨みがあってこんなことを…。」

 「いや、俺達じゃなくて。」

 「フブキちゃんのシキガミがやったの。」

 未だ痛みに悶える白上に事の顛末を説明すれば、納得したように声を上げると彼女はその瞳に炎を灯らせる。

 「起こすのは良いですけど、もっとやり方があったでしょうに…、後でお説教です。」

 と、恨み言を虚空に向かって吐く白上であったが、その眦には涙を浮かべたままでお世辞にも様になっているとは言い難かった。

 「それで、白上はいつからここに?」

 まさか朝食を食べ終わってからずっとここに居たのだろうか。問いかけてみれば、白上はぽんと手を打って口を開く。

 「あ、そうでした。お二人が帰って来るのを待ってたんですよ。」

 「余達を?」

 こてりと小首を傾げる百鬼に白上は「はい。」と強く頷いて見せる。そんな白上の様子にピンととある可能性を思いつく。

 「もしかして、まだ朝飯食べてないのか?」

 「え、そうなの?」

 俺と百鬼の二人に問われた白上は再び首を縦に振って肯定した。確かに先に食べて良いと伝えたはずだ、なのにどうして。そんな疑問が伝わったのか、白上はすぐに理由を口にする。

 「だって、どうせ三人いるならみんなで食べた方が美味しく食べれるじゃないですか。」

 キョトンとしてそう言う白上。その言葉にふとケンジの姿を想起した。そうだ、一人で食べるのと大勢で食べるのとではその意味合いは大きく異なるものだ。

 「…あぁ、そうだな。それじゃあ三人で一緒に食べるか。」

 「うん、余ご飯の用意してくるね。」

 「白上も手伝いますよ。」

 百鬼について行く形で、結局三人でキッチンに向かう。とはいえ出来上がったものを温め直すだけで、他にやる事といえば配膳のみであった。

 「あやめちゃん、まだそれ付けてるんですね。」

 「え?…あ、ううん、忘れてただけ。」

 キッチンにて白上にそう聞かれ、百鬼はようやく自分がまだ猫耳を付けていることに気が付いたようで、猫耳のカチューシャと尻尾を取りいつもの百鬼の姿に戻る。

 「似合ってたのに、良かったんですか?」

 「うん、透くんが普段の余の方が好きだって言ってくれたから。」

 「透さんが…。」

 笑顔で百鬼が言うと、白上はぽつりとそれだけ呟いて自然な流れで百鬼を俺から見えないように背に隠す。

 「おい、何で俺から百鬼を隠そうとする。」

 「いえ、何と言うか、ここ数日で透さんのあやめちゃんへの影響力が増したような気がしまして。守ろうと。」

 若干警戒してくる白上に反論しようとするも、思えば昨夜も今朝の猫耳も俺の行動が原因であった。そう考えると、あながち白上の言葉は的を射ているのかもしれないと思えてくる。

 「フブキちゃん大丈夫だよ。余がこうしたいだけだから。」

 「うーん、あやめちゃんがそう言うなら…。」

 百鬼に言われて渋々といった形で白上は百鬼の前から退く。しかし、警戒を含んだその視線は途切れることなくこちらへと向けられていた。

 「透くん、これ持って行って貰っても良い?」

 「あぁ、分かった。任せてくれ。」

 百鬼が差し出してくる盆をこれ幸いと受け取り、白上の視線から逃れる様にそそくさとキッチンを後にする。どうにも、白上に警戒の対象としてマークされてしまったようだ。また一つ沸き上がって来た問題に小さく一つため息を零すのであった。

 

 

 

 

 

 

 「「「いただきます。」」」

 配膳も終わり三人がテーブルに揃ったところで手を合わせて箸を取る。百鬼の料理はキョウノミヤコでも食べていたが、やはりどれも丁寧に作られている。

 「あ、透くん。」

 「あぁ、醤油な。」

 伸ばされた百鬼の手に、近くに置いてあった醤油の瓶を取り手渡す。

 「ありがと。」

 「ん。」

 礼を言ってくる彼女にそれだけ返して、一口おかずを口に入れる。

 「あ、これ美味い。」

 ぽつりと素直な感想が口を突いて出れば、百鬼は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 「ほんと?その味付け、透くん好きかなって思ったの。」

 「あぁ、凄く好みだ。」

 おかずが好みであれば自然と米も進む。少しするとすぐに茶碗が空になってしまった。おかわりにキッチンまで行こう立ち上がろうとするが、それよりも先に百鬼が立ち上がった。

 「余がお米よそってくるよ。いつも通りで良い?」

 「そうか?ありがとう。あぁ、いつも通りで頼む。」

 厚意に甘えて百鬼に茶碗を差し出せば、それを受け取った百鬼は小走りで居間を後にした。

 「…遅れましたけど、透さん、あやめちゃんと仲直り出来たんですね。」

 その後ろ姿を見送った白上がそう言葉にする。仲直りと言うと少し誤解があるかもしれないが、確かに問題は解決できた。

 「そうだな、少なくとも昨日や今朝みたいな事にはもうならないと思う。」

 勿論、これは俺が気を付ければの話だ。変に百鬼の事を意識しないように強く理性を保たなければならない。とはいえ元々必要な事ではあったし、苦には感じない。

 「そうですか、それなら良かったです。…結局透さんの何が原因だったんですか?」

 「…あー、まぁ…。」

 白上の問いについ言い淀んで言葉に詰まる。

 貴女の尻尾と獣耳を見ていたことが原因ですとは口が裂けても言えなかった。つい先ほど警戒されたばかりで、これ以上はこれからに響きかねない。

 「ちょっとした行き違い…だな。」

 「…そう言うことにしておいてあげましょう。」

 ぼかして伝えたのだが、やはり見抜かれているようだ。見逃されたのは単純に白上の温情だろう。燻る自らの感情との付き合いがこれからも続くと思えば頭が痛くなりそうだが、色づいてしまったのならこれも必要な事だと割り切るほかない。

 話が終わった所で、丁度百鬼が茶碗を片手に戻って来た。

 「お待たせー。はい、透くん。」

 「ありがとう、百鬼。」

 差し出された茶碗を礼を言いつつ受け取る。感じるこれからへの不安とは裏腹に、穏やかな朝の時間はゆるりと流れていった。

 

 

 

 

 





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